日蓮正宗法華講開信寺支部より

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立正安国論 第2回

【立正安国論文応元年七月一六日 三九歳】
立正安国論文応元年(西暦1260年)7月16日 39歳著

[第一問] 災難の来由〔らいゆ〕

【旅客来〔き〕たりて嘆〔なげ〕いて曰〔いわ〕く、】
旅人が来て嘆いて言いました。

【近年より近日に至るまで、】
近年、正嘉元年(1257年)頃から今年の文応元年(1260年)にいたる四箇年の間に、

【天変・地夭〔ちよう〕・飢饉〔ききん〕・疫癘〔えきれい〕遍〔あまね〕く天下に満ち、広く地上に迸〔はびこ〕る。】
大地震や大風などの天変地異が続き、飢饉が起こり、疫病が流行して、災難が天下に満ち、広く地上にはびこっています。

【牛馬巷〔ちまた〕に斃〔たお〕れ、骸骨〔がいこつ〕路〔みち〕に充〔み〕てり。】
その為に牛や馬は、いたる場所で死んでおり、骸骨は満ち満ちて路上に散乱しております。

【死を招くの輩〔ともがら〕既に大半に超〔こ〕え、之〔これ〕を悲しまざるの族〔やから〕敢〔あ〕へて一人〔いちにん〕も無し。】
すでに大半の人びとが死に絶えて、この悲惨な状態を悲しまない者は一人もおりません。

【然〔しか〕る間、或は利剣即是〔りけんそくぜ〕の文を】
このような状況の中で、ある者は「苦悩と罪業を滅ぼす利剣は南無阿弥陀仏と称えることである」という文を信じて

【専〔もっぱ〕らにして西土〔さいど〕教主の名を唱へ、】
一切の仏法の経論を捨てて、ただ、ひたすら西方浄土の教主、阿弥陀仏の名ばかりを唱え、

【或は衆病悉除〔しゅびょうしつじょ〕の願〔がん〕を恃〔たの〕みて東方如来の経を誦〔じゅ〕し、】
ある者は天台宗の薬師如来の名を聞けば病いは、ことごとく除かれるという東方浄瑠璃世界の薬師如来の誓願を信じて、その経文を読誦し、

【或は病即消滅不老不死の詞〔ことば〕を仰〔あお〕いで法華真実の妙文〔みょうもん〕を崇〔あが〕め、】
またある者は法華経薬王品の「病める人がこの経を聞けば病は消滅し不老不死となる」という言葉を仰いで法華経を真実の妙文と崇め、

【或は七難即滅七福即生の句〔く〕を信じて】
ある者は「般若経を信じれば七難は消えて七福が生ずる」という仁王〔にんのう〕般若経の句を信じて、

【百座百講の儀〔ぎ〕を調〔ととの〕へ、】
百人の僧がこの経を講ずるという仁王会〔にんのうえ〕の儀式を営んでおります。

【有〔あ〕るは秘密真言の教〔きょう〕に因〔よ〕って五瓶〔ごびょう〕の水を灑〔そそ〕ぎ、】
また、ある者は、密教である真言の教えによって五つの瓶〔びん〕に水を注いで災難を除く祈祷を行ない、

【有るは坐禅入定の儀を全うして空観〔くうがん〕の月を澄まし、】
ある者は、禅宗の修行をして精神の集中をはかり、我が心性の月を澄ませば無一物の空に達すると信じて苦悩から逃れようとしております。

【若〔も〕しくは七鬼神の号〔な〕を】
また、ある者は、却温神呪経にある無多難鬼、阿迦尼鬼、尼迦尸鬼、阿迦那鬼、波羅尼鬼、阿毘羅鬼、婆提利鬼の七善鬼の名を

【書して千門に押し、若しくは五大力の形を図して万戸〔ばんこ〕に懸〔か〕け、】
書いて門ごとに貼ったり、ある者は、五大力菩薩の書いた札を各家の四隅に貼って災厄よけにかけたり、

【若しくは天神地祇〔ちぎ〕を拝して四角四堺〔しかい〕の祭祀〔さいし〕を企〔くわだ〕て、】
ある者は、都の四隅に天神、地神を祭る四角祭を行い、また国の四方の堺に天神、地神を祭る四堺祭を行って災難を除こうとしたり、

【若しくは万民百姓〔ひゃくせい〕を哀れみて国主国宰〔こくさい〕の徳政を行なふ。】
また為政者は、民衆の窮状を哀れんで、いろいろな災害対策、慈善事業を行なっております。

【然〔しか〕りと雖〔いえど〕も唯〔ただ〕肝胆〔かんたん〕を摧〔くだ〕くのみにして弥〔いよいよ〕飢疫に逼〔せま〕り、】
しかしながら、いたずらに心をくだくだけで何の効果もなく、飢饉や疫病はますます盛んに激しくなるばかりです。

【乞客〔こっかく〕目に溢〔あふ〕れ死人眼〔まなこ〕に満てり。】
目につくものは、家を失い、さまよい歩く者と死者ばかりなのです。

【臥〔ふ〕せる屍〔しかばね〕を観〔ものみ〕と為〔な〕し、並べる尸〔かばね〕を橋と作〔な〕す。】
その死骸は、積みあげられて物見台のようであり、また川に並べられて橋のようになっています。

【観〔おもんみ〕れば夫〔それ〕二離璧〔じりたま〕を合はせ、五緯珠〔ごいたま〕を連〔つら〕ぬ。】
思いめぐらしてみると、天には日月が昼夜を照らし、木星、火星、金星、水星、土星の五つの惑星は玉を連ねたように規則正しく運行し、

【三宝〔さんぼう〕世に在〔いま〕し、】
仏法僧の三宝がいまだ滅びることなく世に尊ばれており、

【百王未〔いま〕だ窮〔きわ〕まらざるに、】
第五十一代平城天皇の世に八幡大菩薩の託宣があり天皇百代まで守護するとの誓いがあるはずなのに、

【此の世〔よ〕早く衰へ、其の法何〔なん〕ぞ廃〔すた〕れたるや。】
しかし、このうち続く天変地異によって、どうしてこの世はこんなに早く衰え、仏法も王法もその威力を失い、すたれてしまったのでしょうか。

【是〔これ〕何〔いか〕なる禍〔わざわい〕に依り、是何なる誤りに由〔よ〕るや。】
これはいったいどのような理由によって生じ、またどのような誤りが原因となっているのでしょうか。

[第一答] 災難の来由〔らいゆ〕

【主人の曰く、】
それに主人が答えて言いました。

【独〔ひと〕り此の事を愁〔うれ〕ひて胸臆〔くおく〕に憤□〔ふんぴ〕す。】
私も、一人でこの災難の原因について深く胸中に思い悩んでいましたが、ただ心を痛めるだけで誰にも話す機会がありませんでした。

【客来〔き〕たりて共に嘆く、□〔しばしば〕談話を致さん。】
あなたが客として来られて私と同じように嘆かれているのを知り、そこで、しばらくこの原因について語り合おうと思います。

【夫〔それ〕出家して道〔みち〕に入る者は法に依って仏を期〔ご〕するなり。】
そもそも、出家し仏道に入るのは、仏法によって悟りをひらき仏になりたいからであります。

【而〔しか〕るに今〔いま〕神術も協〔かな〕はず、仏威も験〔しるし〕無し。】
しかし、いま現実の世の中をみますと、神への祈りもかなわず、仏の威力も現われず、災難はいよいよ増すばかりで、何の効果もありません。

【具〔つぶさ〕に当世の体〔てい〕を覿〔み〕るに、愚〔おろ〕かにして後生〔こうせい〕の疑ひを発〔お〕こす。】
現実の状態を見ましても、このようですから、未来の成仏という事は、とてもおぼつかないと愚かにも疑われてならないのです。

【然れば則〔すなわ〕ち円覆〔えんぶ〕を仰いで恨〔うら〕みを呑〔の〕み、方載〔ほうさい〕に俯〔ふ〕して慮〔おもんばか〕りを深くす。】
そこで私はただ天空を仰いでは、この状態を恨みに思い、地に伏しては、深い憂いと絶望に沈んでおります。

【倩〔つらつら〕微管〔びかん〕を傾け聊〔いささか〕経文を披〔ひら〕きたるに、】
私は、はなはだ視野の狭い見方しか出来ない愚か者ですが、少々、経文を開いて読んでみると、

【世皆〔みな〕正に背〔そむ〕き人悉〔ことごと〕く悪に帰す。】
この災難の原因は、世の中のすべての人びとが正しい教えに背いて悪法邪法に帰依した事にあります。

【故に善神国を捨てゝ相〔あい〕去り、聖人所を辞して還らず。】
そのため、国を護る諸天善神は、この国を捨てて天上に去り、正法を広める聖人も去って還ってこないのです。

【是〔ここ〕を以て魔来〔き〕たり鬼〔き〕来たり、災〔さい〕起こり難〔なん〕起こる。】
その隙に乗じて悪魔や悪鬼が押し寄せて来て次々に災難が起こる事に気付いたのです。

【言〔い〕はずんばあるべからず。恐れずんばあるべからず。】
まことにこのことは重大なことであり、言わずにはおられぬ事であり、また、恐れなければならない事であります。

[第二問] 災難の証拠

【客の曰く、】
この主人の言葉を聞いて客が言いました。

【天下の災・国中〔こくちゅう〕の難、余〔よ〕独り嘆くのみに非ず、衆皆〔みな〕悲しめり。】
近年のうち続く天下の災害や国中の災難については、ただ自分一人だけが嘆いているのではなく、すべての人びとが嘆き悲しんでいるのです。

【今蘭室〔らんしつ〕に入りて初めて芳詞〔ほうし〕を承るに、神聖〔しんせい〕去り辞し、】
いま、あなたを訪ねて御話を聞かせてもらったところ、諸天善神や聖人がこの国を捨て去った為に

【災難並び起こるとは何〔いず〕れの経に出でたるや。】
災難が連続して起こるという事ですが、それはいったい、どのような経文に説かれている事なのでしょうか。

【其の証拠を聞かん。】
その証拠をお聞きしたいと思います。

[第二答] 災難の証拠

【主人の曰く、】
この客の質問に主人が言いました。

【其の文繁多〔はんた〕にして其の証弘博〔ぐはく〕なり。】
それを証明する経文は非常に多く、その証拠は広く一切経にわたって見られますが、以下にその明らかな文を引いて示しましょう。

【金光明〔こんこうみょう〕経に云はく】
法華経、仁王経とともに四天王が鎮護国家を誓った三部経の一つである金光明最勝王経四天王護国品第十二に、

【「其〔そ〕の国土に於て此の経有りと雖〔いえど〕も未だ嘗〔かつ〕て流布〔るふ〕せしめず、】
あるとき持国、増長、広目、毘沙門の四天王が仏に言うのには「ある国には、この経が伝わっているけれども、少しも広まっていない。

【捨離〔しゃり〕の心を生じて聴聞〔ちょうもん〕せんことを楽〔ねが〕はず、亦〔また〕供養し尊重〔そんじゅう〕し讃歎〔さんだん〕せず。】
その国王も人民も、この経を捨てて顧みようともせず、聴こうともしない。まして、これに供養したり、尊重したり、讃歎しようともしない。

【四部〔しぶ〕の衆、持経〔じきょう〕の人〔にん〕を見るも、亦復〔またまた〕尊重し乃至〔ないし〕供養すること能〔あた〕はず。】
比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷(僧、尼、信者の男女)は、この経を伝え広めようとする仏の弟子達を見ても、尊んだり供養しようともしない。

【遂に我等〔われら〕及び余の眷属〔けんぞく〕、無量の諸天をして此の甚深〔じんじん〕の妙法を聞くことを得ず、】
そこで我等、四天王や我等の部下や多くの天の神々は、この尊くありがたい妙法の教えを聞く事が出来ず、

【甘露の味〔あじ〕はひに背き正法の流れを失ひて、威光及以〔および〕勢力〔せいりき〕有ること無からしむ。】
身を養う為に必要な正法の甘露の法味がなくなり、その為に我等の権威や勢力もなくなってしまった。

【悪趣〔あくしゅ〕を増長〔ぞうちょう〕し、人天〔にんでん〕を損減して、】
そうであればこそ、この国には、地獄、餓鬼、畜生、修羅の四悪趣の悪い心ばかりが増して、人間界や天上界の善い心は、減じて衰え、

【生死〔しょうじ〕の河に堕〔お〕ちて涅槃の路〔みち〕に乖〔そむ〕かん。】
すべての人々は、みな生死の河、すなわち無明と苦悩の世界に堕ちて、涅槃の路、すなわち悟りへの路に背くことになるです。

【世尊、我等四王〔しおう〕並びに諸〔もろもろ〕の眷属及び薬叉〔やしゃ〕等、斯〔か〕くの如き事〔じ〕を見て、】
世尊よ、我等、四天王やその部下や夜叉などは、このような国王や人民がこのように仏法への不信の有様を見ては、

【其の国土を捨てゝ擁護〔おうご〕の心無けん。】
その国を捨て去って、これを守護しようとする心は起きなくなるのです。

【但〔ただ〕我等のみ是〔こ〕の王を捨棄〔しゃき〕するに非ず、】
さらに我等、四天王だけがこの不信の国王を見捨てるだけではない。

【必ず無量の国土を守護する諸大善神有らんも皆悉〔ことごと〕く捨去〔しゃこ〕せん。】
その国を守護する多くの諸天善神がいたとしても、みなすべてその国を捨て去ってしまうのです。

【既〔すで〕に捨離し已〔お〕はりなば其の国当〔まさ〕に種々の災禍〔さいか〕有りて国位を喪失〔そうしつ〕すべし。】
すでに我等、護国の諸天善神が、みなその国を捨て去ってしまえば、その国には、数々の災難が起こり国の力はまったく喪失してしまうのです。

【一切の人衆皆〔みな〕善心無く、唯繋縛〔けばく〕・殺害〔せつがい〕・瞋諍〔しんじょう〕のみ有って、】
そして、すべての人々は、善い心を失い、ただ、権力で縛ばりつけ、殺し合い、争い合ったりするだけで、

【互ひに相讒〔あいざん〕諂〔てん〕して枉〔ま〕げて辜〔つみ〕無きに及ばん。】
お互いに謗りあったり、上にへつらい罪のない者を罪に陥れようとするのです。

【疫病〔やくびょう〕流行し、彗星数〔しばしば〕出で、両の日並び現じ、】
また、疫病が流行し、彗星がしばしば出て、太陽が一時に二つ現われたり、

【薄蝕〔はくしょく〕恒〔つね〕無く、黒白〔こくびゃく〕の二虹不祥〔にこうふしょう〕の相を表はし、】
太陽の光も一定せず、黒白二つの虹が出て不吉な前兆を表わし、

【星流れ地動き、井の内に声を発し、暴雨悪風時節に依らず、常に飢饉〔ききん〕に遭〔あ〕ひて苗実〔みょうじつ〕成〔みの〕らず、】
流星が現れたり地震が起きて井戸の中から異様な音が聞こえたり、季節はずれの暴風雨が襲い、五穀は実らず、

【多く他方の怨賊〔おんぞく〕有りて国内を浸掠〔しんりょう〕せば、人民諸〔もろもろ〕の苦悩を受けて、】
さらに外国から多くの恨みを持った人々が入って来て国内を侵略し、人々は、非常に多くの苦しみを受けて、

【土地として所楽〔しょらく〕の処〔ところ〕有ること無けん」已上。】
国中どこにも安心して暮らせる所はなくなるです。

【大集経に云はく】
大集経法滅尽品には次のように説かれています。

【「仏法実〔じつ〕に隠没〔おんもつ〕せば鬚髪爪〔しゅほっそう〕皆長く、諸法も亦忘失〔もうしつ〕せん。】
仏法が滅びる時は、僧は、みな姿形が乱れ、僧としての礼や節度を失い、法門も狂ってしまうのです。

【時に当たって虚空〔こくう〕の中に大〔おお〕いなる声ありて地を震ひ、】
その時、虚空に大きな音が鳴りひびいて、大地を震わせ、

【一切皆遍〔あまね〕く動ぜんこと猶水上輪〔すいじょうりん〕の如くならん。】
あらゆるものが、まるで水車に乗っているように回転しながら巻き上げられるのです。

【城壁破れ落ち下り屋宇〔おくう〕悉く□〔やぶ〕れ□〔さ〕け、樹林の根・枝・葉・華葉・菓・薬尽〔つ〕きん。】
城壁は崩れ落ち、人家はことごとく壊れ、樹木の根も枝も葉も花も果実も、また薬草さえ、ことごとく消え去ってしまうのです。

【唯浄居天〔じょうごてん〕を除きて欲界一切処の七味・三精気〔しょうけ〕損減〔そんげん〕して、余り有ること無けん。】
ただ、欲望を断ち切った者が住む浄居天を除いて、欲界のすべての必要な栄養素と活力源は、残らず消え失せてしまうのです。

【解脱〔げだつ〕の諸の善論時〔とき〕に当たって一切尽きん。】
さらに正しい仏教や知識が説かれた多くの書物もすべて消滅するのです。

【生ずる所の華菓の味はひ希少〔きしょう〕にして亦美〔うま〕からず。】
大地に生ずる植物の花や果実も少なくなり、その味もまずくなるのです。

【諸有〔しょう〕の井泉池〔せいせんち〕一切尽く枯涸〔こかつ〕し、】
すべての井戸も泉も池もかれはてて、

【土地悉く鹹鹵〔かんろ〕し、敵裂〔てきれつ〕して丘□〔くけん〕と成〔な〕らん。】
土地は、塩分を含んだ不毛の地となり、ひび割れて丘や谷となるのです。

【諸山皆〔みな〕□燃〔しょうねん〕して天竜も雨を降〔くだ〕さず。】
すべての山は、みな燃えあがり、天の竜は、一滴の雨も降らさないのです。

【苗稼〔みょうけ〕皆〔みな〕枯〔か〕れ死〔し〕し、生ずる者皆死〔か〕れ尽〔つ〕くして余草〔よそう〕更に生ぜず。】
穀物の苗はみな枯れ、その他の作物もすべて枯れはてて、雑草すら生えないのです。

【土を雨〔ふ〕らし皆昏闇〔こんあん〕にして日月も明〔みょう〕を現ぜず。】
土が空から降り、昼でも暗く、太陽もその明るさを失ってしまうのです。

【四方皆亢旱〔こうかん〕し、数〔しばしば〕諸〔もろもろ〕の悪端を現じ、】
どこもかしこも日照りに悩まされ、しばしば、多くの環境の大変化が現われるのです。

【十不善業道〔ごうどう〕・貪瞋癡〔とんじんち〕倍増して、】
人々の間には、十種類の悪業、ことに欲望、憎悪、無知の三つの害毒がますます盛んになって、

【衆生の父母に於ける、之を観ること□鹿〔しょうろく〕の如くならん。】
臆病な鹿が自分だけ助かろうとして仲間を置き去りにするように、人々は、父母さえ捨て去って不孝の罪を犯すようになるのです。

【衆生及び寿命色力威楽〔しきりきいらく〕減〔げん〕じ、人天の楽を遠離〔おんり〕し、皆悉く悪道に堕せん。】
人々の人口も寿命も体力も威厳も無くなって、人生を楽しむことから遠ざかり、みなことごとく地獄、餓鬼、畜生の三悪道に堕ちるのです。

【是くの如き不善業〔ふぜんごう〕の悪王・悪比丘、我が正法〔しょうぼう〕を毀壊〔きえ〕し、天人の道〔どう〕を損減し、】
このような過去に悪業を積んだ悪王と悪僧とが仏の正法を誹謗して破壊し、人の道を外れた行為へと誘い出し、

【諸天善神・王の衆生を悲愍〔ひみん〕する者、此の濁悪〔じょくあく〕の国を棄てゝ皆悉く余方に向かはん」已上。】
諸天善神や王を助け人々を救おうとする者は、この濁悪の国を捨てて、みなことごとく他の国へ去ってしまうのです。

【仁王〔にんのう〕経に云はく】
国を護り安穏にする為に般若波羅蜜を受持すべきである事が説かれている仁王経の護国品には、次のように説かれています。

【「国土乱〔みだ〕れん時は先〔ま〕づ鬼神乱る。鬼神乱るゝが故に万民乱る。】
国土の乱れる時は、まず悪魔が乱れる。そして鬼神が乱れるから万民が乱れるのです。

【賊来たりて国を劫〔おびや〕かし、百姓〔ひゃくせい〕亡喪〔もうそう〕し、臣・君・太子・王子・百官共に是非を生ぜん。】
外国から攻撃を受け国をおびやかし、その為に命を失う者が多く出て、主君と家臣、後継者、家来の間で争いが起こるのです。

【天地怪異〔けい〕し二十八宿〔しゅく〕・星道〔せいどう〕・日月時〔とき〕を失ひ度を失ひ、多く賊の起こること有らん」と。】
天地に怪しい現象が現われ、二十八の星座の位置や、星や月や太陽の運行に狂いが生じ、内乱が各地で起こるのです。

【亦云く】
また仁王経の受持品には、次のように説かれています。

【「我今〔いま〕五眼をもって明らかに三世を見るに、】
私が今、仏眼をもって現在、過去世、来世の三世を見るに、

【一切の国王は皆過去の世に五百の仏に侍〔つか〕へしに由〔よ〕って帝王主と為〔な〕ることを得たり。】
すべての国王は、みな過去の世に五百の仏に仕えた功徳によって、現在に帝王、国主となる事が出来たのである。

【是を為〔もっ〕て一切の聖人羅漢〔らかん〕而〔しか〕も為〔ため〕に彼の国土の中に来生〔らいしょう〕して大利益〔りやく〕を作さん。】
さらにこの功徳によって、すべての聖者がその王の国土に生まれて出て、その国の為に大きな利益を与えてくれるである。

【若し王の福尽きん時は一切の聖人皆捨去為〔しゃこせ〕ん。】
しかし、王の積んだ功徳が尽きる時には、すべての聖者はことごとく国を捨て去るのです。

【若し一切の聖人去らん時は七難必ず起こらん」已上。】
もし、すべての聖者が去ってしまったならば、その時、その国には必ず七つの難が起こるのです。

【薬師経に云はく】
薬師如来の功徳を説いている薬師経には次のように説かれています。

【「若〔も〕し刹帝利〔せっていり〕・潅頂王〔かんじょうおう〕等の災難起こらん時、】
もし、武士階級(カースト制度のクシャトリア)の大王などの法華誹謗によって国に災難が起こる時は、

【所謂人衆疾疫〔にんじゅしつえき〕の難・他国侵逼〔しんぴつ〕の難・自界叛逆〔ほんぎゃく〕の難・】
それは国民の間に疫病が流行する難、外国からの侵略、国内の戦乱、

【星宿〔せいしゅく〕変怪〔へんげ〕の難・日月〔にちがつ〕薄蝕〔はくしょく〕の難・非時風雨の難・過時不雨の難あらん」已上。】
星の運行の変異、日蝕や月蝕で太陽や月の光が失われること、時ならぬ風雨、旱魃の七つの難があるであろう。

【仁王経に云はく】
仁王経の受持品には次のように説かれています。

【「大王、吾が今〔いま〕化する所の百億の須弥〔しゅみ〕、百億の日月、】
大王波斯匿王よ、釈尊がいま教化する世界には百億の世間がある。各世間にはそれぞれ太陽があり月があり

【一々の須弥に四〔し〕天下〔てんげ〕有り、】
その一つ一つに須弥山があり、その四方には四つの大陸があります。

【其の南閻浮提〔なんえんぶだい〕に十六の大国・五百の中国・十千〔じっせん〕の小国〔しょうごく〕有り。】
そのうち南方の閻浮提州には十六の大国があり、五百の中国、一万の小国がありますが、

【其の国土の中に七つの畏〔おそ〕るべき難有り、一切の国王是を難と為〔な〕すが故に。】
これらの無数の国には七つの恐ろしい難がある。すべての国王は、この難を恐れています。

【云何〔いか〕なるを難と為す。】
その恐るべき七つの難とは、

【日月度を失ひ時節返逆〔ほんぎゃく〕し、或は赤日〔しゃくじつ〕出で、黒日出で、二三四五の日出〔ひい〕で、】
太陽や月の運行が狂って四季の時節が逆になり、赤い太陽が出たり、黒い太陽が出たり、二つ三つ四つ五つと太陽が並んで出たり、

【或は日蝕して光無く、或は日輪一重二三四五重輪現ずるを一の難と為すなり。】
あるいは、太陽の光がなくなったり、あるいは一重、二重、三重、四重、五重と太陽が重なって現われたりするのが第一の難なのです。

【二十八宿度を失ひ、金星・彗星・輪星・鬼星・火星・水星・風星・□星〔ちょうせい〕・南斗〔なんじゅ〕・北斗〔ほくと〕・】
二十八の星座の運行が狂ったり、金星や彗星、輸星、鬼星、火星、水星、風星、ちょう星、南斗、北斗、

【五鎮〔ごちん〕の大星・一切の国主星・三公星・百官星、】
五鎮の大星、一切の国主星、三公星、百官星など、

【是くの如き諸星各々〔おのおの〕変現〔へんげん〕するを二の難と為すなり。】
さまざまな星がいろいろ変わった現われ方をするのが第二の難なのです。

【大火〔たいか〕国を焼き万姓焼尽〔しょうじん〕せん、或は鬼火・竜火・天火・山神火・人火〔じんか〕・樹木火・賊火あらん。】
大火が国を覆い、多くの人々が焼き尽くされ、その原因は、自然発火や災害、落雷、山火事、人の過失、森林火災、放火などなのです。

【是くの如く変怪〔へんげ〕するを三の難と為すなり。】
このような火災が多く起きる事を第三の難と言います。

【大水百姓を□没〔ひょうもつ〕し、時節返逆して冬雨ふり、夏雪ふり、冬時〔とうじ〕に雷電霹礰〔へきれき〕し、】
大水が出て人々を溺れさせたり、気候が狂って冬に雨が降り、夏に雪が降り、冬に雷が落ちたり、

【六月に氷霜雹〔ひょうそうばく〕を雨〔ふ〕らし、赤水〔しゃくすい〕・黒水・青水〔しょうすい〕を雨らし、】
六月の暑中に氷や霜や雹〔ひょう〕が降ったり、赤い水、黒い水、青い水が降ったり、

【土山〔せん〕・石山〔しゃくせん〕を雨らし、沙〔しゃ〕・礫〔りゃく〕・石〔しゃく〕を雨らす。江河逆〔さか〕しまに流れ、】
土の山や石の山が降ってきたり、砂や礫や石が降ったり、河が逆流したり、

【山を浮かべ石を流す。是くの如く変ずる時を四の難と為すなり。】
山を浮かべ、石が流れたりするような水の異変が生じる、このような事を第四の難と言うのです。

【大風万姓を吹き殺し、国土山河樹木一時に滅没〔めつもつ〕し、非時〔ひじ〕の大風・黒風・赤風・青風・天風・地風・】
大風が吹いて人々を殺し、国土の山河の草木が一時になぎ倒されて、時ならぬ大風や、黒い風、赤い風、青い風、台風、竜巻、

【火風・水風あらん、是くの如く変ずるを五の難と為すなり。】
火のような熱風、雨の冷たい寒風などが吹き荒れるのが第五の難であるのです。

【天地国土亢陽〔こうよう〕し、炎火洞燃〔どうねん〕として百草亢旱〔こうかん〕し、五穀登〔みの〕らず、】
国に大旱魃が続いて、熱気が地下にまで浸透して、あらゆる草は枯れ、五穀も実らず、

【土地赫燃〔かくねん〕して万姓滅尽せん。是くの如く変ずる時を六の難と為すなり。】
土地は焼けて、その為に人々は、死に絶えてしまうのが第六の難であるのです。

【四方の賊来たりて国を侵し、内外の賊起こり、火賊・水賊・風賊・】
四方から敵が攻めて来て国土を侵略し、国内にも戦乱が起こり、大火や大水、暴風に乗じて盗賊となる者や

【鬼賊ありて百姓荒乱し、刀兵劫起〔とうひょうこうき〕せん。是くの如く怪〔け〕する時を七〔しち〕の難と為すなり」と。】
人を殺す者が横行して、人心は、極度に荒れすさんで、ついに世界中で大戦乱が起こるのが第七の難なのです。

【大集経に云はく】
大集経護法品には次のように説かれています。

【「若〔も〕し国王有って、無量世〔むりょうせ〕に於て施戒慧〔せかいえ〕を修すとも、】
過去において仏法に布施、持戒、智恵を修行して、その功徳によって現世に国王と生まれたとしても、

【我が法の滅せんを見て捨てゝ擁護〔おうご〕せずんば、】
仏法が滅びようとするのを見て、これを見捨てて護ろうとしないならば、

【是くの如く種〔う〕うる所の無量の善根悉く皆滅失〔めっしつ〕して、其の国当〔まさ〕に三〔み〕つの不祥の事〔こと〕有るべし。】
過去世に積んだ無量の功徳もことごとくみな消滅して、その国には三つの不祥事が起こるであろう。

【一には穀貴〔こっき〕、二には兵革〔ひょうかく〕、三には疫病なり。】
それは、一つには飢饉であり、二つには戦乱であり、三つには疫病である。

【一切の善神悉く之を捨離〔しゃり〕せば、其の王教令〔きょうりょう〕すとも人随従〔ずいじゅう〕せず、】
すべての諸天善神がその国を捨てたならば、たとえ王の命令であっても人々は従わず、

【常に隣国の為に侵□〔しんにょう〕せられん。】
常に隣国から侵略されるであろう。

【暴火〔ぼうか〕横〔よこしま〕に起こり、悪風雨多く、暴水増長して、】
暴風によって大火が起こり、大雨によって洪水が重なって、

【人民を吹□〔すいひょう〕せば、内外〔ないげ〕の親戚其れ共に謀叛〔むほん〕せん。】
人々は、溺れ死に王の一族から謀叛が起こるであろう。

【其の王久しからずして当に重病に遇〔あ〕ひ、寿終〔じゅじゅう〕の後大地獄の中に生ずべし。】
その王は、やがては重病に侵されて、死後は地獄に堕ちるであろう。

【乃至王の如く夫人〔ぶにん〕・太子・大臣・城主・柱師〔ちゅうし〕・郡守・宰官〔さいかん〕も亦復〔またまた〕是くの如くならん」已上。】
王だけでなく王妃も太子も大臣も将軍も、その他の様々な官職にある者も、みな同じくこの苦しみを受けるであろう。

【夫〔それ〕四経の文朗〔もんあき〕らかなり、】
これらの金光明最勝王経、大集経、仁王経、薬師経の文は、みな災難の原因が正法を護らない事にあると説いている事は明らかであります。

【万人誰〔たれ〕か疑はん。】
誰がこれを疑うでしょうか。

【而るに盲瞽〔もうこ〕の輩〔やから〕、迷惑の人、妄〔みだ〕りに邪説〔じゃせつ〕を信じて正教〔しょうきょう〕を弁〔わきま〕へず。】
ところが道理に暗い人は、浅はかにも間違った説明を信じて、これら四つの経文に書かれている教えをわきまえないのです。

【故に天下世上〔せじょう〕諸仏衆経〔しゅきょう〕に於て、捨離〔しゃり〕の心を生じて擁護〔おうご〕の志〔こころざし〕無し。】
その為に世の中の人々は、多くの仏や経文を捨てて、正法を護ろうとする志がまったくないのです。

【仍〔よ〕って善神聖人〔しょうにん〕国を捨て所を去る。是〔ここ〕を以て悪鬼外道災〔さい〕を成し難を致〔いた〕すなり。】
そこで国を護る諸天善神や正法を教える聖人が国を捨て去ってしまい、その隙に乗じて悪鬼や邪説を説く者がやって来て災難を起こすのです。


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