日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


唱法華題目抄 11 第十章 利根と通力とにはよるべからず


【問うて云はく、唐土の人師の中に、一分一向に権大乗に留まりて】
それでは、中国の人師の中で権大乗に留まり、

【実経に入らざる者はいかなる故か候。】
実経に入らなかった者がいるのは、どういう理由からなのでしょうか。

【答へて云はく、仏世に出でましまして先ず四十余年の権大乗・小乗の経を説き、】
それは、仏が世に出現されて、まず四十年余りは権大乗、小乗の経文を説き、

【後には法華経を説いて言はく】
後に法華経を説いて、

【「若以〔にゃくい〕小乗化〔しょうじょうけ〕乃至於一人〔おいちにん〕、】
「もし小乗経によって人を教化しようとするならば、

【我則堕〔がそくだ〕慳貪〔けんどん〕、】
私は、物惜しみと貪りの罪に陥るだろう。

【此事為不可〔しじいふか〕」文。】
この事は、まったく誤りである」と云われました。

【文の心は、仏但爾前の経計〔ばか〕りを説いて法華経を説き給はずば、】
この文章の意味は、仏がただ爾前経だけを説いて法華経を説かれなかったならば、

【仏慳貪〔けんどん〕の失〔とが〕ありと説かれたり。】
仏には、慳貪の罪があると説かれたのです。

【後に嘱累〔ぞくるい〕品にいたりて、】
後に属累品に至って、

【仏右の御手をの〔延〕べて三たび諫〔いさ〕めをなして、】
仏は、右の手を伸ばされて三度諌められました。

【三千大千世界の外八方四百万億那由他の国土の】
三千大千世界の他、八方・四百万億那由他の国土の

【諸菩薩の頂〔いただき〕をなでて、】
無数の菩薩の頭を撫でて、

【未来には必ず法華経を説くべし。若し機たへずば、】
「未来には必ず法華経を説きなさい。もし理解力が乏しければ、

【余の深法の四十余年の経を説いて】
私の深法の四十年余りの経を説いて

【機をこしらへて法華経を説くべしと見えたり。】
理解力を調えて法華経を説きなさい」と云われました。

【後に涅槃経に重ねて此の事を説いて、】
後に涅槃経に、重ねてこの事を

【仏滅後に四依の菩薩ありて法を説くに又法の四依あり。】
「仏の入滅後に四依の菩薩が法を説くとき、また法の四依がある。

【実経をつひ〔終〕に弘めずんば天魔としるべきよしを説かれたり。】
実経をついに弘めなければ天魔と知りなさい」と説かれているのです。

【故に如来の滅後、後の五百年、九百年の間に】
したがって、如来の入滅後、後の五百年、九百年の間に

【出で給ひし竜樹菩薩・天親菩薩等、遍〔あまね〕く如来の聖教を弘め給ふに、】
出現された竜樹菩薩、天親菩薩等は、漏れる事なく如来の聖教を弘められたのです。

【天親菩薩は先に小乗の説一切有部の人、】
天親菩薩とは、先に小乗の「説一切有部」を著した人であり、

【倶舎〔くしゃ〕論を造りて阿含十二年の経の心を宣〔の〕べて】
そして倶舎論を著して阿含十二年の経の趣旨を述べ、

【一向に大乗の義理を明かさず、】
まったく大乗の意味や道理を明かさなかったのです。

【次に十地論〔じゅうじろん〕・摂大乗論〔しょうだいじょうろん〕・】
次に十地論、摂大乗論、

【釈論等を造りて四十余年の権大乗の心を宣べ、】
釈論等を著して、四十年余りの権大乗の主意を述べ、

【後に仏性論・法華論等を造りて粗〔ほぼ〕実大乗の義を宣べたり。】
後に仏性論、法華論等を著して、ほぼ、実大乗の教えを述べたのです。

【竜樹菩薩も亦然なり。】
竜樹菩薩も同様であるのです。

【天台大師、唐土の人師として一代を分かつに】
天台大師は、中国の人師として、釈尊の一代の経文を分類し、

【大小・権実顕然〔けんねん〕なり。】
大小、権実を明らかにしました。

【余の人師は僅〔わず〕かに義理を説けども分明〔ふんみょう〕ならず、】
その他の人師も僅かに意味や理論を述べているが明確ではありません。

【又証文たしかならず。但し末の論師並びに訳者、】
また証文も不確かなのです。ただし、末の学者や訳者、

【唐土の人師の中に大小をば分けて大にをい〔於〕て権実を分かたず、】
中国の人師は、大と小を分類し、大においては、権と実は分類しなかったのです。

【或は語には分かつといへども心は権大乗のをも〔趣〕むきを出でず、】
あるいは、言葉では分類してはいましたが、心では、権大乗を出なかったのです。

【此等は「不退〔ふたい〕諸菩薩〔しょぼさつ〕、】
これらは「決して退く事のない多くの菩薩で、

【其数如恒沙〔ごしゅにょごうじゃ〕、】
その数が河の砂の数ほどであるが、

【亦復〔やくぶ〕不能知〔ふのうち〕」とおぼえて候なり。】
またまた仏智は知る事が出来ない」と思われるのです。

【疑って云はく、唐土の人師の中に慈恩大師は十一面観音の化身、】
それでは、中国の人師の中で慈恩大師は十一面観音の化身と呼ばれ、

【牙〔きば〕より光を放つ。】
牙より光を放ったと云います。

【善導和尚は弥陀の化身、口より仏をいだす。】
善導和尚は、阿弥陀の化身であり、口より仏を出したと云います。

【この外の人師、通を現じ徳をほどこし】
この他の人師も神通力を現じて徳を施し、

【三昧を発得〔ほっとく〕する人世に多し。】
三昧を得て、優れた智慧に達する人は世に多いのです。

【なんぞ権実二経を弁〔わきま〕へて法華経を詮〔せん〕とせざるや。】
なぜ、そのような人が、権実の二経を理解して法華経を選択しないのでしょうか。

【答へて云はく、阿竭多〔あかだ〕仙人外道は】
それは、阿竭多仙人と云う外道師は、

【十二年の間耳の中に恒河〔ごうが〕の水をとゞむ。】
十二年の間、耳の中に河の水を留め、

【婆籔〔ばそ〕仙人は自在天となりて三目を現ず。】
婆籔仙人は、自在天となって第三の目を現じました。

【唐土の道士の中にも張階〔ちょうかい〕は霧〔きり〕をいだし、】
中国の道士の中においても張階は霧をつくり、

【鸞巴〔らんぱ〕は雲をはく。第六天の魔王は仏滅後に】
鸞巴は雲を吐いたと云います。第六天の魔王は、仏の入滅後に

【比丘・比丘尼・優婆塞〔うばそく〕・優婆夷〔うばい〕・阿羅漢・】
僧、尼、在家の男女、阿羅漢、

【辟支仏〔びゃくしぶつ〕の形を現じて四十余年の経を説くべしと見えたり。】
辟支仏の姿を現して、四十年余りの経を説いたと云われています。

【通力をもて智者愚者をばしるべからざるか。】
これを考えれば、神通力によって智者か愚者かを知るべきではないのです。

【唯仏の遺言の如く、一向に権経を弘めて】
ただ、実教である法華経を弘めよとの仏の遺言に背いて、ただ権経のみを弘め、

【実経をつゐに弘めざる人師は、権経に宿習〔しゅくじゅう〕ありて】
実経を最後まで弘めない人師は、権経に宿習があって、

【実経に入らざらん者は、或は魔にたぼらかされて通を現ずるか。】
実経に入らない者は、魔にたぶらかされて神通力を現じているのでしょうか。

【但し法門をもて邪正をたゞすべし。】
ただ、法門によって正邪をただすべきであるのです。

【利根と通力とにはよるべからず。】
また利根や神通力によっては、ならないのです。

【文応元年太歳庚申五月二十八日 日蓮花押】
文応元年(太歳庚申)五月二十八日、日蓮花押

【鎌倉名越〔なごえ〕に於て書き畢〔おわ〕んぬ。】
鎌倉の名越で之を書きました。


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