日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑚資料


妙心尼御前御返事 背景と大意


妙心尼御前御返事(御書900頁)

本抄は建治元年(西暦1275年)8月16日に日蓮大聖人、54歳の時に顕された御書です。
御真蹟は、現存しませんが総本山大石寺に日興上人の写本があります。
この年の前年、文永11年4月8日に佐渡から鎌倉へ戻られています。 その大聖人に幕府の平左衛門尉頼綱〔へいのさえもんのじょうよりつな〕は、いままでの態度を一変させ、なんとか懐柔〔かいじゅう〕を試みましたが、大聖人は、謗法厳誡〔ほうぼうげんかい〕の三度目の国家諌暁〔かんぎょう〕を行われましたが幕府の対応は、大聖人の言葉を真摯に受け止めるものではありませんでした。
そこで大聖人は「国恩を報ぜんがために三度までは諌暁すべし、用ひずば山林に身を隠さんとおもひしなり。」(御書1153頁) と仰せのように身延に向かわれたのです。
入山半年後の同年10月5日には、立正安国論で予言された他国侵逼難 〔たこくしんぴつのなん〕である蒙古の襲来(文永の役)が現実のものとなりました。
この御書では、それで壱岐、対馬の事に触れられています。
本抄の系年について古来、弘安元年説と建治元年説の二つの説がありましたが、そのことから、日蓮正宗では、「文永の役」の翌年、つまり建治元年のものとされています。
対告衆の妙心尼については、富士郡西山(現在の芝川町)の大内氏夫人、あるいは賀島荘(現在の富士市)の高橋氏夫人と見る説や、また持妙尼、もしくは窪尼と同一人物と見る説もありましたが、大石寺第66世日達上人は、日興上人の伯母に当たる高橋氏夫人、持妙尼と同一人物であり、夫の逝去〔せいきょ〕後、富士郡西山の窪に移住したことから、窪尼とも称されたと仰せになっています。


妙心尼御前御返事 本文


【妙心尼御前御返事 建治元年八月十六日 五四歳】
妙心尼御前御返事 建治元年8月16日 54歳御作


【あわしがき〔醂柿〕二籠〔こ〕なすび〔茄子〕一こ給び候ひ了んぬ。】
醂柿二籠、なすび一籠を確かに頂きました。

【入道殿の御所労の事、】
入道殿の御病気のことですが、

【唐土に黄帝〔こうてい〕・扁鵲〔へんじゃく〕と申せしくすし〔医師〕あり、】
中国には、黄帝や扁鵲と言う有名な医師がおり、

【天竺に持水〔じすい〕・耆婆〔ぎば〕と申せしくすしあり。】
インドには、持水や耆婆と言う有名な医師が居ました。

【これらはその世のたから、末代のくすしの師なり。】
これらの人は、その時代の宝であり、またその後の時代の医師の師匠でもあります。

【仏と申せし人は、これにはに〔似〕るべくもなきいみじきくすしなり。】
仏と言われる人は、それらの人とは、比較にならないほど優れた医師なのです。

【この仏〔ほとけ〕不死の薬をとかせ給へり。】
この優れた医師である仏は、不死の薬を説かれています。

【今の妙法蓮華経の五字是〔これ〕なり。】
それが現在の妙法蓮華経の五字であるのです。

【しかもこの五字をば「閻浮提人〔えんぶだいにん〕、】
しかもこの五字を「全世界の人々に効く

【病之良薬〔びょうしろうやく〕」とこそとかれて候へ。】
病の為の優れた薬」であると言われているのです。

【入道殿は閻浮提の内日本国の人なり。】
入道殿は、その世界の中の日本国の人です。

【しかも身に病〔やまい〕をう〔受〕けられて候。】
しかも身に病を受けられています。

【「病之良薬」の経文顕然〔けんねん〕なり。】
「病の為の優れた薬」という経文は、まさにこのことなのです。

【其の上蓮華経は第一の薬なり。はるり〔波瑠璃)王と申せし悪王、】
その上、法華経は、最高の薬であるのです。波瑠璃王という悪王が

【仏のしたしき女人五百余人を殺して候ひしに、】
仏を敬う女性を五百人以上を殺してしまった時に、

【仏、阿難を雪山〔せっせん〕につかはして】
仏は、阿難尊者を雪山に遣わせて

【青蓮華〔しょうれんげ〕をとりよせて身にふれさせ給ひしかば、】
青蓮華をそこから取り寄せ、その女性達の身に触れさせると、

【よみがへりて七日ありて】
その女性達は、よみがえって七日の後に

【□利天〔とうりてん〕に生まれにき。】
□利天〔とうりてん〕に生まれ変わりました。

【蓮華と申す花はかかるいみじき徳ある花にて候へば、】
蓮華という花は、このように優れた徳が有る花であるので

【仏、妙法にたとへ給へり。】
仏は、妙法に譬〔たと〕えているのです。

【又人の死ぬる事はやまひにはよらず。】
また、人が死ぬと言うことは、病気だけが原因ではありません。

【当時のゆき〔壱岐〕・つしま〔対馬〕のものどもは病なけれども、】
現在の壱岐対馬の人達は、病気ではないのに

【みなみなむこ〔蒙古〕人〔びと〕に一時にうちころされぬ。】
みんな蒙古の人に一度に殺されています。

【病あれば死ぬべしといふ事不定〔ふじょう〕なり。】
病気であるから必ず死ぬとは限りません。

【又このやまひは仏の御はからひか。】
また、この病気は、仏の御はからいによるものではないでしょうか。

【そのゆへは浄名〔じょうみょう〕経・涅槃〔ねはん〕経には】
なぜなら浄名経や涅槃経には、

【病ある人、】
病気になった人こそ、病気を克服したいとの強い思いで、より強情な信心ができ、

【仏になるべきよしとかれて候。】
その結果として成仏ができるのであると説かれているのです。

【病によりて道心はおこり候か。】
病気によって御本尊様に手を合わせるようになるものなのです。

【又一切の病の中には五逆罪〔ごぎゃくざい〕と一闡提〔いっせんだい〕と】
また、すべての病気の中で、この御本尊様を信じないという事ほど

【謗法(ほうぼう)をこそ、おもき病とは仏はい〔傷〕たませ給へ。】
怖ろしく重い病気はないと仏は、心を痛めているのです。

【今の日本国の人は一人もなく極大〔ごくざい〕重病あり、】
現在の日本国の人は、全てがこの最大の重い病気にかかっているのです。

【所謂〔いわゆる〕大謗法の重病なり。】
いわゆる御本尊様を誹謗するという大謗法という重病であるのです。

【今の禅宗・念仏宗・律宗・真言師なり。これらはあまりに病】
現在の禅、念仏、律、真言などを信じている者達です。これらは、あまりに病気が

【おもきゆへに、】
重いので自分自身でさえそれにかかっている事がわからず、

【我が身にもおぼへず】
多くの人々がそうであるゆえに

【人もしらぬ病なり。】
世間の人々でさえ、そのことにまったく気づかない怖ろしい病気なのです。

【この病のこう〔昻〕ずるゆへに、】
この病気が高じた為に海を越えて兵隊が押し寄せ、

【四海のつわものただいま来たりなば、王臣万民みなしづみなん。】
日本の国民全員が殺されようとしているのです。

【これをいきてみ候はんまなこ〔眼〕こそあたあた〔徒徒〕しく候へ。】
これを生きて見なければならないことほど意味のないことはないでしょう。

【入道殿は今生にはいたく法華経を御信用ありとはみ〔見〕候はねども、】
入道殿は、この世では、大変に御本尊様を信じているように見えますが、

【過去の宿習〔しゅくじゅう〕のゆへ、】
過去の宿業の為に

【かのもよをしによりてこのなが病にしづみ、】
このような長患いにしずんで、

【日々夜々に道心ひま〔間〕なし。】
その為に日々、信心を強められています。

【今生につくりをかせ給ひし小罪は】
その事によってこの世に作った小さな罪業は、

【すでにきへ候ひぬらん。】
すでに消えてしまっていると思います。

【謗法の大悪は又法華経に】
また、現在の長患いの原因である過去の法華経を誹謗した大悪業も

【帰〔き〕しぬるゆへにきへ〔消〕させ給ふべし。】
御本尊様に帰す故に消えてしまう事でありましょう。

【ただいまに霊山にまいらせ給ひなば、】
このまま霊山へ旅だたれるならば、

【日いでて十方をみるがごとくうれしく、】
太陽が昇り高い山から四方八方を見渡すように心が晴々として、

【とくし〔疾死〕にぬるものかなと、】
よくぞ、御本尊様を信じる為にこの病気で死んだものよと

【うちよろこび給ひ候はんずらめ。】
喜ばれるに違いありません。

【中有〔ちゅうう〕の道にいかなる事もいできたり候はば、】
亡くなる途中でいかなる事態があったとしても、

【日蓮がでし〔弟子〕なりとなのらせ給へ。わずかの日本国なれども、】
日蓮の弟子であると名乗っていきなさい。小さな日本国ではあっても

【さがみ〔相模〕殿のうちのものと申すをば、さう〔左右〕なくおそるる事候。】
執権北条時頼殿の家来と言えば誰も彼もが怖れるでしょう。

【日蓮は日本第一のふたう〔不当〕の法師、】
日蓮は、日本で一番僧侶としてふさわしくない者かも知れませんが、

【ただし法華経を信じ候事は、一閻浮提第一の聖人なり。】
御本尊様を信じる事においては、世界第一の聖人であるのです。

【其の名は十方の浄土にきこえぬ。】
その名は、すべての浄土に聞こえております。

【定めて天地もしりぬらん。日蓮が弟子となのらせ給はば、】
おそらく天も地も知っている事でしょう。日蓮の弟子であると名乗れば、

【いかなる悪鬼等なりとも、よもし〔知〕らぬよしは申さじとおぼすべし。】
どのような悪鬼と言えども、よもや知らぬ振りはしないと信じなさい。

【さては度々の御心ざし申すばかりなし。】
度々御心ざしの品々は、言葉には表す事が出来ないものばかりで、

【恐恐謹言。】
まことに恐れ多い事です。

【八月十六日】
8月16日

【日蓮花押】
日蓮 花押

【妙心尼御前御返事】
妙心尼御前御返事

【さる〔猿】は木をたの〔恃】む、魚は水をたのむ、】
猿は、木を頼みに生きており、魚は、水を頼んで生きている。

【女人はおとこ〔夫〕をたのむ、】
妻は、夫を頼みにしている。

【わかれのをしきゆへにかみ〔髪〕をそ〔剃〕り、】
別れが惜しい故に髪を剃って尼に成り

【そで〔袖〕をすみにそめぬ。】
着物の袖を黒く染める。

【いかでか十方の仏もあはれませ給はざるべき、】
どんなにか数多くの仏がそのことを憐れに思っていることでしょうか。

【法華経もすてさせ給ふべきとたのませ給へ、たのませ給へ。】
御本尊様も御見捨てになるようなことはないと、かたくかたく信じていきなさい。

ページのトップへ戻る