日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


池上兄弟御消息文 09 兵衛志殿御書

【兵衛志殿御書 弘安元年九月九日 五七歳】
兵衛志(宗長)殿御書 弘安元年9月9日 57歳御作


【久しくうけ給はり候はねばよくおぼつかなく候。】
長い間、便りもありませんでしたので、非常に心配しておりました。

【何よりもあは〔哀〕れにふしぎなる事は】
しかし、なんといっても、尊く不思議なことは、

【大夫志〔さかん〕殿ととの〔殿〕との】
御兄さんの大夫志〔たゆうさかん〕(宗仲)殿と、あなたの仲のことで、

【御事ふしぎに候。】
本当に不思議に思っております。

【つねざまには代すえになり候へば・聖人賢人もみなかくれ、】
通例では、世が末になれば、聖人とか賢人と云われる人は、皆、隠れて、

【たゞざんじん〔讒人〕・ねいじん〔佞人〕・】
ただ讒人〔ざんにん〕や、佞人〔ねいじん〕や、

【わざん〔和讒〕・】
表面は、和〔なご〕やかであっても、陰では、人を陥れる和讒〔わざん〕の者や、

【きょく〔曲〕り〔理〕の者のみこそ】
理を曲げて我意を通す曲理〔きょくり〕の者ばかりが

【国には充満すべきと見へて候へば、】
国中に充満するようになると経文に書かれています。

【喩へば水すくなくなれば池さは〔騒〕がしく、】
たとえば、水が少なくなれば、池が騒がしくなり、

【風ふけば大海しづ〔静〕かならず。】
風が吹くと大海が穏やかでなくなるようなものなのです。

【代の末になり候へばかんばち〔旱魃〕・えきれい〔疫癘〕・】
こうした末法の時代になると、旱魃〔かんばつ〕や疫病〔えきびょう〕が蔓延し、

【大雨・大風ふきかさなり候へば、広き心もせばくなり、】
大雨、大風が吹き荒れ、その為に心の広い人も狭くなり、

【道心ある人も邪見になるとこそ見へて候へ。されば他人はさてをきぬ。】
求道心ある人も邪見の者となるのです。それ故に他人との事は、さておいて、

【父母と夫妻と兄弟と諍〔あらそ〕ふ事れつし〔猟師〕としか〔鹿〕と、】
父母、夫婦、兄弟などの肉親までが相争い、その姿は、ちょうど猟師と鹿と、

【ねことねずみと、たかときじとの如しと見へて候。】
猫と鼠、鷹〔たか〕と雉〔きじ〕とが争うようなものであると経文に見えます。

【良観等の天魔の法師らが】
彼の極楽寺良観などの天魔の法師たちが、

【親父左衛門の大夫殿をすか〔賺〕し、】
父親の左衛門大夫康光〔やすみつ〕殿を騙〔だま〕して

【わどの〔和殿〕ばら〔原〕二人を失はんとせしに、】
あなた方兄弟二人を迫害し退転させようとしましたが、

【殿の御心賢くして日蓮がいさめを御もちゐ有りしゆへに、】
宗長殿の心が賢明で、日蓮が諫〔いさ〕めたことを用いられたが故に、

【二つのわ〔輪〕の車をたすけ二つの足の人をにな〔担〕へるが如く、】
あたかも二つの輪が車をたすけ、二本の足が人を担うように、

【二つの羽のとぶが如く、日月の一切衆生を助くるが如く、】
また二つの羽で鳥が飛ぶように、日月が輝いて一切衆生を助けるように、

【兄弟の御力にて親父を法華経に入れまいらせさせ給ひぬる】
兄弟二人の力によって、父親を法華経の信心につかせる事ができたのです。

【御計らひ、偏に貴辺の御身にあり。】
この計〔はか〕らいは、偏〔ひとえ〕に宗長殿の信心によるものです。

【又真実の経の御ことは〔理〕りを、】
また、真実の経の理〔ことわり〕によれば、

【代末になりて仏法あながちにみだれば】
時代が末法となり、仏法が非常に乱れたときには、

【大聖人世に出づべしと見へて候。】
大聖人が必ず世に出現されるとあります。

【喩へば松のしも〔霜〕の後〔のち〕に木の王と見へ、】
たとえば、松は、霜が降りてのちも枯れないので木の王と云われ、

【菊は草の後に仙草と見へて候。】
菊は、他の草が枯れたのちにも、なお、花を咲かせるので仙草と云うのと同じです。

【代のおさまれるには賢人見えず。】
世の中が平穏なときには、誰が賢人であるか分かりませんが、

【代の乱れたるにこそ聖人・愚人は顕はれ候へ。】
世の中が乱れているときにこそ、聖人と愚人は、明らかになるのです。

【あはれ平左衛門殿・さがみ殿の日蓮をだに用ひられて候ひしかば、】
気の毒にも、平左衛門尉殿や相模守殿が日蓮の言うことを用いられていたならば、

【すぎにし蒙古国の朝使のくび〔頸〕はよも切らせまいらせ候はじ。】
先年の蒙古からの使いの首を、よもや斬ることは、なかったでしょう。

【くや〔悔〕しくおはすならん。】
今になって後悔している事と思います。

【人王八十一代安徳天皇と申す大王は天台の座主明雲等の】
人王八十一代の安徳天皇と云う大王は、天台の座主、明雲らの

【真言師等数百人かたらひて、源右将軍頼朝を調伏〔じょうぶく〕せしかば、】
真言師たち数百人に命じて、源頼朝を調伏〔じょうぶく〕する祈祷をさせたところ、

【還著於本人〔げんじゃくおほんにん〕とて】
還著於本人〔げんじゃくおほんにん〕の経文のとおり、

【明雲は義仲に切られぬ。】
祈った明雲自身が木曾義仲に首を斬られ、

【安徳天皇は西海に沈み給ふ。】
安徳天皇は壇浦〔だんのうら〕の戦いにおいて西海に沈んだのです。

【人王八十二・三・四、】
承久3年の役〔えき〕において、人王八十二、八十三、八十四代の

【隠岐法皇〔おきのほうおう〕・阿波院〔あわのいん〕・佐渡院〔さどのいん〕、】
後鳥羽(ごとば)上皇、土御門〔つちみかど)上皇、順徳〔じゅんとく)上皇、

【当今已上四人、座主慈円僧正・】
および、仲恭〔ちゅうきょう〕天皇の四人は、天台の座主慈円僧正や

【御室〔おむろ〕・三井〔みい〕等の】
御室〔おむろ〕の仁和寺、三井〔みい〕の園城寺〔おんじょうじ〕等の

【四十余人の高僧等をも〔以〕て平将軍義時を調伏し給ふ程に、】
四十余人の高僧らによって、北条義時を調伏〔じょうぶく〕したために、

【又還著於本人とて】
これまた、還著於本人〔げんじゃくおほんにん〕の経文のとおり、

【上〔かみ〕の四王島々に放たれ給ひき。】
前に述べた四天皇は、それぞれ島々に配流されました。

【此の大悪法は弘法・慈覚・智証の三大師、】
この真言の大悪法は、弘法、慈覚、智証の三大師が、

【法華経最第一の釈尊の金言を破りて、】
法華経法師品の法華経最第一と云う釈尊の金言を破って、

【法華最第二最第三、】
法華経は、第二、第三であり、

【大日経最第一と読み給ひし僻見〔びゃっけん〕を】
大日経が最第一であると読んだ僻見〔びゃっけん〕であり、

【御信用有りて、今生には国と身とをほろ〔亡〕ぼし、】
この大悪法を信用したために、今生には、国と身とを滅ぼし、

【後生には無間地獄に墮ち給ひぬ。】
後生には、無間地獄に堕ちてしまったのです。

【今度は又此の調伏三度なり。】
今度の蒙古調伏をもって、真言宗による調伏祈祷は、三度目になります。

【今我が弟子等死したらん人々は】
今、私の弟子の中で、すでに死んでいる人々は、

【仏眼をもて是を見給ふらん。】
仏眼をもって、この祈祷の結果を見ておられるでしょう。

【命つれなくて生きたらん眼〔まなこ〕に見よ。】
命ながらえて生きている人は、肉眼で見てください。

【国主等は他国に責めわたされ、】
やがて、国主らは、捕虜となって他国へ連れ去られ、

【調伏の人々は或は狂死、】
調伏〔じょうぶく〕の祈祷をした僧侶たちは、あるいは、狂い死にし、

【或は他国或は山林にかく〔隠〕るべし。】
あるいは、他国に逃亡し、あるいは、山林に隠れるでしょう。

【教主釈尊の御使ひを】
教主釈尊の御使い、すなわち、末法の法華経の行者、日蓮を

【二度までこうぢ〔街路〕をわたし、】
二度までも鎌倉の街で引き回し、

【弟子等をろう〔牢〕に入れ、或は殺し或は害し、】
弟子らを、牢に閉じ込め、あるいは、殺し、あるいは、痛めつけ、

【或は所国〔ところ〕をお〔逐〕ひし故に、】
あるいは、所を追い払った為に、

【其の科〔とが〕必ず国々万民の身に一々にかゝ〔罹〕るべし。】
その罪科は、必ず、その国々の万民の身、一人一人に及ぶのです。

【或は又白癩〔びゃくらい〕・黒癩〔こくらい〕・】
あるいは、白癩、黒癩などの

【諸悪重病の人々おほ〔多〕かるべし。】
多くの重病に犯される人々が多くなるのです。

【我が弟子等此の由を存ぜさせ給へ。】
私の弟子たちは、このことを、よく弁〔わきま〕えてください。

【恐々謹言。】
恐れながら謹んで申し上げます。

【九月九日    日蓮花押】
9月9日   日蓮花押

【此の文は別しては兵衛志殿へ、】
この手紙は、別しては、兵衛志(宗長)殿へ、

【総じては我が一門の人々御覧有るべし。】
総じては、我が一門の人々に宛てているので、みんなで御覧になってください。

【他人に聞かせ給ふな。】
他人に聞かせては、なりません。


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