日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


祈禱抄 4 第3章 竜女・提婆達多の法華経守護

第3章 竜女・提婆達多の法華経守護


【仏、法華経をとかせ給ひて年数二千二百余年なり。】
仏が法華経を説かれてから、二千二百余年となります。

【人間こそ寿〔いのち〕も短き故に、仏をも見奉り候人も侍〔はべ〕らね。】
人間は、寿命が非常に短いので、現在では、仏を見た人は、おりませんが、

【天上は日数は永く寿も長ければ、併〔しかしなが〕ら仏をおがみ】
天上は、日数も永く、寿命も長いので、仏を拝〔おが〕み

【法華経を聴聞せる天人かぎり多くおはするなり。】
法華経を聴聞した天人は、数限りなくいるのです。

【人間の五十年は四王天の一日一夜なり。此の一日一夜をはじめとして】
人間の五十年は、四王天の一日一夜なのです。この一日一夜を始めとして、

【三十日は一月、十二月は一年にして五百歳なり。】
一か月を三十日、一年を十二か月として、寿命は、五百歳です。

【されば人間の二千二百余年は四王天の四十四日なり。】
したがって、人間の二千二百余年は、四王天の四十四日となります。

【されば日月並びに毘沙門〔びしゃもん〕天王は】
そうであれば、日月天と毘沙門〔びしゃもん〕天王は、

【仏におくれたてまつりて四十四日、いまだ二月にたらず。】
仏が亡くなられてから、四十四日、いまだ二月〔ふたつき〕にたらず、

【帝釈・梵天なんどは仏におくれ奉りて一月一時にもすぎず。】
帝釈や梵天などの場合は、仏が亡くなられてから一月、一時にも過ぎないのです。

【わづかの間にいかでか仏前の御誓ひ、】
これだけわずかの間に、どうして仏前の誓いや

【並びに自身成仏の御経の恩をばわす〔忘〕れて、】
自分自身が成仏した経文の恩を忘れて、

【法華経の行者をば捨てさせ給ふべきなんど思ひつらぬればたのもしき事なり。】
法華経の行者を捨てられることが、あるだろうかと思えば、実に頼もしいことです。

【されば法華経の行者の祈る祈りは、響きの音〔こえ〕に応ずるがごとし。】
したがって、法華経の行者が祈る祈りは、音と響きが呼応するように、

【影の体〔かたち〕にそえるがごとし。すめる水に月のうつ〔映〕るがごとし。】
影が身体にしたがうように、澄んだ水に月が映るように、

【方諸〔ほうしょ〕の水をまねくがごとし。磁石の鉄をすうがごとし。】
月夜の晴れた夜に鏡を外に置くと水がつくように、また、磁石が鉄を吸うように、

【琥珀〔こはく〕の塵〔ちり〕をとるがごとし。】
琥珀〔こはく〕が塵〔ちり〕を取るように、

【あきらかなる鏡の物の色をうかぶるがごとし。】
明らかな鏡が物の姿を浮かべるように、かなうのものなのです。

【世間の法には我がおも〔思〕はざる事も、父母・主君・師匠・妻子・】
世間の法では、自分が思わないことでも、父母、主君、師匠、妻子、

【をろかならぬ友なんどの申す事は、恥ある者は意にはあはざれども、】
親しい友などの言うことには、恥を知り、たとえ自分の意志を曲げてでも、

【名利をもうしなひ、寿ともなる事も侍るぞかし。】
名前や利益を惜しまずに、命をも投げだすこともあります。

【何に況んや我が心からをこりぬる事は、父母・主君・師匠なんどの】
まして、自分が心から出たことには、父母、主君、師匠などの

【制止を加ふれどもなす事あり。】
制止を加えられても、成し遂げるものなのです。

【さればはんよき〔范於期〕と云ひし賢人は我が頸〔くび〕を切りてだにこそ、】
したがって、范於期〔はんよき〕将軍と言う賢人は、自分の頚〔くび〕を切って、

【けいか〔荊軻〕と申せし人には与へき。季札〔きさつ〕と申せし人は、】
荊軻〔けいか〕と言う人に与えました。季札〔きさつ〕と言う人は、

【約束の剣を徐〔じょ〕の君が塚の上に懸けたりき。】
約束の剣を徐〔じょ〕の国の君の塚の上に懸〔か〕けたのです。

【而るに霊山会上にして即身成仏せし竜女は、小乗経には】
しかるに、霊山会上で即身成仏した竜女は、小乗経においては、女性である為に

【五障〔ごしょう〕の雲厚く三従〔さんじゅう〕のきづな強しと嫌はれ、】
五障〔ごしょう〕の雲が厚く、三従〔さんじゅう〕のきずなが強いと嫌われ、

【四十余年の諸大乗経には或は歴劫〔りゃっこう〕修行に】
四十余年の諸大乗経では、歴劫修行を

【た〔堪〕へずと捨てられ、】
女性の身では、堪〔た〕えることが出来ないと捨てられ、

【或は「初発心の時便〔すなわ〕ち正覚を成ず」の言も】
あるいは「初発心した時に、すなわち正覚を成ず」とは、言っても

【有名〔うみょう〕無実なりしかば、女人成仏もゆるさゞりしに、】
女性なので有名無実であるとされ、女性の成仏は、許されなかったのです。

【設〔たと〕ひ人間天上の女人なりとも成仏の道には望みなかりしに、】
たとえ、人間や天上の女性でさえ、成仏する方法はなく、まったく望みがないのに、

【竜畜下賎の身たるに女人とだに生まれ、】
まして下賎の畜生界の竜王の子である上に女性と生まれ、

【年さへいま〔未〕だた〔長〕けず、わずかに八歳なりき。】
年も、いまだ幼くわずかに八歳であったのですから、

【かたがた思ひもよらざりしに、】
そう言うことで成仏など思いもよらなかったのに、

【文殊の教化によりて海中にして法師・提婆の中間、】
文殊菩薩の教化により、海中において仏が法師品と提婆品の間の、

【わづかに宝塔品を説かれし時刻に、仏になりたりし事はありがたき事なり。】
宝塔品を説かれる瞬間に仏になるなど、まったく有り得ないことなのです。

【一代超過の法華経の御力にあらずば】
釈尊の一代において、特別に優れた法華経の力でなければ、

【いか〔争〕でかかくは候べき。されば妙楽は】
どうして、このようなことがあるでしょうか。したがって、妙楽大師は

【「行は浅く功〔く〕は深し以て経力を顕はす」とこそ書かせ給へ。】
「行は浅く、功は深し、以って経力を顕す」と書かれたのです。

【竜女は我が仏になれる経なれば仏の御諌〔いさ〕めなくとも、】
竜女は、自分が仏になれた経であるから、仏の諌〔いさ〕めがなくても、

【いかでか法華経の行者を捨てさせ給ふべき。】
どうして法華経の行者を捨てられることがあるでしょうか。

【されば自讃歎仏の偈〔げ〕には】
したがって、竜女自ら仏を讃歎〔さんたん〕した偈〔げ〕には

【「我大乗の教へを闡〔ひら〕いて苦の衆生を度脱せん」等とこそ、】
「我、大乗の教〔おし〕えを闡〔ひら〕いて苦の衆生を度脱〔どだつ〕せん」と

【すゝませさせ給ひしか。竜女の誓ひは其の所従の】
述べられたのです。この竜女の誓いは、その周囲の畜生界の者達の

【「口の宣〔の〕ぶる所に非ず、心の測る所に非ず」の一切の竜畜の誓ひなり。】
「口の宣ぶる所に非ず、心の測る所に非ず」と言う、すべての竜の誓いなのです。

【娑竭羅〔しゃから〕竜王〔りゅうおう〕は竜畜の身なれども、】
娑竭羅竜王〔しゃからりゅうおう〕は、竜と言う畜生の身でありますが、

【子を念ふ志深かりしかば、大海第一の宝】
子供を思う気持ちが深かったので、大海、第一の宝である

【如意〔にょい〕宝珠〔ほうじゅ〕をもむすめにとらせて、】
如意〔にょい〕宝珠〔ほうじゅ〕を娘に取らせて、

【即身成仏の御布施にせさせつれ。】
即身成仏の御布施にされたのです。

【此の珠〔たま〕は直〔あたい〕三千大千世界にかふる珠なり。】
この珠〔たま〕は、価値が三千大千世界にも相当する珠〔たま〕なのです。

【提婆達多は師子頬王〔ししきょうおう〕には孫、】
提婆達多は、師子頬王〔ししきょうおう〕の孫であり、

【釈迦如来には伯父たりし斛飯〔こくぼん〕王の御子、】
釈迦如来の伯父である斛飯〔こくぼん〕王の子供、

【阿難尊者の舎兄〔あに〕なり。善聞〔ぜんもん〕長者のむすめの腹なり。】
阿難尊者の兄であり、善聞〔ぜんもん〕長者の娘の子です。

【転輪聖王の御一門、南閻浮提には賎〔いや〕しからざる人なり。】
転輪聖王〔てんりんじょうおう〕の一門で、南閻浮提で卑しからざる身分の人です。

【在家にましましゝ時は、夫妻となるべきやす〔耶輸〕たら〔多羅〕女を】
在家であったときには、夫婦となるべき耶輪多羅〔やしゅだら〕女を

【悉達太子に押し取られ、宿世の敵と思ひしに、】
悉達〔しっだ〕太子に取られて、それを恨んで宿敵と思っていましたが、

【出家の後に人天大会の集まりたりし時、】
出家の後には、人間や天人の大衆が集まったときに、

【仏に汝は癡人、唾を食〔く〕らへる者との〔罵〕られし上、】
仏から、汝〔なんじ〕は、 理性がなく、人の唾を食らう者と罵〔ののし〕られ、

【名聞利養深かりし人なれば、仏の人にもてなされしをそね〔妬〕みて、】
名聞名利の心が深い人であったので、仏が人にもてなされるのに嫉妬して、

【我が身には五法を行じて】
身には、糞掃衣、常乞食、一座食、常露座、塩及び五味を受けず等の五法を行って、

【仏より尊げになし、鉄をのして千輻輪〔せんぷくりん〕につけ、】
仏よりも尊く見せかけ、鉄を延ばして千輻輪〔せんぷくりん〕を付け、

【蛍火〔ほたるび〕を集めて白毫〔びゃくごう〕となし、】
螢火〔ほたるび〕を集めて白毫〔びゃくごう〕とし、

【六万宝蔵・八万宝蔵を胸に浮かべ、象頭〔ぞうず〕山に戒場を立て】
六万宝蔵、八万宝蔵を諳〔そら〕んじて、象頭〔ぞうず〕山に戒壇を建てて

【多くの仏弟子をさそ〔誘〕ひと〔取〕り、】
多くの仏弟子を誘い込み、

【爪に毒を塗り仏の御足にぬ〔塗〕らむと企〔くわだ〕て、】
爪に毒を塗って仏の御足に塗りつけようと企て、

【蓮華比丘尼を打ち殺し、大石を放って仏の御指をあやまちぬ。】
蓮華比丘尼を打ち殺し、大石を落として仏の指を傷つけたりしたのです。

【具〔つぶさ〕に三逆を犯し、結句〔けっく〕は五天竺の悪人を集め、】
こうして三逆罪を犯し、結局は、五天竺の悪人を集めて、

【仏並びに御弟子檀那等にあだをなす程に、】
仏ならびに弟子や檀那などに怨〔あだ〕をなしたのです。

【頻婆沙羅〔びんばしゃら〕王は仏の第一の御檀那なり。】
また、一方で、頻婆娑羅〔びんばしゃら〕王は、仏の第一の檀那であり、

【一日に五百輌〔りょう〕の車を送り、日々に仏並びに御弟子を供養し奉りき。】
一日に五百両の車を送り、日々に仏ならびに弟子に供養したのです。

【提婆そねむ心深くして阿闍世〔あじゃせ〕太子を語らひて、】
提婆達多は、嫉〔そね〕む心を深くし、阿闍世〔あじゃせ〕太子を仲間に引き入れ、

【父を終〔つい〕に一尺の釘七つをもてはりつ〔磔〕けになし奉りき。】
ついに父である王を一尺の釘を七つ使って磔〔はりつけ〕にし、

【終に王舎城の北門の大地破〔わ〕れて阿鼻大城に堕ちにき。】
ついには、王舎城の北門の大地が破れて、阿鼻大城に堕ちたのです。

【三千大千世界の人一人も是を見ざる事なかりき。】
三千大千世界の人で、これを見なかった人は、誰一人いなかったのです。

【されば大地微塵劫は過ぐるとも無間大城をば出づべからずとこそ思ひ候に、】
それで大地微塵劫を過ぎても無間大城を出られないと思っていたのに、

【法華経にして天王〔てんのう〕如来とならせ給ひけるにこそ】
法華経において天王〔てんのう〕如来となることが、できたのは

【不思議に尊けれ。】
実に不思議で有り得ないほど素晴らしいことなのです。

【提婆達多、仏になり給はゞ、語らはれし所の無量の悪人、】
提婆達多が仏になったのであれば、その仲間となった無量の悪人たちも、

【一業所感なれば皆無間地獄の苦ははなれぬらん。】
同じ悪業の結果ですから、皆、無間地獄の苦を離れたことでしょう。

【是偏〔ひとえ〕に法華経の恩徳なり。】
これは、ひとえに法華経の恩徳なのです。

【されば提婆達多並びに所従の無量の眷属は法華経の行者の室宅〔いえ〕にこそ】
したがって提婆達多ならびに、その仲間の無量の眷属は、法華経の行者の家にこそ

【住まはせ給ふらめとたのもし。】
住んでいるのでしょう。このように法華経は、実に頼もしいものです。


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