御書研鑚の集い 御書研鑽資料

阿仏房御息文 11　千日尼御前御返事（青鳧書）

【千日尼御前御返事（青鳧書）　弘安元年閏一〇月一九日　五七歳】
千日尼御前御返事（青鳧書）　弘安元年１０月１９日　５７歳御作


【青鳧〔せいふ〕一貫文・干飯〔ほしいい〕一斗・】
銭一貫文、干飯一斗、

【種々の物給び候ひ了〔おわ〕んぬ。】
種々の御供養の品を確かに頂きました。

【仏に土の餅を供養せし徳勝童子は阿育大王と生まれたり。】
昔、釈迦牟尼仏に土の餅を供養した徳勝童子は、阿育大王と生まれました。

【仏に漿〔こんず〕をまひらせし老女は辟支仏〔びゃくしぶつ〕と生まれたり。】
釈迦牟尼仏に米のとぎ汁を差し上げた老女は、辟支仏と生まれたのです。

【法華経は十方三世の諸仏の御師なり。十方の仏と申すは東方善徳仏・】
法華経は、十方三世の諸仏の御師なのです。十方の仏と言うのは、東方の善徳仏、

【東南方無憂徳〔むうとく〕仏・南方栴檀徳〔せんだんとく〕仏・】
東南方の無憂徳〔むうとく〕仏、南方の栴檀徳〔せんだんとく〕仏、

【西南方宝施〔ほうせ〕仏・西方無量明〔むりょうみょう〕仏・】
西南方の宝施〔ほうせ〕仏、西方の無量明〔むりょうみょう〕仏、

【西北方華徳〔けとく〕仏・北方相徳〔そうとく〕仏・】
西北方の華徳〔けとく〕仏、北方の相徳〔そうとく〕仏、

【東北方三乗行〔じょうぎょう〕仏・上方広衆徳〔こうしゅとく〕仏・】
東北方の三乗行〔じょうぎょう〕仏、上方の広衆徳〔こうしゅとく〕仏、

【下方明徳〔みょうとく〕仏なり。】
下方の明徳〔みょうとく〕仏です。

【三世の仏と申すは過去荘厳劫〔しょうごんこう〕の千仏・】
三世の仏と言うのは、過去荘厳劫〔しょうごんこう〕の千仏、

【現在賢劫〔けんごう〕の千仏・未来星宿劫の千仏、】
現在賢劫〔けんごう〕の千仏、未来星宿劫の千仏、

【乃至華厳経・法華経・涅槃経等の】
それから、華厳経、法華経、涅槃経などの

【大小・権実・顕密の諸経に列〔つら〕なり給へる】
大乗経、小乗経、権経・実経、顕経、密経の諸経に説かれている

【一切の諸仏、尽十方世界の微塵数〔みじんじゅ〕の菩薩等も、】
すべての諸仏、また十方世界の微塵を尽くしたほど多くの菩薩なども、

【皆悉く法華経の妙の一字より出生し給へり。】
皆ことごとく法華経の妙の一字から出生されたのです。

【故に法華経の結経たる普賢経に云はく】
ゆえに法華経の結経である普賢経には

【「仏三種の身は方等〔ほうどう〕より生ず」等云云。】
「仏の三種の身は方等から生まれる」などとあります。

【方等とは月氏の語〔ことば〕、漢土には大乗と翻〔ほん〕ず。】
方等とは、インドの言葉であり、中国では、大乗と訳されています。

【大乗と申すは法華経の名なり。阿含経は外道の経に対すれば】
大乗と言うのは、法華経の名です。阿含経は、外道の経に対すれば、大乗経です。

【大乗経、華厳・般若・大日経等は】
華厳経、般若経、大日経等は、

【阿含経に対すれば大乗経、法華経に対すれば小乗経なり。】
阿含経に対すれば大乗経であり、法華経に対すれば小乗経となります。

【法華経に勝れたる経なき故に一〔ひとり〕大乗経なり。】
法華経より優れた経典がないゆえに、法華経は、唯一つの大乗経なのです。

【例せば南閻浮提〔えんぶだい〕八万四千の国々の王々は】
例えば、南閻浮提にある八万四千の国々のそれぞれの王は、

【其の国々にては大王と云ふ。】
その国々においては大王と言いますが、

【転輪聖王〔てんりんじょうおう〕に対すれば小王と申す。】
しかし、転輪聖王に対すれば、小王となります。

【乃至六欲四禅〔しぜん〕の王々は】
他にも、六欲天、四禅天のそれぞれの王は、対象によっては、

【大小に渡る。色界の頂の大梵天〔ぼんてん〕王独り】
大王ともなり、小王ともなりますが、色界の頂上に住する大梵天王だけが

【大王にして小の文字をつくる事なきが如し。】
大王であって小の文字を付けることがないようなものなのです。

【仏は子なり、法華経は父母なり。】
仏は、子供であり、法華経は、父母なのです。

【譬へば一人の父母に千子〔せんし〕有りて】
譬えば、一人の父母に千人の子供がいて、

【一人の父母を讃歎すれば千子悦びをなす。】
一人の父母を讃嘆すれば、千人の子供が悦ぶようなものです。

【一人の父母を供養すれば千子を供養するになりぬ。】
一人の父母を供養すれば、千人の子を供養することになるのです。

【又法華経を供養する人は】
また、法華経を供養する人の功徳は、

【十方の仏菩薩を供養する功徳と同じきなり。】
十方の仏、菩薩を供養する功徳と同じでなのです。

【十方の諸仏は妙の一字より生じ給へる故なり。】
十方の諸仏は、妙の一字から生まれたからです。

【譬へば一つの師子に百子あり。】
譬えば、一匹の師子に百匹の子供がいるとします。

【彼の百子諸の禽獣〔きんじゅう〕に犯さるゝに、】
その百匹の子供が諸の禽獣に犯されようとするとき、

【一つの師子王吼〔ほ〕ゆれば百子力を得て、】
一匹の師子王が吼えれば、百匹の子供は、力を得て、

【諸の禽獣皆頭〔こうべ〕七分にわ〔破〕る。】
諸の禽獣は、すべて頭が七分に破れるのです。

【法華経は師子王の如し、一切の獣〔けもの〕の頂とす。】
法華経は、師子王のようなものであり、すべての獣の頂点なのです。

【法華経の師子王を持つ女人は、】
法華経の師子王を持つ女性は、

【一切の地獄・餓鬼・畜生等の百獣に恐るゝ事なし。】
すべての地獄、餓鬼、畜生などの百獣に恐れることはありません。

【譬へば女人の一生の間の御罪は諸の乾草〔かれくさ〕の如し。】
譬えば、女性の一生の間の罪障は、諸の乾草のようなものなのです。

【法華経の妙の一字は小火の如し。】
法華経の妙の一字は、小火のようなものです。

【小火を衆草につきぬれば、衆草焼け亡ぶるのみならず、】
小火を多くの草につけるならば、多くの草が焼け亡びてしまうだけでなく、

【大木大石皆焼け失せぬ。】
大木、大石も、すべて焼け失せてしまうのです。

【妙の一字の智火〔ちか〕以て此くの如し。】
妙の一字の智火は、このようなものなのです。

【諸罪消ゆるのみならず、衆罪かへりて功徳となる。】
罪障が消えるばかりではなく、多くの罪がかえって功徳となるのです。

【毒薬変じて甘露〔かんろ〕となる是なり。】
毒薬が変じて甘露となるとは、この事です。

【譬へば黒漆に白き物を入れぬれば白色となる。】
譬えば、漆におしろいを入れるならば、白色となります。

【女人の御罪は漆の如し、】
女性の罪障は、漆のようなものなのです。

【南無妙法蓮華経の文字は白き物の如し。】
南無妙法蓮華経の文字は、おしろいのようなものなのです。

【人は臨終の時、地獄に墮つる者は黒色となる上、】
人は、臨終の時に地獄に堕ちる者は、色が黒くなるうえ、

【其の身重き事千引〔ちびき〕の石〔いわ〕の如し。】
その身体の重いことは、千引の石のようなものです。

【善人は設ひ七尺八尺の女人なれども】
善人は、たとえ、七尺、八尺の女性であっても、

【色黒き者なれども、臨終に色変じて白色となる。】
色の黒い者であったとしても、臨終には、色が変わって白くなります。

【又軽き事鵞毛〔がもう〕の如し、】
また、軽いことは、鵞毛〔がもう〕のようであり、

【軟〔やわ〕らかなる事兜羅綿〔とろめん〕の如し。】
柔らかなことは、兜羅綿〔とろめん〕のようです。

【佐渡の国より此の国までは山海を隔〔へだ〕てゝ千里に及び候に、】
佐渡の国から、この国までは、山海を隔てて千里に及ぶのに、

【女人の御身として法華経を志しましますによりて、】
女性の身として法華経を志しておられるゆえに、

【年々に夫を御使ひとして御訪〔とぶら〕ひあり。】
年々に夫を使いとして御訪ねになっております。

【定めて法華経・釈迦・多宝・十方の諸仏、其の御心をしろしめすらん。】
定めて法華経、釈迦、多宝、十方の諸仏が、その御心をよくよく御存知でしょう。

【譬へば天月は四万由旬なれども大地の池には須臾〔しゅゆ〕に影浮かび、】
譬えば、天月は、四万由旬も離れているけれども、大地の池には即座に影が浮かび、

【雷門の鼓〔つづみ〕は千万里遠けれども打てば須臾に聞こゆ。】
雷の音は、千万里の遠くにあっても、即座に聞こえるようなものです。

【御身は佐渡の国にをは〔御座〕せども心は此の国に来たれり。】
あなたは、佐渡の国におられるけれども、心は、この国に来られています。

【仏に成る道も此くの如し。】
仏に成る道も、このようなものなのです。

【我等は穢土〔えど〕に候へども心は霊山〔りょうぜん〕に住むべし。】
我等は、穢土に住んでいますが、心は、霊山浄土に住んでいるのです。

【御面〔かお〕を見てはなにかせん。心こそ大切に候へ。】
御顔を見たからと言って何になるでしょうか。心こそ大切なのです。

【いつかいつか釈迦仏のをはします】
いつかいつか、釈迦牟尼仏のおられる

【霊山会上〔えじょう〕にまひ〔参〕りあひ候はん。】
霊山浄土にまいり、御会いしましょう。

【南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。恐々謹言。】
南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。恐れながら申し上げます。

【後〔のちの〕十月十九日　　　日蓮花押】
後の１０月１９日　　　日蓮花押

【千日尼御前御返事】
千日尼御前御返事へ