御書研鑚の集い 御書研鑽資料
本門戒体抄 第二章 法華経本門の戒
【疑って云はく、小乗の戒、梵網の戒に】 それでは、小乗の戒、梵網の戒において、 【何ぞ生身の如来来たらざるや。】 なぜ生身の如来が来ることがない、などと言うのでしょうか。 【答へて云はく、小乗の釈迦は灰身〔けしん〕滅智〔めっち〕の仏なり、】 それは、小乗の釈迦は、灰身〔けしん〕滅智〔めっち〕の仏であり、 【生身既に破れたり。】 生身は、まさに滅してしまっているのです。 【譬へば水瓶〔びょう〕に清水を入れて他の全瓶に移すが如し、】 たとえば、水瓶〔びょう〕に清水を入れて他の水瓶に移したようなものであり、 【本瓶は既に破れぬ。】 もとの水瓶には、すでに清水はないのです。 【小乗の釈迦は五分法身の水を以て迦葉〔かしょう〕・阿難等の全瓶に移して、】 小乗の釈迦は、五分法身の水をもって迦葉や阿難などの水瓶に移し、 【仏既に灰断〔けだん〕に入り了んぬ。】 仏自体は、まさに灰身〔けしん〕滅智〔めっち〕して入滅しているのです。 【乃至仏・四果・初果・四善根・三賢及以〔および〕博地〔はくじ〕の凡夫、】 さらに仏、四果、初果、四善根、三賢および最も劣った凡夫、 【二千二百余年の間、次の瓶に五分法身の水を移せば】 二千二百余年の間、次の瓶に戒、定、慧、解脱、解脱知見の水を移したならば、 【前瓶は即ち破壊〔はえ〕す。是くの如く展転〔てんでん〕するの程に、】 前の瓶は、壊れるのです。このように展転〔てんでん〕していく内に、 【凡夫の土器の瓶に此の五分法身の水を移せば、】 凡夫の土器の瓶に、この戒、定、慧、解脱、解脱知見の水を移せば、 【未だ他瓶に移さゞるの前に五分法身の水漏失〔ろしつ〕す。】 未だ他の瓶に移す前に、これらの水は、漏れて失われてしまいます。 【更に何〔いず〕れの水を以てか他の瓶に移さんや。】 さらに、どのような水を他の瓶に移すべきなのでしょうか。 【小乗の戒体も亦復〔またまた〕是くの如し。】 小乗の戒体も、また、このようなものなのです。 【正像既に尽きぬ。】 正法時代、像法時代は、ほぼ過ぎ去りました。 【末法の濁乱〔じょくらん〕には有名〔うみょう〕無実〔むじつ〕なり。】 末法の濁り乱れた時代では、これも有名無実なのです。 【二百五十戒の僧等は、但土器の瓶のみ有りて】 二百五十戒の僧侶などは、ただ土器の瓶であって、 【全く五分法身の水無きなり。是くの如き僧等は、】 まったく、この水など無いのです。このような末法の僧侶などは、 【形は沙門〔しゃもん〕に似れども】 姿、形は、沙門〔しゃもん〕に似ているけれども、 【戒体無きが故に天之を護らず。】 戒体が無いので、天は、これを護らないのです。 【唯悪行のみを好みて愚人を誑惑〔おうわく〕するなり。】 ただ悪行だけを好んで、愚人を誑惑〔おうわく〕するのです。 【梵網大乗の戒は、譬へば金銀の瓶に仏性法身の清水を入れて】 梵網〔ぼんもう〕大乗の戒は、譬へば金銀の瓶に仏性法身の清水を入れて、 【亦金銀の瓶に移すが如し。】 また金銀の瓶に移すようなものです。 【終には破壊すべしと雖〔いえど〕も瓦器土器に勝れて其の用〔ゆう〕強し。】 最期には、破壊するといえども瓦器、土器よりも、その働きが優れているのです。 【故に小乗の二百五十戒の僧の持戒よりも、】 それ故に、小乗の二百五十戒の僧の持戒よりも、 【梵網大乗の破戒の僧は国の依怙〔えこ〕と為〔な〕る。】 梵網大乗の破戒の僧の方が、国の拠りどころとなるのです。 【然りと雖も此の戒も終に漏失すべき者なり。】 そうであっても、この戒も終には、漏れて失われるのです。 【普賢経の戒は、正像末の三時に亘〔わた〕って】 普賢経の戒は、正法、像法、末法の三つの時代にわたって、 【生身の釈迦如来を以て戒師と為す。】 生身の釈迦如来を以て戒師とするのです。 【故に等覚已下の聖凡の師を用ひざるなり。】 それ故に、等覚以下の聖凡の師を用いることはないのです。 【小乗の劣応身、通教の勝応身、別教の台上の盧遮那〔るしゃな〕、】 小乗の劣応身、通教の勝応身、別教の台上の盧遮那〔るしゃな〕、 【爾前の円教の虚空〔こくう〕為座〔いざ〕の毘盧遮那〔びるしゃな〕仏、】 爾前の円教の虚空〔こくう〕為座〔いざ〕の毘盧遮那〔びるしゃな〕仏など、 【猶〔なお〕以て之を用ひず。】 これらを用いないのです。 【何〔いか〕に況んや其の已下の菩薩・声聞・凡夫等の師をや。】 ましてや、それ以下の菩薩、声聞、凡夫などの師は、用いないのです。 【但法華迹門の四教開会〔かいえ〕の釈迦如来、】 ただ法華迹門の四教開会〔かいえ〕の釈迦如来、 【之を用ひて和尚と為〔な〕すなり。二は金色世界の文殊師利菩薩、】 これを用いて和尚とするのです。二は、金色世界の文殊師利菩薩、 【之を請〔しょう〕じて阿闍梨〔あじゃり〕と為す。】 これに招請して阿闍梨〔あじゃり〕となすのです。 【四味三教並びに爾前の円教の文殊には非ず。此は法華迹門の文殊なり。】 これは、四味三教ならびに爾前の円教の文殊ではなく、法華迹門の文殊です。 【三は都史多天宮〔としたてんぐう〕の弥勒〔みろく〕慈尊〔じそん〕、】 三は、都史多天宮〔としたてんぐう〕の弥勒〔みろく〕慈尊〔じそん〕、 【之を請じて教授と為す。】 これを招請して教授と為すのです。 【小乗未断惑の弥勒、乃至通・別・円等の弥勒には非ず。】 小乗の未断惑の弥勒や通、別、円などの弥勒ではありません。 【亦無著〔むじゃく〕菩薩、】 また無著〔むじゃく〕菩薩、 【阿輸舎〔あしゅしゃ〕国に来下〔らいげ〕して授けし所の】 阿輸舎〔あしゅしゃ〕国に来下〔らいげ〕して授けし所の 【大乗師の弥勒にも非ず。此は迹門方便品を授くる所の弥勒なり。】 大乗師の弥勒でもありません。これは、迹門方便品を授ける所の弥勒なのです。 【已上三師なり。一証とは十方の諸仏なり。】 以上の三師です。一証とは、十方の諸仏なのです。 【此は則ち小乗の七証に異なるなり。一伴とは同伴なり。】 これは、小乗の七証に異なり、一伴とは、同伴のことです。 【同伴とは同じく受戒の者なり。】 同伴とは、同じく受戒の者です。 【法華の序品に列なる所の二乗・菩薩・二界八番の衆なり。】 法華経、序品の説法の座に列なる二乗、菩薩、雑衆なのです。 【今の戒は、小乗の二百五十戒等並びに梵網の十重禁・四十八軽戒・】 今の戒は、小乗の二百五十戒等並びに梵網の十重禁、四十八軽戒、 【華厳の十無尽戒・瓔珞〔ようらく〕の十戒等を捨てゝ、】 華厳の十無尽戒、瓔珞〔ようらく〕の十戒などを捨てて、 【未顕真実と定め畢〔おわ〕って、方便品に入って持つ所の五戒・八戒・十善戒・】 未顕真実と定めおわって、方便品に入って持〔たも〕つ五戒、八戒、十善戒、 【二百五十戒・五百戒乃至十重禁戒等なり。】 二百五十戒、五百戒ないし十重禁戒などなのです。 【経に「是名持戒」とは則〔すなわ〕ち此の意なり。】 経文に「是名持戒」とは、この意味なのです。 【迹門の戒は爾前大小の諸戒には勝ると雖〔いえど〕も】 しかし、迹門の戒は、爾前大小の諸戒より優れているといっても、 【而〔しか〕も本門戒には及ばざるなり。】 法華経の本門の戒には、及ばないのです。