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戒法門　第一章 五戒に依って生ずべき処

【戒法門　寛元元年　二二歳】
戒法門　寛元〔かんげん〕元年　２２歳御作


【夫〔それ〕人は天地の精〔せい〕、五行の端〔たん〕なり。】
そもそも、人は、天地の精霊であり、五行の一端なのです。

【故に悟りあて直〔なお〕きを人と云ふ。】
それ故に、悟ることが出来ることを人と言うのです。

【心に因果の道理を弁へて人間には生まれける由を知るべし。】
心に因果の道理をわきまえて、人間は、生まれて来る理由を知るのです。

【一代〔いちだい〕聖教〔しょうぎょう〕のおきて〔掟〕には、】
ですから、釈迦牟尼仏の一代聖教〔しょうぎょう〕の原則では、

【戒を持〔たも〕ちて人間には生まるとおきて〔掟〕たり。】
人間は、戒を持〔たも〕って、人間として生まれて来るとされています。

【戒と申すは一切の経論に説かるゝ数は、五戒・八戒・十戒・】
戒と言うのは、すべての経文、論文に説かれていて、その数は、五戒、八戒、十戒、

【十重禁戒〔きんかい〕・四十八軽戒〔きょうかい〕・二百五十戒・五百戒】
十重禁戒〔きんかい〕、四十八軽戒〔きょうかい〕、二百五十戒、五百戒、

【乃至八万四千戒。】
または、八万四千戒です。

【此くの如く戒品〔かいほん〕多しといへども、始めの五戒を戒の本と申し候ぞ。】
このように戒の数が多いと言っても、始めの五戒を戒の基本としています。

【五戒と申すは、一には慈悲を起こして物の命を殺さゞる戒を】
この中の五戒と言うのは、一には、慈悲を起こし、ものの命を殺さない戒を

【不殺生戒〔ふせっしょうかい〕と名づく。道理なき殺生を制するなり。】
不殺生戒〔ふせっしょうかい〕と名づけ、道理がない殺生を禁止しているのです。

【一を殺して万を生かすべきをば許すべし。】
しかし、一を殺して万を生かすことについては、許しています。

【二には盗みせざる戒を不偸盗戒〔ふちゅうとうかい〕と名づく。】
二には、盗みをしない戒を不偸盗戒〔ふちゅうとうかい〕と言います。

【道理なき盗みの事なり。】
道理がない盗みを禁止しているのです。

【三には他人の妻を犯さゞる戒を不邪淫戒〔ふじゃいんかい〕と名づく。】
三には、他人の妻を犯さない戒を不邪淫戒〔ふじゃいんかい〕と言います。

【四には妄語せざる戒を不妄語戒〔ふもうごかい〕と名づく。】
四には、嘘を言わない戒を不妄語戒〔ふもうごかい〕と言います。

【由なき事に妄語せざれとなり。】
これは、理由なく嘘をついては、いけないとされています。

【五には酒を飲まざる戒、僻事〔ひがごと〕を制するなり。】
五には、酒を飲まない戒であり、飲酒による過〔あやま〕ちを禁止しているのです。

【薬酒をば飲むべし。】
しかしながら、薬となる酒は、飲んでもかまいません。

【先世に三宝〔さんぽう〕の御前にして此の戒を受けし時、】
前世に三宝〔さんぽう〕の前において、この戒を受けた時に、

【天には日月〔にちがつ〕・衆星・二十八宿・七星・九曜〔くよう〕・五星、】
天には、日月〔にちがつ〕、衆星、二十八宿、七星、九曜〔くよう〕、五星、

【地には五つの地神・七鬼神・十二神・三十六禽〔きん〕、又梵天・帝釈・】
地には、五つの地神、七鬼神、十二神、三十六の鳥類、また、梵天、帝釈、

【四大天王・五道の冥官〔みょうかん〕等、】
四大天王、五道の地獄の冥官〔みょうかん〕など、

【此の五戒を受くる人を護らんと誓ひ給ひき。】
これらの者達が、この五戒を受ける人を護ると誓っているのです。

【又五戒に依って生ずべき処を定む。】
また、五戒に依って、はじめて生まれるところが定まるのです。

【不妄語戒は大地をつくる。】
不妄語戒〔ふもうごかい〕は、まず基礎と成る大地を作ります。

【不殺生戒は草木となる。】
不殺生戒〔ふせっしょうかい〕は、草木となります。

【不邪淫戒は大海・江河〔こうが〕となる。】
不邪淫戒〔ふじゃいんかい〕は、大海、河川となり、

【不盗戒は風となる。】
不盗戒〔ふとうかい〕は、風となります。

【不飲酒戒〔ふおんじゅかい〕は火となりて草木の中にあり。】
不飲酒戒〔ふおんじゅかい〕は、火となって、草木の中にあります。

【又五戒は五山となる。】
また、五戒は、五山となるのです。

【南には火の山、北には雪の山、東には木の山、西には金の山、】
南には、火の山。北には、雪の山。東には、木の山。西には、金の山。

【中には土の山なり。空の雲も五戒なり。】
中には、土の山です。空の雲も五戒なのです。

【青き雲は不殺生戒となる。】
青き雲は、不殺生戒〔ふせっしょうかい〕です。

【白き雲は不盗戒となる。】
白き雲は、不盗戒〔ふとうかい〕です。

【黒き雲は不邪淫戒なり。】
黒き雲は、不邪淫戒〔ふじゃいんかい〕です。

【黄なる雲は不妄語戒なり。】
黄なる雲は、不妄語戒〔ふもうごかい〕なのです。

【赤き雲は不飲酒戒なり。】
赤き雲は、不飲酒戒〔ふおんじゅかい〕です。

【雨空より降るに又五つの味あり。】
空より雨が降るのにも、また、五つの味があります。

【す〔酢〕き味の雨降りては、青き花一切すき菓をい〔出〕だす。】
酢っぱい味の雨が降って、青き花が、すべて酸っぱい実を成らせるのです。

【から〔辛〕き味の雨は白き花一切のからき菓をいだす。】
辛い味の雨は、白き花のすべてに辛い実を成らせるのです。

【しわは〔鹹〕ゆき味の雨降りては、黒き花一切のしわはゆき菓をいだす。】
塩からい味の雨が降っては、黒い花のすべてが塩辛い実を成らすのです。

【あま〔甘〕き味の雨降りては、黄なる花一切のあまき菓をいだす。】
甘い味の雨が降っては、黄色の花のすべてが甘い実を成らすのです。

【苦き味の雨降りては、赤き花一切のにがき味の菓をいだす。】
苦い味の雨が降っては、赤い花のすべてが苦い味の実を成らすのです。

【又春七十二日は東、不殺生戒。】
また、春、七十二日は、東、不殺生戒〔ふせっしょうかい〕。

【夏七十二日は南、不飲酒戒。】
夏、七十二日は、南、不飲酒戒〔ふおんじゅかい〕。

【秋七十二日は西、不盗戒。】
秋、七十二日は、西、不盗戒〔ふとうかい〕。

【冬七十二日は北、不邪淫戒なり。】
冬、七十二日は、北、不邪淫戒〔ふじゃいんかい〕なのです。

【四季の末の土用七十二日は中央、不妄語戒なり。】
四季の末の土用、七十二日は、中央、不妄語戒〔ふもうごかい〕なのです。

【又天地は父母となりまします。】
また、天地は、父母となります。

【父母交懐〔こうえ〕の時、父の淫は白く母の淫は赤し。】
父母が性交、懐妊の時、父の淫は、白く、母の淫は、赤いのです。

【赤白の二渧もろともに五戒より生ず。】
赤白の二滴、ともに五戒より生じるのです。

【父母の精血〔せいけつ〕下〔くだ〕りて、】
父の精と母の血が下〔くだ〕って、

【父の淫は骨となり、母の淫は肉となる。】
父の淫は、骨となり、母の淫は、肉となるのです。

【二つの足、二つの手、一つの頭、是も五戒より出でたり。】
二つの足、二つの手、一つの頭、これも五戒より出来るのです。

【又子の腹の中に肝の臓と云ふ物あり。七葉にして色青し。】
また、子の身体の中に肝臓があります。七葉の形で色が青いのです。

【母のすき物を願ひし時出で来たる物なり。】
母親が酸っぱい物を食べたいと願った時に出て来るものなのです。

【其の中に魂〔こん〕と云ふ神〔たましい〕あり。】
その中に、魂〔こん〕と言う神〔たましい〕があります。

【眼〔まなこ〕に出でて物を見る。】
それによって、眼〔まなこ〕となり、物を見る事が出来ます。

【東方の空に歳星〔さいせい〕と申す星あり。】
東方の空に歳星〔さいせい〕と言う星があります。

【不殺生戒の人を護らんと誓ひし故に子の神となる。】
不殺生戒〔ふせっしょうかい〕の人を護らんと誓う故に、子の神となるのです。

【又母のからき物を願ひし時、子の腹に肺の臓と云ふ物出で来て、】
また、母親が辛き物を食べたいと願った時に、子の身体に肺ができ、

【其の色白く其の形八葉にして蓮華なり。】
その色は、白く、その形は、八葉で蓮華の姿なのです。

【其の内に魄〔はく〕と云ふたまし〔神〕ひ有りて】
その中に、魄〔はく〕と言う神〔たましい〕があり、

【鼻に出でて物をかぐ。】
それによって鼻となり、臭いをかぐ事が出来るのです。

【西の空に太白星と云ふ星あり。】
西の空に太白星〔たいはくせい〕と言う星があり、

【不盗戒の人を護らんと誓ひし故なり。】
不盗戒〔ふとうかい〕の人を護らんと誓ったからなのです。

【又母のにがき物を願ひしかば、子の腹に心の臓と云ふ物出で来て、】
また、母親が苦い物を食べたいと願えば、子の身体に心臓が出来て、

【其の色赤く、其の形鶏〔とり〕の卵〔かいこ〕をさかさまに立てたるが如し。】
その色は、赤く、鶏の卵を逆さまに立てたような形なのです。

【其の内に神〔しん〕と云ふたましひ有りて、】
その中に、神〔しん〕と言う魂〔たましい〕があり、

【舌に出でて物を味はふ。】
それによって、舌となり、物を味わう事が出来るのです。

【南の空に熒惑星〔けいこくせい〕と云ふ星あり、】
南の空に熒惑星〔けいこくせい〕と言う星があり、

【不飲酒戒の人を護らんと誓ひし故なり。】
不飲酒戒〔ふおんじゅかい〕の人を護ると誓った故なのです。

【又母のしわはゆき物を願ふに依って、子の腹に腎の臓と云ふ物出で来て、】
また、母が塩辛い物を食べたいと願うことに依って、子の身体に腎臓が出来て、

【其の色黒く其の形半月なり。】
その色は、黒く、その形は、半月と同じなのです。

【其の内に志と云ふたましひ有りて、耳に出でて物を聞く。】
その中に志と言う魂〔たましい〕があって、耳となり物を聞く事ができるのです。

【北の空に辰星〔しんせい〕と云ふ星あり、】
北の空に辰星〔しんせい〕と言う星があり、

【不邪淫戒の人を護らんと誓ひし故なり。】
不邪淫戒〔ふじゃいんかい〕の人を護ると誓った故なのです。

【又母の甘き物を願ひし時、子の腹に脾〔ひ〕の臓と云ふ物出で来て、】
また、母が甘い物を食べたいと願った時に、子の身体に脾臓〔ひぞう〕が出来て、

【其の色黄にして其の形一葉四角なり。】
その色は、黄色で、その形は、一葉の四角なのです。

【内に意と云ふたましひあり。四身に遍してあつ〔熱〕きぬる〔温〕きをしる。】
中に意と言う魂〔たましい〕があり、身体を包んで温度を知る事が出来るのです。

【先世に不妄語戒を持ちし時、中央に鎮星〔ちんせい〕と云ふ星あり、】
先世に不妄語戒を持〔たも〕つ時、中央に鎮星〔ちんせい〕と言う星があり、

【此の不妄語戒の人を護らんと誓ひし故なり。】
この不妄語戒〔ふもうごかい〕の人を護ると誓った故なのです。