御書研鑚の集い 御書研鑽資料
唱法華題目抄 4 僭聖増上慢
【問うて云はく、何なるすがた並びに語〔ことば〕を以てか、】
それでは、尋ねますが、どのような姿、言葉によって、
【法華経を世間いゐうとむる者には侍るや、】
法華経を世間の人々に疎んじさせようとするのでしょうか。
【よにおそ〔恐〕ろしくこそおぼ〔覚〕え候へ。】
そのような悪だくみが真実であるなら、ほんとうに恐ろしい事です。
【答へて云はく、始めに智者の申され候と御物語候ひつるこそ、】
それは、初めにあなたが「智者が言った事」と話していた事こそが
【法華経をいゐうとむる悪知識の語にて侍れ。】
その法華経を疎んじさせる「悪知識の言葉」にあたるのではないでしょうか。
【末代に法華経を失ふべき者は、】
末法に法華経を失わせようとする者と云うのは、
【心には一代聖教を知りたりと思ひて】
自らは、釈尊一代の聖教を極め尽くしていると思っていますが、
【而も心には権実二経を弁〔わきま〕へず。】
実際には、権実二経の区別さえ理解出来ないで、
【身には三衣〔ね〕一鉢〔ばち〕を帯し、】
また、その身は、粗末な僧侶の姿をしてはいますが、
【或は阿練若〔あれんにゃ〕に身をかくし、】
閑静な山寺などにこもり、
【或は世間の人にいみじき智者と思はれて、】
世間一般の人には、大変な智者と思われ、
【而も法華経をよくよく知る由を人に知られなんどして、】
しかも法華経をよく理解している事を人々に知ってもらおうと、
【世間の道俗には三明〔みょう〕六通の阿羅漢〔あらかん〕の如く貴ばれて】
世間の出家、在家の人に三明六通の神通力を現じて尊者のように貴ばれて、
【法華経を失ふべしと見えて候。】
法華経を失なわせると経文には出ているのです。
【問うて云はく、其の証拠如何。】
それでは、その証拠はあるのでしょうか。
【答へて云はく、法華経勧持〔かんじ〕品に云はく】
それは、法華経勧持品に
【「諸の無智の人、悪口罵詈〔めり〕等し】
「仏法に無智な多くの人が、悪口を言ったり、
【及び刀杖〔とうじょう〕を加ふる者有らん。】
また刀や杖で迫害したりする者がいる。
【我等皆当〔まさ〕に忍ぶべし」文。】
我々は、これを耐え忍ぶであろう」とあるのです。
【妙楽大師此の文の心を釈して云はく】
妙楽大師は、この経文の意味について、
【「初めの一行は通じて邪人を明かす。即ち俗衆〔ぞくしゅう〕なり」文。】
「初めの一行は、邪悪な人を説明しており、俗衆増上慢である」と解釈しています。
【文の心は此の一行は在家の俗男俗女が権教の比丘等にかたらはれて】
妙楽の文章の意味は、この一行は、在家の男女が権教の僧侶にたぶらかされて、
【敵〔あだ〕をすべしとなり。】
法華経の敵〔かたき〕になる事を示しています。
【経に云はく「悪世の中の比丘は邪智にして心諂曲〔てんごく〕に、】
また経文には「悪世の中の僧侶は邪智の上に、心がねじまがっていて、
【未だ得ざるを為〔こ〕れ得たりと謂〔おも〕ひ】
まだ悟ってもいないのに悟ったと思い、
【我慢〔がまん〕の心充満せん」文。妙楽大師此の文の心を釈して云はく】
慢心に満ちている」とあります。妙楽大師は、この文章の意味について、
【「次の一行は道門〔どうもん〕増上慢〔ぞうじょうまん〕の者を明かす」文。】
「次の一行は道門増上慢の者を明かしている」と解釈しています。
【文の心は悪世末法の権教の諸〔もろもろ〕の比丘、】
この妙楽大師の文章の意味は、悪世末法の権教の多くの僧侶が、
【我〔われ〕法を得たりと慢じて法華経を行ずるものゝ】
自分こそ仏法を得たと慢心を起こして法華経を修行する者の
【敵となるべしといふ事なり。経に云はく】
敵となる事を言っているのです。さらに経文には、次のように説かれています。
【「或は阿練若〔あれんにゃ〕に納衣〔のうえ〕にして空閑〔くうげん〕に在って】
「あるいは俗世間を離れた静かな場所に僧衣をまとって住み、
【自ら真の道を行ずと謂〔おも〕ひて人間を軽賎〔きょうせん〕する者有らん。】
自ら真の仏道修行をする者であると思って他の人を軽んじている者がいます。
【利養に貪著〔とんじゃく〕するが故に】
この者は、自己の利益に貪著する故に、
【白衣〔びゃくえ〕の与〔ため〕に法を説き、】
俗人の為に法を説き、
【世に恭敬〔くぎょう〕せらるゝこと六通の羅漢の如くならん。】
世間の人から尊敬される事は、まるで六神通を得た阿羅漢のようであり、
【是の人悪心を懐〔いだ〕き、常に世俗の事を念〔おも〕ひ、】
この者は、悪心を持ち常に世俗の事を考えており、
【名を阿練若に仮りて好んで我等が過〔とが〕を出ださん。】
静かな場所にいる事を利用して私たちの過失を好んで作り出そうとしているのです。
【而も是くの如き言〔ことば〕を作〔な〕さん、】
その上に次のように言うのです。
【此の諸の比丘等は利養を貪るを為〔もっ〕ての故に外道の論義を説き、】
この僧侶は、利益を貪る為に外道の論義を説き、
【自ら此の経典を作りて世間の人を誑惑〔おうわく〕す。】
自ら、この経典を作って世間の人を迷わせ、
【名聞を求むるを為〔もっ〕ての故に分別して是の経を説く。】
名誉を求める為に思案を巡らして、この経を説くのです。
【常に大衆の中に在りて我等を毀〔そし〕らんと欲するが故に、】
この者は、いつも大衆の中にいて法華経を修行する私たちを謗〔そし〕る為に、
【国王・大臣・婆羅門・居士及び余の比丘衆に向かって、誹謗〔ひぼう〕して】
国王、大臣、婆羅門、居士、僧侶に向かって、私たちを誹謗し、
【我が悪を説いて是邪見の人、】
私たちを悪事があると説いて、この者は、邪見の者であり、
【外道の論議を説くと謂〔い〕はん」已上。】
外道の教えを説いていると云うであろうと述べています。
【大師此の文を釈して云はく】
妙楽大師は、この文章を解釈して、
【「三に七行は僭聖〔せんしょう〕増上慢の者を明かす」文。】
「三にこの七行は僣聖増上慢の者を明かしている」と述べています。
【経並びに釈の心は、悪世の中に多くの比丘有って】
経文と妙楽の解釈の意味は、悪世には多くの僧侶がいて
【身には三衣〔ね〕一鉢〔ばち〕を帯し、】
粗末な僧侶の姿をして、
【阿練若〔あれんにゃ〕に居〔こ〕して、】
人里離れた閑静な場所に住み、
【行儀は大迦葉〔かしょう〕等の三明〔みょう〕六通〔つう〕の羅漢のごとく、】
その振る舞いは、大迦葉のように三明六通を得た尊者のように、
【在家の諸人にあふ〔仰〕がれて、】
在家の人々から尊敬され、
【一言を吐〔は〕けば如来の金言のごとくをもはれて、】
一言、法を説けば、その言葉が仏の金言であるかのように思われて、
【法華経を行ずる人をいゐやぶらんがために、】
その僧たちが法華経を行じている者に悪口を言って傷つける為に、
【国王大臣等に向かひ奉りて、】
国王や大臣などに対して、
【此の人は邪見の者なり、法門は邪法なりなんどいゐうと〔疎〕むるなり。】
「この人は邪見の者であり、その法門は邪法である」と誹謗するのです。
【上の三人の中に、第一の俗衆の毀〔そし〕りよりも、】
以上の三類の強敵の中で、第一の在家によって謗〔そし〕る事よりも、
【第二の邪智の比丘の毀は猶〔なお〕しの〔忍〕びがたし。】
第二の邪智の僧侶によって謗〔そし〕る方が、なお忍びがたく、
【又第二の比丘よりも、】
また第二の僧侶よりも
【第三の大衣の阿練若の僧は甚〔はなはだ〕し。】
第三の高僧の僧衣を身につけ、静かな山寺などに住む高僧の方が甚だしいのです。
【此の三人は当世の権教を手本とする文字の法師、】
この三人は、現在で云えば権教を手本として文字にこだわる法師であり、
【並びに諸経論の言語道断の文を信ずる暗禅〔あんぜん〕の法師、】
また諸々の経論に説かれる言語道断の文を盲目的に信じる禅宗の法師であり、
【並びに彼等を信ずる在俗等、】
さらに彼らを信ずる在家の人々なのです。
【四十余年の諸経と法華経との権実の文義〔もんぎ〕を弁〔わきま〕へざる故に、】
この者たちは、四十余年の諸経と法華経との権実の文義を理解出来ない為に、
【華厳・方等・般若等の心仏衆生・即心是仏〔ぜぶつ〕・】
華厳、方等、般若等で説かれている「心仏及衆生」「即心是仏」
【即往十方西方等の文と、】
「往生十方西方」の文と、
【法華経の諸法実相・即往十方西方の文と語の】
法華経で説かれている「諸法実相」「即往十方西方」の文章との言葉が、
【同じきを以て義理のかはれるを知らず、】
同じである事から、その法の理論が異なっている事を知らないのです。
【或は諸経の言語道断・心行所滅〔しょめつ〕の文を見て、】
あるいは、諸経に「言語道断、心行所滅」と説かれている文章を見て、
【一代聖教には如来の実事をば宣べられざりけりなんど〔等〕の邪念をおこす。】
一代聖教には、仏の真実の悟りは書いていないと云う邪念を起しているのです。
【故に悪鬼此の三人に入って末代の諸人を損じ】
それ故に、悪鬼がこの三種類の人々に入って末法の人々を損じ、
【国土をも破るなり。】
国土をも破壊しているのです。
【故に経文に云はく「濁劫悪世の中には多く諸の恐怖〔くふ〕有らん、】
故に法華経勘持品では「濁劫悪世の中には、多くの様々な恐怖があるであろう。
【悪鬼其の身に入って我を罵詈〔めり〕し毀辱〔きにく〕せん、】
悪鬼がそれらの人々の身に入って我ら法華経の行者を罵り辱めるであろう。
【乃至仏の方便随宜〔ずいぎ〕所説の法を知らず」文。】
また彼等は、仏が方便として説いた法を知らない」と説かれているのです。
【文の心は濁悪世の時、比丘、】
この文章の意味は、濁悪の世においては僧侶は、
【我が信ずる所の教は仏の方便随宜の法門ともしらずして、】
自分の信ずる教えが仏の方便の教えである事も知らずに、
【権実を弁へたる人出来すれば、罵〔の〕り破〔は〕しなんどすべし。】
権実の違いを理解した人が現れると、その人を詈〔ののし〕って破ろうとする。
【是偏〔ひとえ〕に悪鬼の身に入りたるをしらずと云ふなり。】
これは、偏に悪鬼がその身に入っているのですが、この事を本人は知らないのです。