日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


祈禱抄 2 第1章 法華経の行者の祈りは叶う

第1章 法華経の行者の祈りは叶う


【祈禱抄 文永九年 五一歳】
祈禱抄 文永9年 51歳御作

【本朝沙門 日蓮撰】
日本の沙門 日蓮作

【問うて云はく、華厳〔けごん〕宗・法相〔ほっそう〕宗・】
それでは、御尋ねしますが、華厳〔けごん〕宗、法相〔ほっそう〕宗、

【三論宗・小乗の三宗・真言宗・】
三論〔さんろん〕宗、小乗の俱舎〔くしゃ〕宗、成実宗、律宗、さらに真言宗や

【天台宗の祈りをなさんにいづれかしるし〔験〕あるべきや。】
天台宗によって祈った場合、いずれの宗派が祈りが、かなうのでしょうか。

【答へて云はく、仏説なればいづれも一往は祈りとなるべし。】
それに答えると、すべて仏説であるので、いずれも一往は、祈りとなりますが、

【但法華経をもていのらむ祈りは必ず祈りとなるべし。】
ただ、法華経による祈りだけが真に正しい祈りとなります。

【問うて云はく、其の所以〔ゆえん〕は如何〔いかん〕。】
それでは、その理由は、どうしてなのでしょうか。

【答へて云はく、二乗は大地微塵〔みじん〕劫を経て】
それは、二乗は、大地を微塵〔みじん〕にして、それを数えたほどの長い時間、

【先四味の経を行ずとも成仏すべからず。】
法華経以前の爾前の権教を修行しましたが、結局は、成仏できませんでした。

【法華経は須臾〔しゅゆ〕の間此を聞いて仏になれり。】
それなのに法華経では、少しの間、これを聞いただけで仏になったのです。

【若し爾〔しか〕らば舎利弗・迦葉〔かしょう〕等の千二百・万二千、】
そうであれば、舎利弗や迦葉などの千二百人、一万二千人などの二乗の人々、

【総じて一切の二乗界の仏は、】
総じて、すべての二乗界で仏になった人々は、

【必ず法華経の行者の祈りをかな〔叶〕ふべし。】
必ずや、法華経の行者の祈りをかなえることでしょう。

【又行者の苦にもかわるべし。】
また、法華経の行者の苦しみにも代わってくれることでしょう。

【故に信解品〔しんげほん〕に云はく「世尊は大恩まします。】
ゆえに信解品〔しんげほん〕には「世尊は大恩まします。

【希有〔けう〕の事を以て憐愍〔れんみん〕教化して我等を利益したまふ。】
稀有〔けう〕の事を以て憐愍〔れんびん〕教化して我等を利益したまふ。

【無量億劫にも誰か能〔よ〕く報ずる者あらん。】
無量億劫にも誰か、よく報ずる者あらん。

【手足をもって供給し頭頂〔ずちょう〕をもって礼敬し、】
手足をもって仏法を行じ、頭を下げて礼〔れい〕をなし、

【一切をもって供養すとも皆報ずることを能〔あた〕はず。】
また、すべてを供養したとしても、皆、その恩に報ずることは、出来ない。

【若しは以て頂戴し、両肩に荷負〔かふ〕して恒沙劫〔ごうじゃこう〕に於て】
もしは、仏を戴き、両肩に背負い、大河の砂の数ほどの長い期間、

【心を尽くして恭敬〔くぎょう〕し、又美膳・】
心を尽くして、慎〔つつし〕み、敬〔うやま〕い、また、美味しい膳や、

【無量の宝衣及び諸の臥具〔がぐ〕種々の湯薬〔とうやく〕を以てし、】
無量の素晴らしい衣、諸々の寝具や種々の薬湯〔やくとう〕で仏に休息を与え、

【牛頭〔ごず〕栴檀〔せんだん〕】
南インドにある牛頭〔ごず〕山に生ずる香木の栴檀〔せんだん〕や、

【及び諸の珍宝を以て塔廟〔とうみょう〕を起〔た〕て】
諸々の珍しい宝を用〔もち〕いて仏舎利を安置する堂〔どう〕や塔を建て、

【宝衣を地に布〔し〕き、】
素晴らしい織物を大地に敷くなど、

【斯〔か〕くの如き等の事以用〔もって〕供養すること恒沙劫に於てすとも】
このような事によって供養をして、大河の砂の数ほどの長い時間、続けたとしても

【亦報ずること能はじ」等云云。】
報いることは出来ない」と説かれています。

【此の経文は、四大声聞が譬喩品を聴聞して】
この経文は、迦葉、迦栴延、目連、須菩提の四大声聞が法華経の譬喩品を聴聞して、

【仏になるべき由を心得て、仏と法華経の恩の】
仏になる理由を心得て、仏と法華経への恩が、

【報じがたき事を説けり。】
いかに報じがたいかを説かれたものなのです。

【されば二乗の御為には此の経を行ずる者をば、】
したがって二乗にとっては、この法華経を行じる者は、

【父母よりも愛子よりも両眼よりも身命よりも大事にこそおぼしめすらめ。】
父母よりも、子供よりも、両眼よりも、身命よりも、大事であると思うのです。

【舎利弗・目連等の諸大声聞は一代聖教いづれも讃歎〔さんだん〕せん行者を、】
舎利弗や目連などの大声聞は、一代聖教のいずれを讃歎〔さんだん〕する行者をも、

【すておぼす事は有るべからずとは思へども、】
見捨てることは、ないとは、思うのですが、

【爾前の諸経はすこしうらみおぼす事も有るらん。】
爾前の諸経には、少しは、怨みに思っていると言ってもよいのではないでしょうか。

【「仏法の中に於て已〔すで〕に敗種の如し」なんど、】
それは、二乗は「仏法の中で芽が出ない種のようである」などと、

【したゝかにいまし〔戒〕められ給ひし故なり。】
爾前の諸経で厳〔きび〕しく戒〔いさ〕められたからなのです。

【今の華光〔けこう〕如来・名相〔みょうそう〕如来・】
舎利弗や須菩提が、今の華光〔けこう〕如来、名相〔みょうそう〕如来、また、

【普明〔ふみょう〕如来なんどならせ給ひたる事はおもはざる外の幸ひなり。】
普明〔ふみょう〕如来などに成ることができたのは、思いの他の幸運なのです。

【例せば崑崙〔こんろん〕山のくづれて】
例えば、美しい玉を産する崑崙〔こんろん〕山が崩れて、

【宝の山に入りたる心地してこそおはしぬらめ。】
目の前に宝の山が現れたような、そんな心地がしたことでしょう。

【されば領解〔りょうげ〕の文に云はく】
そのゆえに悟りを得た後の法華経、信解品の文章に

【「無上の宝珠求めざるに自〔おの〕づから得たり」等云云。】
「無上宝珠〔むじょうほうじゅ〕不求自得〔ふぐじとく〕」と説かれているのです。

【されば一切の二乗界、】
そう言うことで、すべての二乗界の衆生が、

【法華経の行者をまぼ〔守〕り給はん事は疑ひあるべからず。】
法華経の行者を守られることは、疑いがないことなのです。

【あやしの畜生なんども恩をば報ずる事に候ぞかし。】
卑しい畜生であっても、恩を報ずるものです。

【かりと申す鳥あり、必ず母の死なんとする時孝をなす。】
雁〔かり〕と言う鳥は、母が死のうとするときは、必ず親孝行をするのです。

【狐〔きつね〕は塚を跡〔あと〕にせず。】
狐は、死ぬときには、生まれた場所に足を向けません。

【畜生すら猶〔なお〕此〔か〕くの如し、況〔いわ〕んや人類をや。】
畜生でさえ、このようであり、まして、人間であれば、言うまでもないことです。

【されば王寿〔おうじゅ〕と云ひし者道を行きしに、う〔飢〕えつかれたりしに、】
王寿〔おうじゅ〕と言う者は、旅の途中、飢えて疲れきっていた時に、

【路〔みち〕の辺〔ほとり〕に梅の樹あり、其の実多し、】
道のほとりに梅の実が多くなっていたので、

【寿とりて食してう〔飢〕へやみぬ。我此の梅の実を食して気力をます。】
これを採って食べて飢えを癒したのですが、この梅の実を食べて元気になったので、

【其の恩を報ぜずんばあるべからずと申して、衣をぬぎて】
その恩に報じなければならないと言って、衣を脱いで、

【梅に懸〔か〕けてさ〔去〕りぬ。】
この梅の木に懸〔か〕けて去ったと言います。

【王尹〔おういん〕と云ひし者は道を行くに水に渇しぬ。河をすぐるに】
王尹〔おういん〕と言う者は、旅の途中、喉が渇いたので川を渡るときに、

【水を飲んで銭を河に入れて是を水の直〔あたい〕とす。】
その水を飲んで、川に銭を投げ入れて、これを水の対価にしたと言います。

【竜は必ず袈裟〔けさ〕を懸けたる僧を守る。】
竜は、必ず袈裟〔けさ〕を懸〔か〕けた僧侶を守ると言います。

【仏より袈裟を給〔た〕びて竜宮城の愛子に懸けさせて】
それは、仏から袈裟〔けさ〕をもらって、竜宮城の愛する子供に懸〔か〕けて、

【金翅鳥〔こんじちょう〕の難をまぬ〔免〕かるゝ故なり。】
金翅鳥〔こんじちょう〕に食われる難から免〔まぬが〕れたからなのです。

【金翅鳥は必ず父母孝養〔こうよう〕の者を守る。】
その金翅鳥〔こんじちょう〕は、必ず父母に孝養する者を守るのです。

【竜は須弥山〔しゅみせん〕を動かして金翅鳥の愛子を食す。】
それは、竜が須弥山〔しゅみせん〕を動かして、金翅鳥の愛する子供を食べるので、

【金翅鳥は仏の教によて父母の孝養をなす者、】
金翅鳥は、仏に教えを請い、その教え通りに、父母を孝養する者が、

【僧のとるさんば〔生飯〕を須弥の頂にをきて竜の難をまぬかるゝ故なり。】
僧侶に供養した飯の一部を須弥山の頂上に置いて竜の難をまぬがれたからなのです。

【天は必ず戒を持ち善を修する者を守る。】
このように、天は、必ず戒〔かい〕をたもち、善い事を行う者を守るのです。

【人間界に戒を持たず善を修する者なければ、】
人間界に戒〔かい〕を持たず、善い事を行う者がいなければ、

【人間界の人死して多く修羅道〔しゅらどう〕に生ず。】
人間界の人は、死んで多く修羅道に生まれるのです。

【修羅多勢なれば、をご〔驕〕りをなして必ず天ををか〔侵〕す。】
その修羅が多くなれば、慢心を起こして、必ず天界を侵します。

【人間界に戒を持ち善を修するの者多ければ、】
人間界に戒〔かい〕を持ち、善い事を行う者が多ければ、

【人死して必ず天に生ず。】
人は、死んで必ず天界に生まれるのです。

【天多ければ修羅をそ〔恐〕れをなして天ををかさず。】
天人が多ければ、修羅は、恐れをなして天界を侵さないのです。

【故に戒を持ち善を修する者をば天必ず之を守る。】
ゆえに、戒〔かい〕をたもち、善い事を行う者を天は、必ず守るのです。

【何に況んや二乗は六凡より戒徳も勝れ智慧賢き人々なり。】
まして、二乗は、六道の凡夫より、戒をまもり、徳も優れ、智慧も賢い人々です。

【いかでか我が成仏を遂〔と〕げたらん法華経を行ぜん人をば捨つべきや。】
どうして自らが成仏を遂げた法華経を行ずる人を見捨てることがあるでしょうか。


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