御書研鑚の集い 御書研鑽資料
祈禱抄 5 第4章 菩薩が守護する理由
第4章 菩薩が守護する理由【諸の大地微塵の如くなる諸菩薩は】
諸の大地を微塵にしたほどの多くの諸菩薩は、菩薩の修行の段階の五十一位の
【等覚の位までせめて、元品の無明計りもちて侍るが、】
等覚の位まで登って、後は、元品の無明だけが残っていましたが、
【釈迦如来に値ひ奉りて元品の大石をわらんと思ふに、】
釈迦如来に出逢って元品の無明の大石を割ろうと思っていたのに、
【教主釈尊四十余年が間は「因分は説くべし、果分は説くべからず」と申して、】
教主釈尊は、四十余年の間は「因分可説、果分不可説」と言われて、
【妙覚の功徳を説き顕はし給はず。】
菩薩の修行の段階の最高位の五十二位である妙覚の功徳を説き顕さなかったのです。
【されば妙覚の位に登る人一人もなかりき。本意なかりし事なり。】
このため妙覚の位に登る人が一人もいなかったのは、仕方がないことだったのです。
【而るに霊山八年が間に「唯〔ただ〕一仏乗を名づけて果分と為す」と】
しかるに、霊山における八年の間に「唯一仏乗名為果分」と述べられて
【説き顕はし給ひしかば、】
法華経において初めて三妙合論して一仏乗の果分を説き顕されたので、
【諸の菩薩皆妙覚の位に上りて、釈迦如来と悟り等しく】
諸の菩薩は、皆、妙覚の位に登って、釈迦如来と悟りも等しくなり、
【須弥山〔しゅみせん〕の頂に登りて四方を見しが如く、】
須弥山〔しゅみせん〕の頂上に登って四方を見るように、
【長夜に日輪の出でたらんが如く、あかなくならせ給ひたりしかば、】
長い夜であったのが、日輪が出たように明らかになったので、
【仏の仰せ無くとも法華経を弘めじ、】
仏が言い付けられなくても、法華経を弘めないとか、
【又行者に替はらじとは、おぼしめすべからず。】
また、法華経を弘める行者の難に無関心でいるとは、思われないのです。
【されば「我身命を愛せず但無上道を惜〔お〕しむ」「身命を惜しまず」】
それゆえ「我不愛〔がふあい〕身命但惜〔たんじゃく〕無上道」、「不惜身命」、
【「当〔まさ〕に広く此の経を説くべし」等とこそ誓ひ給ひしか。】
「当広説此経〔とうこうせっしきょう〕」などと誓われたのです。
【其の上慈父の釈迦仏、悲母の多宝仏、】
そのうえ慈父である釈迦牟尼仏、悲母である多宝仏、
【慈悲の父母等、同じく助証の十方の諸仏、一座に列〔つら〕ならせ給ひて、】
そして慈悲の父母などと同じく証明を補佐する為の十方の諸仏が一座に列なって、
【月と月とを集めたるが如く、】
一緒に居られた月と月とを集めたような諸大菩薩に対して、
【日と日とを並べたるが如くましましゝ時】
日と日とを並べたように居られたとき、法華経宝塔品において、
【「諸の大衆に告ぐ、我が滅度の後誰か能く此の経を護持し】
「諸の大衆に告げる。我が滅度の後に、誰かよく、この経を護持し、
【読誦〔どくじゅ〕せんものなる。今仏前に於て自ら誓言を説け」と】
読誦〔どくじゅ〕せん。今、仏前において自ら誓いの言葉を説け」と
【三度まで諌〔いさ〕めさせ給ひしに、八方四百万億那由他〔なゆた〕の国土に】
三度まで諌〔いさ〕められたので、四方八方の四百万億那由他〔なゆた〕の国土に
【充満せさせ給ひし諸大菩薩、身を曲〔ま〕げ、低頭〔ていず〕】
充満していた諸大菩薩は、身を曲げ、頭を低くし礼をなし、
【合掌〔がっしょう〕し、倶〔とも〕に同時に声をあげて】
合掌〔がっしょう〕し、法華経嘱累品において、諸大菩薩が同時に声をあげて
【「世尊の勅〔みことのり〕の如く当に具〔つぶさ〕に奉行〔ぶぎょう〕し】
「世尊が仰〔おお〕せられた通りに、法華経を護持し、読誦〔どくじゅ〕
【たてまつるべし」と三度まで声を惜しまずよばわりしかば、】
いたします」と三度まで声を惜しまずに告げられたのですから、
【いかでか法華経の行者にはか〔代〕はらせ給はざるべき。】
どうして、法華経の行者の難を代わってくれないなどと言う事があるでしようか。
【はんよき〔范於期〕と云ひしものけいか〔荊軻〕に頭を取らせ、】
范於期〔はんよき〕と言う者が荊軻〔けいか)に頸〔くび〕を取らせ、
【きさつ〔季札〕と云ひしもの徐の君が塚に刀をかけし、】
季札〔きさつ〕と言う者が徐〔じょ〕の君の塚に刀を懸〔か〕けたことは、
【約束を違〔たが〕へじがためなり。】
約束を破らない為でした。
【此等は震旦辺土のえびすの如くなるものどもだにも、友の約束に命をも亡ぼし、】
これらは、中国の辺土の野蛮な者でさえ、友との約束の為には、命をも惜しまず、
【身に代へて思ふ刀をも塚に懸くるぞかし。】
我が身にも代えられないと思い、刀を塚に懸〔か〕けたのです。
【まして諸大菩薩は本より大悲代受苦の誓ひ深し。】
まして、大菩薩は、もとから大慈悲によって衆生に代わって苦を受ける誓いが深く、
【仏の御諌めなしともいかでか法華経の行者を捨て給ふべき。】
仏の諌〔いさ〕めがなくても、どうして法華経の行者を捨てられるでしょうか。
【其の上我が成仏の経たる上、仏慇懃〔おんごん〕に諌め給ひしかば、】
そのうえ、自らが成仏できた経であり、仏が心を込めて諌〔いさ〕められたので、
【仏前の御誓ひ丁寧〔ていねい〕なり。行者を助けたまふ事疑ふべからず。】
仏前で誓いを立てたのであり、行者を助けられることは、疑いないのです。
【仏は人天の主、一切衆生の父母なり。而も開導の師なり。】
仏は、人間や天人の主君であり、一切衆生の父母であり、しかも開導の師なのです。
【父母なれども賎〔いや〕しき父母は主君の義をかねず。】
父母であっても、賎しい父母は、主君の義を兼ねることはありません。
【主君なれども父母ならざれば、おそろしき辺もあり。】
主君であっても、父母でなければ、恐ろしいものでもあります。
【父母・主君なれども、師匠なる事はなし。】
また、父母や主君であっても、師匠であることはありません。
【諸仏は又世尊にてましませば、主君にてはましませども、】
諸仏は、また世尊であるから、主君では、ありますが、
【娑婆世界に出でさせ給はざれば師匠にあらず。】
娑婆世界に出ることがないので、師匠とは、言えないのです。
【又「其の中の衆生は悉〔ことごと〕く是吾〔わ〕が子なり」とも】
また「其の中の衆生は、悉く是れ吾が子なり」とも
【名乗らせ給はず。釈迦仏独〔ひと〕り主師親の三義をかね給へり。】
名乗られてはいません。釈迦牟尼仏のみが、主師親の三義を兼ね具えているのです。
【しかれども四十余年の間は提婆達多を罵〔の〕り給ひ、】
しかしながら、四十余年の間は、提婆達多を罵〔ののし〕り、
【諸の声聞をそしり、菩薩の果分の法門を惜〔お〕しみ給ひしかば、】
諸の声聞を謗〔そし〕り、菩薩の果分の法門を惜しまれたので、
【仏なれどもよりよりは天魔破旬〔はじゅん〕ばしの我等をなやますかの疑ひ、】
仏ではあっても、時々は、天魔や悪人のように我等を悩ますものかと疑い、
【人にはいはざれども心の中には思ひしなり。】
人には、言わなかったけれども、心の中では、そのように思っていたのです。
【此の心は四十余年より法華経の始まるまで失〔う〕せず。】
この思いは、四十余年前から法華経の説法が始まるまで消えなかったのです。
【而るを霊山八年の間に宝塔虚空に現じ、】
しかしながら、霊山の八年の間に宝塔が虚空に現れ、
【二仏日月の如く並び、諸仏大地に列なり】
釈迦、多宝の二仏が日月のように並び、諸仏が大地に列なって
【大山をあつめたるごとく、地涌千界の菩薩が虚空に星の如く列なり給ひて、】
大山を集めたようになり、地涌千界の菩薩が虚空に星のように列なって、
【諸仏の果分の功徳を吐き給ひしかば、】
諸仏の究極〔きゅうきょく〕の悟りの功徳を説かれたので、
【宝蔵をかたぶけて貧人にあたうるがごとく、】
まるで、宝の蔵を開いて貧しい人に玉を与えるように、
【崑崙〔こんろん〕山のくづれたるにに〔似〕たりき。】
また崑崙〔こんろん〕山が崩れ、目の前に無数の玉が現れたのと似ているのです。
【諸人此の玉をのみ拾〔ひろ〕ふが如く】
それで、諸人が、この玉だけを拾うように、
【此の八箇年が間、珍しく貴き事心髄〔しんずい〕にもとをりしかば、】
この八年間、未曾有の大法を知り得た悦びに心が打ち震え、
【諸菩薩身命も惜しまず言をはぐくまず、誓ひをなせし程に、】
諸菩薩は、身命を惜しまず、言葉も明確に誓いを立てられたので、
【嘱累〔ぞくるい〕品にして釈迦如来宝塔を出でさせ給ひて、】
法華経嘱累品において、釈迦如来は、宝塔を出られて、
【とびら〔扉〕を押したて給ひしかば、諸仏は国々へ返り給ひき。】
扉を閉められたので、集まられた諸仏は、それぞれの国々へ帰られ、
【諸の菩薩等も諸仏に随ひ奉りて返らせ給ひぬ。】
諸の菩薩なども、それらの諸仏に随って、それぞれの国々へ帰られたのです。
【やうやく心ぼそくなりし程に】
そう言う事で、だんだん心細くなったところに、仏が普賢菩薩行法経において
【「却後〔きゃくご〕三月当〔まさ〕に般涅槃〔はつねはん〕すべし」と】
「却後三月〔きゃくごさんがつ〕当般涅槃〔とうはつねはん〕」と
【唱へさせ給ひし事こそ心ぼそく耳をどろかしかりしかば、】
後三月で涅槃に入られる事を告げられ、さらに心細く、また驚かれたのです。
【二乗人天等ことごとく法華経を聴聞して仏の恩徳心肝にそみて、】
諸菩薩、二乗、人天などは、ことごとく法華経を聴聞して仏の恩徳を心肝に染めて、
【身命をも法華経の御ために投げて、仏に見せまいらせんと思ひしに、】
身命をも法華経の為に投げ捨て、それを仏に見せようと思っていたのに、
【仏の仰せの如く若し涅槃せさせ給はゞ、】
仏の告げられたように、もし涅槃に入られたならば、
【いかにあさましからんと胸さはぎしてありし程に、】
どれほど嘆かわしいことかと胸騒ぎしていたのに、
【仏の御年満八十と申せし二月十五日の寅〔とら〕卯〔う〕の時、】
仏が満八十歳の2月15日の寅卯〔とらう〕の時、
【東天竺舎衛〔しゃえ〕国倶尸那〔くしな〕城跋提〔ばつだい〕河の】
東インド舎衛〔しゃえ〕国の倶尸那〔くしな〕城の跌提〔ばつだい〕河の
【辺〔ほとり〕にして仏御入滅なるべき由の御音〔こえ〕、上は有頂、】
辺〔ほとり〕において、仏が御入滅になると言う声が、上は、有頂天まで、
【横には三千大千界までひゞきたりしこそ、】
横には、三千大千世界まで響きわたったので、
【目もくれ心もきえはてぬれ。】
目の前も暗くなり、心も消え果ててしまったのです。
【五天竺・十六の大国・五百の中国・十千の小国・】
全インド、十六の大きな国、五百の中くらいの国、十千の小さい国、
【無量の粟散〔ぞくさん〕国等の衆生、一人も衣食を調へず、】
無量の粟を散したような国などの衆生は、一人も衣食を用意する暇〔ひま〕もなく、
【上下をきらはず、牛馬・狼狗〔ろうく〕・鵰鷲〔ちょうじゅ〕・】
身分の上下の隔てもなく、牛、馬、狼、犬、鵰〔くまたか〕、鷲〔わし〕、
【蚊虻〔もんもう〕等の五十二類の】
蚊〔か〕、虻〔あぶ〕などの五十二類の衆生も、ことごとく集まり、
【一類の数大地微塵〔みじん〕をもつくしぬべし、】
その一類の数だけでも、大地を微塵〔みじん〕にしたほどであり、
【況〔いわ〕んや五十二類をや。】
まして、五十二類においては、数えられないほどであったのです。
【此の類皆〔みな〕華香衣食をそなへて最後の供養とあてがひき。】
これらの類が皆、華や香や衣食を供えて、最後の供養にあたったのです。
【一切衆生の宝の橋を〔折〕れなんとす、一切衆生の眼ぬけなんとす、】
一切衆生の宝の橋が折れようとし、一切衆生の眼が抜け落ちようとし、
【一切衆生の父母・主君・師匠死なんとす、なんど申すこえひゞきしかば、】
一切衆生の父母、主君、師匠が死なれようとしていると言う声が響いたので、
【身の毛のいよ立つのみならず涙を流す。なんだ〔涙〕をながすのみならず、】
身の毛がよだつだけでなく、涙を流すだけでなく、
【頭をたゝき胸ををさへ音〔こえ〕も惜しまず叫びしかば、血の涙・血のあせ、】
頭をたたき、胸を抑え、声も惜しまず叫んだので、血の涙、血の汗が、
【倶尸那城に大雨よりもしげくふり、大河よりも多く流れたりき。】
倶尸那〔くしな〕城に大雨よりも激しく降り、大河よりも多く流れたのでした。
【是偏〔ひとえ〕に法華経にして仏になりしかば、】
これは、偏に法華経によって仏に成れたからであって、
【仏の恩の報じがたき故なり。】
その仏の恩に報じ難き故なのです。