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法蓮抄 07 第6章 謗法者に現罰なき理由
第6章 謗法者に現罰なき理由
【然るに今日蓮は外見の如くば日本第一の僻人〔びゃくにん〕なり。】
ところで、いま日蓮は、外見を見れば、日本一の、ひねくれ者と言われています。
【我が朝六十六箇国、二つの島の百千万億の四衆】
我が国の六十六ヶ国と二つの島の百千万億の僧侶、信者の男女、
【上下万人に怨〔あだ〕まる。仏法日本国に渡って七百余年、】
上下万人に怨まれているのです。仏法が日本の国に渡って七百余年の間、
【いまだ是程に法華経の故に諸人に悪〔にく〕まれたる者なし。】
未だ、これほどまでに、法華経の為に人々に憎まれた者は、いません。
【月氏・漢土にもありともきこえず、又あるべしともおぼへず。】
インドや中国にもいたとは、聞いていません。また、いるであろうとも思えません。
【されば一閻浮提第一の僻人ぞかし。】
そうであれば、世界一の、ひねくれ者なのです。
【かゝるものなれば、上には一朝の威を恐れ、】
このような者なので、人々は、上の幕府の権威を恐れ、
【下には万民の嘲〔あざけ〕りを顧〔かえり〕みて親類もとぶらはず、】
下の万民の嘲〔あざけ〕りを懸念〔けねん〕して、親類も訪れず、
【外人〔よそびと〕は申すに及ばず。出世の恩のみならず、】
それ以外の人は、言うまでもなく、出世間の恩だけでなく、
【世間の恩を蒙りし人も、諸人の眼を恐れて口をふさがんためにや、】
世間の恩を受けた人も、他人の眼を恐れ、他人から悪口を言われない為であろうか、
【心に思はねどもそしるよしをなす。】
心には、思っていない事も言って、謗〔そし〕るふりだけでもしているのです。
【数度事にあひ、両度御勘気を蒙りしかば、】
数度にわたる迫害に合い、二度の流罪をこうむったので、
【我が身の失〔とが〕に当たるのみならず、行き通〔か〕ふ人々の中にも、】
我が身が科〔とが〕を受けるだけでなく、交流して、行き通うだけの人であっても
【或は御勘気、或は所領をめされ、】
迫害を受けたり、領地を取り上げられたり、
【或は御内〔みうち〕を出だされ、或は父母兄弟に捨てらる。】
主君の家から、追い出されたり、父母兄弟に捨てられたりしているのです。
【されば付きし人も捨てはてぬ。今又付く人もなし。】
それ故に、今まで付いて来た人も、すっかり居なくなって、今は、誰もいません。
【殊に今度の御勘気には死罪に及ぶべきが、】
とくに、この度の迫害は、死罪になるはずであったものが、
【いかゞ思はれけん佐渡の国につかはされしかば、彼の国へ趣く者は死は多く、】
何を思われたか、佐渡に流され、さらに、佐渡へ向かう者は、死ぬ者が多く、
【生は希〔まれ〕なり。からくして行きつきたりしかば、】
生きているのは、稀〔まれ〕なのですが、それでも、なんとか行き着いた時には、
【殺害謀叛〔むほん〕の者よりも猶重く思はれたり。】
周りから、殺人や謀叛の者よりも、もっと重い罪の者と思われており、
【鎌倉を出でしより日々に強敵かさなるが如し。】
鎌倉を出発してから、日々に周辺から強敵が加わって来るような状態でした。
【ありとある人は念仏の持者なり。】
佐渡にいる人は、みな念仏を持〔たも〕つ者ばかりなのです。
【野を行き山を行くにも、そばひら〔岨坦〕の草木の風に随って】
野を行き、山を行くにも、傍〔かたわ〕らの草木が風に吹かれて、
【そよめく声も、かたきの我を責むるかとおぼゆ。】
ざわめく、かすかな音さえも、敵が責めて来たかと思われるほどで、
【やうやく国にも付きぬ。】
そうやって、ようやく佐渡に着いたのです。
【北国の習ひなれば冬は殊に風はげしく、雪ふかし。】
北国の事なので、冬は、とくに風が激しく、雪が深いのです。
【衣薄く、食ともし。根を移されし橘の】
衣は薄く、食べ物は乏しく、根を移された橘〔たちばな〕が
【自然にからた〔枳〕ちとなりけるも、身の上につみしられたり。】
自然に枳殻〔からたち〕となったと言う話も、身につまされて知る事ができました。
【栖〔すみか〕にはおばな〔尾花〕かるかや〔苅萱〕おひしげれる野中の】
住まいは、尾花〔おばな〕や萱〔かや〕が生い茂っている野中の墓所であり、
【御三昧〔まい〕ばらに、おちやぶれたる草堂の、】
その三昧堂の落ちぶれた草庵で、
【上は雨もり壁は風もたまらぬ傍〔かたわ〕らなり。】
屋根は、雨が漏〔も〕り、壁は、風も防げないような所で、
【昼夜耳に聞く者はまくら〔枕〕にさ〔冴〕ゆる風の音、】
昼夜に耳に聞こえるものと言えば、枕元に吹きすさむ風の音であり、
【朝暮に眼に遮〔さえぎ〕る者は遠近〔おちこち〕の路を埋む雪なり。】
朝に目に映るものと言えば、あちらこちらの道を埋めている雪であり、
【現身に餓鬼道を経〔へ〕、寒地獄に堕ちぬ。】
現身に餓鬼道を経〔へ〕て、寒地獄に堕ちたかのようでした。
【彼の蘇武〔そぶ〕が十九年の間胡国に留められて】
中国の前漢の武将、蘇武〔そぶ〕が十九年の間、胡国〔ここく〕に留められて、
【雪を食し、李陵が巌窟〔がんくつ〕に入って六年】
雪を食べ、同じく前漢の武将、李陵が岩窟に入って六年間、
【蓑〔みの〕をきてすごしけるも我が身の上なりき。】
蓑〔みの〕を着て過ごしたのも、我が身の上の事と感じられたのです。
【今適〔たまたま〕御勘気ゆりたれども、鎌倉中にも且くも身をやどし、】
今、たまたま、流罪は、赦〔ゆる〕されましたが、鎌倉中には、少しの間も身を置き
【迹〔あと〕をとゞむべき処なければ、かゝる山中の石〔いわ〕のはざま、】
留〔とど〕まる事のできる場所が、なかったので、このような山中の岩間の、
【松の下に身を隠し心を静むれども、大地を食〔じき〕とし、】
松の下に身を隠して、心を静めているのですが、大地を食物とし、
【草木を著〔き〕ざらんより外は、食もなく衣も絶えぬる処に、】
草木を着るより他には、食物もなく、衣も絶えてないのです。
【いかなる御心ねにてかくか〔掻〕きわ〔分〕けて御訪ひのあるやらん。】
このような所に、どのような志で、道をかき分けて、訪れられたのでしょうか。
【知らず、過去の我が父母の御神〔みたま〕の御身に入りかはらせ給ふか。】
過去の我が父母の魂が、あなたの身に入り、変わられたのでしょうか。
【又知らず、大覚世尊の御めぐみにやあるらん。涙こそおさへがたく候へ。】
また、大覚世尊の恵みでしょうか。それを思うと感涙、押さえ難いものです。
【問うて云はく、抑〔そもそも〕正嘉の大地震・文永の大彗星を見て、】
それでは、なぜ正嘉〔しょうか〕の大地震や文永〔ぶんえい〕の大彗星を見て、
【自他の叛逆〔ほんぎゃく〕我が朝に法華経を失ふ故と】
我が国に自界叛逆難と他国侵逼難が、法華経を信じない為に起こると思い、
【しらせ給ふゆへ如何。】
幕府や人々に教えた理由は、どうしてなのかと言うと、
【答へて云はく、此の二の天災地夭は外典三千余巻にも載せられず、】
それは、この二つの天変地夭は、外典の三千余巻にも、それは、著されておらず、
【三墳・五典・史記等に記する処の大長星・大地震は、】
また、三墳、五典、史記などに記述されているところの大長星や大地震は、
【或は一尺・二尺・一丈・二丈・五丈・六丈なり。】
一尺二尺か、一丈二丈か、五丈六丈なのです。
【いまだ一天には見へず。】
未だ一天を覆うような大彗星は、見当たらないのです。
【地震も又是くの如し。内典を以て之を勘ふるに、】
地震についても、また同様なのです。内典において、これを考えてみると、
【仏御入滅己後はかゝる大瑞出来せず。】
仏の入滅以後は、このような大きな前兆は、現れていないのです。
【月支には弗沙密多羅〔ほっしゃみったら〕王の五天の仏法を亡ぼし、】
インドで弗沙密多羅〔ほっしゃみったら〕王が、全インドの仏法を滅ぼし、
【十六大国の寺塔を焼き払ひ、】
十六大国の寺塔を焼き払い、
【僧尼の頭をはねし時もかゝる瑞はなし。】
僧尼の頭を刎〔は〕ねた時も、このような前兆はありませんでした。
【漢土には会昌〔かいしょう〕天子の寺院四千六百余所をとゞめ、】
唐の第十五代皇帝、武宗が四千六百余所の寺院を廃止し、
【僧尼二十六万五百人を還俗〔げんぞく〕せさせし時も出現せず。】
二十六万五百人の僧尼を還俗させた時も出現しなかったのです。
【我が朝には欽明の御〔ぎょ〕宇〔う〕に仏法渡りて】
我が国でも欽明天皇の時代に仏法が渡って来て以来
【守屋〔もりや〕仏法に敵せしにも、】
物部守屋〔もののべのもりや〕が仏法に敵対した時にも、
【清盛法師七大寺を焼き失ひ、】
平清盛〔たいらのきよもり〕法師が七大寺を焼き払い、
【山僧等園城寺を焼亡せしにも出現せざる大彗星なり。】
比叡山の僧が園城寺を焼き払った時にも出現しなかったのが、この大彗星なのです。
【当に知るべし、是より大事なる事の一閻浮提の内に出現すべきなりと勘へて、】
これよりも大事なことが、一閻浮提に出現すると考えて、
【立正安国論を造りて最明寺入道殿に奉る。】
立正安国論を著〔あら〕わして、執権である最明寺入道北条時頼殿に上呈したのです。
【彼の状に云はく(取詮)、此の大瑞は他国より此の国をほろぼすべき先兆なり。】
彼の状に「この大瑞は、他国より、この日本国を滅ぼすとの前兆なり。
【禅宗・念仏宗等が法華経を失ふ故なり。】
禅宗、念仏宗などが法華経を滅ぼす故なり。
【彼の法師原が頸〔くび〕をきりて鎌倉ゆゐ〔由比〕の浜にすてずば】
その法師達の頸〔くび〕を斬って、鎌倉の由比が浜に捨てないならば、
【国当〔まさ〕に亡ぶべし。】
国は、まさに滅びるべし」などと書き送ったのです。
【其の後文永の大彗星の時は又手ににぎりて之を知る。】
その後、文永の大彗星の時に、まるで手に取るように、はっきりとわかったのです。
【去ぬる文永八年九月十二日の御勘気の時、】
去る文永八年九月十二日の迫害の時、
【重ねて申して云はく、予は日本国の棟梁〔とうりょう〕なり。】
ふたたび、私は、日本国の棟梁〔とうりょう〕なり。
【我を失ふは国を失ふなるべしと。】
私を失うことは、国を失うことになるべしと言い切り、
【今は用ひまじけれども後のためにとて申しにき。】
その時は、用いないであろうけれども、後の為にと思って言って置いたのです。
【又去年の四月八日に平〔へいの〕左衛門尉〔さえもんのじょう〕に対面の時、】
また去年の四月八日に平左衛門尉〔へいのさえもんのじょう〕に対面した時、
【蒙古国は何比〔いつごろ〕かよせ候べきと問ふに、】
蒙古国は、いつごろ攻め寄せて来るであろうかと問われたので、
【答へて云はく、経文は月日をさゝず、】
それに答えて、経文には、月日を指し示めされては、いませんが、
【但し天眼〔てんげん〕のいかり頻〔しき〕りなり、】
ただし、天眼の怒りが、しきりに現れているので、
【今年をばすぐべからずと申したりき。】
今年を過ぎる事は、ないであろうと言って置きました。
【是等は如何にとして知るべしと人疑ふべし。】
これらが、どうして、わかるのかと人は、疑う事でしょうが、
【予不肖〔ふしょう〕の身なれども、法華経を弘通する行者を】
私は、不肖の身では、ありますが、法華経を弘通する行者であり、
【王臣人民之を怨〔あだ〕む間、】
その行者を王臣や人民が怨〔あだ〕むならば、
【法華経の座にて守護せんと誓ひをなせる地神いかりをなして身をふるひ、】
法華経の会座において、必ず守護すると誓った地神は、怒りをなして身を震わせ、
【天神身より光を出だして此の国をおどす。】
天神は、身から光を出して、この国を脅〔おど〕すのです。
【いかに諫むれども用ひざれば、結句〔けっく〕は】
そして、いかに諌〔いさ〕めても、用いないので、最後には、
【人の身に入って自界叛逆〔ほんぎゃく〕せしめ、他国より責むべし。】
人の身に入って自界叛逆をさせ、他国から責めるのです。
【問うて云はく、此の事何なる証拠あるや。】
それでは、この事に何か証拠があるのでしょうか。
【答ふ、経に云はく】
それは、金光明最勝王経に
【「悪人を愛敬〔あいぎょう〕し善人を治罰〔じばつ〕するに由るが故に】
「悪人を愛し敬まい、善人を治罰するが故に、
【星宿及び風雨皆時を以て行〔めぐ〕らず」等云云。】
星宿および風雨は、みな時節どおりに行われず」などとあります。
【夫〔それ〕天地は国の明鏡なり。今此の国に天災地夭あり。】
そもそも、天地は、国の明鏡なのです。今、この国に天変地夭が起こっています。
【知んぬべし、国主に失ありと云ふ事を。】
それだけでも、国主に過失があると言うことを知るべきです。
【鏡にうかべたれば之を諍〔あらそ〕ふべからず。】
鏡に明らかに映っているのですから、これを言い争う事などできないのです。
【国主小禍のある時は天鏡に小災見ゆ。】
国主に小さな過失があるときには、天の鏡に小さな災〔わざわい〕が見え、
【今の大災は当に知るべし大禍ありと云ふ事を。】
今の大きな災害は、国主に大きな過失があると言う事なのです。
【仁王経には小難は無量なり、中難は二十九、大難は七とあり。】
仁王経には「小難は、無数であり、中難は、二十九、大難は、七つある」とあり、
【此の経をば一には仁王と名づけ、二には天地鏡と名づく。】
この経文を一には、仁王と名づけ、二には、天地鏡と名づけるのです。
【此の国土を天地鏡に移して見るに明白なり。】
この国を、この天地鏡に映して見ると明白なのです。
【又此の経文に云はく「聖人去らん時は七難必ず起こる」等云云。】
また、この経文に「聖人が去るときは、七難が必ず起こる」などとあります。
【当に知るべし、此の国に大聖人有りと。】
これによって、この国に大聖人がいると言う事実を知るべきなのです。
【又知んぬべし、彼の聖人を国主信ぜずと云ふ事を。】
また、この聖人を国主が信じていないと言う事を知るべきなのです。
【問うて云はく、先代に仏寺を失ひし時何ぞ此の瑞なきや。】
それでは、なぜ、過去に仏や寺を壊した時、この様な事がなかったのでしょうか。
【答へて云はく、瑞は失の軽重によりて大小あり。】
それは、この前兆には、過失の軽重によって大小の違いがあるからなのです。
【此の度の瑞は怪しむべし。一度二度にあらず、】
そう考えると、この度の前兆は、不思議に思うべきです。一度や二度ではなく、
【一返二返にあらず、年月をふるまゝに弥〔いよいよ〕盛んなり。】
一編、二編でもなく、年月が経つにつれて、ますます盛んになっているのです。
【之を以て之を察すべし、先代の失〔とが〕よりも過ぎたる国主に失あり、】
このことから、過去の時代の過失よりも、さらに大きな過失が、国主にあり、
【国主の身にて万民を殺し、又万臣を殺し、又父母を殺す失よりも】
国主の身でありながら、多くの民衆を殺し、また、その父母を殺すことよりも、
【聖人を怨〔あだ〕む事彼に過ぐる事を。】
この聖人を憎む事の方が、重大な過失であると言う事を理解すべきであり、
【今日本国の王臣並びに万民には、】
今、日本の王臣と万民には、
【月氏・漢土総じて一閻浮提に仏滅後二千二百二十余年の間】
インドや中国、さらには、全世界において、仏滅後二千二百二十余年の間、
【いまだなき大科、人ごとにあるなり。】
未だかつてなかったほどの大きな過失が、一人一人にあるのです。
【譬へば十方世界の五逆の者を一処に集めたるが如し。】
例えば十方世界の五逆罪の者を一か所に集めたようなものなのです。
【此の国の一切の僧は皆提婆・瞿伽利〔くがり〕が魂を移し、】
この国のすべての僧は、皆、提婆達多や瞿伽利〔くがり〕の魂〔たましい〕となり、
【国主は阿闍世王・波瑠璃〔はるり〕王の化身なり。】
国主は、阿闍世王や波瑠璃〔はるり〕王の化身となり、
【一切の臣民は雨行〔うぎょう〕大臣・月称〔がっしょう〕大臣・】
一切の臣民は、雨行〔うぎょう〕大臣、月称〔がっしょう〕大臣や
【刹陀〔せつだ〕・耆利〔ぎり〕等の悪人をあつめて日本国の民となせり。】
刹陀〔せつだ〕、耆利〔ぎり〕などの悪人を集めて、日本の民としたのです。
【古〔いにしえ〕は二人三人逆罪不孝の者ありしかばこそ】
昔は、二人、三人が五逆罪の不孝の者であったので、
【其の人の在所は大地も破れて入りぬれ。】
その人のいる場所は、大地も破れ、裂けてしまったのです。
【今は此の国に充満せる故に日本国の大地一時にわれ、】
現在は、この国に五逆罪の者が充満しているので、日本の大地が総て裂けて全員が
【無間に堕ち入らざらん外は一人二人の住所の堕つべきやうなし。】
無間地獄に堕ちる以外は、一人や二人の場所では、裂けて堕ちる事はないのです。
【例せば老人の一二の白毛〔しらが〕をば抜けども、】
例えば、老人の一本、二本の白髪ならば、それを探して抜くことが出来ても、
【老耄〔ろうもう〕の時は皆白毛なれば何を分けて抜き捨つべき。】
さらに歳をとった場合は、すべて白髪となるので、それを分けて抜き取る事など
【只一度に剃り捨つる如くなり。】
できないのです。それで、ただ一度に剃りあげて捨てる以外にないのです。
【問うて云はく、汝が義の如きは我が法華経の行者なるを】
それでは、あなたの言いたいのは、自らが法華経の行者であるのに、
【用ひざるが故に天変地夭等ありと。法華経第八に云はく】
これを用いないので天変地夭があると言う事ですが、法華経第八巻の陀羅尼品には、
【「頭破れて七分と作らん」と。】
「法華経を説く者を悩まし乱すならば、頭が破れて七つになる」とあり、
【第五に云はく】
第五巻の安楽行品には、法華経の行者を
【「若し人悪〔にく〕み罵〔ののし〕れば口即ち閉塞す」等云云。】
「もし、人が憎み、罵〔ののし〕れば、口は、すぐに閉塞す」とあります。
【如何ぞ数年が間罵〔の〕るとも怨むとも】
どうして何年間も、罵〔ののし〕ったり、怨〔うら〕んだりしているのに、
【其の義なきや。】
なぜ、そのような事がないのでしょうか。
【答ふ、反詰〔ほんきつ〕して云はく、不軽〔ふきょう〕菩薩を毀訾〔きし〕し】
それに反論して言いますが、不軽〔ふきょう〕菩薩を謗〔そし〕り
【罵詈〔めり〕し打擲〔ちょうちゃく〕せし人は】
悪口罵詈〔あっくめり〕し、打ち据えた人は、
【口閉〔くへい〕頭破〔ずは〕ありけるか如何。】
口が閉じ、頭が割れたでしょうか。
【問ふ、然〔さ〕れば経文に相違する事如何。】
それでは、経文に相違すると思いますが、違いますか。
【答ふ、法華経を怨む人に二人あり。】
それは、法華経を怨〔あだ〕む人に、二種類がいるのです。
【一人は先生〔せんじょう〕に善根ありて、今生に縁を求めて菩提心を発こして、】
一人は、過去世に善根があって、今世に仏縁を求めて菩提心を起こして、
【仏になるべき者は或は】
仏になる可能性を持っている者は、罵〔ののし〕ったり、怨〔うら〕んだりすると、
【口閉ぢ、或は頭〔こうべ〕破〔わ〕る。一人は先生に謗人なり。】
口が閉じたり、頭がわれたりするのです。しかし、一人は、過去世に謗法の人で、
【今生にも謗じ、生々〔しょうじょう〕に無間地獄の業を成就せる者あり。】
今世にも謗法を犯し、生まれる度〔たび〕に無間地獄の業を積む者であり、
【是はの〔罵〕れども口則ち閉塞せず。】
これは、罵〔ののし〕っても、口が閉じ塞がることはないのです。
【譬へば獄に入って死罪に定まる者は、】
譬えば、牢獄に入って死罪に決まっている者は、
【獄の中にて何なる假事〔ひがごと〕あれども、】
獄中、どのような問題を起こしても、
【死罪を行なふまでにて別の失なし。ゆ〔免〕りぬべき者は】
死刑になるまで、罪に問われる事はないのです。赦〔ゆる〕される者は、
【獄中にて假事あればこれをいまし〔戒〕むるが如し。】
獄中で事を起こせば、これを戒〔いまし〕めるようなものです。
【問うて云はく、此の事第一の大事なり。委細に承るべし。】
それでは、この事は、最も大事な事であり、詳しく教えて欲しいと思います。
【答へて云はく、涅槃経に云はく、法華経に云はく云云。】
それは、涅槃経に説かれており、法華経にも説かれております。
【日蓮花押】
日蓮花押