御書研鑚の集い 御書研鑽資料
曾谷入道殿許御書 03 第2章 円頓の大戒壇
第2章 円頓の大戒壇
【仏の滅後に三時有り。所謂〔いわゆる〕正法一千年の前の五百年には】
如来滅後に三つの時代があり、その初めが正法時代の千年間です。
【迦葉〔かしょう〕・阿難〔あなん〕・】
正法時代の前半の五百年間には、迦葉〔かしょう〕尊者、阿難〔あなん〕尊者、
【商那和修〔しょうなわしゅ〕・末田地〔までんち〕・脇比丘〔きょうびく〕等、】
商那和修〔しょうなわしゅ〕、末田地〔までんち〕、脇比丘〔きょうびく〕などの
【一向に小乗の薬を以て衆生の軽病を対治〔たいじ〕す。】
人々が出て来て、一様に小乗の薬で衆生の軽病を治〔なお〕しました。
【四阿含〔あごん〕経・】
いわゆる長阿含経〔あごん〕、中阿含経、増一阿含経、雑阿含経の四阿含経、
【十誦〔じゅ〕・】
十誦律、四分律、増祇律、五部律などの戒律、
【八十誦等の諸律と相続〔そうぞく〕解脱〔げだつ〕経等の三蔵とを弘通し、】
十誦律を細分化した八十誦律などの諸律と相続解脱経などの三蔵を弘通しました。
【後には律宗・倶舍〔くしゃ〕宗・成実〔じょうじつ〕宗と号する是なり。】
後に律宗、倶舎〔くしゃ〕宗、成実宗と名乗ったのは、これのことです。
【後の五百年には馬鳴〔めみょう〕菩薩・竜樹〔りゅうじゅ〕菩薩・】
また、後半の五百年間には、馬鳴〔めみょう〕菩薩、竜樹〔りゅうじゅ〕菩薩、
【提婆〔だいば〕菩薩・無著〔むじゃく〕菩薩・天親〔てんじん〕菩薩等の】
提婆〔だいば〕菩薩、無著〔むじゃく〕菩薩、天親〔てんじん〕菩薩などの
【諸の大論師、初めには諸の小聖の弘めし所の小乗経之を通達し、】
多くの大論師が、初めには、数々の小乗経の聖人たちが弘めた経文を究〔きわ〕め、
【後には一々に彼の義を破失〔はしつ〕し了〔おわ〕って諸の大乗経を弘通す。】
後には、ひとつひとつ、それらの義を破折して、大乗経を弘通したのです。
【是又〔これまた〕中薬を以て衆生の中病を対治す。】
すなわち、中薬である権大乗経をもって衆生の中病を治したのです。
【所謂華厳経・般若〔はんにゃ〕経・大日〔だいにち〕経・】
いわゆる華厳〔けごん〕経、般若〔はんにゃ〕経、大日〔だいにち〕経、
【深密〔じんみつ〕経等、三論宗・法相宗・】
深密〔じんみつ〕経などが、三論〔さんろん〕宗、法相〔ほっそう〕宗、
【真言陀羅尼〔だらに〕・禅法〔ぜんぽう〕等なり。】
真言陀羅尼〔だらに〕、禅法〔ぜんぽう〕などの宗派となったのです。
【問うて曰く、迦葉・阿難等の諸の小聖、】
それでは、迦葉〔かしょう〕尊者や阿難尊者などの小乗の聖人は、
【何ぞ大乗経を弘めざるや。】
どうして大乗経を弘めなかったのでしょうか。
【答へて曰く、一には自身堪〔た〕へざるが故に。】
それは、一には、自分自身が教える能力がなかったからであり、
【二には所被の機無きが故に。】
二には、衆生が大乗を受け入れる理解力がなかったからであり、
【三には仏より譲り与へざるが故に。】
三には、仏から付属を与えられなかったからであり、
【四には時来たらざるが故なり。】
四には、未だ、その時が来ていなかったからなのです。
【問うて曰く、竜樹・天親等何ぞ一乗経を弘めざるや。】
それでは、竜樹菩薩、天親菩薩は、どうして法華経を弘めなかったのでしょうか。
【答へて曰く、四つの義有り。先の如し。】
それも先に挙げた四つの理由に依るのです。
【問うて曰く、諸の真言師の云はく】
それでは、多くの真言師は、独自の真言密教の相承の系譜を立てて、
【「仏の滅後八百年に相当たって、竜猛〔りゅうみょう〕菩薩月氏に出現して、】
「仏滅後、八百年にあたって、竜猛〔りゅうみょう〕菩薩がインドに出現して、
【釈尊の顕教〔けんぎょう〕たる華厳・法華等を馬鳴菩薩等に相伝し、】
釈尊の顕経である華厳経、法華経などを馬鳴〔めみょう〕菩薩から、相伝し、
【大日密教〔みっきょう〕をば自ら南天の鉄塔を開拓し、】
大日如来の密経を自ら南インドの鉄塔を開いて、
【面〔まのあた〕り大日如来と金剛〔こんごう〕薩埵〔さった〕とに対して】
まのあたりに大日如来と金剛〔こんごう〕薩埵〔さった〕から口伝したのである。
【之を口決〔くけつ〕す。竜猛菩薩に二人の弟子有り。】
竜猛〔りゅうみょう〕菩薩に二人の弟子があったが、
【提婆菩薩には釈迦の顕教を伝へ、竜智〔りゅうち〕菩薩には大日の密教を授く。】
提婆菩薩には、釈迦仏の顕教を伝え、竜智菩薩には、大日の密教を授けたのである。
【竜智菩薩は阿羅苑〔あらおん〕に隠居して人に伝へず。】
竜智菩薩は、阿羅苑〔あらおん〕に隠居して人に伝えず、
【其の間に提婆菩薩の伝ふる所の顕教は先づ漢土に渡る。】
その間に提婆菩薩に伝えたところの顕教が、まず中国に渡ったのである。
【其の後数年を経歴〔きょうりゃく〕して竜智菩薩の伝ふる所の秘密の教をば、】
その後、数年を経て、竜智菩薩の伝えたところの秘密の教を
【善無畏・金剛智・不空、漢土に渡す」等云云。此の義如何。】
善無畏、金剛智、不空が漢土に渡す」と言っています。この事は、どうでしょうか。
【答へて曰く、一切の真言師是くの如し。】
それについては、すべての真言師が同じことを言っています。
【又天台・華厳等の諸家も一同に之を信ず。】
また、天台宗や華厳宗などの門下も一同に、これを信じています。
【抑〔そもそも〕竜猛已前〔いぜん〕には月氏国の中には】
そもそも、竜猛〔りゅうみょう〕菩薩の出現前にインドに、
【大日の三部経無しと云ふか。釈迦よりの外に大日如来世に出現して】
大日経などの三部経があったのでしょうか。釈迦以外の大日如来が出現して、
【三部の経を説くと云ふか。】
この三部経を説いたと言うのですが、どうでしょうか。
【顕〔けん〕を提婆に伝へ、密〔みつ〕を竜智に授〔さず〕くる証文、】
また、顕教を提婆菩薩に伝え、密教を竜智菩薩に授けたと言う証拠の文章は、
【何〔いず〕れの経論に出でたるぞ。】
どの経論に出ているのでしょうか。
【此の大妄語〔もうご〕は提婆の欺誑罪〔ぎおうざい〕にも過ぎ、】
この大妄語は、提婆達多の欺〔あざむ〕き騙〔だま〕す罪にも過ぎ、
【瞿伽利〔くがり〕の狂言〔おうごん〕にも超ゆ。】
瞿伽利〔くがり〕の狂った物言いにも超えているのです。
【漢土・日本の王位の尽き、両朝の僧侶の謗法と】
中国、日本の皇統が尽き、中国と日本の公式の僧侶が謗法となったのも、
【為〔な〕るの由来、専〔もっぱ〕ら斯〔これ〕に在らざるや。】
その原因は、この邪義に依るのです。
【然れば則ち彼の震旦〔しんだん〕既に北蕃〔ほくばん〕の為に破られ、】
その為か中国は、すでに北方民族の金王朝に滅ぼされ、
【此の日域〔にちいき〕も亦西戎〔せいじゅう〕の為に侵〔おか〕されんと欲す。】
この日本も、また蒙古国の為に侵略されようとしているのです。
【此等は且〔しばら〕く之を置く。】
このことは、しばらく置きます。
【像法に入って一千年、月氏の仏法、漢土に渡来するの間、】
さて、像法に入つて一千年の間、インドの仏法は、中国に渡来しましたが、
【前四百年には南北の諸師、】
そのうち、始めの四百年間に揚子江の南に三師、北に七師の合わせて十師が
【異義蘭菊〔らんぎく〕にして東西の仏法未だ定まらず。】
自分勝手な教義を立てて入り乱れ、仏法の正邪がわからなくなったのです。
【四百年の後〔のち〕、五百年の前、其の中間〔ちゅうげん〕一百年の間に】
しかし、像法に入って四百年から五百年までのその間、百年間に、
【南岳〔なんがく〕・天台等漢土に出現して、】
天台智者大師の師である南岳大師、また、天台智者大師本人が中国に出現され、
【粗〔ほぼ〕法華の実義を弘宣〔ぐせん〕したまふ。】
ほぼ、法華経の実義を弘められたのです。
【然るに円慧〔えんね〕・円定〔えんじょう〕に於ては、国師たりと雖も】
しかし、法華円教の智慧と禅定については、国師となりましたが、
【円頓の戒場未だ之を建立せず、】
法華円頓の戒壇については、未だ、これを建立されず、
【故に国を挙げて戒師と仰がず。】
それ故に一国を挙げて、天台大師を受戒の師と仰ぐ事は、なかったのです。
【六百年の已後、法相宗西天より来たれり。】
六百年以後、法相宗が中国から渡来しました。
【太宗〔たいそう〕皇帝〔こうてい〕、】
唐の第2代皇帝、太宗〔たいそう〕皇帝が、これを信じたので、
【之を用ゆる故に天台法華宗に帰依するの人漸〔ようや〕く薄し。】
天台法華宗に帰依する人が、だんだん少なくなっていったのです。
【茲〔ここ〕に就いて隙〔げき〕を得、】
この隙〔すき〕をついて
【則天〔そくてん〕皇后〔こうごう〕の御〔ぎょ〕宇〔う〕に、】
周の則天武后〔そくてんぶこう〕の時代に、
【先に破られし華厳亦〔また〕起こって】
先に天台大師によって破折されていた華厳宗が再び興隆して、
【天台宗に勝れたるの由、之を称す。】
天台宗よりも優れていると言い出したのです。
【太宗より第八代玄宗〔げんそう〕皇帝の御宇に、真言始めて月氏より来たれり。】
太宗皇帝から第八代の玄宗皇帝の治世に真言宗が初めてインドから渡って来ました。
【所謂開元〔かいげん〕四年には善無畏三蔵の大日経・蘇悉地〔そしっじ〕経、】
開元四年に善無畏〔ぜんむい〕三蔵が大日経、蘇悉地〔そしっじ〕経を、
【開元八年には金剛智・不空の両三蔵の金剛頂経。】
開元八年には、金剛智三蔵と不空三蔵の二人が金剛頂経を、もたらしました。
【此くの如く三経を天竺〔てんじく〕より漢土に持ち来たり、】
こうして彼らは、真言三部経をインドから中国にもたらしたのですが、
【天台の釈を見聞して、智発〔ほっ〕して釈を作って大日経と法華経とを】
中国で天台大師の解説書を見て思いつき、大日経は、法華経と
【一経と為〔な〕し、其の上、印・真言を加へて密教と号し】
同じ経であると言い出し、その上に印と真言を加えて密教と呼び、
【之に勝るの由をいひ、】
大日経の方が法華経より優れているなどと言う勝手な解釈を作って、
【結句は権経を以て実経を下〔くだ〕す。】
権経である大日経をもって、実経である法華経を貶〔おとし〕めたのです。
【漢土の学者、此の事を知らず。】
しかし、中国の学者は、この事を知らずに、この善無畏〔ぜんむい〕三蔵などの
【像法の末八百年に相当たって、】
邪義を信じてしまったのです。像法の末の八百年にあたって、
【伝教大師、和国〔わこく〕に託生〔たくしょう〕して】
伝教大師が日本の近江国、滋賀郡に生まれて比叡山に上り、
【華厳宗等の六宗の邪義を糾明〔きゅうめい〕するのみに非ず。】
奈良の華厳宗などの六宗を糾弾し、その問題点を明らかにしただけではなく、
【加之〔しかのみならず〕南岳・天台も未だ弘めたまはざる】
南岳大師、天台大師も未だ弘められなかった
【円頓〔えんどん〕の戒壇を叡山に建立す。】
円頓〔えんどん〕戒壇を比叡山に建立し、
【日本一州の学者一人も残らず大師の門弟と為る。】
それ故に日本の学者は、一人も残らず伝教大師の弟子となったのです。
【但天台と真言との勝劣に於ては誑惑〔おうわく〕と】
ただ天台宗と真言宗との優劣については、真言が人をたぶらかすものであるとは
【知って而も分明〔ふんみょう〕ならず。】
知っていましたが、明らかにされなかったのです。
【所詮末法に贈りたまふか。】
それは、結局、末法の導師に、それを任されたからでしょう。
【此等は傍論〔ぼうろん〕たるの故に且く之を置く。】
この事は、余談であるので、しばらく置きます。
【吾が師伝教大師、三国に未だ弘まらざるの】
我が師の伝教大師がインド、中国、日本の三国に未だ弘まらなかった
【円頓の大戒壇を叡山に建立したまふ。此偏〔ひとえ〕に】
円頓〔えんどん〕の大戒壇を比叡山に建立されたのは、これは、ひとえに、
【上薬を持用して衆生の重病を治せんと為〔す〕る是なり。】
この法華経の特効薬を用いて衆生の重病を治そうとされた為なのです。
【今末法に入って二百二十余年、五濁〔ごじょく〕強盛〔ごうじょう〕にして】
今、末法に入って二百二十余年、五濁が強盛となって
【三災頻〔しき〕りに起こり、】
三災が頻繁〔ひんぱん〕に起こり、
【衆・見の二濁〔にじょく〕国中に充満し、】
五濁のうちの社会の濁り(衆生濁)と思想的な濁り(見濁)が日本国中に充満し、
【逆・謗の二輩四海に散在す。】
五逆罪と謗法を犯した二つの者達が四海に散在しているのです。
【専〔もっぱ〕ら一闡提〔いっせんだい〕の輩を仰いで】
人々は、もっぱら、この一闡提〔いっせんだい〕の者達を信じ仰〔あお〕いで
【棟梁〔とうりょう〕と恃怙〔たの〕み、謗法の者を尊重して国師と為す。】
宗派の指導者と頼み、謗法の者を尊重して国師としているのです。
【孔丘〔こうきゅう〕の孝経之を提〔ひっさ〕げて父母の頭〔こうべ〕を打ち、】
孔子の教えである孝経を持って、父母の頭を打ち、
【釈尊の法華経を口に誦〔じゅ〕しながら教主に違背す。】
口では、釈迦牟尼仏の法華経を読みながら、教主の教えに背いているのです。
【不孝の国は此の国なり。】
まさに不孝の国とは、この日本の事ではないでしょうか。
【勝母〔しょうぼ〕の閭〔さと〕は】
中国の故事にある勝母〔しょうぼ〕の里、つまり母に勝つ里と言う意味の
【他境〔たきょう〕に求めじ、】
不孝の土地の名を、あえて他に求める必要はなく、現にここにあるのです。
【故に青天眼〔まなこ〕を瞋〔いか〕らして此の国を睨〔にら〕み、】
それ故に、天は、眼を怒〔いか〕らして、この国を睨〔にら〕み、
【黄地〔おうじ〕は憤〔いきどお〕りを含んで大地を震〔ふる〕ふ。】
地は、憤〔いきどお〕って、大地を震〔ふる〕わせるのです。
【去〔い〕ぬる正嘉〔しょうか〕元年の大地動、文永元年の大彗星〔すいせい〕、】
正嘉元年の大地震や文永元年の大彗星などの災難は、
【此等の災夭〔さいよう〕は仏滅後二千二百二十余年の間、】
釈尊滅後2220余年の間、
【月氏〔がっし〕・漢土・日本の内に未だ出現せざる所の大難なり。】
インド、中国、日本に未だ出現した事がなかった大難であるのです。
【彼の弗舍蜜多羅〔ほっしゃみったら〕王の五天の寺塔を焼失し、】
あの弗舎密多羅〔ほっしゃみったら〕王が全インドの寺塔を焼き払い、
【漢土の会昌〔かいしょう〕天子の九国の僧尼〔そうに〕を】
中国、唐の武宗皇帝が国中の僧侶や尼僧を
【還俗〔げんぞく〕せしめしに超過すること百千の倍、大謗法の輩国中に充満し】
還俗させる事に超えること百千倍であるのです。まさに大謗法が国中に充満し、
【一天に弥〔はびこ〕るに依って起こる所の夭災〔ようさい〕なり。】
天下に、はびこっている事から、起こるところの災難なのです。
【大般〔だいはつ〕涅槃〔ねはん〕経に云はく】
大般〔だいはつ〕涅槃〔ねはん〕経には、
【「末法に入って不孝・謗法の者は大地微塵〔みじん〕の如し」取意。】
「末法に入って不孝、謗法の者、大地微塵の如し」(取意)と説かれ、
【法滅尽〔ほうめつじん〕経に「法滅尽の時は狗犬〔くけん〕の僧尼】
法滅尽経には「法滅の時には、ただ吠え食うだけの僧や尼が、
【恒河〔ごうが〕の沙〔すな〕の如し」等云云取意。】
大河の砂の如し」(取意)と説かれています。
【今親〔まのあた〕り此の国を見聞〔けんもん〕するに、】
今、目の前で、この国を実際に見ると、
【人毎に此の二の悪有り。】
人ごとに五逆罪と謗法の二罪を犯しているのです。
【此等の大悪の輩は何なる秘術を以て之を扶救〔ふぐ〕せん。】
このような大悪人は、どのような秘術をもって救済したら、よいのでしょうか。