日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


善無畏三蔵抄 第四章 善無畏三蔵の堕地獄


【我等が父母世尊は主師親の三徳を備へて、一切の仏に擯出せられたる】
我等の父母である世尊は、主師親の三徳を備えており、一切の仏に遠ざけられた

【我等を「唯我一人能為救護」とはげませ給ふ。】
我等に「ただ、我れ一人だけが、よく衆生を救護す」と励ましておられるのです。

【其の恩大海よりも深し、其の恩大地よりも厚し、】
その恩は、大海よりも深く、大地よりも厚いのです。

【其の恩虚空〔こくう〕よりも広し。】
また、その恩は、虚空よりも広いのです。過去、無量劫の間、

【二つの眼をぬいて仏前に空の星の数備ふとも、】
自分の二つの眼を取り出して、仏前に空の星の数ほど、供〔そな〕えたとしても、

【身の皮を剝〔は〕いで百千万天井にはるとも、】
自分の身の皮を剥〔は〕いで、百千万枚、天井に張ったとしても、

【涙を閼伽〔あか〕の水として千万億劫仏前に花を備ふとも、】
自分の涙を水として、千万億劫の間、仏前に花を供〔そな〕えたとしても、

【身の肉血を無量劫仏前に山の如く積み、大海の如く湛〔たた〕ふとも、】
身の肉と血を無量劫の間、仏前に山のように積み重ね、大海のようにしても、

【此の仏の一分の御恩を報じ尽くしがたし。】
この釈迦牟尼仏の恩の一分も、報じ尽くすことも難しいのです。

【而るを当世の僻見〔びゃっけん〕の学者等、】
それなのに、現在の偏〔かたよ〕った見方の学者などが、

【設〔たと〕ひ八万法蔵を極め、十二部経を暗〔そら〕んじ、】
たとえ、八万法蔵を極〔きわ〕め尽くし、十二部経を暗唱し、

【大小の戒品〔かいほん〕を堅く持ち給ふ智者なりとも、】
大乗、小乗の戒律を堅く持〔たも〕つ智者であっても、

【此の道理に背かば悪道を免るべからずと思〔おぼ〕し食〔め〕すべし。】
この道理に背けば、悪道を免〔まぬが〕れることは、できないと思うべきです。

【例せば善無畏〔ぜんむい〕三蔵は真言宗の元祖、】
たとえば、善無畏〔ぜんむい〕三蔵は、真言宗の元祖ですが、

【烏萇奈〔うちょうな〕国の大王】
もとは、北インドの烏萇奈〔うちょうな〕国の大王である

【仏種王の太子なり。教主釈尊は十九にして出家し給ひき。】
仏種王〔ぶっしゅおう〕の太子なのです。教主、釈尊は、十九歳で出家しましたが、

【此の三蔵は十三にして位を捨て、】
この三蔵は、十三歳で王位を捨てて出家し、

【月氏七十箇国九万里を歩き回〔めぐ〕りて諸経・諸論・諸宗を習ひ伝へ、】
インド七十箇国、九万里を遊学し、諸経、諸論、諸宗派を習得したのです。

【北天竺〔きたてんじく〕金粟〔こんぞく〕王の塔の下にして】
そして、北インドの金粟王〔こんぞくおう〕が建てた塔の下で、

【天に仰ぎ祈請〔きしょう〕を致し給へるに、】
天を仰いで祈ったところ、

【虚空〔こくう〕の中に大日如来を中央として】
虚空の中に、大日如来を中央とする

【胎蔵界〔たいぞうかい〕の曼荼羅〔まんだら〕顕はれさせ給ふ。】
胎蔵界〔たいぞうかい〕の曼荼羅〔まんだら〕が顕れたのです。

【慈悲の余り、】
善無畏〔ぜんむい〕三蔵は、その慈悲の心があまりに深い為に、

【此の正法を辺土〔へんど〕に弘めんと思〔おぼ〕し食〔め〕して】
この正法を周辺の国々に弘めようと思い、

【漢土に入り給ひ、玄宗〔げんそう〕皇帝に秘法を授け奉り、】
中国に渡って、玄宗〔げんそう〕皇帝に真言の秘法を授け、

【旱魃〔かんばつ〕の時雨の祈りをし給ひしかば、】
旱魃〔かんばつ〕の時、降雨を祈ったところ、

【三日が内に天より雨ふりしなり。】
三日のうちに雨が降ったのです。

【此の三蔵は千二百余尊の種子】
この善無畏〔ぜんむい〕三蔵は、千二百余尊の種子である仏因と、

【尊形〔そんぎょう〕三摩耶〔さんまや〕】
その尊い姿、結んだ印の形である結果について、

【一事もくもりなし。】
一つとして不明確なものは、ありませんでした。

【当世の東寺等の一切の真言宗一人も】
現在の東寺など、すべての真言宗の人々は、一人として、

【此の御弟子に非ざるはなし。】
この善無畏〔ぜんむい〕三蔵の弟子でない者は、いないのです。

【而るに此の三蔵一時〔あるとき〕に頓死〔とんし〕ありき。】
ところが、これほどの三蔵がある時、いきなり亡くなったのです。

【数多〔あまた〕の獄卒〔ごくそつ〕来たりて】
すると、数多くの獄卒〔ごくそつ〕が来て、

【鉄縄〔てつじょう〕七すぢ懸けたてまつり、】
鉄の繩を七重にかけ、

【閻魔〔えんま〕王宮〔おうぐう〕に至る。此の事第一の不審なり。】
閻魔〔えんま〕王の宮殿に連れて行ったというのです。この事が第一の疑問です。

【いかなる罪あて此の責めに値ひ給ひけるやらん。】
どのような罪があって、このような目に会ったのでしょうか。

【今生〔こんじょう〕は十悪は有りもやすらん、】
今生では、十悪を犯したかも知れませんが、

【五逆罪〔ごぎゃくざい〕は造らず。】
五逆罪は、犯しては、いないのです。

【過去を尋ぬれば、大国の王となり給ふ事を勘ふるに、】
過去を尋ねれば、大国の王となるべく生まれてきたことを考えてみると、

【十善戒を堅く持ち五百の仏陀〔ぶつだ〕に仕へ給ふなり。】
十善戒を堅く持〔たも〕ち、五百の仏陀に仕えていたことになります。

【何の罪かあらん。】
その人に、どんな罪も、あるはずがないのです。

【其の上、十三にして位を捨て出家し給ひき。】
そのうえ、十三歳で位を捨てて、出家したことは、

【閻浮第一の菩提心なるベし。】
世界一の求道心の持ち主というべきです。

【過去現在の軽重〔きょうじゅう〕の罪も滅すらん。】
それだけでも、過去、現在の数々の罪は、滅することでしょう。

【其の上、月氏に流布する所の経論諸宗を習ひ極め給ひしなり。】
そのうえ、インドに流布している経論、諸宗派を習い究めたのですから、

【何の罪か消えざらん。】
どのような罪も消えないことが、あるでしょうか。

【又真言密教は他に異なる法なるべし。】
また、真言密教は、他の仏教と異なる法であって、

【一印〔いちいん〕一真言〔いちしんごん〕なれども手に結び、口に誦すれば、】
手に一つの印を結び、口に一つの真言を唱えれば、

【三世の重罪も滅せずと云ふことなし。】
どんな、三世にわたる重罪も、滅しないことは、ないのです。

【無量倶低劫〔くていこう〕の間作る所の衆の罪障も、】
さらに、無量倶低劫〔くていこう〕の長きにわたって、作った種々の罪障も、

【此の曼荼羅を見れば】
この胎蔵界〔たいぞうかい〕の曼荼羅〔まんだら〕を見て祈れば、

【一時に皆消滅すとこそ申し候へ。】
一瞬にして皆、消滅するとさえ言っているのです。

【況んや此の三蔵は千二百余尊の印真言を暗〔そら〕に浮かべ、】
まして、この善無畏〔ぜんむい〕三蔵は、千二百余尊の印を結んで、真言を暗唱し、

【即身成仏の観道鏡〔かんどうきょう〕に懸〔かか〕り、】
即身成仏の観法の道も、鏡に映すように明らかに知っており、

【両部灌頂〔かんじょう〕の御時大日覚王〔かくおう〕となり給ひき。】
両部潅頂〔かんじょう〕の時、大日如来となったのです。

【如何にして閻魔の責めに】
このような人が、どうして閻魔〔えんま〕王の責めに

【預かり給ひけるやらん。】
会うことになったのでしょうか。

【日蓮は顕密〔けんみつ〕二道の中に勝れさせ給ひて、我等易々と】
日蓮は、顕教、密教の二道の中で、我々、衆生が楽々と

【生死を離るべき教に入らんと思い候ひて、】
生死を離れることが出来る最も優れている教えに入ろうと思って、

【真言の秘教をあらあら習ひ、此の事を尋ね勘ふるに、】
真言の秘教を、ほぼ習い納め、このことを尋ねたときに、

【一人として答へをする人なし。】
一人として、このことについて答えられる人は、居なかったのです。

【此の人悪道を免れずば、】
もし、この人が悪道を免〔まぬが〕れなければ、

【当世の一切の真言】
どうして、現在のすべての真言師や、

【並びに一印一真言の】
真言を信じて、一度でも手に印を結び、口に真言を唱えたことのある

【道俗、三悪道の罪を免るべきや。】
出家、在家の人々が三悪道の罪を免〔まぬが〕れることが出来るでしょうか。

【日蓮此の事を委〔くわ〕しく勘ふるに、】
日蓮が、この善無畏〔ぜんむい〕三蔵の事を詳しく調べてみると、

【二つの失〔とが〕有って、閻魔王の責めに預かり給へり。】
二つの間違いがあって、閻魔〔えんま〕王の叱責〔しっせき〕を受けたのです。

【一つには、大日経は法華経に劣るのみに非ず、涅槃〔ねはん〕経・】
一つは、大日経は、法華経に劣るだけでなく、涅槃経〔ねはんぎょう〕や

【華厳〔けごん〕経・般若〔はんにゃ〕経等にも及ばざる経にて候を、】
華厳〔けごん〕経、般若〔はんにゃ〕経などにも及ばない経文であるのに、

【法華経に勝れたりとする謗法の失なり。】
法華経より優れているとした、誹謗正法の罪なのです。

【二つには、大日如来は釈尊の分身〔ふんじん〕なり。】
二つには、大日如来は、釈尊の分身であるにもかかわらず、

【而るを大日如来は教主釈尊に勝れたりと思ひし僻見〔びゃっけん〕なり。】
大日如来は、教主釈尊より優れていると思う、僻見〔びゃっけん〕なのです。

【此の謗法の罪は無量劫の間、千二百余尊の法を行なはずとも】
この二つの謗法の罪は、たとえ無量劫の間、千二百余尊の法を修行したとしても

【悪道を免〔まぬか〕るべからず。】
悪道を免〔まぬが〕れることが出来ない、重いものなのです。

【此の三蔵此の失免れ難き故に、諸尊の印真言を作〔な〕せども】
それで、善無畏〔ぜんむい〕三蔵が、いくら諸尊の印を結び、真言を唱えても、

【叶はざりしかば、】
この謗法の罪を免〔まぬが〕れることが出来なかったので、

【法華経第二の譬喩品〔ひゆほん〕の「今此三界】
法華経第二巻の譬喩品〔ひゆほん〕の「今此〔こ〕の三界は、

【皆是我有・】
皆〔み〕な是〔こ〕れ我〔わ〕が有〔う〕なり。

【其中衆生悉是吾子・】
其の中の衆生は悉〔ことごと〕く是れ吾〔わ〕が子なり。

【而今此処多諸患難〔げんなん〕・】
而〔しか〕るに今此の処は、諸〔もろもろ〕の患難〔げんなん〕多し。

【唯我一人能為救護〔くご〕」の文を唱へて、】
ただ我れ一人のみ能〔よ〕く救護〔くご〕を為す」という文章を唱え、

【鉄の縄を免れさせ給ひき。】
鉄の繩を免〔まぬが〕れることができたのです。

【而るに善無畏已後の真言師等は、】
ところが、善無畏〔ぜんむい〕三蔵以後の真言師は、

【大日経は一切経に勝るゝのみに非らず、法華経に超過せり。】
大日経は、一切経に優れているだけでなく、法華経も超えていると言い、

【或は法華経は華厳経にも劣るなんど申す人もあり。】
また、法華経は、華厳経にも劣〔おと〕るなどと言う人もいるのです。

【此等は人は異なれども其の謗法の罪は同じきか。】
これらは、人は、異なっていても、その謗法の罪は、同じなのです。

【又、善無畏三蔵、】
また、善無畏〔ぜんむい〕三蔵は、

【法華経と大日経と大事とすべしと】
法華経と大日経とは、ともに大事にすべき経典であり、

【深理〔じんり〕をば同ぜさせ給ひしかども、】
その理論の深さにおいては、同じと考えましたが、

【印と真言とは法華経は大日経に】
印と真言については、法華経は、大日経よりも

【劣りけるとおぼせし僻見計〔ばか〕りなり。】
劣〔おと〕っていると考える、僻見〔びゃっけん〕だけの罪でしたが、

【其の已後の真言師等は大事の理をも】
それ以後の真言師は、その大事な理論についても

【法華経は劣れりと思へり。】
法華経が大日経に劣〔おと〕っていると思っています。

【印真言は又申すに及ばず、】
印と真言について、優劣を立てることについては、言うに及びません。

【謗法の罪遥〔はる〕かにかさ〔重〕みたり。】
こうして、彼等の謗法の罪は、ますます、積み重なっていったのです。

【閻魔の責めにて】
閻魔〔えんま〕の叱責〔しっせき〕によって、

【堕獄の苦を延ぶべしとも見へず、】
堕地獄の苦を延期できるとも思えません。

【直ちに阿鼻〔あび〕の炎〔ほのお〕をや招くらん。】
すぐに、阿鼻〔あび〕地獄の炎〔ほのお〕を招くことでしょう。

【大日経には本〔もと〕一念三千の深理なし。】
大日経には、もともと一念三千の深理は、説かれていません。

【此の理は法華経に限るべし。善無畏三蔵、】
この深い理論は、法華経に限るのです。善無畏〔ぜんむい〕三蔵は、

【天台大師の法華経の】
天台大師が法華経を読んで取り出された

【深理を読み出ださせ給ひしを盗み取りて大日経に入れ、】
一念三千の深理を盗み取って、大日経に取り入れ、

【法華経の荘厳〔しょうごん〕として説かれて候】
法華経を荘厳するために説かれた

【大日経の印真言を彼の経の得分〔とくぶん〕と思へり。】
大日経の印と真言を、大日経の優れた部分であると思ったのです。

【理も同じと申すは】
したがって理論においても、法華経と大日経とは、同じであるというのは、

【僻見なり。】
とんでもない僻見〔びゃっけん〕なのです。

【真言〔しんごん〕印契〔いんげい〕を得分と思ふも邪見なり。】
真言と印契〔いんげい〕は、大日経の優れた部分であると思うのも邪見なのです。

【譬へば人の下人の六根は主の物なるべし。】
たとえば、使用人の道具は、主人のものなのです。

【而るを我が財〔たから〕と思ふ故に多くの失〔とが〕出で来たる。】
それを自分の財産と思う故に、多くの誤りが出てくるのです。

【此の譬へを以て諸経を解〔さと〕るべし。】
この譬えによって、諸経を理解すべきなのです。

【劣る経に説く法門は、勝れたる経の得分となるべきなり。】
劣〔おと〕る経文に説かれている法門は、優れた経文の証明となるべきなのです。


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