日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


妙法比丘尼御返事 第六章 大聖人の敵〔かたき〕との交わりの結果


【さては又尾張次郎兵衛尉殿の御事、見参〔げんざん〕に入りて候ひし人なり。】
さて尾張次郎兵衛尉〔ひょうえのじょう〕殿は、御会いしたことがある人です。

【日蓮は此の法門を申し候へば、他人にはに〔似〕ず、】
日蓮は、この法門を弘〔ひろ〕めているので他の人とは、比較にならないほど、

【多くの人に見〔まみ〕えて候へども、】
多くの人に会ったのですが、

【いとを〔愛〕しと申す人は千人に一人もありがたし。】
ほんとうに素晴らしいと思った人は、千人に一人もいませんでした。

【彼の人はよも心よせには思はれたらじ。】
尾張次郎兵衛尉殿は、まさか日蓮の言うことを信じておられなかったでしょうが、

【なれども自体人がらにくげ〔憎気〕なるふりなく、】
その人柄は、いばるところがなく、

【よろづの人になさ〔情〕けあらんと思ひし人なれば、】
誰にでも情〔なさけ〕深い人であったので、

【心の中はうけずこそをぼしつらめども、】
心の中は、どうであったかは、知りませんが、

【見参の時はいつ〔偽〕はりをろ〔愚〕かにて有りし人なり。】
会った時は、いつも穏やかな人でした。

【又女房の信じたるよしありしかば、実とは思ひ候はざりしかども、】
また、奥様が法華経を信じておられるということから、真実とは、思いませんが、

【又いたう法華経に背く事はよもをはせじなれば、たのもしきへんも候。】
また特別に法華経に背くことなどは、ないだろうと、頼もしく思っておりました。

【されども法華経を失ふ念仏並びに念仏者を信じ、】
しかし、法華経を誹謗している念仏宗や念仏者を信じ、

【我が身も多分は念仏者にてをはせしかば、】
我が身も長年に渡って念仏者であったので、

【後生はいかゞとをぼつかなし。】
後生は、いかがであろうかと心配しております。

【譬へば国主はみやづか〔宮仕〕へのねんごろなるには、】
たとえば、国主が仕事ができる者には、

【恩のあるもあり又なきもあり。】
恩賞を与えたり、与えなかったりしますが、

【少しもをろ〔疎〕かなる事候へば】
それでも少しでも、その仕事を疎〔おろそ〕かにすれば、

【とが〔咎〕になる事疑ひなし。法華経も又此くの如し。】
罰することは、疑いがないように、法華経も、また同じなのです。

【いかに信ずるやうなれども、】
いかに信じているようであっても

【法華経の御かたきにも知れ知らざれ、まじ〔交〕はりぬれば】
法華経の敵〔かたき〕と交われば、その罪を知ると知らないとに関わらず、

【無間地獄は疑ひなし。是はさてをき候ひぬ。】
無間地獄は、疑いありません。これは、さておき、

【彼の女房の御歎きいかゞとをしはかるにあはれなり。】
尾張次郎兵衛尉殿の奥様の嘆〔なげ〕きを思うと、実に悲しむべきことです。

【たとへばふぢ〔藤〕のはな〔花〕のさかんなるが、】
たとえば、藤の花が咲き誇って松に絡〔から〕まっても、

【松にかゝりて思ふ事もなきに、松のには〔俄〕かにたふ〔倒〕れ、】
その松が思いがけず倒れたようなものです。

【つた〔蔦〕のかき〔垣〕にかゝれるが、】
また、蔦〔つた〕が塀に伝わって伸びているのに、

【かきの破れたるが如くにをぼすらん。】
肝心のその塀が壊れたような気持でおられることでしょう。

【内へ入れば主なし。やぶ〔壊〕れたる家の柱なきが如し。】
家に入っても主人がいないのは、壊れた家に柱がないようなものです。

【客人〔まろうど〕来たれども外に出でてあひしらうべき人もなし。】
客が来ても、外に出て応対してくれる人もいないでしょう。

【夜のくらきには、ねや〔閨〕すさまじく、はか〔墓〕をみれば、】
夜は暗く、寝室は、物寂しく、墓を見れば、

【しるしはあれども声もきこへず。】
墓標は、あっても、その声は、聞こえません。

【又思ひやる死出の山、三途の河をば】
また、亡くなった夫のことを思いやれば、死出の山、三途の河を

【誰とか越え給ふらん、】
どのような人と一緒に越えているのかと心配となり、

【只独〔ひと〕り歎き給ふらん。】
もしや、ただ一人であることを嘆〔なげ〕いているのかもしれないと思い、

【とゞめをきし御前たちいかに我をばひと〔独〕りや〔遣〕るらん。】
また、後に残した御前達は、どうして自分を一人だけにするのか、

【さはちぎ〔契〕らざりとや歎かせ給ふらん。】
そういう約束では、なかったはずなのにと言っているのではないかと考え、

【かたがた秋の夜のふけゆくまゝに、冬の嵐のをとづるゝ声につけても、】
秋の夜がふけ行くにつけ、冬の嵐の音を聞くにつけ、

【弥々〔いよいよ〕御歎き重〔おも〕り候らん。】
いよいよ、その思いが深くなっていることでしょう。

【南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。】
南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。

【弘安元年(戊寅)九月六日    日蓮花押】
弘安1年9月6日    日蓮花押

【妙法比丘尼御伝へ】
妙法尼御前へ


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