日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


立正安国論 2 災難の来由


【立正安国論 文応元年七月一六日 三九歳】
立正安国論 文応元年(西暦1260年)7月16日 三十九歳御作

第一問 是何なる誤りに由るや

【旅客来〔き〕たりて嘆〔なげ〕いて曰〔いわ〕く、】
旅人が来て嘆いて、このように言いました。

【近年より近日に至るまで、】
正嘉元年から今年の文応元年にいたる四年の間に、

【天変・地夭〔ちよう〕・飢饉〔ききん〕・疫癘〔えきれい〕】
大地震や大風などの天変地異が続き、飢饉が起き、疫病が流行して、

【遍〔あまね〕く天下に満ち、広く地上に迸〔はびこ〕る。】
災難が天下に満ち、広く地上に、はびこっています。

【牛馬巷〔ちまた〕に斃〔たお〕れ、】
その為に牛や馬は、いたる所で死んでおり、

【骸骨〔がいこつ〕路〔みち〕に充〔み〕てり。】
骸骨は、路上にみちています。

【死を招くの輩〔ともがら〕既に大半に超〔こ〕え、】
すでに大半の人々が死に絶えて、

【之〔これ〕を悲しまざるの族〔やから〕敢〔あ〕へて一人〔いちにん〕も無し。】
この悲惨な状態を悲しまない者は、一人もいません。

【然〔しか〕る間、或は】
このような状況の中で、ある者は

【利剣即是〔りけんそくぜ〕の文を】
「煩悩業苦を断ち切る利剣は阿弥陀の名前を称える事である」と云う文章を信じて

【専〔もっぱ〕らにして西土〔さいど〕教主の名を唱へ、】
ただ、ひたすら西方浄土の教主である阿弥陀仏の名前ばかりを唱え、

【或は衆病悉除〔しゅびょうしつじょ〕の願〔がん〕を恃〔たの〕みて】
ある者は、薬師如来の名前を聞けばすべての病いは、治癒されると云う、

【東方如来の経を誦〔じゅ〕し、】
東方浄瑠璃世界の薬師如来の誓願を信じて、その経文を読誦し、

【或は病即消滅不老不死の詞〔ことば〕を仰〔あお〕いで】
また、ある者は、法華経薬王品の「病は消滅し不老不死となる」と云う言葉を信じて

【法華真実の妙文〔みょうもん〕を崇〔あが〕め、】
法華経を真実の妙文と崇め、

【或は七難即滅七福即生の句〔く〕を信じて】
ある者は「七難は消えて七福が生ずる」と云う仁王〔にんのう〕般若経の句を信じて

【百座百講の儀〔ぎ〕を調〔ととの〕へ、】
百人の僧侶が、この経を講ずるという仁王会〔にんのうえ〕の儀式を営んでいます。

【有〔あ〕るは秘密真言の教〔きょう〕に因〔よ〕って】
また、ある者は、密教である真言の教えによって

【五瓶〔ごびょう〕の水を灑〔そそ〕ぎ、】
五つの瓶〔びん〕に水を注いで災難を除く祈祷を行ない、

【有るは坐禅入定の儀を全うして】
ある者は、禅宗の修行をして精神の集中をはかり、

【空観〔くうがん〕の月を澄まし、】
我が心性の月を澄ませば無一物の空に達すと信じ苦悩から逃れようとしています。

【若〔も〕しくは七鬼神の号〔な〕を書して千門に押し、】
また、ある者は、却温神呪経にある七善鬼の名を書いて門ごとに貼ったり、

【若しくは五大力の形を図して万戸〔ばんこ〕に懸〔か〕け、】
ある者は、五大力菩薩の書いた札を各家の四隅に貼って厄除けにかけたり、

【若しくは天神地祇〔ちぎ〕を拝して】
ある者は、天神、地神に参拝をして

【四角四堺〔しかい〕の祭祀〔さいし〕を企〔くわだ〕て、】
京を守る四角祭や国を守る四境祭などの祭祀を行って災難を除こうとしたり、

【若しくは万民百姓〔ひゃくせい〕を哀れみて】
また民衆の窮状を哀れんで、

【国主国宰〔こくさい〕の徳政を行なふ。】
為政者達は、数々の災害対策、慈善事業などを行なっています。

【然〔しか〕りと雖〔いえど〕も唯〔ただ〕肝胆〔かんたん〕を】
しかしながら、ただ、いたずらに心を

【摧〔くだ〕くのみにして弥〔いよいよ〕飢疫に逼〔せま〕り、】
砕くだけで何の効果もなく、飢饉や疫病は、ますますひどくなるばかりなのです。

【乞客〔こっかく〕目に溢〔あふ〕れ死人眼〔まなこ〕に満てり。】
目につくものは、家を失い彷徨〔さまよ〕い歩く者と死者ばかりなのです。

【臥〔ふ〕せる屍〔しかばね〕を観〔ものみ〕と為〔な〕し、】
その死骸は、積み重なって物見の台のようであり、

【並べる尸〔かばね〕を橋と作〔な〕す。】
また、死骸が川に浮かんで橋が作られています。

【観〔おもんみ〕れば夫〔それ〕二離璧〔じりたま〕を合はせ、】
思いをめぐらせてみると、日、月が昼夜を照らし、

【五緯珠〔ごいたま〕を連〔つら〕ぬ。】
五つの惑星は、玉を連ねたように規則正しく運行し、

【三宝〔さんぼう〕世に在〔いま〕し、】
仏法僧の三宝が広く世に尊ばれており、

【百王未〔いま〕だ】
第五十一代平城天皇の世代に八幡大菩薩の託宣があり

【窮〔きわ〕まらざるに、】
天皇百代まで守護するとの誓いがあるはずなのに、

【此の世〔よ〕早く衰へ、】
しかし、この天変地異によって、この世は、こんなに早く衰え、

【其の法何〔なん〕ぞ廃〔すた〕れたるや。】
仏法も王法も、その威力を失い、すたれてしまったのでしょうか。

【是〔これ〕何〔いか〕なる禍〔わざわい〕に依り、】
これは、いったい、どのような災いによって生じ、

【是何なる誤りに由〔よ〕るや。】
また、どのような過ちによって起こっているのでしょうか。

第一答 世皆正に背き人悉く悪に帰す

【主人の曰く、】
それについて主人が答えて言いました。

【独〔ひと〕り此の事を愁〔うれ〕ひて】
私も、一人、この災難の原因について思い悩んでいましたが、

【胸臆〔くおく〕に憤悱〔ふんぴ〕す。】
ただ、心を痛めるだけで誰にも話す機会がありませんでした。

【客来〔き〕たりて共に嘆く、】
あなたが来られて、私と同じように嘆かれているのを知り、

【屢〔しばしば〕談話を致さん。】
しばらく、この災難の原因について語り合おうと思います。

【夫〔それ〕出家して道〔みち〕に入る者は】
そもそも、私たちが出家し仏道に入るのは、

【法に依って仏を期〔ご〕するなり。】
仏法によって悟りを開き、人々を救いたいからなのです。

【而〔しか〕るに今〔いま〕神術も協〔かな〕はず、】
しかし、いま現実に世の中を見てみますと神への祈りもかなわず、

【仏威も験〔しるし〕無し。】
仏の威勢も現われず、災難は、いよいよ増すばかりで、何の効果もありません。

【具〔つぶさ〕に当世の体〔てい〕を覿〔み〕るに、】
現実の状況を見ても、このような状態ですから、

【愚〔おろ〕かにして後生〔こうせい〕の疑ひを発〔お〕こす。】
未来に人々を救うと云う願いは、愚かにも無理ではないかと疑われてなりません。

【然れば則〔すなわ〕ち円覆〔えんぶ〕を仰いで恨〔うら〕みを呑〔の〕み、】
それで私は、ただ空を仰いでは、このような状況を恨みに思い、

【方載〔ほうさい〕に俯〔ふ〕して慮〔おもんばか〕りを深くす。】
大地に伏しては、深く憂慮に沈んでおります。

【倩〔つらつら〕微管〔びかん〕を傾け】
私は、はなはだ視野が狭い愚かな者ですが、

【聊〔いささか〕経文を披〔ひら〕きたるに、】
少々、経文を開いて読んでみると、

【世皆〔みな〕正に背〔そむ〕き】
この災難の原因は、世の中のすべての人々が正法に背いて

【悉〔ことごと〕く悪に帰す。】
謗法の悪に帰依した事にあるのです。

【故に善神国を捨てゝ相〔あい〕去り、】
その為、国を護るはずの諸天善神は、この国を見捨てて天上に去ってしまい、

【聖人所を辞して還らず。是〔ここ〕を以て】
聖人もところを辞して還って来ないのです。その隙に乗じて、

【魔来〔き〕たり鬼〔き〕来たり、災〔さい〕起こり難〔なん〕起こる。】
魔が来たり、鬼が来たりして次々に災難が起こるのです。

【言〔い〕はずんばあるべからず。】
まことにこれは、言わずにはおられぬ極めて重大な事なのです。

【恐れずんばあるべからず。】
また、恐れなければならない事なのです。


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