御書研鑚の集い 御書研鑽資料
立正安国論 8 施を止めて命を断つ
第七問 災を消し難を止むるの術有らば聞かんと欲す
【客則ち和〔やわ〕らぎて曰く、】
客は、主人の言葉を聞いて、さらに態度を和〔やわ〕らげて次のように尋ねました。
【経〔きょう〕を下し】
私には、法然が経典を軽んじたり、
【僧を謗ずること一人には論じ難し。】
僧侶を謗〔そし〕ったりしているかどうかは、わかりません。
【然れども大乗経六百三十七部・二千八百八十三巻、】
しかし、すべての大乗経典六百三十七部二千八百八十三巻と
【並びに一切の諸仏菩薩及び諸〔もろもろ〕の世天等を以て、】
すべての仏や菩薩や諸天善神を、
【捨閉閣抛〔しゃへいかくほう〕の四字に載〔の〕す。】
捨閉閣抛の四文字で捨てた事は、わかりました。
【其の詞〔ことば〕勿論〔もちろん〕なり、】
その言葉は、もちろん、そういう意味であり、
【其の文顕然〔けんねん〕なり。】
その文章で経典を軽んじている事は確かです。
【此の瑕瑾〔かきん〕を守りて】
しかし、そのわずか四文字を取り上げて
【其の誹謗を成〔な〕せども、】
法然を謗法の者だと誹謗するのは、いかがかと思われます。
【迷ふて言ふか、覚〔さと〕りて語るか。】
どれくらいの確信で言われているのかわかりませんが、
【賢愚弁〔わか〕たず、是非定〔さだ〕め難し。】
法然が賢いのか愚かなのか正しいのか間違っているのかいずれとも決められません。
【但し災難の起こりは選択に因〔よ〕るの由、】
ただ災難が起こる原因が選択集にあるという主張は、
【盛〔さか〕んに其の詞を増し、弥〔いよいよ〕其の旨を談ず。】
先ほどからの理由の通りであるとわかって来ました。
【所詮〔しょせん〕天下泰平国土安穏〔あんのん〕は君臣の楽〔ねが〕ふ所、】
世の中が平和であり国土が安穏である事は、国王から民衆までの
【土民の思ふ所なり。】
すべての人々の願いなのです。
【夫〔それ〕国は法に依って昌〔さか〕え、法は人に因って貴し。】
それを思うと、国は、思想によって繁栄し、思想は、人によって選ばれるものです。
【国亡び人滅せば仏を誰か崇むべき、】
もし、国が滅び、民衆が滅亡してしまったならば、
【法を誰か信ずべきや。】
いったい誰がその思想を信じるのでしょうか。
【先ず国家を祈りて須〔すべから〕く仏法を立つべし。】
そうであれば、まず国の安穏を祈って、その後に思想を考えるべきであります。
【若し災を消し難を止むるの術有〔あ〕らば聞かんと欲す。】
そこで、もし災難を除く方法があるならば、どうかお聞かせ願いたいものです。
第七答 天下の静謐を思はゞ須く国中の謗法を断つべし
【主人の曰く、】
主人がそれについて、このように答えました。
【余は是頑愚〔がんぐ〕にして敢〔あ〕へて賢〔けん〕を存せず。】
私は、まことに愚かな者であって災難を払う方法は、よくわかりません。
【唯〔ただ〕経文に就〔つ〕いて】
しかし、仏の弟子でありますから、仏の教えである経文によって
【聊〔いささか〕所存を述べん。】
少しばかり、考えを述べてみたいと思います。
【抑〔そもそも〕治術の旨、内外〔ないげ〕の間、】
およそ災難を払う方法は、仏教にも仏教以外の教えにもいろいろとあって、
【其の文幾多〔いくばく〕ぞや。具〔つぶさ〕に挙ぐべきこと難し。】
具体的にあげる事は難しいのです。
【但し仏道に入りて数〔しばしば〕愚案を廻〔めぐ〕らすに、】
しかし、仏法を基本においてそれを考えれば、
【謗法の人を禁〔いまし〕めて正道〔しょうどう〕の侶〔りょ〕を重んぜば、】
正法を謗〔そし〕る人を禁じて、正法を信ずる人を重〔おも〕んじれば、
【国中〔こくちゅう〕安穏にして天下泰平ならん。】
国は、安穏になり、天下は、泰平になるのです。
【即ち涅槃経に云はく「仏の言〔のたま〕はく、】
涅槃経の大衆所問品には、「仏が純陀の問いに答えて言われるのには、
【唯一人を除きて余の一切に施〔ほどこ〕さば皆讃歎〔さんだん〕すべし。】
ただ一人を除いて、人々に施しをする事は、すべて讃嘆されるべきである。
【純陀〔じゅんだ〕問うて言〔い〕はく、】
純陀が質問するのには、
【云何〔いか〕なるをか名づけて唯除一人〔ゆいじょいちにん〕と為す。】
その、ただ一人を除いてとは、どのような人であるかと。
【仏の言はく、此の経の中に説く所の如きは破戒なり。】
仏は、それは、戒を破る者であると答えられた。
【純陀復〔また〕言はく、我今未だ解せず、】
純陀はさらに、私には、よく意味がわかりませんが、
【唯〔ただ〕願はくは之を説きたまへ。】
どう云う事であるのか、もう少し詳しく、お聞かせくださいと願った。
【仏〔ほとけ〕純陀に語りて言はく、】
仏は、純陀に語るところには、
【破戒とは謂〔い〕はく一闡提〔いっせんだい〕なり。】
破戒とは一闡提〔いっせんだい〕の事であると答えられた。
【其の余の在所〔あらゆる〕一切に布施するは皆讃歎すべし、】
一闡提を除く、あらゆる者に施す事は、すべて讃嘆されるべき事であって
【大果報を獲〔え〕ん。】
大果報を得るであろうと答えられた。
【純陀復〔また〕問ひたてまつる。一闡提とは其の義云何〔いかん〕。】
純陀は、再び一闡提とは、どう言う者の事ですかと質問すると、
【仏の言〔のたま〕はく、純陀、若し比丘及び比丘尼・優婆塞〔うばそく〕・】
仏は、純陀よ、出家した者や
【優婆夷〔うばい〕有りて麁悪〔そあく〕の言〔ことば〕を発し、】
在家の者が口汚い言葉で
【正法〔しょうぼう〕を誹謗せん。是の重業〔じゅうごう〕を造りて】
正法誹謗の大罪を犯し、
【永く改悔〔かいげ〕せず、心に懺悔〔ざんげ〕無からん。】
なおかつ、それを悔い改めず、懺悔しない者で、
【是くの如き等の人を名づけて一闡提の道〔みち〕に趣向〔しゅこう〕すと為す。】
このような者を名づけて、一闡提の道に進んでいる者と云うのである。
【若し四重を犯し】
もし、殺生、盗難、淫行、妄語の四つの重罪を犯し、
【五逆罪を作り、】
父母を殺し、僧を殺し、仏を傷つけ、宗門を破壊する五つの反逆罪を犯して、
【自〔みずか〕ら定めて是くの如き重事〔じゅうじ〕を犯すと知れども、】
自分でその罪を計画し、その罪の重大な事を知りながらも、
【而〔しか〕も心に初めより怖畏〔ふい〕・懺悔無く、】
怖れる心もなく、繊悔の心もなく、
【肯〔あ〕へて発露〔はつろ〕せず。】
あえてその罪を告白しようともしない者、
【彼の正法に於て永く護惜〔ごしゃく〕建立〔こんりゅう〕の心無く、】
このように正法を護り大切にする心もなく、これを弘めようとする志もなく、
【毀呰軽賎〔きしきょうせん〕して言に過咎〔かぐ〕多からん。】
かえって謗〔そし〕り、軽蔑したりする者。
【是くの如き等の人を亦一闡提の道に趣向すと名づく。】
このような者を一闡提の道に進んでいる者と云うのである。
【唯此くの如き一闡提の輩〔やから〕を除きて其の余に施さば】
この一闡提を除いて、その他の者に施す事は、
【一切讃歎すべし」と。】
すべて讃嘆されるべき事である」と説かれているのです。
【又云はく「我往昔〔むかし〕を念〔おも〕ふに、】
また涅槃経聖行品には「私は昔、
【閻浮提に於て大国の王と作〔な〕れり。名を仙予〔せんよ〕と曰ひき。】
この人間の世界に生まれて大国の王となった。その名を仙予と言った。
【大乗経典を愛念〔あいねん〕し敬重〔きょうじゅう〕し、】
大乗経典を大切にし、敬い、
【其の心〔こころ〕純善にして麁悪嫉悋〔そあくしつりん〕有ること無し。】
心は素直で、ねたみや物を惜しみ怨むといった気持ちは、まったくなかった。
【善男子、我爾〔そ〕の時に於て心に大乗を重んず。】
みなさん、私はその時、法華経を重んじ、
【婆羅門〔ばらもん〕の方等〔ほうどう〕を誹謗するを聞き、】
外道が法華経を誹謗するのを聞いて、
【聞き已〔お〕はって即時に其の命根〔みょうこん〕を絶〔た〕つ。】
即座にその者の命を断ってしまった。
【善男子、是の因縁を以〔もっ〕て是より已来〔このかた〕】
しかし、この因縁に依って、これより以後、
【地獄に堕〔だ〕せず」と。】
地獄に堕ちる事はなかったのである」とあるのです。
【又云はく「如来昔〔むかし〕国王と為〔な〕りて菩薩道を行ぜし時、】
また同じく涅槃経梵行品には、「仏が昔、国王となり菩薩の修行をしていた時、
【爾所〔そこばく〕の婆羅門の命を断絶す」と。】
外道の命を断った」と説かれています。
【又云はく「殺〔せつ〕に三〔み〕つ有り、】
同じく涅槃経の梵行品には、「殺生に三種類あり、
【謂〔い〕はく下中上〔げちゅうじょう〕なり。】
それは、上、中、下の殺生である。
【下とは蟻子〔ぎし〕乃至〔ないし〕一切の畜生なり。】
下の殺生と言うのは、蟻のようなものをはじめ、あらゆる畜生を殺す事である。
【唯〔ただ〕菩薩の示現生〔じげんしょう〕の者を除く。】
ただし、菩薩が畜生に身を変じている場合は除く。
【下殺〔げせつ〕の因縁を以て】
下の殺生をした因縁によって、
【地獄・畜生・餓鬼に堕〔だ〕して具〔つぶさ〕に下の苦を受く。】
地獄、畜生、餓鬼の三悪道に堕ち、下の苦しみを受ける。
【何を以ての故に。是の諸〔もろもろ〕の畜生に微〔わず〕かの善根有り、】
それは、どんな生物でも、微かながらも善根を持っているからなのである。
【是の故に殺す者は具〔つぶさ〕に罪報を受く。】
この理由によって、畜生を殺せば、三悪道に堕ちる罪の報いを受けるのです。
【中殺〔ちゅうせつ〕とは】
また中の殺生と言うのは、
【凡夫の人より阿那含〔あなごん〕に至るまで是を名づけて中と為す。】
凡夫や仏教を学び退転しない者を殺す事である。
【是の業因〔ごういん〕を以て地獄・畜生・餓鬼に堕して】
その結果、地獄、餓鬼、畜生の三悪道に堕ちて下の殺生よりも、
【具に中〔ちゅう〕の苦を受く。】
さらに重い苦しみを受けるのです。
【上殺〔じょうせつ〕とは父母乃至阿羅漢・辟支仏〔びゃくしぶつ〕・】
上の殺生というのは、父や母、声聞、縁覚や
【畢定〔ひつじょう〕の菩薩なり。阿鼻〔あび〕大地獄の中に堕す。】
菩薩を殺すことです。この報いは、もっとも重く無間地獄に堕ちるのである。
【善男子、若し能〔よ〕く一闡提を殺すこと有らん者は】
このように三種の殺生があるけれども、一闡提を殺す事は、
【則ち此の三種の殺の中に堕せず。善男子、彼の諸の婆羅門等は】
その中に含まれない。みなさん、このような外道達は、
【一切皆〔みな〕是〔これ〕一闡提なり」已上。】
正法を誹謗する一闡提であるから、彼らを殺しても罪にはならないのです。
【仁王〔にんのう〕経に云はく】
また仁王経の受持品には、
【「仏〔ほとけ〕波斯匿王〔はしのくおう〕に告げたまはく、】
「仏が波斯匿王に言うのには、正法を護る為には、権力が必要であるから
【是の故に諸の国王に付嘱〔ふぞく〕して比丘・比丘尼に付嘱せず。】
多くの国王にそれを依頼し、僧侶や尼達には頼まないのである。
【何を以ての故に。王のごとき威力〔いりき〕無ければなり」已上。】
なぜならば僧侶には、国王のような武力がないからなのである」と説かれています。
【涅槃経に云はく「今〔いま〕無上の正法〔しょうぼう〕を以て】
また涅槃経の寿命品には、「今、最高の正法を護るように、
【諸王・大臣・宰相〔さいしょう〕及び四部の衆に付嘱す。】
すべての国王や大臣や役人、そして僧侶や信者に依頼する。
【正法を毀〔そし〕る者をば大臣四部の衆、】
正法を誹謗する者があれば、みんなで力を合わせて、
【当〔まさ〕に苦治〔くじ〕すべし」と。】
徹底的に根絶しなければならない」と説かれています。
【又云はく「仏の言〔のたま〕はく、】
同じく涅槃経の金剛身品に「仏は、このように言われた、
【迦葉〔かしょう〕能〔よ〕く正法を護持〔ごじ〕する因縁を以ての故に】
迦葉よく過去世において正法を護った故に、
【是の金剛身〔こんごうしん〕を成就することを得たり。】
このような金剛の仏身を成就する事が出来たのである。
【善男子、正法を護持せん者は】
みなさん、正法を護る者は、
【五戒を受けず、威儀〔いぎ〕を修せずして、】
不殺生戒、不偸盗戒、不妄語戒、不邪淫戒、不飲酒戒を守り礼儀を整えなくとも、
【応〔まさ〕に刀剣・弓箭〔きゅうせん〕・鉾槊〔むさく〕を】
まずは、刀や剣〔つるぎ〕、弓や槍〔やり〕を
【持すべし」と。】
取って正法を護るべきである」と説かれました。
【又云はく「若し五戒を受持せん者有らば名づけて】
また同じ金剛身品の別の箇所では「五戒を守っても
【大乗の人と為すことを得ざるなり。】
大乗の人とは言えない。
【五戒を受けざれども正法を護〔まも〕るを為〔もっ〕て、】
たとえ五戒を守らなくても正法を護る者は、
【乃〔すなわ〕ち大乗と名づく。正法を護る者は、】
大乗の人だと言えるのである。正法を護る者は、
【当に刀剣器仗〔とうけんきじょう〕を執持〔しゅうじ〕すべし。】
刀や杖を持たねばならない。
【刀杖〔とうじょう〕を持つと雖も、我是等〔これら〕を説きて、】
刀や杖を持つと言っても、それは、
【名づけて持戒と曰〔い〕はん。」と。】
戒を持つと同じなのである」と説かれているのです。
【又云はく「善男子、過去の世に】
また同じ金剛身品には、過去の護法の因縁について「みなさん、過去世において、
【此の拘尸那城〔くしなじょう〕に於て仏の世に出でたまふこと有りき。】
この拘戸那城に仏がいた。
【歓喜〔かんぎ〕増益〔ぞうやく〕如来と号〔ごう〕したてまつる。】
その名を歓喜増益如来と云う。
【仏〔ほとけ〕涅槃〔ねはん〕の後〔のち〕、正法世に住すること無量億歳なり。】
この仏が入滅してから無量億の年月が流れても、正法は、滅ばなかったのである。
【余の四十年仏法の末〔すえ〕、爾〔そ〕の時に一〔ひとり〕の持戒の比丘有り、】
そして、その正法が滅びようとする時に、戒律を堅く持った僧侶が現われた。
【名を覚徳〔かくとく〕と曰ふ。】
名前を覚徳と云う。
【爾の時に多く破戒の比丘有り。是の説を作すを聞き】
その時に多くの破戒の僧侶達がおり、彼らは、覚徳が正法を説くのを聞いて
【皆〔みな〕悪心を生じ、刀杖〔とうじょう〕を執持して是の法師を逼〔せ〕む。】
憎しみの心が生じ、刀や杖をもって覚徳を迫害したのである。
【是の時の国王の名を有徳〔うとく〕と曰ふ。】
この時の国王は、有徳と言ったが、
【是の事を聞き已〔お〕はって、護法の為の故に、】
この事件を聞いて、正法を護る為に、
【即便〔すなわち〕説法者の所に往至〔おうし〕して、】
覚徳の所に駆けつけ、
【是の破戒の諸の悪比丘と極めて共に戦闘す。】
破戒の悪僧達と戦った。
【爾の時に説法者厄害〔やくがい〕を免〔まぬか〕るゝことを得たり。】
そうやって覚徳を救い出したのである。
【王爾の時に於て身に刀剣箭槊〔せんさく〕の瘡〔きず〕を被〔こうむ〕り、】
有徳王は、全身に刀や弓を浴びて傷だらけになって、
【体〔からだ〕に完〔まった〕き処は芥子〔けし〕の如き許〔ばか〕りも無し。】
身体で傷を受けない場所は、少しもなかったのである。
【爾の時に覚徳〔かくとく〕、尋〔つ〕いで王を讃〔ほ〕めて言はく、】
その時、覚徳はこれを見て、有徳王を、
【善〔よ〕きかな善きかな、】
素晴らしい、素晴らしいとほめたたえ、
【王今真〔いままさ〕に是〔これ〕正法を護る者なり。】
有徳王よ、あなたは、まさに正法を護る人である。
【当来〔とうらい〕の世に此の身当〔まさ〕に無量の法器〔ほうき〕と為るべし。】
未来の世には、必ず無量の力を具えた仏法者となるであろう。
【王是の時に於て法を聞くことを得已〔お〕はって心大いに歓喜し、】
有徳王は、これを聞いて非常に喜び、
【尋いで即ち命終〔みょうじゅう〕して阿□仏〔あしゅくぶつ〕の国に生ず。】
やがて命終し、大通智勝仏の第一の智積王子である阿□仏の国に生まれたのである。
【而も彼の仏の為に第一の弟子と作〔な〕る。】
そして、その仏の第一の弟子となった。
【其の王の将従〔しょうじゅう〕・人民・眷属〔けんぞく〕の戦闘すること】
また、その王の家来で、王とともに戦った者、
【有りし者、歓喜すること有りし者、一切菩提の心を退せず、】
これを見て喜んだ者は、すべて真の仏道を求める心を起こしその心をひるがえさず
【命終して悉〔ことごと〕く阿□仏の国に生ず。】
そして、命終した後に、ことごとく阿□〔あしゅく〕仏の国に生まれたのである。
【覚徳比丘却〔さ〕って後〔のち〕寿〔いのち〕終はりて】
覚徳も命が終わった後に
【亦〔また〕阿□仏の国に往生〔おうじょう〕することを得て、】
同じく阿□仏の国に生まれて来る事が出来たのである。
【而も彼の仏の為に声聞衆の中の第二の弟子と作る。】
そして、この仏の第二の弟子となったのである。
【若し正法尽きんと欲すること有らん時、】
これは、過去世の話だが、いかなる時でも、
【当〔まさ〕に是くの如く受持し擁護〔おうご〕すべし。】
もし、正法が滅びようとする時は、こうして正法を譲らなければならない。
【迦葉〔かしょう〕、爾〔そ〕の時の王とは則〔すなわ〕ち】
迦葉よ、その時の有徳王とは、
【我が身是〔これ〕なり。説法の比丘は迦葉仏〔かしょうぶつ〕是なり。】
私の事であり、法を説いた覚徳比丘とは、迦葉仏の事である。
【迦葉、正法を護る者は是くの如き等の無量の果報を得ん。】
迦葉よ、正法を護る者にはこのような無量の果報が得られるのである。
【是の因縁を以て、我〔われ〕今日に於て種々の相を得て以て】
この過去の因縁によって、私は、今、数々の姿を現じて、
【自〔みずか〕ら荘厳〔しょうごん〕し、】
自らを素晴らしく飾り、
【法身〔ほっしん〕不可壊〔ふかえ〕の身を成ず。】
決して壊れる事のない不思議な身を成就する事が出来たのである。
【仏、迦葉菩薩に告げたまはく、是の故に護法の優婆塞〔うばそく〕等は、】
仏は、迦葉菩薩に告げた。このように、正法を護る在家信者達は、
【応〔まさ〕に刀杖を執持〔しゅうじ〕して擁護すること是くの如くなるべし。】
刀や杖などの武器をもって仏法を守護しなければならない。
【善男子、我涅槃の後、濁悪の世に国土荒乱し、】
みなさん、私が入滅して後の濁悪の世には、
【互ひに相抄掠〔あいしょうりょう〕し、人民飢餓せん。】
国は、乱れて互いに奪い合い、人民は飢えに苦しむであろう。
【爾の時に多く飢餓の為の故に発心出家するもの有らん。】
その時に食を得たいばかりに出家して僧侶となる者が多く出るのである。
【是の如きの人を名づけて禿人〔とくにん〕と為す。】
このような者は、ただのハゲ頭であって、仏教を学ばない俗人なのである。
【是の禿人の輩〔やから〕、正法を護持するを見て、】
このハゲ頭達は、正法を護る者を見ては、
【駈逐〔くちく〕して出ださしめ、若〔も〕しくは殺し若しくは害せん。】
追放し、殺し迫害を加えたりするのである。
【是の故に我今〔いま〕持戒の人諸の白衣〔びゃくえ〕の】
そうであるからこそ、私は、戒律を持つ僧侶が在家の
【刀杖を持つ者に依って、以て伴侶〔なんりょ〕と為すことを聴〔ゆる〕す。】
武器を持った人々と一緒になって正法を護ることを許すのである。
【刀杖を持つと雖も我是等〔これら〕を説きて名づけて持戒と曰〔い〕はん。】
武器をもっていても、これらの人々は、戒を持っているのと同じである。
【刀杖を持つと雖も、命を断ずべからず」と。】
ただし刀や杖を持つとも、みだりに人の命を断ってはならない」と説かれています。
【法華経に云く「若し人信ぜずして此の経を毀謗〔きぼう〕せば】
法華経の譬喩品には「もし、この経を信じないで誹謗する者がいれば、
【即ち一切世間の仏種を断ぜん。】
それは、すべての仏になる種を断じてしまう者である。
【乃至其の人命終して阿鼻獄〔あびごく〕に入らん。」巳上。】
また、その者は、命終の後に必ず無間地獄に堕ちるであろう」と説かれています。
【夫〔それ〕経文顕然〔けんねん〕なり。私の詞〔ことば〕何ぞ加へん。】
このように経文に明らかであり、この上、私の言葉を付け加える必要はありません。
【凡〔およ〕そ法華経の如くんば、】
法華経に説かれている通りであるならば、
【大乗経典を謗ずる者は無量の五逆に勝れたり。】
この大乗経典である法華経を謗る者は、五逆罪を数多く犯すよりも罪が重いのです。
【故に阿鼻大城に堕〔だ〕して永く出づる期〔ご〕無けん。】
ゆえに無間地獄に堕ちて、永久にそこから出る事は出来ないでしょう。
【涅槃経の如くんば、設〔たと〕ひ五逆の供〔く〕を許すとも】
また涅槃経に説かれる通りであれば、五逆罪を犯した者に供養する事は許されても
【謗法の施〔せ〕を許さず。】
正法を謗る者に布施する事は、許されないのです。
【蟻子〔ぎし〕を殺す者は必ず三悪道〔さんなくどう〕に落つ。】
蟻を殺した者でも、必ず地獄、餓鬼、畜生の三悪道に堕ちると説かれていますが、
【謗法を禁〔いまし〕むる者は定めて不退の位に登る。】
正法謗法の者をいましめる者は、必ず、仏道修行を全うすると云う事です。
【所謂〔いわゆる〕覚徳〔かくとく〕とは】
過去に於いて正法謗法の者に迫害されても、なお正法を弘めた覚徳比丘とは、
【是〔これ〕迦葉仏〔かしょうぶつ〕なり。】
実は、後の迦葉仏の事なのです。
【有徳〔うとく〕とは則ち釈迦文〔しゃかもん〕なり。】
謗法者を討って正法を護った有徳王は、後の釈迦牟尼仏の事なのです。
【法華・涅槃の経教〔きょうぎょう〕は一代五時の肝心なり。】
法華経と涅槃経に説かれる教えは、釈尊一代の仏教の中で最も大切な肝要であり、
【其の禁め実に重し、誰〔たれ〕か帰仰〔きごう〕せざらんや。】
極めて重要で、誰がこれを守らない者がいるでしょうか。
【而るに謗法の族〔やから〕、正道を忘るゝ人、】
しかしながら、謗法の人々は、正法を教える人を無視し、
【剰〔あまつさ〕へ法然の選択〔せんちゃく〕に依って】
それどころか、法然の選択集に騙されて、
【弥〔いよいよ〕愚痴〔ぐち〕の盲瞽〔もうこ〕を増す。】
愚かにも盲目的にそれを信じてしまったのです。
【是〔ここ〕を以て或は彼の遺体を忍びて】
そして、ある者は法然の遺体をしのんで
【木画〔もくえ〕の像に露〔あら〕はし、】
木像や絵画に表わし、
【或は其の妄説を信じて莠言〔ゆうげん〕を模〔かたぎ〕に彫り、】
ある者は、選択集の盲説を信じて、間違った教えを板木に彫って印刷し、
【之を海内〔かいだい〕に弘め之を□外〔かくがい〕に翫〔もてあそ〕ぶ。】
これを日本中に弘め、天下を覆ってしまったのです。
【仰ぐ所は則ち其の家風、】
その尊び仰ぐ所は、浄土念仏の家風であり、
【施〔ほどこ〕す所は則ち其の門弟なり。】
供養するのは、法然の流れを汲む者だけなのです。
【然る間、或は釈迦の手の指を切りて弥陀の印相〔いんそう〕に結び、】
ある者は、釈迦牟尼仏の手の指を切り取って、阿弥陀仏の印相に改ざんしたり、
【或は東方如来の鴈宇〔がんう〕を改めて】
ある者は、東方浄瑠璃世界の薬師如来の御堂に
【西土教主の鵞王〔がおう〕を居〔す〕へ、】
西方浄土の阿弥陀如来を安置したり、
【或は四百余回の如法経を止〔とど〕めて西方浄土の三部経と成し、】
ある者は、四百余年続いてきた法華経書写の修行をやめて浄土三部経を書写し、
【或は天台大師の講を停〔とど〕めて善導の講と為す。】
あるいは、天台大師、報恩の講をやめて善導の講としました。
【此の如きの群類其〔そ〕れ誠に尽くし難し。】
このような例は、数えきれないほどであり、
【是〔これ〕破仏に非ずや。是破法に非ずや。是れ破僧に非ずや。】
これこそ、仏法僧を破壊する大謗法ではないでしょうか。
【此の邪義は則ち選択に依るなり。嗟呼〔ああ〕悲しいかな】
これらの邪義の根本は、まさしく法然の選択集にあるのです。まったくもって、
【如来誠諦〔じょうたい〕の禁言〔きんげん〕に背くこと。】
釈迦牟尼仏が禁じられた法華誹謗に背く事は、実に悲しむべき事であります。
【哀れなるかな愚侶〔ぐりょ〕】
法然のような愚かな僧侶達の為に、
【迷惑の□語〔そご〕に随ふこと。】
人々が心を迷わせ、邪説を信じている事は、実に哀れむべき事であります。
【早く天下の静謐〔せいひつ〕を思はゞ】
一日も早く天下を穏やかにしたいと思うならば、
【須〔すべから〕く国中の謗法を断〔た〕つべし。】
まず何よりも、このような国中の謗法を禁じなければなりません。