日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


立正安国論 3 災難の証拠


第二問 其の証拠を聞かん

【客の曰く、】
この主人の言葉を聞いて客が言いました。

【天下の災・国中〔こくちゅう〕の難、】
近年、打ち続く世界の災害や国中の災難については、

【余〔よ〕独り嘆くのみに非ず、衆皆〔みな〕悲しめり。】
ただ自分だけが嘆いているのではなく、全ての人々が嘆き悲しんでいるのです。

【今蘭室〔らんしつ〕に入りて初めて芳詞〔ほうし〕を承るに、】
いま、あなたを訪ねて御話を聞かせてもらったところ、

【神聖去り辞し、災難並び起こるとは】
諸天善神や聖人がこの国を捨て去った為に災難が次々に起こるという事ですが、

【何〔いず〕れの経に出でたるや。】
それはいったい、どのような経文に説かれている事なのでしょうか。

【其の証拠を聞かん。】
その証拠をお聞かせ願いたいと思います。

第二答 四経の文朗らかなり万人誰か疑はん

【主人の曰く、】
この客の質問に主人が言いました。

【其の文繁多〔はんた〕にして】
それを証明する経文は、非常に多く、その証拠は多くの経典に見られますが、

【其の証弘博〔ぐはく〕なり。】
以下にその証拠を明らかにしましょう。

【金光明〔こんこうみょう〕経に云はく】
金光明最勝王経の四天王護国品第十二において

【「其〔そ〕の国土に於て此の経有りと雖〔いえど〕も】
四天王が仏に言うのには「ある国には、この経が伝わっているけれども、

【未だ嘗〔かつ〕て流布〔るふ〕せしめず、】
未だ少しも広まっていない。

【捨離〔しゃり〕の心を生じて聴聞〔ちょうもん〕せんことを楽〔ねが〕はず、】
その国の王も民も、この経文を捨て去り、まったく聴こうともしない。

【亦〔また〕供養し尊重〔そんじゅう〕し讃歎〔さんだん〕せず。】
まして、これに供養したり、尊重したり、讃歎しようともしない。

【四部〔しぶ〕の衆、】
僧侶、尼僧、男女の檀那である比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷の四部の衆は、

【持経〔じきょう〕の人〔にん〕を見るも、】
この経文を伝え広めようとする仏の弟子を見ても、

【亦復〔またまた〕尊重し乃至〔ないし〕供養すること能〔あた〕はず。】
尊重したり、供養するような事もない。

【遂に我等〔われら〕及び余の眷属〔けんぞく〕、無量の諸天をして】
そこで、我々四天王や、我々の部下、さらに多くの諸天善神は、

【此の甚深〔じんじん〕の妙法を聞くことを得ず、】
この、甚深の妙法を聞く事が出来ず、

【甘露の味〔あじ〕はひに背き正法の流れを失ひて、】
力を発揮する為に必要な、正法の甘露の法味がなくなり、

【威光及以〔および〕勢力〔せいりき〕有ること無からしむ。】
その為に我々の勢いも力もなくなってしまった。

【悪趣〔あくしゅ〕を増長〔ぞうちょう〕し、】
そうであればこそ、この国に、地獄、餓鬼、畜生、修羅の四悪趣が増して

【人天〔にんでん〕を損減して、生死〔しょうじ〕の河に堕〔お〕ちて】
人界や天界は、減じて衰え、すべての人々は、みんな無明の生死の河に堕ちて

【涅槃の路〔みち〕に乖〔そむ〕かん。】
法性の涅槃の路に背いて苦悩する事になるです。

【世尊、我等四王〔しおう〕並びに諸〔もろもろ〕の眷属及び薬叉〔やしゃ〕等、】
世尊よ、我々、四天王やその部下や夜叉などは、

【斯〔か〕くの如き事〔じ〕を見て、】
このような王や民の仏法への不信の様相を見て、

【其の国土を捨てゝ擁護〔おうご〕の心無けん。】
その国を捨て去って、これを守護しようとする心が起きなくなるのです。

【但〔ただ〕我等のみ是〔こ〕の王を捨棄〔しゃき〕するに非ず、】
さらに我々、四天王だけがこの不信の王を見捨てるだけではない。

【必ず無量の国土を守護する諸大善神有らんも】
この国土を守護する多くの諸天善神がいても、

【皆悉〔ことごと〕く捨去〔しゃこ〕せん。】
すべてが、この国を捨て去るのです。

【既〔すで〕に捨離し已〔お〕はりなば其の国】
すでに諸天善神が、その国を捨て去ってしまえば、その国には、

【当〔まさ〕に種々の災禍〔さいか〕有りて国位を喪失〔そうしつ〕すべし。】
数々の災難が起こり、国の力をまったく喪失してしまうのです。

【一切の人衆皆〔みな〕善心無く、】
そして、すべての人々は、善い心を失い、

【唯繋縛〔けばく〕・殺害〔せつがい〕・瞋諍〔しんじょう〕のみ有って、】
ただ、権力で縛ばりつけ、殺し合い、争い合ったりするだけで、

【互ひに相讒〔あいざん〕諂〔てん〕して枉〔ま〕げて辜〔つみ〕無きに及ばん。】
互いに罵り合い、ただ上にへつらい、罪のない者を罪に陥れようとするのです。

【疫病流行し、彗星数〔しばしば〕出で、】
また、疫病が流行し、数々の天変が起こり、

【両の日並び現じ、薄蝕〔はくしょく〕恒〔つね〕無く、】
太陽が同時に二つ現われたり、その太陽の光も一定せず、

【黒白〔こくびゃく〕の二虹不祥〔にこうふしょう〕の相を表はし、】
黒白二つの虹が出て不吉な前兆を表わし、

【星流れ地動き、井の内に声を発し、暴雨悪風時節に依らず、】
隕石が落ちて、井戸から異様な音が聞こえ、季節はずれの暴風雨が襲い、

【常に飢饉〔ききん〕に遭〔あ〕ひて苗実〔みょうじつ〕成〔みの〕らず、】
五穀は実らず、常に飢饉の恐れにさらされ、

【多く他方の怨賊〔おんぞく〕有りて国内を浸掠〔しんりょう〕せば、】
さらに外国から多くの恨みを持った人々が入って来て国内を侵略し、

【人民諸〔もろもろ〕の苦悩を受けて、】
人々は、非常に多くの悩み苦しみを受けて、

【土地として所楽〔しょらく〕の処〔ところ〕有ること無けん」已上。】
国中どこにも安心して暮らせる所は、なくなるのです。

【大集経に云はく】
大集経の法滅尽品には、次のように説かれています。

【「仏法実〔じつ〕に隠没〔おんもつ〕せば鬚髪爪〔しゅほっそう〕皆長く、】
仏法が滅びる時は、僧侶は、みんな容姿が乱れ、僧侶としての礼節を失い、

【諸法も亦忘失〔もうしつ〕せん。】
仏法さえ忘れてしまい、その僧侶が説くところも狂ってしまうのです。

【時に当たって虚空〔こくう〕の中に大〔おお〕いなる声ありて地を震ひ、】
その時、虚空に大きな音が鳴りひびいて、大地を震わせ、

【一切皆遍〔あまね〕く動ぜんこと猶水上輪〔すいじょうりん〕の如くならん。】
すべての物が、まるで水車のように回転しながら、巻き上げられるのです。

【城壁破れ落ち下り屋宇〔おくう〕悉く圮〔やぶ〕れ坼〔さ〕け、】
城壁は、崩れ落ち、人家は、ことごとく壊れ、

【樹林の根・枝・葉・華葉・菓・薬尽〔つ〕きん。】
樹木の根も枝も葉も花も果実も薬草さえ、ことごとく消え去ってしまうのです。

【唯浄居天〔じょうごてん〕を除きて欲界一切処の七味・】
ただ、欲望を断ち切った者が住む浄居天を除いて欲界のすべての必要な農業と

【三精気〔しょうけ〕損減〔そんげん〕して、余り有ること無けん。】
工業は、残らず消え失せてしまうのです。

【解脱〔げだつ〕の諸の善論時〔とき〕に当たって一切尽きん。】
さらに正しい仏教や知識が説かれた多くの書物もすべて消滅するのです。

【生ずる所の華菓の味はひ希少〔きしょう〕にして亦美〔うま〕からず。】
大地に生ずる植物の花や果実も少なくなり、その味もまずくなるのです。

【諸有〔しょう〕の井泉池〔せいせんち〕一切尽く枯涸〔こかつ〕し、】
現在の井戸や泉や池も、すべて枯れ果てて、

【土地悉く鹹鹵〔かんろ〕し、】
土地は、塩分を含んだ不毛の地となり、

【敵裂〔てきれつ〕して丘□〔くけん〕と成〔な〕らん。】
ひび割れて砂丘や荒野となるのです。

【諸山皆〔みな〕燋燃〔しょうねん〕して天竜も雨を降〔くだ〕さず。】
すべての山々は、みな燃えあがり、空の雲は、一滴の雨も降らさないのです。

【苗稼〔みょうけ〕皆〔みな〕枯〔か〕れ死〔し〕し、】
穀物の苗は、みな枯れ、その他の作物もすべて枯れ果てて、

【生ずる者皆死〔か〕れ尽〔つ〕くして余草〔よそう〕更に生ぜず。】
生きている者は、すべて死に絶え、雑草すら生えないのです。

【土を雨〔ふ〕らし皆昏闇〔こんあん〕にして日月も明〔みょう〕を現ぜず。】
土が空から降り、昼でも暗く、太陽もその明るさを失ってしまうのです。

【四方皆亢旱〔こうかん〕し、数〔しばしば〕諸〔もろもろ〕の悪端を現じ、】
どこもかしこも日照りに悩まされ、しばしば大きな環境の変化が現われるのです。

【十不善業道〔ごうどう〕・貪瞋癡〔とんじんち〕倍増して、】
人々の間には、十種類の悪業、ことに貪、瞋、癡の害毒がますます盛んになって、

【衆生の父母に於ける、】
人々が父母を見捨てる姿は、まるで

【之を観ること獐鹿〔しょうろく〕の如くならん。】
臆病な鹿が自分だけ助かろうとして仲間を置き去りにするようなものなのです。

【衆生及び寿命色力威楽〔しきりきいらく〕減〔げん〕じ、】
人々の人口も寿命も体力も威厳も無くなって、

【人天の楽を遠離〔おんり〕し、皆悉く悪道に堕せん。】
人界、天界の楽しみから遠ざかり、みな地獄、餓鬼、畜生の三悪道に堕ちるのです。

【是くの如き不善業〔ふぜんごう〕の悪王・悪比丘、】
このような過去に悪業を積んだ悪王と悪僧とが

【我が正法〔しょうぼう〕を毀壊〔きえ〕し、天人の道〔どう〕を損減し、】
仏の正法を誹謗して破壊し、人々を人道に外れた行為へと誘いだし、

【諸天善神・王の衆生を悲愍〔ひみん〕する者、】
諸天善神や人々を救おうとする権力者は、

【此の濁悪〔じょくあく〕の国を棄てゝ皆悉く余方に向かはん」已上。】
この濁悪の国を捨てて、みなことごとく他の国へ去ってしまうのです。

【仁王〔にんのう〕経に云はく】
仁王経の護国品には、次のように説かれています。

【「国土乱〔みだ〕れん時は先〔ま〕づ鬼神乱る。】
国土が乱れる時は、まず鬼神が乱れ、

【「鬼神乱るゝが故に万民乱る。】
その鬼神が乱れる故に万民が乱れるのです。

【賊来たりて国を劫〔おびや〕かし、百姓〔ひゃくせい〕亡喪〔もうそう〕し、】
外国から攻撃を受け、国をおびやかし、その為に命を失う者が多く出て

【臣・君・太子・王子・百官共に是非を生ぜん。】
主君と家臣、その後継者や官僚の間で争いが起こるのです。

【天地怪異〔けい〕し二十八宿〔しゅく〕・星道〔せいどう〕・】
天地に怪しい現象が現われ、二十八の星座の位置や、

【日月時〔とき〕を失ひ度を失ひ、多く賊の起こること有らん」と。】
星や月や太陽の運行に狂いが生じ、内乱が各地で起こるのです。

【亦云く】
また仁王経の受持品には、次のように説かれています。

【「我今〔いま〕五眼をもって明らかに三世を見るに、】
私が今、仏眼をもって現在、過去世、来世の三世を見るに、

【一切の国王は皆過去の世に五百の仏に侍〔つか〕へしに由〔よ〕って】
すべての国王は、みな過去の世に五百の仏に仕えた功徳によって、

【帝王主と為〔な〕ることを得たり。是を為〔もっ〕て】
現在に帝王、国主となる事が出来たのである。さらに、この功徳によって、

【一切の聖人羅漢〔らかん〕而〔しか〕も為〔ため〕に彼の国土の中に】
すべての聖人や仏教者がその王の国土に

【来生〔らいしょう〕して大利益〔りやく〕を作さん。】
生まれて来て、その国の為に大きな利益を与えてくれるのである。

【若し王の福尽きん時は一切の聖人皆捨去為〔しゃこせ〕ん。】
しかし、王の福運が尽きる時には、全ての聖人は、ことごとく国を捨て去るのです。

【若し一切の聖人去らん時は】
もし、すべての聖者が去ってしまったならば、

【七難必ず起こらん」已上。】
その時、その国には必ず七つの難が起こるのです。

【薬師経に云はく】
薬師如来の功徳を説いている薬師経には、次のように説かれています。

【「若〔も〕し刹帝利〔せっていり〕・潅頂王〔かんじょうおう〕等の】
もし、軍人の大王によって

【災難起こらん時、所謂人衆疾疫〔にんじゅしつえき〕の難・】
国に災難が起きる時は、国民の間に疫病が流行する難、

【他国侵逼〔しんぴつ〕の難・自界叛逆〔ほんぎゃく〕の難・】
外国からの侵略、国内の争乱、

【星宿〔せいしゅく〕変怪〔へんげ〕の難・】
星の運行の変異や、

【日月〔にちがつ〕薄触〔はくしょく〕の難・】
日蝕や月蝕で太陽や月の光が失われ、

【非時風雨の難・過時不雨の難あらん」已上。】
時ならぬ風雨、干ばつの七つの難があるであろう。

【仁王経に云はく】
仁王経の受持品には、次のように説かれています。

【「大王、吾が今〔いま〕化する所の百億の須弥〔しゅみ〕、】
大王波斯匿〔はしのく〕よ、釈尊がいま教化する世界には百億の世間があり、

【百億の日月、】
百億の世間には、それぞれ太陽があり、月があり、

【一々の須弥に四〔し〕天下〔てんげ〕有り、】
その一つ一つに須弥山があり、その四方には四つの大陸がある。

【其の南閻浮提〔なんえんぶだい〕に】
そのうち南方の閻浮提州には、

【十六の大国・五百の中国・十千〔じっせん〕の小国〔しょうごく〕有り。】
十六の大国があり、五百の中国、一万の小国があるが、

【其の国土の中に七つの畏〔おそ〕るべき難有り、】
これらの無数の国には、七つの恐ろしい難がある。

【一切の国王是を難と為〔な〕すが故に。云何〔いか〕なるを難と為す。】
すべての国王は、この難を恐れているが、その恐るべき七つの難とは、

【日月度を失ひ時節返逆〔ほんぎゃく〕し、】
太陽や月の運行が狂って四季の時節が逆になり、

【或は赤日〔しゃくじつ〕出で、黒日出で、二三四五の日出〔ひい〕で、】
赤い太陽が出たり、黒い太陽が出たり、二つ三つ四つ五つと太陽が並んで出たり、

【或は日蝕して光無く、】
あるいは、太陽の光がなくなったり、

【或は日輪一重二三四五重輪現ずるを】
あるいは一重、二重、三重、四重、五重と太陽が重なって現われたりする事を

【一の難と為すなり。】
第一の難とする。

【二十八宿度を失ひ、金星・彗星・輪星・鬼星・火星・水星・】
二十八の星座の運行が狂ったり、金星や彗星、輸星、鬼星、火星、水星、

【風星・刁星〔ちょうせい〕・南斗〔なんじゅ〕・北斗〔ほくと〕・】
風星、ちょう星、南斗、北斗、

【五鎮〔ごちん〕の大星・一切の国主星・三公星・百官星、】
五鎮の大星、一切の国主星、三公星、百官星など、

【是くの如き諸星各々〔おのおの〕変現〔へんげん〕するを二の難と為すなり。】
さまざまな星が、各々、変わった現われ方をする事を第二の難とする。

【大火〔たいか〕国を焼き万姓焼尽〔しょうじん〕せん、】
大火が国を覆い、多くの人々が焼き尽くされ、

【或は鬼火・竜火・天火・山神火・人火〔じんか〕・樹木火・賊火あらん。】
自然発火や災害、落雷、山火事、人の過失、森林火災、放火など、

【是くの如く変怪〔へんげ〕するを三の難と為すなり。】
このような数々の火災が多く起きる事を第三の難とする。

【大水百姓を□没〔ひょうもつ〕し、時節返逆して冬雨ふり、】
大水が出て人々を溺れさせたり、気候が狂って冬に大雨が降り、

【夏雪ふり、冬時〔とうじ〕に雷電霹礰〔へきれき〕し、】
夏に雪が降り、冬に多くの雷が落ちたり、

【六月に氷霜雹〔ひょうそうばく〕を雨〔ふ〕らし、】
六月の暑中に氷や霜や雹〔ひょう〕が降ったり、

【赤水〔しゃくすい〕・黒水・青水〔しょうすい〕を雨らし、】
赤い水、黒い水、青い水が降ったり、

【土山〔せん〕・石山〔しゃくせん〕を雨らし、沙〔しゃ〕・礫〔りゃく〕・】
土の山や石の山が降ってきたり、砂や礫〔つぶて〕や

【石〔しゃく〕を雨らす。江河逆〔さか〕しまに流れ、】
石が降ったり、河が逆流したり、

【山を浮かべ石を流す。】
山が浮かぶほどの水が出たり、石が流れたりするような水難が起きる、

【是くの如く変ずる時を四の難と為すなり。】
このような事を第四の難とする。

【大風万姓を吹き殺し、国土山河樹木一時に滅没〔めつもつ〕し、】
大風が吹いて人々を殺し、国土の山河の草木が一時になぎ倒されて、

【非時〔ひじ〕の大風・黒風・赤風・青風・天風・地風・】
時ならぬ大風や、黒い風、赤い風、青い風、台風、竜巻、

【火風・水風あらん、是くの如く変ずるを五の難と為すなり。】
火のような熱風、雨の冷たい寒風などが吹き荒れる事を第五の難とする。

【天地国土亢陽〔こうよう〕し、】
国に大干ばつが続いて、

【炎火洞燃〔どうねん〕として百草亢旱〔こうかん〕し、五穀登〔みの〕らず、】
熱気が地下にまで浸透して、あらゆる草は枯れ、五穀も実らず、

【土地赫燃〔かくねん〕して】
土地は焼けて、

【万姓滅尽せん。是くの如く変ずる時を六の難と為すなり。】
その為に人々は、死に絶えてしまう事を第六の難とする。

【四方の賊来たりて国を侵し、】
四方から敵が攻めて来て国土を侵略し、

【内外の賊起こり、火賊・水賊・風賊・】
国内にも戦乱が起こり、大火や大水、暴風に乗じて盗賊となる者や

【鬼賊ありて百姓荒乱し、刀兵劫起〔とうひょうこうき〕せん。】
人を殺す者が横行して、人心は、極度に荒れすさんで、

【是くの如く怪〔け〕する時を七〔しち〕の難と為すなり」と。】
ついに世界中で大戦乱が起こる事が第七の難とする。

【大集経に云はく】
大集経の護法品には次のように説かれています。

【「若〔も〕し国王有って、無量世〔むりょうせ〕に於て】
過去において仏法に布施、持戒、智恵を修行して、

【施戒慧〔せかいえ〕を修すとも、】
その功徳によって現世に国王と生まれたとしても、

【我が法の滅せんを見て捨てゝ擁護〔おうご〕せずんば、】
仏法が滅びようとするのを見て、これを見捨てて護ろうとしないならば、

【是くの如く種〔う〕うる所の無量の善根悉く皆滅失〔めっしつ〕して、】
過去世に積んだ無量の功徳も、ことごとく、みな消滅して、

【其の国当〔まさ〕に三〔み〕つの不祥の事〔こと〕有るべし。】
その国には三つの不祥事が起こるであろう。

【一には穀貴〔こっき〕、二には兵革〔ひょうかく〕、三には疫病なり。】
それは、一つには飢饉であり、二つには戦乱であり、三つには疫病である。

【一切の善神悉く之を捨離〔しゃり〕せば、】
すべての諸天善神がその国を捨てたならば、

【其の王教令〔きょうりょう〕すとも人随従〔ずいじゅう〕せず、】
たとえ王の命令であっても人々は従わず、

【常に隣国の為に侵嬈〔しんにょう〕せられん。】
常に隣国から侵略されるであろう。

【暴火〔ぼうか〕横〔よこしま〕に起こり、悪風雨多く、暴水増長して、】
暴風によって大火が起こり、大雨によって洪水が重なって、

【人民を吹□〔すいひょう〕せば、内外〔ないげ〕の親戚】
人々は、溺れ死に王の一族から

【其れ共に謀叛〔むほん〕せん。其の王久しからずして当に重病に遇〔あ〕ひ、】
謀叛が起こるであろう。その王は、やがては重病に侵されて、

【寿終〔じゅじゅう〕の後大地獄の中に生ずべし。】
死後は地獄に堕ちるであろう。

【乃至王の如く夫人〔ぶにん〕・太子・大臣・城主・柱師〔ちゅうし〕・】
王だけでなく王妃も太子も大臣も将軍も、その他の様々な官職にある者も、

【郡守・宰官〔さいかん〕も亦復〔またまた〕是くの如くならん」已上。】
みな同じくこの苦しみを受けるであろう。

【夫〔それ〕四経の文〔もん〕朗〔あき〕らかなり、】
これらの金光明最勝王経、大集経、仁王経、薬師経の文章は、明らかであります。

【万人誰〔たれ〕か疑はん。】
すべて災難の原因が正法を護らない事にある事は、誰がこれを疑うでしょうか。

【而るに盲瞽〔もうこ〕の輩〔やから〕、】
ところが道理に暗い人は、

【迷惑の人、妄〔みだ〕りに邪説〔じゃせつ〕を信じて】
浅はかにも間違った説明を信じて、

【正教〔しょうきょう〕を弁〔わきま〕へず。】
これら四つの経文に書かれている教えを理解出来ないのです。

【故に天下世上〔せじょう〕諸仏衆経〔しゅきょう〕に於て、】
その為に世の中の人々は、多くの仏や経文を捨てて、

【捨離〔しゃり〕の心を生じて擁護〔おうご〕の志〔こころざし〕無し。】
正法を護ろうとする志がまったくないのです。

【仍〔よ〕って善神聖人〔しょうにん〕国を捨て所を去る。】
そこで国を護る諸天善神や正法を教える聖人が国を捨て去ってしまい、

【是〔ここ〕を以て悪鬼外道災〔さい〕を成し難を致〔いた〕すなり。】
その隙に乗じて悪鬼や邪説を説く外道がやって来て災難を引き起こすのです。


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