日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


立正安国論 6 勘状の奏否


第五問 何ぞ近年の災を以て先師を毀り更に聖人を罵るや

【客殊〔こと〕に色を作〔な〕して曰く、】
客は、一段と怒り、顔色を変えて、このように質問しました。

【我が本師釈迦文〔もん〕、浄土の三部経を説きたまひてより以来〔このかた〕、】
私達の本師である釈迦牟尼仏が浄土三部経を説かれてから、

【曇鸞〔どんらん〕法師は四論の講説を】
中国の曇鸞法師は、「中観論」「十二門論」「大智度論」「百論」の四つの経論を

【捨てゝ一向に浄土に帰し、道綽〔どうしゃく〕禅師〔ぜんじ〕は】
捨てて浄土の教えに帰依し、道綽禅師は、

【涅槃の広業〔こうごう〕を閣〔さしお〕きて偏に西方の行を弘め、】
涅槃経を捨てて、ただ、ひたすら西方往生の念仏を弘め、

【善導〔ぜんどう〕和尚は雑行を抛ちて専修を立て、】
善導和尚は、雑多な修行を投げ打って、もっぱら念仏を修行したのです。

【恵心僧都〔えしんそうず〕は諸経の要文を集めて】
また日本の恵心僧都は、諸経の重要な文章を集め

【念仏の一行を宗とす。】
念仏の一行だけが肝心であるとしたのです。

【弥陀を貴重すること誠に以て然〔しか〕なり。】
このように中国や日本の立派な仏教の先師達が阿弥陀仏を尊重しており、

【又往生の人其れ幾ばくぞや。】
また、その念仏によって往生をとげた人も数多くいるのです。

【就中〔なかんずく〕法然聖人は幼少にして天台山に昇り、】
その中でも法然上人は、幼少の時より比叡山に登り、

【十七にして六十巻に渉〔わた〕り、】
十七歳で天台の三大部「法華玄義」「法華文句」「摩詞止観」六十巻を学び、

【並びに八宗を究〔きわ〕め具〔つぶさ〕に大意を得たり。】
華厳、三論、法相、倶舎、成実、律、真言、天台の八宗の教義を究めました。

【其の外一切の経論七遍反覆〔はんぷく〕し、】
その他、一切経を七回も繰り返し読まれ、

【章疏〔しょうしょ〕伝記究め看〔み〕ざることなく、】
注釈書や伝記類までも研究しないものは、ありませんでした。

【智は日月に斉〔ひと〕しく徳は先師に越〔こ〕えたり。】
智恵が明らかな事は、日月のようであり、徳の高い事は、先師達を越えていました。

【然りと雖も猶出離〔しゅつり〕の趣に迷ひ】
それでも三界六道の俗世間を出る事が出来ずに

【涅槃の旨を弁〔わきま〕へず。故に遍〔あまね〕く覿〔み〕、】
生死の迷いを離れる事が出来ない為に広く浄土の先師の書を読み、

【悉く鑑〔かんが〕み、深く思ひ、遠く慮〔おもんばか〕り、】
時代や機根をよく考えて、深く浄土門の修行しやすさに思いをめぐらせ、

【遂に諸経を抛〔なげう〕ちて】
聖道門の悟り難い事を考えあわせて、その結果、ついに諸経を投げ打って、

【専ら念仏を修す。】
もっぱら念仏を修行されたのです。

【其の上一夢〔いちむ〕の霊応〔れいおう〕を蒙〔こうむ〕り】
そのうえで、善導和尚の夢の御告げを得て、いかなる辺土に於いても、

【四裔〔しえい〕の親疎〔しんそ〕に弘む。】
また、どのような縁の者にも広く念仏を広めたのです。

【故に或は勢至〔せいし〕の化身〔けしん〕と号し、】
そこで人々は、勢至菩薩の化身であるとも、

【或は善導の再誕と仰ぐ。】
また善導大師の再誕であるとも仰いで尊敬したのです。

【然れば則ち十方の貴賎頭〔きせんこうべ〕を低〔た〕れ、】
そうであればこそ貴族も庶民も一様にその教えを聞こうと頭を低くし、

【一朝〔いっちょう〕の男女〔なんにょ〕歩〔あゆ〕みを運ぶ。】
日本の男女は、すべて、そのもとに歩みを運んだのです。

【爾しより来〔このかた〕春秋推〔お〕し移り、星霜相〔あい〕積れり。】
それ以来、数十年の年月が過ぎ去り、

【而るに忝〔かたじけな〕くも釈尊の教へを疎〔おろそ〕かにして、】
それにも関わらず、このように釈尊の説かれた浄土三部経を軽んじ、

【恣〔ほしいまま〕に弥陀の文を譏〔そし〕る。】
阿弥陀仏の誓願を謗〔そし〕るとは、まことに恐るべき事です。

【何ぞ近年の災を以て聖代〔せいだい〕の時に課〔おお〕せ、】
どうして近年の災難を、法然上人が念仏を弘めた罪だと言い、

【強〔あなが〕ちに先師を毀〔そし〕り、】
無理やりに念仏を弘めた先師達を謗〔そし〕り、

【更に聖人を罵〔ののし〕るや。】
さらに、このように法然上人を罵〔ののし〕るのですか。

【毛を吹いて疵〔きず〕を求め、皮を剪〔き〕りて】
それは、疵〔きず〕を探し、皮をこすって

【血を出だす。】
血を出すようなもので、余計な詮索〔せんさく〕と言うべきではないでしょうか。

【昔より今に至るまで此くの如き悪言未だ見ず、】
今までこのような悪口雑言は、聞いたためしがありません。

【惶〔おそ〕るべく慎〔つつし〕むべし。】
まことに恐ろしい事ですし、慎しむべき事です。

【罪業〔ざいごう〕至って重し、科条争〔いか〕でか遁〔のが〕れん。】
その罪は、極めて重く、その罪は、到底、免〔まぬが〕れられません。

【対座猶〔なお〕以て恐れ有り、】
このように話し合っている事さえ恐ろしい事ですから、

【杖を携〔たずさ〕へて則ち帰らんと欲す。】
私は、これで帰ろうと思います。

第五答 須く凶を捨てゝ善に帰し源を塞ぎ根を截るべし

【主人咲〔え〕み止〔とど〕めて曰く、】
その言葉に、主人は、笑みを浮かべて客を止めて言いました。

【辛〔から〕きを蓼葉〔りょうよう〕に習ひ】
俗に辛い物を食べ続けていると、それほど辛さを感じないと言い、

【臭きを溷厠〔こんし〕に忘る。】
臭いところに長く居ると、いつしか臭いも気にならなくなると言うように、

【善言を聞いて悪言と思ひ、謗者〔ぼうしゃ〕を指して】
長く念仏を信じると、忠告を聞いても悪口と思い正法を謗〔そし〕る人を見ても

【聖人〔しょうにん〕と謂ひ、正師を疑って悪侶〔あくりょ〕に擬〔ぎ〕す。】
聖人と思い、正しい師を見ても悪僧と疑ったりするものです。

【其の迷ひ誠に深く、其の罪浅〔あさ〕からず。】
その迷いは、まことに深く、その罪は極めて重いものです。

【事〔こと〕の起こりを聞かんとならば、委〔くわ〕しく其の趣を談ぜん。】
まず、事実関係をよく御聞き下さい。詳しく法然の実際の姿を御話ししましょう。

【釈尊説法の内〔うち〕、一代五時の間先後を立てゝ】
釈迦牟尼仏の一代五十年の説法には、前後の順序があり、

【権実を弁〔べん〕ず。】
方便の教えと真実の教えとがあるのです。

【而るに曇鸞〔どんらん〕・道綽〔どうしゃく〕・善導〔ぜんどう〕】
しかし、曇鸞、道綽、善導は、先に説いた方便の教えである権教を取って、

【既〔すで〕に権に就〔つ〕いて実を忘れ、先〔せん〕に依って後を捨つ。】
後に本意を述べられた法華実教を忘れて、捨ててしまったのです。

【未だ仏教の淵底〔えんでい〕を探〔さぐ〕らざる者なり。】
彼らは、いまだ仏教の奥底を学ぼうとしない我見の者なのです。

【就中〔なかんずく〕法然其の流れを酌〔く〕むと雖も】
ことに法然は、浄土三師の流れをくむ者ですが、

【其の源〔みなもと〕を知らず。】
彼らと同じく仏教の根源が法華経にある事を知らないのです。

【所以〔ゆえん〕は何〔いかん〕、大乗経六百三十七部・二千八百八十三巻、】
なぜならば、大乗経典、六百三十七部二千八百八十三巻と

【並びに一切の諸仏菩薩及び諸の世天等を以て、捨閉閣抛〔しゃへいかくほう〕の】
すべての諸仏、菩薩、諸天善神を、捨てよ、閉じよ、さしおけ、なげうての

【字を置いて一切衆生の心を薄〔おか〕す。】
捨閉閣抛の四文字を説いて、多くの人々を迷わせているからです。

【是偏〔ひとえ〕に私曲〔しきょく〕の詞〔ことば〕を展〔の〕べて】
これは、法然一人が勝手に経文を解釈した言葉であり、

【全く仏経の説を見ず。】
まったく仏説に基づいてはいません。

【妄語〔もうご〕の至り、悪口〔あっく〕の科〔とが〕、】
その妄説、邪説、悪口の罪は、

【言ひても比無〔たぐいな〕く、責〔せ〕めても余〔あま〕り有り。】
他に比べるものがなく、責めても余りあるものなのです。

【人皆其の妄語を信じ、悉く彼の選択〔せんちゃく〕を貴ぶ。】
人々がみな法然の間違った妄説、邪説を信じ、そのことごとくが選択集を尊んで、

【故に浄土の三経を崇めて衆経を抛〔なげう〕ち、】
浄土三部経だけを崇めて他の諸経を打ち捨てて、

【極楽の一仏を仰いで諸仏を忘る。】
極楽世界の阿弥陀仏だけを拝んで、他の諸仏を敬わず忘れているのです。

【誠に是〔これ〕諸仏諸経の怨敵〔おんてき〕、】
まことに法然こそは、諸仏諸経の怨敵であり、

【聖僧衆人〔しゅじん〕の讎敵〔しゅうてき〕なり。】
聖僧や大衆の宿敵なのです。

【此の邪教広く八荒に弘まり周〔あまね〕く十方に遍〔へん〕す。】
ところが今や、この邪教が広く天下に弘まり、日本中を覆ってしまったのです。

【抑〔そもそも〕近年の災を以て往代〔おうだい〕を難ずるの由〔よし〕】
いったい、あなたは、近年の災いを、過去の法然の謗法が原因だと非難した事を

【強〔あなが〕ちに之を恐〔おそ〕る。】
ひどく恐れているようですが、それはなぜなのでしょうか。

【聊〔いささか〕先例を引いて】
少しばかり、その先例を引いて、その根拠がある事を証明して、

【汝の迷ひを悟〔さと〕すべし。止観〔しかん〕の第二に】
あなたの疑いを晴らしてあげましょう。天台大師の摩訶止観第二に前漢の時代に

【史記を引いて云はく】
司馬遷〔しばせん〕が著した史記を引用して次のように記しています。

【「周の末〔すえ〕に被髪袒身〔ひほつたんしん〕にして】
周の時代の末に髪が不潔で衣服が乱れた

【礼度〔れいど〕に依らざる者有り」と。】
礼儀をわきまえない者達がいました。

【弘決〔ぐけつ〕の第二に此の文を釈するに、】
この文章を妙楽大師は、摩訶止観弘決において、

【左伝〔さでん〕を引いて曰く】
春秋左氏伝〔しゅんじゅうさしでん〕を引用して、次のように解釈しています。

【「初め平王〔へいおう〕の東遷〔とうせん〕するや、】
周の平王が外敵に侵略されて都を東へ遷〔うつ〕すときに、

【伊川〔いせん〕に被髪の者の野〔の〕に於て祭〔まつ〕るを見る。】
伊川と云う場所で髪が不潔な者が、野に立って祭をしているのを見ました。

【識者の曰く、百年に及ばざらん。】
随行していた辛有〔しんゆう〕が言うのには、百年と言わず、この国は、

【其の礼先〔れいま〕ず亡〔ほろ〕びぬ」と。】
あのように礼儀をわきまえない者達の為に亡びる事に成るだろうと予言したのです。

【爰〔ここ〕に知んぬ、徴〔しるし〕前〔さき〕に顕はれ】
これらの文章からわかるように、すべての災いは、必ず前兆が現われ、

【災ひ後〔のち〕に致ることを。】
その後に災害が現われるものなのです。

【「又阮籍〔げんせき〕逸才〔いつざい〕にして】
また摩訶止観には、続いて、阮籍という詩人は、才能のある人ではありましたが

【蓬頭散帯〔ほうとうさんたい〕す。】
常に髪が不潔で帯も締めずに生活していました。

【後に公卿〔こうけい〕の子孫皆之〔これ〕に教〔なら〕ひて、】
そこで高貴な生まれの子供達も、これが格好良いと思い、

【奴苟〔どく〕して相辱〔はずか〕しむる者を】
下品な言葉をわざと使って、礼儀を無視し、相手を辱めたりする事が、

【方〔まさ〕に自然〔じねん〕に達〔たっ〕すといひ、】
当たり前のようになって、かえって礼儀を重んじ慎み深い者を、

【撙節兢持〔そんせつきょうじ〕する者を呼んで田舎〔でんしゃ〕と為す。】
流行がわからない田舎者であると軽蔑しました。

【司馬氏の滅ぶる相と為す」已上。又慈覚大師〔じかくだいし〕の】
この事が、司馬氏が四代で滅びた前兆であると云うのです。また慈覚大師の

【入唐〔にっとう〕巡礼記〔じゅんれいき〕を案ずるに云はく】
入唐求法巡礼行記には、次のような事が記されています。

【「唐の武宗〔ぶそう〕皇帝の会昌〔かいしょう〕元年、勅〔ちょく〕して】
唐の武宗皇帝の時代、会昌元年(西暦841年)に皇帝の命令によって

【章敬寺〔しょうきょうじ〕の鏡霜法師〔きょうそうほっし〕をして】
章敬寺の鏡霜法師に

【諸寺に於て弥陀念仏の教を伝へしむ。】
念仏の教えを広めさせました。

【寺毎〔ごと〕に三日巡輪〔じゅんりん〕すること絶えず。】
国内の寺ごとに三日ずつ巡っては、念仏の教えを行なわせたところ、

【同二年回鶻国〔かいこつこく〕の軍兵〔ぐんぴょう〕等】
同二年には、ウイグル国の軍隊が

【唐の堺〔さかい〕を侵す。】
唐の国境を侵略し、

【同三年河北〔かほく〕の節度使〔せつどし〕忽〔たちま〕ち乱を起こす。】
同三年には、河北地方の国境を警備している兵隊が反乱を起こしました。

【其の後大蕃国〔だいばんこく〕更〔ま〕た命〔めい〕を拒〔こば〕み、】
その後、チベットも唐の命令を拒否し、

【回鶻国重ねて地を奪〔うば〕ふ。】
ウイグル国が重ねて唐を侵略したのです。

【凡〔およ〕そ兵乱〔ひょうらん〕は秦項〔しんこう〕の代〔よ〕に同じく、】
このような戦乱の続いた事は、秦から漢へと移る時代と同じで、

【災火邑里〔ゆうり〕の際〔さい〕に起こる。】
戦火によって多くの村や里が災難にあったのです。

【何に況んや武宗〔ぶそう〕大〔おお〕いに仏法を破し多く寺塔を滅す。】
それだけでなく、武宗は、仏教を迫害し、多くの寺や塔を破壊したので、

【乱〔らん〕を撥〔おさ〕むること能〔あた〕はずして】
反乱を収める事が出来ずに、ついにその罪によって病いとなり

【遂に以て事〔こと〕有り」已上取意。】
狂死してしまったのです。

【此を以て之を惟〔おも〕ふに、】
このように中国の歴史を見ても、今の日本の現実に照らし合わせて見ても、

【法然は後鳥羽院〔ごとばいん〕の御宇〔ぎょう〕、】
法然は、後鳥羽上皇の

【建仁〔けんにん〕年中の者なり。】
建仁年間の人であり、

【彼の院の御事〔おんこと〕既に眼前に在〔あ〕り。】
その後鳥羽上皇が隠岐の島に配流された事は、周知の事実であります。

【然れば則ち大唐に例を残し】
念仏が災難の原因をなすという事は、

【吾〔わ〕が朝に証〔しょう〕を顕はす。】
唐にその実例があり、日本にもその証拠があります。

【汝〔なんじ〕疑ふこと莫〔なか〕れ汝怪〔あや〕しむこと莫れ。】
この現実は、疑う事は出来ないし、怪しむ事も出来ない真実ではないですか。

【唯須〔すべから〕く凶を捨てゝ善に帰し源を】
まず、念仏の一凶を捨てて法華経の一善に帰依し、

【塞〔ふさ〕ぎ根〔ね〕を截〔き〕るべし。】
災難の原因である謗法の根源を断ち切らなければなりません。


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