日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


撰時抄 29 事理倶密なれば天地雲泥


【伝教大師は日本国にして十五年が間、】
伝教大師は、日本国において、十五年の間、

【天台真言等を自見〔じけん〕せさせ給ふ。】
天台、真言などの仏法の奥義を学ばれました。

【生知〔しょうち〕の妙悟〔みょうご〕にて】
生まれつき優れた智慧をもって

【師なくしてさとらせ給ひしかども、】
師匠がいないにも関わらず、経文によって悟られたのです。

【世間の不審をはらさんがために、漢土に亘〔わた〕りて】
しかし、なお世間の人々の疑いを晴らそうと唐へ渡り、

【天台真言の二宗を伝へ給ひし時、】
天台、真言の二宗を日本に伝えたのです。

【彼の土の人々はやうやうの義ありしかども、】
その中国の人々には、たくさんの宗派について、数々の意見があったのですが、

【我が心には法華は真言にすぐれたりとをぼしめしゝゆへに、】
伝教大師は、心の中で法華経は、真言に優れていると思われていたので、

【真言宗の宗の名字をば削らせ給ひて、天台宗の止観真言等かゝせ給ふ。】
真言宗という宗の字を削り取り、天台宗の止観真言などと書かれたのです。

【十二年の年分〔ねんぶん〕得度〔とくど〕の者】
十二年の間、年分得度者を

【二人ををかせ給ひ、重ねて止観院に】
二人ずつ排出し、そのうえで一乗止観院で、

【法華経・金光明経・仁王経の三部を鎮護国家の三部と定めて】
法華経、金光明経、仁王経の三部を鎮護国家の三部と定め、

【宣旨を申し下し、永代日本国の】
天皇の命令によって、日本国第一の

【第一の重宝神璽〔しんじ〕・宝剣〔ほうけん〕・】
重宝たる神璽と宝剣と

【内侍所〔ないしどころ〕とあがめさせ給ひき。】
内侍所と同じように崇重したのです。

【叡山第一の座主義真〔ぎしん〕和尚・】
比叡山第一代座主義真和尚、

【第二の座主円澄〔えんちょう〕大師までは此の義相違なし。】
第二代座主円澄大師までは、伝教大師の教義に相違しなかったのです。

【第三の慈覚大師御入唐、漢土にわたりて十年が間、】
しかし第三代慈覚大師は、唐へ渡って十年の間、

【顕密二道の勝劣を八箇の大徳にならひつたう。】
顕密二道の優劣を八人の真言師から学び、

【又天台宗の人々広修〔こうしゅ〕・】
天台宗の事は、中国天台宗の僧広修、

【維蠲〔ゆいけん〕等にならわせ給ひしかども、】
惟蠲などに学んだけれども、

【心の内にをぼ〔思〕しけるは、真言宗は天台宗には勝れたりけり、】
心の中では、真言宗は、天台宗より優れていると思っており、

【我が師伝教大師はいまだ此の事をばくは〔詳〕しく習はせ給はざりけり、】
我が師匠である伝教大師は、未だ、この事を詳しく学ばないうちに、

【漢土に久しくもわたらせ給はざりける故に、此の法門は】
わずか一年で日本へ帰ってしまったので、この真言の法門については、

【あらうちにみ〔見〕をはしけるやとをぼ〔思〕して、日本国に帰朝し、】
よく知らずにいたに違いないと考えて、日本に帰って来たのです。

【叡山の東塔止観院の西に総持院〔そうじいん〕と申す大講堂を立て、】
そして比叡山の東塔、止観院の西に総持院という大講堂を建て、

【御本尊は金剛界〔こんごうかい〕の大日如来、】
真言の金剛界の大日如来を本尊とし、

【此の御前にして大日経の善無畏の疏を本として、】
この前で大日経の善無畏の注釈書を手本として、

【金剛頂〔こんごうちょう〕経の疏七巻・】
金剛頂経の注釈書七巻、

【蘇悉地〔そしっじ〕経の疏七巻已上十四巻をつくる。】
蘇悉地経の注釈書七巻、以上の十四巻を著述したのです。

【此の疏の肝心の釈に云はく】
この注釈書の重要な釈には

【「教に二種有り。一は顕示教、謂はく三乗教なり。】
「教えには、二種類があって、一には顕示教であり、いわゆる三乗教で、

【世俗と勝義と】
この教えでは、まだ世俗諦と云う一般世間と、勝義諦という

【未だ円融〔えんゆう〕せざる故に。二は秘密教、謂はく一乗教なり。】
仏法の理論とが円融していない。二には、秘密教で、いわゆる一乗教で、

【世俗と勝義と一体にして融する故に。秘密教の中に亦二種有り。】
これは、世俗と仏教とが一体になり融合している。秘密教の中にまた二種類があり、

【一には理秘密教〔りひみっきょう〕、】
一には、理秘密の教えで、

【諸の華厳・般若・維摩〔ゆいま〕・法華・涅槃等なり。】
もろもろの華厳、般若、維摩、法華、涅槃などで、

【但世俗と勝義との不二を説いて】
これらの経には、ただ世俗と仏教との不二を説いて、

【未だ真言密印の事を説かざる故に。二には事理倶密〔じりぐみつ〕教、】
未だ真言と密印の事を説いていない。二には、事理倶密の教で、

【謂はく大日経・金剛頂経・蘇悉地経等なり。】
大日経、金剛頂経、蘇悉地経など、いわゆる真言の三部経である。

【亦世俗と勝義との不二を説き】
また、世俗と仏法との不二一体を説き、

【亦真言密印の事を説く故に」等云云。】
また、真言と密印の事を説いているので事理倶密なのである」と書いているのです。

【釈の心は法華経と真言の三部との勝劣を定めさせ給ふに、】
この慈覚の注釈書の意味は、法華経と真言の三部経との優劣を定めるのに、

【真言の三部経と法華経とは】
真言の三部経は、法華経と理論は、

【所詮の理は同じく一念三千の法門なり。】
同じであり、最終的には、一念三千の法門なのです。

【しかれども密印と真言等の事法は法華経か〔欠〕けてをは〔在〕せず。】
しかし、密印と真言などの事法は、法華経は、欠けており無いのです。

【法華経は理秘密、真言の三部経は事理倶密なれば】
法華経は、ただ理秘密に過ぎない、真言の三部経は、事理倶密であるから、

【天地〔てんち〕雲泥〔うんでい〕なりとかゝれたり。】
その差は、天地雲泥であると書いたのです。

【しかも此の筆は私の釈にはあらず。】
しかもこれは自分の勝手な意見などではなく、

【善無畏三蔵の大日経の疏の心なりとをぼせども、】
善無畏三蔵の大日経の注釈書の心であると言って、

【なをなを二宗の勝劣不審にやありけん、】
なお二宗の優劣に疑問を持っていたのか、

【はた又他人の疑ひをさん〔散〕ぜんとやをぼしけん。】
それとも他人の疑いを晴らそうと思ったのでしょうか。

【大師(慈覚なり)の伝に云はく】
慈覚大師伝には、次のように書いてあるのです。

【「大師二経の疏を造り、功を成し已畢〔おわ〕って】
「慈覚は、二経の注釈書を作り、これを成し終わってから、

【心中に独り謂〔おも〕へらく、此の疏、仏意に通ずるや否や。】
心の中でひとり思うのには、この注釈書は、仏の意思に適うのだろうか。

【若し仏意に通ぜざれば世に流伝〔るでん〕せじ。】
もし、仏意に適わないのであれば、世間に広まらないようにしなければならない。

【仍〔よ〕って仏像の前に安置し】
そこで仏像の前に安置し、

【七日七夜深誠を翹企〔ぎょうき〕し祈請〔きしょう〕を勤修〔ごんしゅ〕す。】
七日七夜に渡って心をこめて深い祈りを捧げ、

【五日の五更〔ごこう〕に至って夢みらく、正午に当たって日輪を仰ぎ見〔み〕、】
五日目の明け方、夢をみた。その夢は、正午の太陽が輝いているのを仰ぎ見て、

【弓を以て之を射〔い〕る。其の箭〔や〕日輪に当たって日輪即ち転動す。】
弓矢でこれを射ると、その矢が太陽にあたって太陽が虚空から堕ちてしまった。

【夢覚めての後深く仏意に通達せりと悟り、】
夢から覚めて、自分の注釈書が深く仏意に通達していると確信し、

【後世に伝ふべし」等云云。】
後世に、これを伝えるべきだと思った」と云うのです。

【慈覚大師は本朝にしては伝教・弘法の両家を習ひきわめ、異朝にしては】
慈覚大師は、日本においては伝教、弘法の両大師の教えを習いきわめ、

【八大徳並びに南天の宝月〔ほうげつ〕三蔵〔さんぞう〕等に】
唐へ渡ってからは、八大徳を始め、南インドの宝月三蔵等に

【十年が間最大事の秘法を】
十年の間、最大事の秘法を

【きわめさせ給へる上、二経の疏をつくり了〔おわ〕り、】
習いきわめた上、二経の注釈書を作ったのです。

【重ねて本尊に祈請をなすに、】
しかも重ねて本尊に祈請をなしたところ、

【智慧の矢すでに中道の日輪にあたりてうちをどろかせ給ひ、】
智慧の矢は、すでに真昼の太陽にあたり、正しい事を証明できたと確信したのです。

【歓喜のあまりに仁明〔にんみょう〕天王に宣旨〔せんじ〕を申しそへさせ給ひ、】
その歓喜のあまりに仁明天王に、それを報告し、天皇の命令を申し添えて、

【天台の座主を真言の官主となし、】
天台の座主を真言の公の指導者となし、

【真言の鎮護〔ちんご〕国家の三部とて】
真言の三部経を鎮護国家の三部と言ってから、

【今に四百余年が間、碩学〔せきがく〕稲麻〔とうま〕のごとし】
今日まで四百余年の間、これを信じる大学者は、稲や麻のように多く、

【渇仰〔かつごう〕竹葦〔ちくい〕に同じ。】
これを求める者は、竹や葦のように多くなってしまったのです。

【されば桓武・伝教等の日本国建立の寺塔は】
それで桓武天皇や伝教大師によって日本国中に建立された寺塔は、

【一宇〔いちう〕もなく真言の寺となりぬ。公家も武家も一同に】
一つ残らず真言の寺となったのです。公家も武家も一同に

【真言師を召〔め〕して師匠とあをぎ、官をなし寺をあづけた〔給〕ぶ。】
真言師を師匠と仰ぎ、官位を授け、寺を預けたのです。

【仏事の木画〔もくえ〕の開眼〔かいげん〕供養〔くよう〕は】
仏事としての開眼供養さえ、

【八宗一同に大日仏眼の印真言なり。】
八宗とも同じく大日仏眼の印と真言で行なうようになってしまったのです。


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