御書研鑚の集い 御書研鑽資料
撰時抄 35 三度の高名あり
【外典に云はく、未萌〔みぼう〕をしるを聖人という。】
外典に「まだ起きていない事を知る者を聖人という」と書いてあります。
【内典に云はく、三世を知るを聖人と云う。】
内典には「過去、現在、未来の三世を知るを聖人という」と説かれています。
【余に三度のかうみゃう〔高名〕あり。】
日蓮には、これについての三度の実績があるのです。
【一〔ひと〕つには去〔い〕にし文応元年(太歳庚申)七月十六日に】
一つには、去る文応元年七月十六日に
【立正安国論を最明寺殿に奏〔そう〕したてまつりし時、】
「立正安国論」を最明寺入道、時頼に上奏して、
【宿谷〔やどや〕の入道に向かって云はく、】
その時に、仲介をした宿谷の入道に
【禅宗と念仏宗とを失ひ給ふべしと申させ給へ。此の事を御用ひなきならば、】
「禅宗と念仏宗を捨てなさいと執権時頼に忠告せよ。この意見を無視するならば、
【此の一門より事をこりて他国にせめられさせ給ふべし。】
北条の一門から内乱がおき、他国から攻められるであろう」と言ったのです。
【二つには去にし文永八年九月十二日申〔さる〕の時に】
二つには、去る文永八年九月十二日の夕刻、
【平左衛門尉に向かって云はく、日蓮は日本国の棟梁〔とうりょう〕なり。】
平左衛門尉に向かって「日蓮は日本国の棟梁である。
【予を失ふは日本国の柱橦〔はしら〕を倒すなり。】
日蓮を失うという事は日本国の柱を倒す事になる。
【只今に自界反逆難〔じかいほんぎゃくなん〕とてどしう〔同士討〕ちして、】
今に自界反逆難で一族の同士打ちが始まり、
【他国侵逼難〔たこくしんぴつなん〕とて此の国の人々他国に打ち殺さるゝ】
他国侵逼難でこの国の人々が、他国より攻められ打ち殺されるのです。
【のみならず、多くいけどりにせらるべし。】
また、それだけではなく、多くの人々が生け捕りになるでしょう。
【建長寺・寿福寺・極楽寺・大仏・長楽寺等の】
建長寺、寿福寺、極楽寺、大仏、長楽寺などのすべての
【一切の念仏者・禅僧等が寺塔をばや〔焼〕きはらいて、】
念仏者や禅僧などの寺院を焼き払らい、
【彼等が頸をゆひ〔由比〕のはま〔浜〕にて切らずば、】
彼らの首を由比の浜で斬らなければ、
【日本国必ずほろぶべしと申し候ひ了んぬ。】
日本国は、必ず亡びるであろう」と言ったのです。
【第三には去年(文永十一年)四月八日左衛門尉に語って云はく、】
三つには、去年の文永十一年四月八日に、平左衛門尉にこのように言ったのです。
【王地に生まれたれば身をば随へられたてまつるやうなりとも、】
「鎌倉幕府の時代に生まれ合わせた以上は、身は幕府の命に随えられているが、
【心をば随へられたてまつるべからず。】
心まで随ってはいない。
【念仏の無間獄、禅の天魔の所為なる事は疑ひなし。】
念仏は無間地獄、禅は天魔の所為である事は疑いない。
【殊に真言宗が此の国土の大なるわざわひにては候なり。】
ことに真言宗がこの日本の最大の禍いである、
【大蒙古を調伏せん事〔こと〕真言師には仰せ付けらるべからず。】
大蒙古との戦いに対して調伏を真言師には、任せてはならない。
【若し大事を真言師調伏するならば、】
もしこの調伏を真言師には、任せてしまえば、
【いよいよいそいで此の国ほろぶべしと申せしかば、】
いよいよ、早く国が亡びるであろう」と言うと、
【頼綱〔よりつな〕問ふて云はく、いつごろかよせ候べき。】
頼綱は「いつごろ寄せて来るであろうか」と尋ねたのです。
【予言はく、経文にはいつとはみ〔見〕へ候はねども、】
私が「経文には、何時〔いつ〕とは書いてないが、
【天の御気色〔みけしき〕いかりすくなからず、】
天の様子を考えると怒りが少なくないように思う。
【きう〔急〕に見へて候。よも今年はすごし候はじと語りたりき。】
襲来の時が迫っていて、恐らく今年を越す事はない。」と答えたのです。
【此の三つの大事は日蓮が申したるにはあらず。】
この三つの大事は、日蓮が勝手に言ったのではないのです。
【只偏に釈迦如来の御神〔みたましい〕】
ただ、ひとえに釈迦如来の精神が、
【我が身に入りかわせ給ひけるにや。】
我が心となってこのような言動となったのでしょう。
【我が身ながらも悦び身にあまる。】
我が身ながら身にあまる喜びであり、
【法華経の一念三千と申す大事の法門はこれなり。】
法華経の一念三千と申す大事の法門がこれであるのです。
【経に云はく、所謂諸法如是相と申すは】
法華経方便品の「いわゆる諸法の是の如き相」と云うのは、
【何事ぞ。十如是の始めの相如是が】
いかなる意味でしょうか。十如是の始めの「相是くの如し」と云う事が、
【第一の大事にて候へば、仏は世にいでさせ給ふ。】
第一の大事であるから、仏は、世に出現するのです。
【智人は起〔き〕をしる】
「智者は、起こる事を知る」と云い、
【蛇〔じゃ〕はみづから蛇をしるとはこれなり。】
「蛇は、みずから蛇を知る」と云うのがこれなのです。
【一渧〔てい〕あつまりて大海となる。】
多くの流れが集まって大海となるのです。
【微塵つもりて須弥山となれり。日蓮が法華経を信じ始めしは】
また、わずかの塵が積もって須弥山となるのです。日蓮が法華経を信じ始めた事は、
【日本国には一渧一微塵のごとし。】
日本国にとっては、一滴の水、微小の塵のようなものなのです。
【法華経を二人・三人・十人・百千万億人唱え伝うるほどならば、】
この後に法華経を二人、三人、十人、百千万億人と唱え伝えていくならば、
【妙覚の須弥山ともなり、大涅槃の大海ともなるべし。】
妙覚の須弥山ともなり、大涅槃という悟りの大海ともなるのです。
【仏になる道は此よりほかに又もとむる事なかれ。】
仏になる道は、これより他に求める事は、出来ないのです。
【問うて云はく、第二の文永八年九月十二日の御勘気〔ごかんき〕の時は、】
それでは、第二の諌暁の文永八年九月十二日の御勘気の時は、
【いかにとして我をそん〔損〕ぜば】
どうして、自分を迫害すれば
【自他のいくさ〔軍〕をこるべしとはし〔知〕り給ふや。】
内乱が起き他国から攻められると知る事が出来たのでしょうか。
【答ふ、大集経(五十)に云はく「若し復〔また〕諸の刹利〔せつり〕】
それは、大集経に「もしまた、もろもろのクシャトリヤ(士分)の
【国王諸の非法を作〔な〕し、世尊の声聞の弟子を悩乱し、】
国王が数々の非法をなし、世尊の声聞の弟子を悩ませ、
【若しは以て毀罵〔きめ〕し刀杖をもって打斫〔ちょうしゃく〕し、】
または、罵倒し、刀杖をもって撃ち、
【及び衣鉢種々の資具〔しぐ〕を奪ひ、】
僧侶の衣鉢などの数々の仏具を奪い、
【若しは他の給施〔きゅうせ〕に留難を作す者有らば、】
供養する者を妨害すれば、
【我等彼をして自然に卒〔にわ〕かに他方の怨敵を起こさしめ、】
梵天、帝釈、日月などは、自然に他国からの怨みや敵意を起こさせ、
【及び自界の国土にも亦兵起・】
また、自国の中でも兵が起こり、
【飢疫〔きえき〕飢饉〔ききん〕・非時の風雨〔ふうう〕・】
飢疫や飢饉や、時期外れの風雨や、
【闘諍〔とうじょう〕言訟〔ごんしょう〕・譏謗〔きぼう〕せしめ、】
闘争、論争、讒言が起き、
【又其の王をして久しからずして】
また、その王の時代が久しからず終りを告げ、
【復〔また〕当に己が国を忘失すべし」等云云。】
まさにこの国は消滅するであろう」とあります。
【夫〔それ〕諸経に諸文多しといえども、此の経文は身にあたり、】
このように、諸経にたくさんの文章があるとはいえ、この経文は、身にあたり、
【時にのぞんで殊〔こと〕に尊くをぼ〔覚〕うるゆへに、】
時に臨んで、ことに尊く思える故に、
【これをせん〔撰〕じいだす。此の経文に我等とは、梵王と帝釈と】
この文章を選び出したのです。この経文の我らとは、梵王と帝釈と
【第六天の魔王と日月と四天等の三界の一切の天竜等なり。】
第六天の魔王と日月と四天の三界のすべての天竜などの事です。
【此等の上主仏前に詣〔けい〕して誓って云はく、】
これらの者達が、仏の前で誓って言うのには、
【仏の滅後、正法・像法・末代の中に、正法を行ぜん者を邪法の比丘等が】
仏の滅後、正法、像法、末代の中において、正法を行ずる者を、邪法の比丘等が、
【国主にうったへば、王に近きもの、王に心よせなる者、】
国主に訴えれば、王に近い者や王に心を寄せる側近の者達は、
【我がたっとしとをも〔思〕う者のいうことなれば、】
自分が、尊いと思って帰依していた僧達の訴えであるから、
【理不尽〔りふじん〕に是非を糾〔ただ〕さず、】
理不尽にも正邪を正さずに、
【彼の智人をさんざんとはぢ〔恥〕にをよ〔及〕ばせなんどせば、】
智者をさんざんに迫害するのです。
【其の故ともなく其の国ににわかに大兵乱出現し、後には他国にせめらるべし。】
そのゆえ、その国に、にわかに大兵乱が出現し、後には他国から攻められるのです。
【其の国主もう〔失〕せ、其の国もほろびなんずととかれて候。】
その国主も亡び、その国も亡びるであろうと説かれているのです。
【いた〔痛〕ひとかゆ〔痒〕きとはこれなり。】
予言が的中するか国が滅亡するか、痛し痒しと云うのは、この事であり、
【予が身には今生にはさせる失〔とが〕なし。】
私の身の上には、大した過失はないのです。
【但〔ただ〕国をたす〔扶〕けんがため、生国の恩をほう〔報〕ぜんと申せしを、】
ただ国を助け、生まれた国の恩を報じる為に
【御用ひなからんこそ本意にあらざるに、あまさ〔剰〕へ召し出だして】
用いられない事こそ、まことに不本意な事なのです。さらに呼び出しておいて、
【法華経の第五の巻を懐中〔かいちゅう〕せるを】
法華経の第五の巻を懐中から
【とりいだしてさんざんとさいなみ、】
取り出して、さんざんに殴〔なぐ〕りつけ、
【結句〔けっく〕はこうぢ〔小路〕をわた〔渡〕しなんどせしかば】
最後には、捕えて鎌倉の町を引き回したので、
【申したりしなり。日月天に処〔しょ〕し給ひながら、】
このように言ったのです。日月も天にありながら、
【日蓮が大難にあうを今度かわらせ給はずば、】
日蓮が大難に遭うのを見て、放っておけば、
【一には日蓮が法華経の行者ならざるか、】
一つには、日蓮が法華経の行者ではないのか、
【忽〔たちま〕ちに邪見をあらた〔改〕むべし。】
もし、そうであるなら、すぐにでも邪見を改めなければなりません。
【若し日蓮法華経の行者ならば】
もし、日蓮が法華経の行者であるならば、
【忽ちに国にしるしを見せ給へ。若ししからずば今の日月等は】
たちまち国に罰を与えるべきであるのです。もし、そうしなければ、今の日月天は、
【釈迦・多宝・十方の仏をたぶらかし奉る大妄語の人なり。】
釈迦、多宝、十方の仏の誓いを破る大妄語の人達である。
【提婆が虚誑罪〔こおうざい〕、】
これは、提婆達多の自らを仏と云った虚誑罪となるのです。
【倶伽利〔くがり〕が大妄語にも百千万億倍すぎさせ給へる】
倶伽利の大妄語よりも百千万億倍も過ぎたる
【大妄語の天なりと声をあげて申せしかば、】
大妄語の天となるではないか、と声を上げて叫んだ結果、
【忽ちに出来せる自界反逆難なり。】
たちまちに出現したのが自界叛逆難であるのです。