日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


頼基陳状 04 第03章 桑ヶ谷問答(2)正師の実践を明かす

【念仏宗に詮とする導・然の両人は、】
念仏宗を仏法の要とする善導和尚、法然上人は、

【経文実ならば阿鼻大城をまぬかれ給ふべしや。】
これらの経文が真実であるならば、無間地獄をまぬがれる事が可能でしょうか。

【彼の上人の地獄に堕せば末をうけたる弟子檀那等】
この二人が地獄に堕ちられるのであれば、その流れを汲んだ弟子、檀那も、

【自然に悪道に堕ちん事疑ひなかるべし。此等こそ不審に候へ、】
自然に悪道に堕ちる事は疑いなく、これらのことこそ、重大な疑問なのです。

【上人は如何と問ひ給はれしかば、】
竜象上人は、これをどのように考えられますかと三位公は質問したのです。
【竜上人答へて云はく、】
竜上人が、それに答えて言うのには、

【上古の賢哲達をばいか〔争〕でか疑ひ奉るべき。】
昔の賢人や哲人達を、どうして疑うことができましょうか。

【竜象等が如くなる凡僧等は仰いで信じ奉り候と答へ給ひしを、】
竜象のような凡僧は、ただ、仰〔あお〕いで信じるのみであると答えたのです。

【をし返して、】
三位房は、その言葉に反論して、

【此の仰せこそ智者の仰せとも覚えず候へ。】
この仰〔おお〕せこそ、智者の仰せとも思われません。

【誰人か時の代にあをがるゝ人師等をば疑ひ候べき。】
誰が、その時代に仰〔あお〕がれた人師を疑うでしょうか。

【但し涅槃経に仏最後の御遺言として】
ただ、涅槃経に仏の最後の御遺言として、

【「法に依って人に依らざれ」と見えて候。】
「法に依って、人に依ってはならない」と説かれております。

【人師にあやま〔誤〕りあらば経に依れと仏は説かれて候。】
もし人師に誤りがあるならば、経文に依りなさいと仏は、説かれているのです。

【御辺はよもあやまりましまさじと申され候。】
あなたは、先師に誤りがないと言われていますが、

【御房の私の語と仏の金言と比べんには、三位〔さんみ〕は如来の金言に】
あなたの私的な言葉と仏の金言を比べるならば、この三位は、如来の金言の方を

【付きまい〔参〕らせむと思ひ候なりと申されしを、】
信じていこうと思うものですと言ったのです。

【象上人は人師にあやまり多しと候は】
そこで、象上人は、人師に誤りが多いと言うのは、

【いづれの人師に候ぞと問はれしかば、上に申しつる所の】
どの人師のことを言っているのかと問われたので、三位公は前にいったところの

【弘法大師・法然上人等の義に候はずやと答へ給ひしかば、】
弘法大師や法然上人のことですと答えたのです。

【象上人は嗚呼〔ああ〕叶ひ候まじ、】
象上人は、ああ、それは、大変なことだ。

【我が朝の人師の事は忝〔かたじけな〕くも問答仕るまじく候。】
我が国の人師のことは、恐れ多くて、問答を差し控えたい。

【満座の聴衆皆々其の流にて御坐す。】
この満座の聴衆は、皆、弘法大師や法然上人の流れの人々である。

【鬱憤〔うっぷん〕も出来せば定めてみだりがはしき事候なむ、】
そのような人々の怒りや不満が出て、きっと、この場が乱れるであろう、

【恐れあり恐れありと申されし処に、】
ほんとうに、その恐れがあると述べられたので、

【三位房の云はく、人師のあやまり誰ぞと候へば、】
三位房は、人師の誤りとは誰のことかと問われたので、

【経論に背く人師逹をいだし候ひし。】
経論に背く人師を出したのです。

【憚〔はばか〕りありかな〔叶〕ふまじと仰せ候にこそ、】
それなのに、聞いている人々をはばかり、問答が出来ないと言われるなど、

【進退きはまりて覚え候へ。法門と申すは、人を憚り世を恐れて、】
進退きわまったとしか思えません。法門と言うのは、人をはばかり世を恐れて、

【仏の説き給ふが如く経文の実義を申さざらんは愚者の至極なり。】
仏の説いた通りに経文の実義を主張しないのは、愚者の極まりです。

【智者上人とは覚え給はず。悪法世に弘まりて、】
智者、上人とも思われず、悪法が世に弘まり、

【人悪道に堕ち、国土滅すべしと見へ候はむに、】
人々が悪道に堕ち、国土が滅びようとしているのに、

【法師〔ほっし〕の身として争〔いか〕でかいさ〔諫〕めず候べき。】
僧侶の身分として、どうして、これを諫〔いさ〕めずにいられましょうか。

【然れば則ち法華経には「我身命〔しんみょう〕を愛せず」と、】
それゆえ、法華経には「我れ身命を愛まず」と説かれ、

【涅槃経には「寧〔むし〕ろ身命を喪〔うしな〕ふとも」等云云。】
涅槃経には「むしろ身命を失うとも」と説かれているのです。

【実の聖人〔しょうにん〕にてをはせば、】
真実の聖人であるならば、

【何〔いかん〕が身命を惜しみて世にも人にも恐れ給ふべき。】
どうして身命を惜しんで、世間や人を恐れることがありましょうか。

【外典の中にも、竜蓬〔りゅうほう〕と云ひし者、】
外典の中にも竜蓬と言う人や、

【比干〔ひかん〕と申せし賢人は頸をはねられ、】
比干と言う賢人は、それぞれ首を、はねられ、

【胸をさかれしかども夏〔か〕の桀〔けつ〕、殷〔いん〕の紂〔ちゅう〕をば】
胸をさかれたけれども、主君である夏の国の桀王や殷の紂王を

【いさめてこそ賢人の名をば流し候ひしか。】
諌めて、賢人の名を末代まで伝えました。

【内典には不軽〔ふきょう〕菩薩〔ぼさつ〕は杖木をかほり、】
仏典には、不軽菩薩は、杖木の責めを蒙〔こうむ〕り、

【師子尊者は頭をはねられ、竺の道生は蘇山にながされ、】
師子尊者は、頭をはねられ、竺の道生は、蘇山に流され、

【法道三蔵は面〔かお〕に火印〔かなやき〕をさゝれて】
法道三蔵は、顔に火印をされて、

【江南〔こうなん〕にはな〔放〕たれしかども、】
江南に追放されましたが、

【正法を弘めてこそ聖人の名をば得候ひしかと難ぜられ候ひしかば、】
正法を弘めた故に、聖人の名を得たのではないですかと非難したのです。

【竜聖人の云はく、さる人は末代にはありがたし。】
竜上人は、それに答えて、そのような賢人、聖人は、末世では、有り得ない。

【我々は世をはゞかり人を恐るゝ者にて候、さやうに仰せらる人とても、】
我々は世をはばかり、人を恐れる者である。そう言われる、あなたも、

【ことば〔言〕の如くにはよもをはし〔御座〕まし候はじと候ひしかば、】
言われた言葉通りには、まさか、なさっていないでしょうと言われたので、

【此の御房は争でか人の心をば知り給ふべき。】
それに対して、三位公は、あなたに、どうして人の心がわかるでしょうか。

【某〔それがし〕こそ当時日本国に聞こへ給ふ日蓮聖人の弟子として候へ。】
私こそ、現在、日本にその名が聞えた日蓮聖人の弟子です。

【某が師匠の聖人は末代の僧にて御座し候へども、】
私の師匠の日蓮聖人は、末代の僧でありますが、

【当世の大名僧の如く望んで請用もせず、】
現在の大名僧のように自ら望んで人に招かれもしませんし、

【人をも諂〔へつら〕はず、聊〔いささか〕異なる悪名もたゝず、】
人にも、へつらわず、少しも世間的な悪名もありません。

【只此の国に真言・禅宗・浄土宗等の悪法並びに謗法の諸僧満ち満ちて、】
ただ、この国に真言宗、禅宗、浄土宗などの悪法や、謗法の僧侶が満ちて、

【上一人をはじめ奉りて下万民に至るまで御帰依ある故に、】
上一人を始めとして、下万人に至るまで、それらの宗派に帰依している為に、

【法華経教主釈尊の大怨敵と成りて、現世には天神地祇〔ちぎ〕にすてられ、】
法華経、教主、釈尊の大怨敵となって、現世には、天神、地祇に捨てられ、

【他国のせめにあひ、後生には阿鼻大城に堕ち給ふべき由、】
他国の攻めにあい、後生には、阿鼻地獄に堕ちることを、

【経文にまかせて立て給ひし程に、此の事申さば大なるあだあるべし、】
経文に従って述べられているのです。ですが、この事を言えば大きな難があります。

【申さずんば仏のせめのがれがたし。いはゆる涅槃経に】
しかし、言わなければ、仏の責めを逃れ難いのです。いわゆる涅槃経には、

【「若し善比丘〔びく〕あって法を壊〔やぶ〕る者を見て置いて】
「もし、素晴らしい僧侶がいて、仏法を破壊する者を見て、

【呵責〔かしゃく〕し駈遣〔くけん〕し挙処〔こしょ〕せずんば、】
その者を呵責せず、追い出しもせず、その罪を責めないならば、

【当に知るべし是の人は仏法の中の怨なり」等云云。】
まさしく、その僧侶は、仏法の中の怨敵である」と説かれているのです。

【世に恐れて申さずんば、我が身悪道に堕つべきと御覧じて、】
世間を恐れて言わなければ、我が身が悪道に堕ちることを、経文で御覧になって、

【身命をすてゝ、去ぬる建長年中より今年建治三年に至るまで、】
身命を捨てて、去る建長年間から、今年の建治三年に至るまで、

【二十余年が間あえてをこたる事なし。】
二十余年の間、怠ったことはないのです。

【然れば私の難は数を知らず、国王の勘気は両度に及びき。】
そうであるから、私的な難は、数えきれず、国王の弾圧は、二度に及びました。


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