御書研鑚の集い 御書研鑽資料
頼基陳状 13 第12章 起請文の提出を拒む
【抑〔そもそも〕彼の小乗戒は富樓那〔ふるな〕と申せし大阿羅漢〔あらかん〕、】そもそも、この小乗戒は、富楼那と言う大阿羅漢が、
【諸天の為に二百五十戒を説き候ひしを、浄名居士だん〔弾〕じて云はく、】
諸天のために二百五十戒を説いたのを、浄名居士が破折して、
【穢食〔えじき〕を以て宝器に置くこと無かれ等云云。】
穢〔けが〕れた食べ物を宝器に入れてはならないと言い、
【鴦掘摩羅〔おうくつまら〕は文殊〔もんじゅ〕を呵責〔かしゃく〕し、】
鴦崛摩羅は、文殊菩薩を呵責して、
【嗚呼〔ああ〕蚊虻〔もんもう〕の行は大乗空の理を知らずと。】
蚊〔か〕や虻〔あぶ〕の修行は、大乗の空の理を知らないと言っています。
【又小乗戒をば文殊は十七の失を出だし、】
また、小乗戒について文殊菩薩は、大乗戒と比較して十七の失〔とが〕をあげ、
【如来は八種の譬喩を以て是をそしり給ふに、】
釈迦如来は、八種の譬喩によって、小乗戒をそしられています。
【驢乳〔ろにゅう〕と説き、蝦蟇〔がま〕に譬へられたり。】
伝教大師は、小乗戒を驢馬〔ろば〕の乳と説き、蝦蟇に譬えられています。
【此等をば鑑真〔がんじん〕の末弟子は伝教大師をば悪口〔あっく〕の人とこそ、】
これらについて鑑真の末弟子は、伝教大師を悪口の人であると、
【嵯峨〔さが〕天皇には奏し申し候ひしかども、】
嵯峨天皇に訴えましたが、
【経文なれば力及び候はず。】
経文に説かれていることであるから、どうしようもありませんでした。
【南都の奏状やぶれて、叡山の大戒壇立ち候ひし上は、】
南都六宗からの、この訴状は、破られて比叡山に大戒壇が建立されたからには、
【すでに捨てられ候ひし小乗に候はずや。】
すでに捨てられてしまったのではないでしょうか。
【頼基が良観房を蚊〔か〕・虻〔あぶ〕・蝦蟇〔がま〕の】
したがって頼基が良観上人のことを、蚊〔か〕や虻〔あぶ〕や蝦蟇〔がま〕の
【法師〔ほっし〕なりと申すとも、】
法師であると悪口しても、
【経文分明に候はゞ御とがめあるべからず。】
経文に明らかなことであるから、とがめられる理由にはならないと思います。
【剰〔あまつさ〕へ起請〔きしょう〕に及ぶべき由仰せを蒙〔こうむ〕るの条、】
その上、起請文を書くようにとの仰せを受けたことは、
【存外に歎〔なげ〕き入りて候。頼基不法時病にて起請を書き候程ならば、】
意外な事で残念でなりません。もし頼基が仕方なく起請文を書いてしまえば、
【君忽〔たちま〕ちに法華経の御罰を蒙らせ給ふべし。】
主君は、たちまちのうちに法華経の罰を受けることになるでしょう。
【良観房が讒訴〔ざんそ〕に依りて】
過去には、良観上人が嘘の話を作りあげて幕府に訴え、
【釈迦如来の御使ひ日蓮聖人を流罪し奉りしかば、】
釈迦如来の御使いである日蓮聖人を佐渡流罪に行なったところ、
【聖人の申し給ひしが如く百日が内に合戦出来して、】
日蓮聖人の言われた、百日の内に内乱が起こり、
【若干〔そこばく〕の武者滅亡せし中に、名越〔なごえ〕の公達〔きんだち〕】
多数の武士が滅亡してしまいました。その中には、名越の若者も、
【横死〔おうし〕にあはせ給ひぬ。】
非業の死に遭われているのです。
【是偏に良観房が失ひ奉りたるに候はずや。】
これは、偏〔ひとえ〕に良観上人が、人の命を失わせたものではないでしょうか。
【今又竜象・良観が心に用意せさせ給ひて、】
今、また、竜象房や良観上人の考えに従って、
【頼基に起請を書かしめ御坐〔おわ〕さば、】
頼基に起請文を書かせるような事があれば、
【君又其の罪に当たらせ給はざるべしや。】
主君も、また、その罪を受けなければならないのです。
【此くの如き道理を知らざる故か、】
このような道理を知らないのでしょうか。
【又君をあだし奉らむと思ふ故か、】
それとも主君に害を加えようとする故でしょうか。
【頼基に事を寄せて大事を出ださむとたばかり候人等、御尋ねあ〔有〕て】
いずれにしても頼基を理由に、大事件を引き起こそうと思っている人々を呼び出し、
【召し合はせらるべく候。】
どちらの言い分が正しいかを照らし合わせてください。
【恐惶謹言〔きょうこうきんげん〕。】
恐れながら御願い申し上げます。
【建治三年六月二十五日 四条中務尉頼基・請文】
建治3年6月25日 四条中務尉頼基請文