御書研鑚の集い 御書研鑽資料
頼基陳状 09 第08章 主君を諌言する
【同じき下し状に云はく、是非につけて主親の所存には相随はんこそ】また、同じ手紙に、是非に関わらず主君や親の考えには、従うことが
【仏神の冥にも世間の礼にも手本と云云。】
仏神の精神にも世間の礼にも手本となるのであると仰せですが、
【此の事最第一の大事にて候へば、私の申し状恐れ入り候間、】
このことが最も大事なことなので、私の意見は差し控えて、
【本文を引くべく候。】
聖人、賢人の文章で御答えしたいと思います。
【孝経に云はく「子以て父に争はずんばあるべからず、】
孝経には「父に間違いがある場合は、子は、父と争わなければならない。
【臣以て君に争はずんばあるべからず」と。】
主君に間違いがある場合には、臣下は、主君と父と争わなければならない」とあり、
【鄭玄〔ていげん〕曰く「君父不義有らんに、】
鄭玄は「主君や父に不義があるのに、
【臣子諫〔いさ〕めざるは則ち亡国破家の道なり」と。】
臣下や子が諫めないのは、国を亡ぼし、家を破る道となる」とあり、
【新序に曰く「主の暴を諫めざれば忠臣に非ざるなり。】
新序では「主君の横暴を諫めないなら忠臣ではない。
【死を畏れて言はざるは勇士に非ざるなり」と。】
また、死を畏れて言わないのは勇士ではない」とあるのです。
【伝教大師云はく「凡そ不誼〔ふぎ〕に当たっては】
伝教大師は「道に背いた事柄においては、
【則ち子以て父に争はずんばあるべからず、】
子は、父と争わなければならないし、
【臣以て君に争はずんばあるべからず。当に知るべし、】
臣下は、主君と争わなければならない。そのように、師弟の道においても、
【君臣・父子・師弟以て師に争はずんばあるべからず」文。】
師に誤りがあれば、弟子は師と争わなくてはならない」と言われています。
【法華経に云はく「我身命を愛せず但無上道を惜しむ」文。】
法華経の勧持品には「我は身命を愛まず、ただ無上道を惜しむ」と説かれています。
【涅槃経に云はく「譬へば王の使ひ善能〔よく〕談論し】
涅槃経には「譬えば、王の使者が人々とよく議論をし、
【方便巧〔たく〕みにして命を他国に奉ぐるに、寧〔むし〕ろ身命を喪ふとも】
人々を説得することが巧みで、他国に行ったときに、自らの生命を犠牲にしても、
【終〔つい〕に王の所説の言教を匿〔かく〕さざるが如し。】
最後まで我が国王の説くところを主張し続けるように、
【智者も亦爾〔しか〕なり」文。】
智者もまたそうなのである」と説かれています。
【章安〔しょうあん〕大師云はく「寧喪〔にょそう〕身命〔しんみょう〕】
章安大師は「むしろ身命をうしなうとも、
【不匿教者〔ふのくきょうしゃ〕とは、身は軽く法は重し、】
教をかくさざれとは、身は軽く、法は重い、故に、
【身を死して法を弘む」文。】
身は、滅んでも法を弘めなければならない」と言われています。
【又云はく「仏法を壊乱〔えらん〕するは仏法の中の怨なり。】
また「仏法を破り乱す者は、仏法の中のあだである。
【慈無くして詐〔いつわ〕り親しむは則ち是〔これ〕彼が怨なり。】
慈悲がなく、偽り親しむは、彼があだなり。
【能く糾治する者は彼が為に悪を除くは則ち是、】
よく罪をただし治す者は、彼の為に悪を除くものであり、
【彼の親なり」文。】
これこそ彼が親である」と述べられています。
【頼基をば傍輩〔ほうばい〕こそ無礼なりと思はれ候はらめども、】
このように申しますと同僚の者は、主君に対して無礼であると思うでしょう。
【世事にをき候ひては、是非父母主君の仰せに随ひ参らせ候べし。】
確かに世間の常識であれば、その通りであり、父母、主君の仰せに従いましょう。