御書研鑚の集い 御書研鑽資料
頼基陳状 07 第06章 良観房を重ねて破す
【上代も雨祈〔あまごい〕に付いて勝負を決したる例〔ためし〕これ多し。】過去にも祈雨によって法門の勝負を決めた例は多い。
【所謂〔いわゆる〕護命〔ごみょう〕と伝教大師と、】
いわゆる、法相宗の元興寺の僧、護命と天台宗の比叡山、伝教大師、
【守敏〔しゅびん〕と弘法〔こうぼう〕となり。】
平安京、西寺の守敏と東寺の弘法との対決が、それであると仰せになりました。
【仍〔よ〕って良観房の所〔もと〕へ】
そして良観房のもとへ、
【周防房〔すおうぼう〕・入沢〔いるさわの〕入道と申す念仏者を遣はす。】
周防房、入沢の入道と言う念仏者をつかわされました。
【御房と入道は良観が弟子、又念仏者なり、】
この二人は、もともと良観の弟子であり、また熱心な念仏者で、
【いまに日蓮が法門を用ふる事なし、】
日蓮の法門を信じていませんでしたが、
【是を以て勝負とせむ。】
そこで日蓮聖人は、この祈雨の一件で仏法の勝負をしよう。
【七日の内に雨降るならば、】
もし七日の内に雨が降るならば、
【本の八斎戒・念仏を以て往生すべしと思ふべし、】
従来、信じているところの八斎戒、念仏の教えで往生できると思うがよい。
【又雨らずば】
しかし、もし雨が降らないなら、
【一向に法華経になるべしとい〔言〕はれしかば、】
念仏を捨てて法華経だけを信じなさいと仰せられたので、
【是等悦びて極楽寺の良観房に此の由を申し候ひけり。】
彼らは、悦んで極楽寺の良観房にこの事を伝えたのです。
【良観房悦びな〔泣〕いて七日の内に雨ふらすべき由にて、】
良観房は、これを泣いて悦び、七日以内に雨を降らそうと、
【弟子百二十余人頭より煙を出だし、声を天にひゞかし、】
弟子達、百二十余人とともに頭から煙を出すほど必死に、声を天に響かせ、
【或は念仏、或は請雨〔しょうう〕経、或は法華経、】
あるいは念仏を、あるいは請雨経を、あるいは法華経を、
【或は八斎戒を説きて種々に祈請〔きしょう〕す。】
あるいは、八斎戒を説いて、さまざまに祈請したのです。
【四五日まで雨の気無ければ、たましゐを失ひて、】
しかし、四、五日たっても雨の降る気配がないので、良観は動転して、
【多宝寺の弟子等数百人呼び集めて力を尽くして祈りたるに、】
さらに多宝寺の弟子達、数百人を呼び集めて、法力を尽くして祈り続けましたが、
【七日の内に露ばかりも雨降らず。】
七日以内には、露ほども雨は降りませんでした。
【其の時日蓮聖人使ひを遣はす事三度に及ぶ。】
そこで、日蓮聖人は、使いを三度も出しています。
【いかに泉式部と云ひし婬女、】
そして、律宗で嫌う和泉式部と言う恋の歌を詠む女性や、
【能因〔のういん〕法師〔ほっし〕と申せし破戒の僧、】
能因法師と言う和歌を詠む破戒の僧侶でさえ、
【狂言綺語の三十一文字〔みそひともじ〕を以て忽〔たちま〕ちにふらせし雨を、】
和歌の狂言綺語である三十一文字で、たちまちに降らすことができた雨を、
【持戒持律の良観房は法華・真言の義理を極め、】
持戒、持律の良観房は、法華、真言の義理を極め、
【慈悲第一と聞こへ給ふ上人の、数百人の衆徒を率ゐて七日の間に】
慈悲第一と評判の上人でありながら、七日の間、数百人の信徒を率いて祈り、
【いかにふらし給はぬやらむ。是を以て思ひ給へ。】
どうして雨を降らすことが出来ないのでしょうか。この事実をもって知りなさい。
【一丈の堀を越えざる者二丈三丈の堀を越えてんや。】
一丈の堀を越えられない者が、どうして二丈、三丈の堀を越えることが出来ようか。
【やすき雨をだにふらし給はず、】
雨を降らすと言う簡単なことさえ出来ないのに、
【況んやかた〔難〕き往生成仏をや。】
どうして、もっと難しい往生成仏をさせることが出来ましょうか。
【然れば今よりは日蓮怨み給ふ邪見をば是を以て翻〔ひるがえ〕し給へ。】
これからは、日蓮を怨む自らの邪見を改めて、
【後生をそ〔恐〕ろしくをぼ〔思〕し給はゞ約束のまゝにいそぎ来たり給へ。】
後生を怖ろしく思われのであれば、約束通りに急いで来なさい。
【雨ふらす法と仏になる道をし〔教〕へ奉らむ。】
雨を降らす方法と仏になる道を教えてあげましょう。
【七日の内に雨こそふらし給はざらめ。】
七日の内に雨が降らないどころか、
【旱魃〔かんばつ〕弥〔いよいよ〕興盛に】
干ばつは、いよいよ盛んになり、
【八風ますます吹き重なりて民のなげき弥々深し。】
暴風は、ますます吹き続け、民衆の嘆きは、いよいよ深くなっています。
【すみやかに其のいのりや〔止〕め給へと、】
速かに間違った、その祈りを止めなさいと、
【第七日の申〔さる〕の時、使者ありのまゝに申す処に、】
七日目の午後四時頃に、使者は、日蓮聖人の仰せのままに伝えたのです。
【良観房は涙を流す。弟子檀那同じく声をおしまず口惜しがる。】
良観房は涙を流し、弟子、檀那も同じく、声をあげ泣いて悔しがったのです。
【日蓮御勘気を蒙る時、此の事御尋ね有りしかば有りのまゝに申し給ひき。】
日蓮聖人が弾圧を受けた時に、この事を尋ねられ、ありのままに申し上げたのです。
【然れば良観房身の上の恥を思はゞ、跡をくらまして山林にもまじはり、】
そうであれば、良観房が恥を知るのであれば、山林に入り、行方をくらますか、
【約束のまゝに日蓮が弟子ともなりたらば、】
または、約束どおりに日蓮の弟子になったならば、
【道心の少しにてもあるべきに、さはなくして無尽の讒言〔ざんげん〕を構へて、】
少しは道心もあるのだが、実際には、そうではなく、ますます多くの讒言を構え、
【殺罪に申し行なはむとせしは貴き僧かと、】
殺害に及ぼうと企てたのですが、これが貴い僧侶のやることでしょうかと、
【日蓮聖人かたり給ひき。又頼基も見聞き候ひき。】
日蓮聖人は、仰せになっており、このことは、頼基も聞いておりました。
【他事に於てはか〔掛〕けは〔畏〕くも】
他の事は、声に出して言うのもはばかられ、
【主君の御事は畏〔おそ〕れ入りて候へども、】
主君の決められる事でありますので、恐れ多いのですが、
【此の事はいかに思ひ候ともいか〔争〕でかと思はれ候べき。】
この事実については、どう考えてみても、申し上げないわけにはまいりません。