日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


池上兄弟御消息文 07 兵衛志殿御返事

【兵衛志殿御返事 弘安元年五月 五七歳】
兵衛志(宗長)殿御返事 弘安元年5月 57歳御作


【御ふみにかゝれて候上、大に〔弐〕のあざり〔阿闍梨〕のかたり候は、】
御手紙に書かれていた上に、大弐の阿闍梨の語られたところでは、

【ぜに十余れん〔連〕並びにやうやうの物ども候ひしかども、】
銭十余連、並びに様々な品々を頂きましたが、

【たうじはのうどき〔農時〕にて〇〇〇〇人もひきたらぬよし】
当時は、農耕で忙しい時期であり〇〇〇〇人も来られず

【〇〇〇も及び候はざりけ〇〇〇〇】
〇〇〇も及ばず〇〇〇〇

【兵衛志殿の御との〇〇〇〇御夫馬〔ふま〕にても〇〇〇〇て候よし申し候。】
兵衛志(宗長)殿の御殿〇〇〇〇人夫と馬でも〇〇〇〇と聞いております。

【夫〔それ〕百済国より日本国に仏法のわたり候ひしは、】
百済国より日本国に仏法が渡って来る時は、

【大船にのせて此をわたす。】
大船に経文や僧侶を乗せて、これを運んだのです。

【今のよど〔淀〕河よりあをみ〔近江〕の水海につけて候ものは、】
現在の淀川より近江〔おうみ〕の琵琶湖に向かう物は、

【車にて洛陽へははこ〔運〕び候。】
荷車で京都へは、運んでいるのです。

【それがごとく、たといかまくら〔鎌倉〕にいかなる物を人にたびて候とも、】
そのように、たとえ鎌倉のいかなる権力を持っている人であっても、多くの物を

【夫〔ふ〕と馬となくばいかでか〇〇】
人夫と馬がなければ、どのようにして運んで、

【〔日蓮〕が命はたすかり候べき。】
日蓮の命が助かる事があるでしょうか。

【〇〇〇〔昔徳勝〕童子は土の餅を仏に〇〇〇〇〇阿育大王と〇〇〇〇〇〇〇〇〇】
昔、徳勝童子は、土の餅を仏に供養して阿育〔あしょか〕大王と〇〇〇〇〇〇〇〇〇

【くやう〔供養〕しまいらせ候ひしゆへに、】
供養されたので、

【阿育大王の第一の大臣羅提吉〔らだいきち〕となりて】
阿育大王の第一の大臣、羅提吉〔らだいきち〕となって

【一閻浮提の御うしろ〔後〕め、所謂をを〔大〕い〔臣〕殿の御時の】
一閻浮提の後ろ盾となり、いわゆる、源実朝が右大臣の時の、

【権大夫〔ごんのたいふ〕殿〔どの〕のごとし。】
権大夫〔ごんのたいふ〕である北条義時殿のようなものなのです。

【此は彼等にはにるべくもなき大功徳。】
これは、この人々に似るべくもない大功徳なのです。

【此の歩馬はこんでいこま〔金泥駒〕となり、】
この馬が運んで、釈迦牟尼仏を運んだ金泥駒〔こんでいこま〕となり、

【此の御との〔殿〕人はしゃのくとねり〔車匿舎人〕となりて、】
この人夫が運んで、釈迦牟尼仏を運んだ車匿舎人〔しゃのくとねり〕となり、

【仏になり給ふべしとをぼ〔思〕しめ〔召〕すべし。】
あなたが釈迦牟尼仏になると思ってください。

【抑〔そもそも〕すぎし事なれども、】
そもそも、過ぎた事ですが、

【あまりにたうと〔尊〕くうれしき事なれば申す。】
あまりに尊く、嬉しい事なので、このように言っているのです。

【昔波羅奈国〔はらなこく〕に摩訶羅王〔まからおう〕と申す大王をはしき。】
昔、波羅奈国〔はらなこく〕に摩訶羅王〔まからおう〕と申す大王が居られました。

【彼の大王に二〔ふたり〕の太子あり。】
この大王に二人の皇子がいて、

【所謂善友〔ぜんう〕太子・悪友〔あくう〕太子なり。】
いわゆる善友〔ぜんう〕太子、悪友〔あくう〕太子と言いました。

【善友太子の如意宝珠を持ちてをはせしかば、此をとら〔盗〕むがために、】
善友太子が如意宝珠〔にょいほうじゅ〕を持っていたので、

【をと〔弟〕の悪友太子は兄の善友太子の眼をぬき給ひき。】
弟の悪友太子は、兄の善友太子の眼を盗んで、それを奪い取りました。

【昔の大王は今の浄飯王〔じょうぼんのう〕、】
過去の大王は、現在の浄飯王〔じょうぼんのう〕であり、

【善友太子は今の釈迦仏、】
善友太子は、現在の釈迦牟尼仏、

【悪友太子は今の提婆達多〔だいばだった〕此なり。】
悪友太子は、現在の提婆達多〔だいばだった〕なのです。

【兄弟なれども、たからをあらそいて、世々生々にかたきとなりて、】
兄弟ですが、宝を争って、生まれては、死に、敵〔かたき〕となって、

【一人は仏となり、一人は無間地獄にあり。】
一人は、仏となり、一人は、無間地獄にあり、

【此は過去の事、他国の事なり。】
これは、過去の事、他国の事なのです。

【我が朝には一院・さぬきの院は兄弟なりしかども位をあらそいて、】
我が朝には、一院、讃岐の院は、兄弟でしたが、位を争って、

【ついにかたきとなり給ひて、今に地獄にやをはすらむ。】
ついに敵〔かたき〕となり、現在は、地獄にいるのでしょうか。

【当世め〔眼〕にあ〔当〕たりて、】
現在においても、

【此の代のあや〔危〕をきも兄弟のあらそ〔争〕いよりをこる。】
この世の危うい出来事も、兄弟の争いより起こるのです。

【大将殿と申せし賢人も、九郎判官等の舎弟等をほろぼし給ひて、】
大将、源頼朝殿と言うような賢人も、弟の九郎判官、源義経を亡ぼして、

【かへりて我が子ども皆所従等に失はれ給ふは眼前の事ぞかし。】
その為に、家来によって、我が子を、皆、失われたのは、眼前の事実なのです。

【とのばら二人は上下こそありとも、との〔殿〕だにもよく〔欲〕ふか〔深〕く、】
あなた方、二人は、上下こそあっても、殿が、欲深く、

【心ま〔曲〕がり、道理をだにもしらせ給はずば、】
心曲がり、道理を知らないのであれば、

【ゑもん〔右衛門〕の大夫志〔たいふのさかん〕殿〔どの〕は】
右衛門大夫志〔えもんのたゆうさかん〕(宗仲)殿は、

【いかなる事ありとも、をや〔親〕のかんだう〔勘当〕ゆる〔許〕べからず。】
どのような事があっても、親からの勘当〔だんどう〕を許されないでしょう。

【ゑもん〔右衛門〕のたいう〔大夫〕は法華経を信じて仏になるとも、】
右衛門大夫〔えもんのたゆう〕(宗仲)は、法華経を信じて仏になるとも、

【をや〔親〕は法華経の行者なる子をかんだう〔勘当〕して地獄に墮つべし。】
親は、法華経の行者である子を勘当して地獄に墮ちるのです。

【との〔殿〕はあに〔兄〕とをや〔親〕とをそん〔損〕ずる人になりて、】
殿は、兄と親と害する人になって、

【提婆達多がやう〔様〕にをはすべかりしが、末代なれども、かしこ〔賢〕き上、】
提婆達多のように成りそうですが、末代であっても、賢い人である上、

【欲なき身と生まれて三人ともに仏になり給ひ、】
欲なき身と生まれて、三人ともに仏になって、

【ちゝかた〔父方〕、はゝかた〔母方〕のるい〔類〕をも】
父方、母方の親類さえ

【すく〔救〕い給ふ人となり候ぬ。】
救う人となるでしょう。

【又との〔殿〕ゝ御子息等もすへ〔末〕の代はさか〔栄〕うべしとをぼしめせ。】
また、殿の御子息なども、末の代は、栄える事と思ってください。

【此の事は一代聖教をも引きて百千まい〔枚〕にか〔書〕くとも、】
この事は、一代聖教を引いて紙百千枚に書いても、

【つ〔尽〕くべしとはをもわねども、やせやまい〔痩病〕と申し、】
尽くし難く思いますが、痩病〔やせやまい〕と申して、

【身もくる〔苦〕しく候へば、事々申さず。あわれあわれ、】
身体が苦しいので、いちいちは、申しません。ほんとうに憐れなものです。

【いつかげざん〔見参〕に入りて申し候はん。又むかいまいらせ候ひぬれば、】
いつか、御会いして、その時に申しましょう。また、こちらに向かわれた際には、

【あまりのうれ〔嬉〕しさに、かた〔語〕られ候はず候へばあらあら申す。】
あまりの嬉しさに話をせずには、いられないので、その折に申しましょう。

【よろづは心にすい〔推〕しはか〔量〕らせ給へ。】
他の事については、推察してください。

【女房の御事同じくよろこぶと申させ給へ。】
女房御前の御事は、同じく喜んでいると申し伝えてください。

【恐々謹言。】
恐れながら謹んで申し上げます。


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