日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


種々御振舞御書 10 自界叛逆難


第09章 自界叛逆難

【かくてすごす程に、庭には雪つもりて人もかよはず、】
このような気持ちで過ごしていましたが、庭には、雪が積もって人も通わず、

【堂にはあらき風より外〔ほか〕はをとづるゝものなし。】
三昧堂には、強い風の他は、訪れる者さえいなかったのです。

【眼〔まなこ〕には止観〔しかん〕・法華をさらし、】
眼には、摩訶止観や法華経をさらし、

【口には南無妙法蓮華経と唱へ、夜は月星に向かひ奉りて】
口には、南無妙法蓮華経と唱え、夜は、月や星に向かって、

【諸宗の違目〔いもく〕と法華経の深義を談ずる程に年もかへりぬ。】
諸宗の違いと法華経の深義を話している間に年が改まりました。

【いづくも人の心のはかなさは、】
どこでも人の心の浅はかさは、同じで、

【佐渡の国の持斎〔じさい〕・念仏者の唯阿弥陀仏〔ゆいあみだぶつ〕・】
佐渡の良観の信奉者や念仏者の唯阿弥陀仏、

【生喩〔しょうゆ〕房・印性房・慈道房等の数百人よ〔寄〕り合ひて】
生喩房、印性房、慈道房など数百人が集まって、

【僉議〔せんぎ〕すと承る。聞こふる阿弥陀仏の大怨敵、】
話し合いの中で「有名な阿弥陀仏の大怨敵、

【一切衆生の悪知識の日蓮房此の国にながされたり。】
一切衆生の悪知識である日蓮房が、この佐渡の国に流されて来た。

【なにとなくとも、此の国へ流されたる人の始終いけ〔活〕らるゝ事なし。】
特別な罪人ではなくても、この島へ流された者で最後まで生きのびた例はない。

【設ひいけらるゝとも、かへ〔帰〕る事なし。】
たとえ生き残れたとしても、元の国へ帰ったためしはない。

【又打ちころしたれども、御とがめなし。】
また流人を打ち殺したとしても、何のとがめもない。

【塚原と云ふ所に只一人あり。】
彼は、塚原と言う場所に、ただひとりでいるのであり、

【いかにがう〔剛〕なりとも、力つよくとも、人なき処なれば集まりて】
いかに剛の者でも、力が強くても、誰もいない場所なのだから、みんなで集まって

【い〔射〕ころ〔殺〕せかしと云ふものもありけり。】
射殺〔いころ〕してしまえ」と言う者もあったのです。

【又なにとなくとも頸を切らるべかりけるが、】
また「いづれにしても首を斬られるはずであった極悪人が、

【守殿〔こうどの〕の御台所〔みだいどころ〕の御懐妊なれば、】
北条時宗殿の夫人が御懐妊されたので、

【しばらくきられず、】
しばらく斬罪を延ばしているだけで、やがて

【終〔つい〕には一定〔いちじょう〕ときく。】
必ず執行されると聞いている。だから放っておくがよい」とか、

【又云はく、六郎左衛門尉殿に申して、】
また「地頭の本間重連殿に斬首するように訴えて、

【き〔切〕らずんばはからうべしと云ふ。】
それでも斬らなかったなら、我々でやろうではないか」と言う者もあり、

【多くの義の中に】
このように様々な意見が出たあげく、

【これについて守護所に数百人集まりぬ。】
この問題について、本間重連のところへ強訴に数百人集まったのです。

【六郎左衛門尉の云はく、上より殺しまうすまじき副状下りて、】
これに対して本間重連が「幕府から殺してはならぬと言う副状が下っており、

【あなづ〔蔑〕るべき流人にはあらず、】
疎〔おろそ〕かにしてよい流人ではない。

【あやまちあるならば重連〔しげつら〕が大なる失なるべし、】
彼〔か〕の者の身に過〔あやま〕ちがあれば大きな罪になるので、

【それよりは只法門にてせめよかしと云ひければ、】
殺すよりも、もっぱら法門で攻めるようにせよ」との返答であったので、

【念仏者等或は浄土の三部経、或は止観、】
念仏者などが、あるいは、浄土の三部経、あるいは、摩訶止観、

【或は真言等を、小法師〔こぼっし〕等が頸にかけさせ、】
あるいは、真言の経釈書などを小憎たちの首にかけさせ、

【或はわき〔腋〕にはさ〔挟〕ませて正月十六日にあつまる。】
あるいは、小脇に挟ませて、正月16日に塚原の三昧堂に集まって来たのです。

【佐渡国のみならず、越後・越中・出羽・奥州・信濃等の国々より】
佐渡一国だけではなく、越後、越中、出羽、奥州、信濃などの国々から

【集まれる法師等なれば、塚原の堂の大庭山野に数百人、】
集まった法師たちなので、塚原の堂の大庭から山野へかけて数百人、

【六郎左衛門尉兄弟一家、】
それに本間重連と兄弟一家や、

【さならぬもの百姓の入道等かずをしらず集まりたり。】
それ以外の者、百姓の入道などが数知れず集まったのです。

【念仏者は口々に悪口をなし、真言師は面々に色を失ひ、】
念仏者は、口々に悪口を言い、真言師は、怒りのために顔色を失い、

【天台宗ぞ勝つべきよしをのゝしる。】
天台宗は、自分達こそ勝つのだと声高に騒いでいました。

【在家の者どもは、聞こふる阿弥陀仏のかたきよと】
在家の者どもは、「かねて聞き及ぶ阿弥陀仏の敵〔かたき〕」と罵〔ののし〕り、

【の〔罵〕ゝしりさは〔騒〕ぎひゞく事、震動〔しんどう〕雷電の如し。】
この騒ぎが響き渡るようすは、地震か雷鳴のようであったのです。

【日蓮は暫〔しばら〕くさはがせて後、各々しづまらせ給へ、】
日蓮は、しばらく騒がせておいて「皆さん、静かにしなさい。

【法門の御為にこそ御渡りあるらめ、】
せっかく、法論の為にここに集まったのではないか。

【悪口等よしなしと申せしかば、】
この場で悪口などは、意味がないではないか」と告げたところ、

【六郎左衛門を始めて諸人然るべしとて、】
本間重連を始め多くの人々が「その通りだ」と同調して、

【悪口せし念仏者をばそくび〔素首〕をつきいだしぬ。】
悪口を繰り返す念仏者の首をもって突き出したのです。

【さて止観・真言・念仏の法門】
そこで、摩訶止観、真言、念仏の法門を、

【一々にかれが申す様をでっし〔牒〕あ〔揚〕げて、】
いちいち相手が言うことに念を押して、

【承伏せさせては、ちゃうとはつめつめ〔詰詰〕、】
内容を承諾させておいてから、少しばかり、それに対して反論をすると、

【一言二言にはすぎず。】
相手は、みな一言二言で言葉に詰まってしまったのです。

【鎌倉の真言師・禅宗・念仏者・天台の者よりもはかなきものどもなれば】
鎌倉の真言師、禅宗、念仏者、天台の者よりも、実に頼りない者どもであるから、

【只思ひやらせ給へ。】
問答の内容は、何ともたわいもないものだったのです。

【利剣〔りけん〕をもてうり〔瓜〕をきり、大風の草をなびかすが如し。】
それは、まるで利剣で瓜を切り、大風が草をなびかせるようなものだったのです。

【仏法のおろかなるのみならず、】
彼等は、仏法に暗いばかりでなく、

【或は自語相違し、或は経文をわすれて論と云ひ、釈をわすれて論と云ふ。】
自語相違し、経文を忘れ論と言い、釈を忘れて論と言う有様で、

【善導が柳より落ち、】
中国浄土宗の僧、善導が首をくくって柳から落ちて死んだのを往生したと言い、

【弘法大師の三鈷〔こ〕を投げたる、】
弘法大師が三股の金剛杵〔こんごうしょ〕を唐から投げて高野山に届いたとか、

【大日如来と現じたる等をば、】
大日如来と現れたとかなどを、何の根拠もなく言って、

【或は妄語、或は物にくるへる処を一々にせめたるに、】
それらが妄信し、狂信である点を、いちいち詳しく責めたところ、

【或は悪口し、或は口を閉ぢ、或は色を失ひ、】
ある者は、悪口し、ある者は、口を閉じて、ある者は、顔色を失い、

【或は念仏ひが〔僻〕事なりけりと云ふものもあり。】
「念仏は間違いであった」と言い出す者もあり、

【或は当座に袈裟〔けさ〕・平念珠〔ひらねんじゅ〕をすてゝ】
その場で袈裟や珠数を捨てて、

【念仏申すまじきよし誓状を立つる者もあり。】
「もう念仏は、称えまい」と言う誓状を立てる者もあったのです。

【皆人立ち帰る程に、六郎左衛門尉も立ち帰る、一家の者も返る。】
そうして、皆、帰って行くので本間重連も帰り、一門の者も帰ってしまったのです。

【日蓮不思議一つ云はんと思ひて、】
このとき日蓮は、奇妙なことを、ひとつ、言っておこうと思って、

【六郎左衛門尉を大庭よりよび返して云はく、いつか鎌倉へのぼり給ふべき。】
本間重連を大庭から呼び戻して、「いつ鎌倉へ上〔のぼ〕られるのか」と尋ねると、

【かれ答へて云はく、下人共に農せさせて七月の比〔ころ〕と云云。】
彼が答えるには、「下人に農事をさせてからで七月頃になる」と答えたので、

【日蓮云はく、弓箭〔ゆみや〕とる者は、をゝやけの御大事にあひて】
日蓮は、「武士である弓取りが主家、北条時宗殿の大事に間に合って、

【所領をも給はり候をこそ田畠つくるとは申せ、】
褒美〔ほうび〕に所領の一つも賜わることこそ、田畠を作ると言う事ではないか。

【只今いくさ〔軍〕のあらんずるに、】
たったいま、内乱が起ころうとしているのに、

【急ぎうちのぼり高名して所知を給はらぬか。】
急いで鎌倉へ駆け上り手柄をたてて領地を賜わらないのか。

【さすがに和殿原〔わどのばら〕はさがみの国には名ある侍ぞかし。】
あなたは、相模の国では、名の知れた侍である。

【田舎にて田つくり、】
それが田舎〔いなか〕で田を作っていたために、

【いくさにはづれたらんは恥なるべしと申せしかば、】
戦〔いくさ〕に遅れたとなれば恥となろう」と言ったところ、

【いかにや思ひげにて、あは〔周〕てゝ〔章〕ものもいはず。】
なんと思ったのか、ものさえ言わずに、慌〔あわ〕てて帰ったのです。

【念仏者・持斎〔じさい〕・在家の者ども〔共〕も】
それを見ていた念仏者、良観の信奉者、在家の者どもも、

【なにと云ふ事ぞやと怪しむ。】
これは、一体どうしたことかと怪しんだのです。


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