日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


種々御振舞御書 14 阿弥陀堂法印の祈雨


第13章 阿弥陀堂法印の祈雨

【さてかへ〔帰〕りき〔聞〕ゝしかば、】
それから、帰って聞いたところによると、

【同四月十日より阿弥陀堂法印〔ほういん〕に仰〔おお〕せ付けられて】
4月10日から阿弥陀堂の僧正に命じて

【雨の御いのりあり。】
雨乞いの祈禱があったのです。

【此の法印は東寺第一の智人、をむろ〔御室〕等の御師、】
この僧正は、東寺第一の智者であり、真言宗御室派の師であって、

【弘法大師・慈覚大師・智証大師の真言の秘法を鏡にかけ、】
弘法大師、慈覚大師、智証大師の真言の秘法に精通し、

【天台・華厳〔けごん〕等の諸宗をみな胸にうかべたり。】
天台宗、華厳宗などすべての宗派を胸に浮かべるように知り尽くした人物であり、

【それに随ひて十日よりの祈雨に十一日に大雨下りて風ふかず、】
それに随って、十日からの祈雨で十一日に、大雨が降って、風は吹かず、

【雨しづかにて一日一夜ふりしかば、守殿〔こうどの〕御感のあまりに、】
雨は、静かで一日一夜、降ったので、執権北条時宗は、たいそう感心して、

【金三十両、むま〔馬〕、やうやうの御ひきで〔引出〕物ありときこふ。】
金三十両に馬などの様々な賜わり物があったと聞こえてきたのです。

【鎌倉中の上下万人、手をたゝき口をすくめてわら〔笑〕うやうは、】
これを知って鎌倉中の上下万人が、喜び勇んで、あざ笑い、

【日蓮ひが〔僻〕法門申して、すでに頸をきられんとせしが、】
「日蓮が自分勝手な法門を主張して、首を斬られようとしたが、

【とかう〔左右〕してゆり〔免〕たらば、】
やっと許されたのだから、少しは神妙にして、心を入れ替えたと思ったが、

【さではなくして念仏・禅をそしるのみならず、】
そうではなく、相変わらず、念仏や禅を謗〔そし〕るだけはなく、

【真言の密教なんどをもそしるゆへに、】
真言の密教なども謗〔そし〕るものだから、

【かゝる法のしるし〔験〕めでたしとのゝしりしかば、】
このような真言の霊験が現われたに違いない」と罵〔ののし〕ったところ、

【日蓮が弟子等けう〔興〕さめて、これは御あら義と申せし程に、】
日蓮の弟子達は、がっかりして「こんなことがあるのか」と嘆いたので、

【日蓮が申すやうは、しばしま〔待〕て、】
日蓮は、諭して「まあ、しばらく様子を見てみなさい。

【弘法大師の悪義まことにて国の御いの〔祈〕りとなるべくば、】
弘法大師の悪義が真実であり、それが国の祈りになるのであれば、

【隠岐法皇こそいくさ〔軍〕にかち給はめ。】
隠岐の法皇こそ戦さに勝ったはずです。

【をむろ〔御室〕最愛の児〔ちご〕せいたか〔勢多迦〕も】
仁和寺〔にんなじ〕の道助法親王の最愛の稚児、勢多迦も

【頸をきられざるらん。】
首を斬られなかったでしょう。

【弘法の法華経を華厳経にをと〔劣〕れりとかける状は、】
弘法が法華経を華厳経に劣っていると書いたのは、

【十住心論〔じゅうじゅうしんろん〕と申す文にあり。】
十住心論と言う文書であり、

【寿量品の釈迦仏をば凡夫なりとしる〔記〕されたる文は】
寿量品の釈迦仏を凡夫であると記〔しる〕した文章は

【秘蔵宝鑰〔ひぞうほうやく〕に候。】
秘蔵宝鑰にあり、

【天台大師をぬす〔盗〕人とかける状は二教論〔にきょうろん〕にあり。】
天台大師を盗人と書いたものは、顕密二教論にあり、

【一乗法華経をとける仏をば、】
一実乗の法華経を説いた仏を

【真言師のはき〔履〕ものとりにも及ばずとかける状は、】
真言師の履きもの取りにも及ばないと書いたものは、

【正覚房〔しょうかくぼう〕が舎利講式にあり。】
正覚房の舎利講の式にあります。

【かゝる僻事〔ひがごと〕を申す人の弟子】
こういう邪義を言う者の弟子である

【阿弥陀堂の法印が日蓮にかつ〔勝〕ならば、】
阿弥陀堂の法印が日蓮に勝つならば、

【竜王は法華経のかたきなり、梵釈〔ぼんしゃく〕四王にせめられなん。】
竜王は、法華経の敵であり、梵天、帝釈、四天王に責められることであろう。

【子細〔しさい〕ぞあらんずらんと申せば、弟子どものいはく、】
この降雨には、なにかわけがあるのでしょう」と告げると、

【いかなる子細のあるべきぞと、をこづき〔嘲笑〕し程に、】
弟子達が「どのようなわけが、あるのだろうか」と嘲笑したので、

【日蓮が云はく、善無畏〔ぜんむい〕も不空〔ふくう〕も】
日蓮は、「善無畏も不空も

【雨のいのりに雨はふ〔降〕りたりしかども、大風吹きてありけるとみ〔見〕ゆ。】
雨乞いの祈りに雨は、降ったものの、大風が吹いたとあります。

【弘法は三七日すぎて雨をふらしたり。】
弘法は、三週間、過ぎてから雨を降らせた。

【此等は雨ふらさぬがごとし。】
これでは、雨を降らせなかったと同じではないか。

【三七二十一日にふらぬ雨やあるべき。】
なぜならば、三週間も雨が降らぬなど、それほどあるものではない。

【設ひふ〔降〕りたりともなんの不思議かあるべき。】
たとえ、祈祷している間に雨が降っても、なんの不思議があるだろうか。

【天台のごとく、千観〔せんかん〕なんどのごとく、】
天台大師のように、また勅命により祈雨をした千観のように、

【一座なんどこそたう〔尊〕とけれ。】
一座の修法で降らせてこそ、尊いのです。

【此は一定やう〔様〕あるべしと、いゐもあはせず】
これには、必ずわけがあるのでしょう」と言い終わらぬうちに

【大風吹き来たる。】
大風が吹いてきたのです。

【大小の舎宅・堂塔・古木・御所等を、或は天に吹きのぼせ、或は地に吹きいれ、】
大小の舎宅、堂塔、古木、御所などを、天に吹き登らせ、地に吹き入れ、

【そらには大なる光物とび、地には棟梁みだれたり。】
空には、大きな光り物が飛び、地には、棟や梁が倒れ乱れたのです。

【人々をもふき〔吹〕ころ〔殺〕し、牛馬をゝ〔多〕くたふ〔倒〕れぬ。】
人々さえも吹き殺し、牛や馬がたくさん倒れたのです。

【悪風なれども、秋は時なればなをゆる〔許〕すかたもあり。】
悪風であっても、秋なら季節であるから、まだ許すこともできるのですが、

【此〔これ〕は夏四月なり、】
だが、これは、夏の四月なのです。

【其の上、日本国にはふかず、但関東八箇国なり。】
その上、日本全国には、吹いていないのに、ただ関東八か国だけであり、

【八箇国にも武蔵・相模の両国なり。】
また、八か国の中でも武蔵、相模の両国であり、

【両国の中には相州につよくふく。】
両国の中でも、とくに相州に強く吹いたのです。

【相州にもかまくら〔鎌倉〕、かまくらにも御所・若宮・建長寺・極楽寺に】
さらに相州の中でも鎌倉、鎌倉の中でも、とくに御所、若宮、建長寺、極楽寺に

【つよくふけり。たゞ事ともみへず。】
強く吹いたので、そう考えてみると、ただの暴風とも思えず、

【ひとへにこのいの〔祈〕りのゆへ〔故〕にやとをぼ〔覚〕へて、】
まさに、この祈禱のゆえかと思われて、

【わらひ口すくめせし人々も、けふ〔興〕さめてありし上、】
日蓮を嘲笑していた人々も、興醒〔きょうざ〕めしてしまったうえに、

【我が弟子どもゝあら不思議やと舌をふるう。】
我が弟子達も「ほんとうに不思議なことである」と驚いて話し合ったのです。


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