御書研鑚の集い 御書研鑽資料
聖愚問答抄(上) 07 第06章 真言密教を勘める
【愚人云はく、我今解しぬ。】
愚者は、このように告げたのです。私の疑問は、いま、やっと解けました。
【今日よりは他力往生に憑〔たの〕みを懸〔か〕くべきなり。】
今日からは、他力往生を頼みとしましょう。
【爰〔ここ〕に愚人又云はく、】
ここで愚者が、また、このように告げたのです。
【以ての外盛〔さか〕んにいみじき密宗の行人あり。】
しかし、世間には、非常に勢いのある真言宗の行者がおります。
【是も予が歎きを訪はんが為に来臨して、】
その行者が私の嘆きを慰める為に訪れてくれました。
【始めには狂言・綺語のことはりを示し、終はりには顕密二宗の法門を談じて、】
始めには、狂言綺語の道を示し、終わりには、顕教や密教の法門を説いて、
【予に問うて云はく、抑〔そもそも〕汝は何なる仏法をか修行し、】
私に、いったい、あなたは、いかなる仏法を修行し、
【何なる経論をか読誦し奉るや。予答へて云はく、】
いかなる経論を読誦しているのかと尋ねたのです。私は、それに答えて、
【我一日或〔ある〕居士の教へに依って浄土の三部経を読み奉り、】
私は、先日ある念仏者の教えによって浄土の三部経を読み、
【西方極楽の教主に憑みを深く懸くるなり。】
西方極楽の教主を深く頼みまいらせています。
【行者云はく、】
しかし、真言の行者は、私に、こう告げたのです。
【仏教に二種有り、一には顕教、二には密教なり。】
仏教に一には顕教、二には密教の二種類があり、
【顕教の極理は密教の初門にも及ばずと云云。】
顕教の極理は、密教の初門にも及ばないと言われています。
【汝が執心の法を聞けば釈迦の顕教なり、】
あなたの執着している法を聞けば、釈迦が説いた顕教なのです。
【我が所持の法は大日覚王の秘法なり。】
我が所持の法は、大日如来の秘法なのです。
【実に三界の火宅を恐れ、寂光の宝台を願はゞ須〔すべから〕く】
まことに三界の苦しみを恐れ、常寂光の国土を願うならば、
【顕教をすてゝ密教につくべし。】
当然、顕教を捨てて密教につくべきなのです。
【愚人驚いて云はく、我いまだ顕密二道と云ふ事を聞かず。】
愚者は驚いて、私は、まだ顕密二道と言うことを聞いたことがありません。
【何なるを顕教と云ひ、何なるを密教と云へるや。行者の云はく、】
いかなる教えを顕教と言い、いかなる教えを密教と言うのでしょうかと尋ねると、
【予は是〔これ〕頑愚〔がんぐ〕にして敢へて賢を存せず。】
すると真言の行者は、私は、道理に暗く、少しの学才もないのです。
【然りと雖も今一二の文を挙げて汝が矇昧〔もうまい〕を挑〔かか〕げん。】
しかしながら、今、一、二の文を挙げて、あなたの矇昧を開くとしましょう。
【顕教とは舎利弗等の請ひに依って応身如来の説き給ふ諸経なり。】
顕教とは、舎利弗などの願いによって、応身如来が説かれた諸教なのです。
【密教とは自受法楽の為に法身大日如来の】
密教とは、自受法楽の為に、法身仏である大日如来が
【金剛薩埵〔さった〕を所化として説き給ふ処の大日経等の三部なり。】
金剛薩埵を対象として説かれた、大日経などの三部の経文のことなのです。