御書研鑚の集い 御書研鑽資料
大田乗明等御消息文 03 金吾殿御返事
【金吾殿御返事 文永六年一一月二八日四八歳】
金吾殿御返事 文永6年11月28日 48歳御作
【大師講に鵞目〔がもく〕五連給〔た〕び候ひ了〔おわ〕んぬ。】
大師講に際して、銭を五連、御供養として確かに頂きました。
【此の大師講三・四年に始めて候が、】
この天台大師への御報恩の為の法会は、三、四年前から始めたものですが、
【今年は第一にて候ひつるに候。】
今年は、その中でも、一番の盛大さです。
【抑〔そもそも〕此の法門の事、勘文の有無に依りて】
そもそも、この法門は、先の諌暁書の内容が、その通りになるか、
【弘まるべきか、弘まらざるか。】
ならないかによって、弘まるか、弘まらないかが、決まるのです。
【去年方々に申して候ひしかども、】
昨年の11通の書状で、何人かの人に、その内容を伝えましたが、
【いなせ〔否応〕の返事候はず候。】
拒絶とも承諾とも、いずれとも返事がありません。
【今年十一月の比〔ころ〕、方々へ申して候へば、少々返事あるかたも候。】
今年の11月頃に何人かの人々に言ったところ、少しは、返事をする人もいました。
【をほかた〔大方〕人の心もやわらぎて、さもやとをぼしたりげに候。】
時が経ち、大方の人の心も落ち着いて、その通りかも知れないと思われたようです。
【又上のげざん〔見参〕にも入りて候やらむ。】
また、これが、執権殿の目に入ったのかも知れません。
【これほどの僻事〔ひがごと〕申して候へば、】
これほど、人々から見ると道理に合わない事を日蓮が言っているのですから、
【流・死の二罪の内は一定と存ぜしが、】
結局は、流罪か死罪かの、ふたつのどちらかに必ずなると思っていましたが、
【いまゝでなにと申す事も候はぬは不思議とをぼ〔覚〕へ候。】
今まで何もないと言う事は、実に不思議な事と思っております。
【いたれる道理にて候やらむ。】
つまりは、この人々にとっても、日蓮の主張が道理なのでは、ないでしょうか。
【又自界〔じかい〕叛逆難〔ほんぎゃくなん〕の経文も】
また他国侵逼難が起こったので、きっと自界叛逆難が起きると言う経文も
【値〔あ〕ふべきにて候やらむ。】
また、起こるのではないかと思ったのかも知れません。
【山門なんどもいにしえにも】
比叡山なども過去に起こった延暦寺の山門と三井寺、園城寺との抗争の時よりも
【百千万億倍すぎて動揺とうけ給はり候。】
百千万億倍も大きい動揺をしていると言われています。
【それならず子細ども候やらん。】
争っている場合ではない深い理由が、あるのではないでしょうか。
【震旦〔しんだん〕・高麗〔こうらい〕すでに禅門・念仏になりて、】
中国や朝鮮は、すでに禅宗、念仏宗になって、
【守護の善神の去るかの間、彼の蒙古に従〔したが〕ひ候ひぬ。】
守護すべき諸天善神が去ってしまったので、蒙古に征服されてしまいました。
【我が朝又此の邪法弘まりて、】
また、我が日本も、このように邪法が弘まって、
【天台法華宗を忽諸〔こっしょ〕のゆへに山門安穏ならず、】
天台法華宗を軽んじ、ないがしろにした故に比叡山も安穏でなくなったのです。
【師檀違叛の国と成り候ひぬれば、】
師である比叡山と檀那の天皇が、いがみ合うような国となっているのですから、
【十が八・九はいかんがとみへ候。】
十中、八、九は、中国や朝鮮のようになるのではないでしょうか。
【人身すでにうけぬ。邪師又まぬかれぬ。法華経のゆへに流罪に及びぬ。】
人身は、すでに受けて、邪師から逃れ、さらに法華経の故に流罪に及びました。
【今死罪に行なはれぬこそ本意ならず候へ。】
今、死罪にならない事こそ不本意なのです。
【あわれさる事の出来し候へかしとこそはげみ候ひて、】
そのような事が起これと思って、法華経の弘通に励んで、
【方々に強言〔ごうげん〕をかきて挙げを〔置〕き候なり。】
強い言葉で書いておいたのです。
【すでに年五十に及びぬ。余命いくばくならず。】
すでに年齢も五十歳に及び、余命も幾ばくも無くなっています。
【いたづらに曠野〔こうや〕にすてん身を、同じくは一乗法華のかたになげて、】
いたづらに曠野に捨てる身を、どうせ同じであれば、一乗法華の為に投げて、
【雪山童子・薬王菩薩の跡をお〔追〕ひ、】
涅槃経十四巻の雪山童子、法華経薬王菩薩本事品の薬王菩薩の跡を追い、
【仙予〔せんよ〕・有徳〔うとく〕の名を後代に留めて、】
涅槃経聖行品の仙予、涅槃経金剛身品の有徳の名と同じように後世に留めて
【法華・涅槃経に説き入れられまいらせんと願ふところなり。】
法華、涅槃経に説き入れられようと願っているところなのです。
【南無妙法蓮華経。】
南無妙法蓮華経。
【十一月二十八日 日蓮花押】
11月28八日 日蓮花押
【御返事】
御返事
【止観の五、正月一日よりよみ候ひて、】
摩訶止観の第五巻を正月一日より読んで、
【現世〔げんぜ〕安穏〔あんのん〕後生〔ごしょう〕善処〔ぜんしょ〕と】
法華経薬草喩品にある現世安穏、後生善処と
【祈請〔きしょう〕仕り候。便宜〔べんぎ〕に給ふべく候。】
祈念しようと思いますが、御便りのついでに御送り頂きたく思います。
【本末は失せて候ひしかども、】
法華玄義、法華文句、摩訶止観、その注釈書である法華玄義釈籤、法華文句記、
【これにすり〔修理〕させて候。】
観輔行伝弘決が破損しているので、それらを、こちらで修理させています。
【多く本入るべきに申し候。】
玄義、文句、止観の本が足りないので数多く御願い申し上げます。