御書研鑚の集い 御書研鑽資料
大田乗明等御消息文 11 太田殿女房御返事
【太田殿女房御返事 建治三年一一月一八日 五六歳】
太田殿女房御返事 建治3年11月18日 56歳御作
【柳のあをうらの小袖、】
青色の裏地の柿色の小袖を頂戴、致しました。
【わた十両に及んで候か。】
小袖に詰められた真綿は、重さが十両に及ぶのではないでしょうか。
【此の大地の下に二つの地獄あり。一には熱地獄。】
この大地の下には、二つの地獄があります。その、ひとつは、熱地獄です。
【すみ〔炭〕をを〔起〕こし、野に火をつけ、せう〔焼〕まう〔亡〕の火、】
炭火を起こしたり、野原に火をつけて、焼き尽くしてしまう火と言うものは、
【鉄〔くろがね〕のゆ〔湯〕のごとし。】
鉄の溶けた湯〔ゆ〕のようなものです。
【罪人のやくる事は、大火に紙をなげ、】
罪人が焼かれる事は、大きな火の中に紙を投げ入れ、
【大火にかな〔木〕くづ〔屑〕をなぐるがごとし。】
また大きな火に木の削り屑を入れるようなものなのです。
【この地獄へは、やきと〔焼盗〕りと、火をかけてかたき〔敵〕をせめ、】
この地獄には、建物などを焼いて物を盗む人や、火をかけて、敵を攻める人や、
【物をねたみて胸をこがす女人の堕つる地獄なり。】
嫉妬して、胸を焦がす女性が堕ちる地獄です。
【二には寒地獄。此の地獄に八あり。】
ふたつには、寒地獄です。この地獄には、八つあります。
【涅槃経に云はく「八種の寒氷〔かんぴょう〕地獄あり。】
涅槃経には「八種類の寒氷〔かんぴょう〕地獄がある。
【所謂〔いわゆる〕阿波々〔あはは〕地獄・阿吒々〔あたた〕地獄・】
いわゆる、阿波々〔あはは〕地獄、阿吒々〔あたた〕地獄、
【阿羅々〔あらら〕地獄・阿婆々〔あばば〕地獄・優鉢羅〔うはら〕地獄・】
阿羅々〔あらら〕地獄、阿婆々〔あばば〕地獄、優鉢羅〔うはら〕地獄、
【波頭摩〔はずま〕地獄・拘物頭〔くもず〕地獄・】
波頭摩〔はずま〕地獄、拘物頭〔くもず〕地獄、
【芬陀利〔ふんだり〕地獄」云云。】
芬陀利〔ふんだり〕地獄」とあり、
【此の八大かん〔寒〕地獄は、或はかん〔寒〕にせめられたるこえ〔声〕、】
この八大寒地獄は、あるいは、寒さに責められて、あげる声や、
【或は身のいろ等にて候。】
あるいは、身体の色などから、名付けられたものなのです。
【此の国のすは〔諏訪〕の御〔み〕いけ〔池〕、】
この日本の諏訪〔すわ〕湖や、
【或は越中のたて〔立〕山のかへし〔北風〕、】
越中の立山の北風や、
【加賀の白山のれい〔嶺〕のとり〔鳥〕のはね〔羽〕をとぢられ、】
加賀の白山の山頂で鳥の羽根が氷りついたり、
【やもめ〔寡〕をう〔女〕なのすそ〔裾〕のひ〔冷〕ゆる、】
夫を亡くした年老いた女性が着ている着物の裾が冷えたり、
【ほろゝ〔雉子〕の雪にせめられたるをもてし〔知〕ろしめ〔食〕すべし。】
雉が雪に責められて、ほろほろと鳴いている事をもって知ることができます。
【かん〔寒〕にせめられて、】
また、寒さに責められて、
【をとが〔頤〕いのわなめく等を】
下あごが、自然にわなわなと震えて、声を発する様子などを、そのまま、
【阿波々・阿吒々・阿羅々等と申す。】
阿波波〔あはは〕、阿吒吒〔あたた〕、阿羅羅〔あらら〕と言ったのです。
【かん〔寒〕にせめられて、身のくれな〔紅〕いにに〔似〕たるを】
また、寒さに責められて裂けた身体の色や形が、紅の蓮華に似ているので、
【紅蓮〔ぐれん〕・大紅蓮等と申すなり。】
それを紅蓮〔ぐれん〕地獄、大紅蓮〔だいぐれん〕地獄と言ったのです。
【いかなる人の此の地獄にを〔堕〕つるぞと申せば、】
どのような人が、この地獄に堕ちるかと言えば、
【此の世にて人の衣服をぬすみとり、】
この世において、人の衣服を盗み取り、
【父母師匠等のさむ〔寒〕げなるをみ〔見〕まいらせて、】
父母や師匠が寒そうにしているのを見ていながら、
【我はあつくあたゝ〔暖〕かにして昼夜をすごす人々の堕つる地獄なり。】
自分は、分厚い着物を着て、温かくして、昼夜を過ごす人々が堕ちる地獄なのです。
【六道の中に天道と申すは、】
六道の中で天道と言うのは、
【其の所に生ずるより衣服とゝの〔調〕をりて生まるゝところなり。】
その所に生まれる時から、衣服が備わっている境界です。
【人道の中にも商那和修〔しょうなわしゅ〕・鮮白〔せんびゃく〕比丘尼等は】
人道の中でも商那和修〔しょうなわしゅ〕、鮮白〔せんびゃく〕比丘尼などは、
【悲母〔ひも〕の胎内より衣服とゝの〔調〕をりて生まれ給へり。】
悲母の胎内にいる時から衣服が備わって生まれて来たのです。
【是はたうと〔貴〕き人々に衣服をあた〔与〕へたるのみならず、】
これは、尊い人々に衣服を与えただけでなく、
【父母・主君・三宝にきよ〔清〕くあつ〔厚〕き衣をまいらせたる人なり。】
父母や主君、仏法僧の三宝に清らかで厚い衣服を差し上げた人たちです。
【商那和修と申せし人は、裸形〔らぎょう〕なりし辟支仏〔びゃくしぶつ〕に】
商那和修〔しょうなわしゅ〕と言う人は、裸であった辟支仏〔びゃくしぶつ〕に
【衣〔きぬ〕をまいらせて、世々生々に衣服身に随ふ。】
法衣を差し上げて、世々、生々に衣服が、その身に付いて着たのです。
【憍曇弥〔きょうどんみ〕と申せし女人は、仏にきんばら衣〔え〕をまいらせて、】
憍曇弥〔きょうどんみ〕と言う女性は、仏に欽婆羅衣〔きんばらえ〕を供養申して、
【一切衆生喜見仏〔きけんぶつ〕となり給ふ。】
一切衆生喜見〔きけん〕如来と成ったのです。
【今法華経に衣をまいらせ給ふ女人あり。】
今、法華経に衣服を御供養された女性がおられます。
【後生には八寒地獄の苦をまぬかれさせ給ふのみならず、今生には大難をはら〔払〕ひ、】
後生に八巻地獄の苦を免れられるだけでなく、今生には、大難を除き、
【其の功徳のあまりを男女のきんだち〔公達〕、きぬ〔衣〕にきぬをかさ〔重〕ね、】
その功徳の余りを、男女の子供たちに及ぼし、衣服に衣服を重ね、
【いろ〔色〕にいろをかさね給ふべし。】
色に色を重ねる福徳を積まれることでしょう。
【穴賢〔あなかしこ〕穴賢。】
穴賢穴賢。
【十一月十八日 日蓮花押】
11月18日 日蓮花押
【太田入道殿女房御返事】
太田入道殿女房御返事