御書研鑚の集い 御書研鑽資料
大田乗明等御消息文 08 太田入道殿御返事
【太田入道殿御返事 建治元年一一月三日 五四歳】
太田入道殿御返事 建治1年11月3日 54歳御作
【貴札〔きさつ〕之を開きて拝見す。】
あなたの御手紙を開いて拝見致しました。
【御痛みの事一には歎き二には悦びぬ。】
御病気の事について、一度は、歎〔なげ〕き、二度は、悦びました。
【維摩詰〔ゆいまきつ〕経に云はく「爾〔そ〕の時に長者維摩詰】
維摩詰〔ゆいまきつ〕経に「その時に長者の維摩詰〔ゆいまきつ〕が
【自ら念〔おも〕へらく、疾〔や〕みて床に寝〔いね〕ぬ。】
自ら念じて病床に伏そうと思いました。
【爾の時に仏文殊師利〔もんじゅしり〕に告げたまはく、】
その時に仏が文殊師利〔もんじゅしり〕に告げられました。
【汝維摩詰に行詣〔ぎょうけい〕して疾〔やまい〕を問へ」云云。】
汝、維摩詰〔ゆいまきつ〕の見舞いに行って病状を問いなさい」とあります。
【大涅槃経に云はく「爾の時に如来乃至身に疾有るを現じ】
大涅槃経に「その時に如来は(乃至)身に病がある姿を現じ、
【右脇にして臥〔ふ〕したまふ、彼の病人の如くす」云云。】
右脇を下にして伏されて彼の病人のようにされた」とあります。
【法華経に云はく「少病少悩」云云。】
法華経従地涌出品に「少く病み、少く悩む」とあります。
【止観の第八に云はく「若し毘耶〔びや〕に】
摩訶止観の第八に「維摩詰〔ゆいまきつ〕が毘耶〔びや〕の
【偃臥〔えんが〕し疾〔やまい〕に託して】
自邸に倒れ、病に寄せて、
【教を興す、乃至如来は滅に寄せて常を談じ、】
この教えを説き起こす。(中略)如来は、入滅に、ことよせて常住を談じ、
【病に因って力を説く」云云。】
病によって功力を説く」とあります。
【又云はく「病の起こる因縁を明かすに六有り。】
また「病の起こる因縁を明かすのに六種ある。
【一には四大順ならざる故に病〔や〕む、】
一には、地、水、火、風の四大が順調でない故に病む、
【二には飲食〔おんじき〕節せざる故に病む、】
二には、飲食が節制されていない故に病む、
【三には坐禅調〔ととの〕はざる故に病む、】
三には、坐禅が正しく調わない故に病む、
【四には鬼便りを得る、五には魔の所為、】
四には、鬼が便りを得て病み、五には、魔の為すところで病み、
【六には業の起こるが故に病む」云云。】
六には、業の起こる故に病む」とあります。
【大涅槃経に「世に三人の其の病治し難き有り。】
大涅槃経に「世の病に治し難い三種の人があり、
【一には大乗を謗ず、二には五逆罪、三には一闡提〔いっせんだい〕。】
一には、大乗を誹謗する人、二には、五逆罪を犯す人、三には、一闡提の人である。
【是くの如き三病は世の中の極重なり」云云。】
このような三種の病いは、世の病いのうちで極めて重い」とあります。
【又云はく「今世に悪業成就し、乃至必ず地獄なるべし。乃至】
また「今世に悪業を成就し、(中略)必ず地獄に堕ちるだろう。(中略)
【三宝を供養するが故に、地獄に堕せずして現世に報を受く。】
仏、法、僧の三宝を供養する故に、地獄に堕ちることなく、現世に報いを受く。
【所謂頭と目と背との痛〔なやみ〕」等云云。】
いわゆる頭と目と背の悩みである」などとあります。
【止観に云はく「若し重罪有って乃至人中に軽く償〔つぐな〕ふと。】
摩訶止観に「もし重罪を犯して(中略)人の中で軽く償〔つぐな〕うと。
【此は是〔これ〕業が謝せんと欲する故に病むなり」と。】
これは、悪業が消滅しようとする故に病む」とあります。
【竜樹菩薩の大論に云はく「問うて云はく、】
竜樹菩薩の大智度論に「お聞きしますが、
【若し爾〔しか〕れば華厳経乃至般若〔はんにゃ〕波羅蜜〔はらみつ〕は】
もし、そうであれば、華厳経や般若波羅蜜〔はんにゃはらみつ〕経は
【秘密の法に非ず。而るに法華は秘密なり等。乃至】
秘密の法ではない。しかも法華経は、秘密の法である。(中略)
【譬へば大薬師の能く毒を変じて薬と為〔な〕すが如し」云云。】
たとえば、大薬師が、よく毒を変じて薬とするようなものである」とあります。
【天台此の論を承〔う〕けて云はく】
天台大師は、この論を受けて
【「譬へば良医の能く毒を変じて薬と為すが如く、】
「たとえば、良医が、よく毒を変じて薬とするように、
【乃至今経〔こんぎょう〕の得記〔とっき〕は
(中略)法華経の記別を得る事は、
【即ち是毒を変じて薬と為すなり」と。】
毒を変じて薬とすることである」と述べています。
【故に論に云はく「余経は秘密に非ず。法華を秘密と為すなり」云云。】
それ故に大智度論に「他の経は、秘密ではない。法華経を秘密とする」とあります。
【止観に云はく「法華能〔よ〕く治す、復〔また〕称して妙と為す」云云。】
摩訶止観に「法華経は、よく治す。また、名付けて妙となす」とあります。
【妙楽云はく「治し難きを能く治す、所以〔ゆえ〕に妙と称す」云云。】
妙楽大師は「治し難きを、よく治す為に妙と称す」と述べています。
【大経に云はく「爾〔そ〕の時に王舍大城の阿闍世〔あじゃせ〕王、】
涅槃経に「その時にマカダ国の首都、王舍城の阿闍世〔あじゃせ〕王は、
【其の性弊悪〔へいあく〕にして、乃至父を害し已〔お〕はって】
その性質が悪く(中略)父を殺害した後、
【心に悔熱〔げねつ〕を生ず。】
心に後悔の熱を生じた。
【乃至心悔熱するが故に遍〔あまね〕く体に瘡〔きず〕を生ず。】
心が後悔の熱に冒される故に、全身に瘡〔きず〕を生じた。
【其の瘡臭穢〔しゅうえ〕にして附近〔ふごん〕すべからず。】
その瘡〔きず〕は、臭く、汚くて、近寄ることさえできなかった。
【爾の時に其の母韋提希〔いだいけ〕と字〔なづ〕く。】
その時に、阿闍世王の母は、韋提希〔いだいけ〕と言う名前でしたが、
【種々の薬を以て而も為に之を傳〔つ〕く。】
種々の薬を阿闍世王に着けたが、
【其の瘡〔きず〕遂に増して降損有ること無し。王即ち母に白〔もう〕す。】
瘡〔きず〕は、いよいよ増して、軽減することなく、阿闍世王は、母に言った。
【是くの如き瘡は心より生ず。四大より起こるに非ず。】
このような瘡は、心から出たものであり、地水火風の四大から起きたものではない。
【若し衆生能く治する者有りと言はゞ是の処〔ことわり〕有ること無けん」云云。】
もし衆生が、よく治す者がいると言うならば、それは、偽りであると言った。
【「爾の時に世尊〔せそん〕大悲〔だいひ〕導師〔どうし〕、】
その時に大慈悲の導師である
【阿闍世王の為に月愛〔がつあい〕三昧〔ざんまい〕に入りたまふ。】
世尊は、阿闍世王の為に月愛〔がつあい〕三昧〔ざんまい〕に入られた。
【三昧に入り已はって大光明を放つ。其の光清涼にして往〔ゆ〕いて】
三昧〔さんまい〕に入り終わった時に大光明を放った。その光り清凉であり、
【王の身を照らすに身の瘡即ち癒〔い〕えぬ」云云。】
王の身に届いて照らすと身の瘡〔きず〕は即座に癒えた」とあります。
【平等大慧妙法蓮華経の第七に云はく】
平等大慧の妙法蓮華経の第七、薬王菩薩本事品に
【「此の経は則ち為〔こ〕れ閻浮提〔えんぶだい〕の人の病の良薬なり。】
「この経は、閻浮提の人の病に効く良薬である。
【若し人病有らんに、是の経を聞くことを得ば】
もし人が病になっている時に、この経を聞くことが、できるならば
【病即ち消滅して不老不死ならん」云云。】
病は、直ちに消滅して不老不死となる」とあります。
【已上、上の諸文を引きて惟〔ここ〕に】
以上、上述の諸々〔もろもろ〕の経文を引いて、
【御病〔おんやまい〕を勘〔かんが〕ふるに六病を出でず。】
あなたの事を考えると、六種の病の域を出ない。
【其の中の五病は且〔しばら〕く之を置く。】
その中の五種の病は、しばらく置くとして、
【第六の業病〔ごうびょう〕最も治し難し。】
第六の業病が最も治すのが難しいのです。
【将又〔はたまた〕業病に軽有り重有り、多少定まらず。】
また、業病の中にも軽いものがあり、重いものがあり、様々なのです。
【就中〔なかんずく〕法華誹謗〔ひぼう〕の業病最第一なり。
中でも法華経を誹謗した業病は、第一の最も重いものなのです。それには、
【神農〔しんのう〕・黄帝〔こうてい〕・華佗〔かだ〕・扁鵲〔へんじゃく〕も】
神農〔しんのう〕、黄帝〔こうてい〕、華佗〔かだ〕、扁鵲〔へんじゃく〕と
【手を拱〔こまね〕き、持水〔じすい〕・流水〔るすい〕・】
言った名医たちも、手をこまねき、持水〔じすい〕、流水〔るすい〕、
【耆婆〔ぎば〕・維摩〔ゆいま〕も口を閉づ。】
耆婆〔ぎば〕、維摩〔ゆいま〕と言った名医たちも口を閉ざしてしまいました。
【但〔ただ〕釈尊一仏の妙経の良薬に限って之を治す。】
ただし釈尊一仏だけが妙法蓮華経の良薬に限って、この業病を治せるのです。
【法華経に云はく、上の如し。大涅槃経に法華経を指して云はく】
法華経には、上述のように説かれています。大涅槃経に法華経を指して
【「若し是の正法を毀謗〔きぼう〕するも能〔よ〕く自ら改悔〔かいげ〕し】
「もし、この正法を謗〔そし〕っても、よく自ら悔〔く〕い改め、
【正法に還帰すること有れば、乃至】
返って正法に帰依すれば、救われる(中略)
【此の正法を除いて更に救護〔くご〕すること無し。】
この正法を除いては、まったく救うことはできない。
【是の故に応当〔まさ〕に正法に還帰すべし」云云。】
この為に正法に帰依すべきである」と述べています。
【荊渓〔けいけい〕大師云はく「大経に自ら法華を指して極と為〔な〕す」云云。】
妙楽大師は「大涅槃経に自ら、法華経を指して究極の教法となす」と言い、
【又云はく「人の地に倒れて還りて地によって起〔た〕つが如し。】
また「人が地に倒れた時に返って地によって起つが如し。
【故に正の謗を以て邪の堕を】
故に正法を謗〔そし〕って地獄に堕ちても、正法に帰依するならば、
【接〔しょう〕す」云云。】
返って堕地獄の罪を救うことになる」と述べています。
【世親〔せしん〕菩薩は本〔もと〕小乗の論師なり。】
世親菩薩は、もともとは、小乗の論師でしたが、
【五竺の大乗を止〔とど〕めんが為に五百部の小乗論を造る。】
インドの大乗の普及を止める為に五百部の小乗論を造りましたが、
【後に無著〔むじゃく〕菩薩に値〔あ〕ひ奉りて】
後に大乗の論師で、兄でもある無著〔むじゃく〕菩薩に会って、
【忽〔たちま〕ち邪見を飜〔ひるがえ〕し、一時に此の罪を滅せんが為に】
たちまちに自らの小乗の邪見をひるがえし、一度で、この罪を滅する為に、
【著〔じゃく〕に向かって舌を切らんと欲す。】
無著〔むじゃく〕菩薩に向かい、舌を切ろうとしました。
【著止めて云はく「汝其の舌を以て大乗を讃歎〔さんだん〕せよ」と。】
無著菩薩は、それを止めて「汝よ、その舌をもって大乗を讃えよ」と言ったのです。
【親〔しん〕忽ちに五百部の大乗論を造って小乗を破失す。】
世親菩薩は、たちまちに五百部の大乗論を造って小乗を破折したのです。
【又一の願を制立せり。我一生の間小乗を舌の上に置かじと。】
また一つ願を立て、私は、一生の間、小乗を決して説かないと誓ったのです。
【然して後〔のち〕罪滅して弥勒〔みろく〕の天に生ず。】
そうした後、罪を滅して、弥勒菩薩の都率〔とそつ〕天に生じたのです。
【馬鳴〔めみょう〕菩薩は東印度の人にして付法蔵の第十三に列〔つら〕なれり。】
馬鳴〔めみょう〕菩薩は、東インドの人で、付法蔵の第十三に列なっています。
【本〔もと〕外道の長たりし時に、】
当時、外道の長であった時に
【勒〔ろく〕比丘と内外の邪正を論ずるに、】
勒比丘〔ろくびく〕と言う人と内道と外道の正邪について議論したところ、
【其の心言下〔げんか〕に解〔と〕けて重科を遮〔しゃ〕せんが為に】
仏教の精随を一言のもとに理解して、今までの重科を止める為に、
【自ら頭〔こうべ〕を刎〔は〕ねんと擬〔ぎ〕す。】
自らの首を刎〔は〕ねようとしました。
【所謂〔いわく〕「我、我に敵して堕獄〔だごく〕せしむ」と。】
「私は、自分自身を敵にして、地獄に堕とす」と述べたところ、
【勒比丘諫〔いさ〕め止めて云はく「汝頭〔こうべ〕を切ること勿〔なか〕れ。】
勒比丘〔ろくびく〕は、それを止めて「頭を切ってはならない。
【其の頭と口とを以て大乗を讃歎せよ」と。】
その頭と口をもって大乗を讃〔たた〕えよ」と諫めたのです。
【鳴〔みょう〕急ぎ起信〔きしん〕論を造って外小を破失せり。】
馬鳴〔めみょう〕菩薩は、急いで大乗起信論を著し、外道と小乗を破折したのです。
【月氏〔がっし〕の大乗の初めなり。】
これは、インドにおける大乗の初めの出来事なのです。
【嘉祥寺〔かじょうじ〕の吉蔵〔きちぞう〕大師は漢土第一の名匠、】
嘉祥寺〔かじょうじ〕の吉蔵〔きちぞう〕大師は、中国第一の名僧であり、
【三論宗の元祖なり。呉会〔ごかい〕に】
三論〔さんろん〕宗の元祖であり、呉の会稽山〔かいけいさん〕の嘉祥寺に住み、
【独歩し慢幢〔まんどう〕最も高し。】
比べる者がいないほど優れ、それだけに、うぬぼれる心も高かったのです。
【天台大師に対して已今当〔いこんとう〕の文を諍〔あらそ〕ひ、】
天台大師に対しても、法華経法師品の「已説、今説、当説」の言葉について論争し、
【立ち処に邪執〔じゃしゅう〕を飜破〔ほんぱ〕し、】
すぐ、その場所で自らの間違いに気づき、いままでの執着を捨てて、
【謗人・謗法の重罪を滅せんが為に百余人の高徳を相語〔あいかた〕らひ、】
天台大師を謗った謗法の重罪を滅する為に、百余人の高徳の僧侶たちを誘って、
【智者大師を屈請〔くっしょう〕して身を肉橋〔にくきょう〕と為〔な〕し】
天台智者大師に身を屈して講義を聞き、その時には、天台大師を自分の体を橋にして
【頭に両足を承〔う〕く。】
高座に登らせ、頭に天台大師の両足を受けて踏み台としたのです。
【七年の間薪〔たきぎ〕を採〔と〕り水を汲み】
こうして天台大師が入滅するまで七年間、薪〔たきぎ〕を採り水を汲んで給仕をし、
【講を廃し衆を散じ、】
今までの自分の講義を廃止し、自らを讃える門下の集いを解散させ、
【慢幢を倒さんが為に法華経を誦〔じゅ〕せず。】
自らの慢心を諫める為に天台大師に代わって法華経を述べる事は、なかったのです。
【大師の滅後隋帝〔ずいてい〕に往詣〔おうけい〕し】
さらに天台大師の滅後、隋帝のところに行って、
【双足〔そうそく〕を挍摂〔きょうしょう〕し涙を流して別れを告げ、】
天台大師と隋帝に対し最高の敬意を表して、涙を流して別れを告げ、
【古鏡を観見して自影〔じえい〕を慎辱〔しんにく〕す。】
過去の自著を読み、その過去の高慢だった姿を悔い改め、慎しみ、恥じたのです。
【業病を滅せんと欲して】
これは、正法を誹謗した自分自身の業病を滅しようとして、
【上の如く懺悔〔ざんげ〕す。】
上述のように悔〔く〕い改められたのです。
【夫〔それ〕以〔おもん〕みれば一乗の妙経は】
思えば、一仏乗の妙法蓮華経は、
【三聖の金言、】
釈迦牟尼仏、多宝如来、十方分身の諸仏の三聖人の金言であって、
【已今当の明珠諸経の頂に居〔こ〕す。】
法華経法師品の「已説、今説、当説」の文章を明珠として諸経の頂上にあるのです。
【経に云はく「諸経の中に於て最も其の上〔かみ〕に在り」と。】
法華経薬王品に「この法華経は、諸経の中において、最もその上にある」とあり、
【又云はく「法華最第一なり」と。】
また「法華経は、最第一なり」とあります。
【伝教大師の云はく「仏立〔ぶつりゅう〕宗」云云。】
伝教大師は「法華宗は、仏の立てた宗である」と述べられています。
【予、随分に大・金〔こん〕・地〔じ〕等の諸の真言の経を】
私は、随分と大日経、金剛頂経、蘇悉地経など様々な真言の経典を
【勘〔かんが〕へたるに、敢〔あ〕へて此の文の会通〔えつう〕の明文無し。】
調べてきましたが、この法華経の最第一の文章を変えるだけの明文はないのです。
【但畏〔い〕・智〔ち〕・空〔くう〕・】
真言が法華経より優れていると言うのは、善無畏三蔵、金剛智三蔵、不空三蔵や、
【法〔ぼう〕・覚〔かく〕・証〔しょう〕等の曲会〔ごくえ〕に見えたり。】
弘法大師、慈覚大師、智証大師などの自分勝手な解釈に見えます。
【是に知んぬ、釈尊・大日の本意は限って法華最上に在り。】
ここに釈尊、大日如来の本意は、法華経こそ最上と言う事であると知ったのです。
【而るに本朝真言の元祖たる法・覚・証等の三大師入唐〔にっとう〕の時、】
しかし、日本の真言宗の元祖である弘法大師、慈覚大師、智証大師が唐に入った時、
【畏・智・空等の三三蔵の誑惑〔おうわく〕を、】
善無畏三蔵、金剛智三蔵、不空三蔵の誑惑〔おうわく〕を
【果・全〔せん〕等に相承して帰朝し了〔おわ〕んぬ。】
慧果〔けいか〕、法全〔はっせん〕などから受け継いで、日本に帰って来たのです。
【法華・真言弘通の時、三説超過の】
そして法華経と真言経とを弘通するに際して、已説、今説、当説の最第一である
【一乗の明月を隠して真言両界の蛍火を顕はし、】
一仏乗の法華経の明月を隠し、真言の胎蔵界、金剛界の両界曼荼羅の螢火を顕わし、
【剰〔あまつさ〕へ法華経を罵詈〔めり〕して曰〔いわ〕く戯論〔けろん〕なり、】
その上で法華経を悪口罵詈して「法華経は、戯〔たわむ〕れの理論であり、
【無明の辺域なり。】
釈尊は、無明の辺域なり」などと言っているのです。
【自害の謬誤〔みょうご〕に曰く、大日経は戯論〔けろん〕なり】
これは、自らを害する誤りであり、大日経は、戯〔たわむ〕れの理論であり、
【無明の辺域なりと。】
無明の辺域であると言っていることになるのです。
【本師既〔すで〕に曲がれり。】
彼らの本師が既〔すで〕に捻〔ね〕じ曲がっているのですから、
【末葉豈〔あに〕直〔ただ〕しからんや。】
その末葉の門下が真っ直ぐであるはずがないのです。
【源濁〔にご〕れば流れ清からず等是之〔これ〕を謂〔い〕ふか。】
「源、濁れば、流れ清からず」とは、この事を言うのです。
【之に依って日本久しく闇夜と為〔な〕り、】
この邪義によって日本の国は、永い間、謗法の闇夜となり、
【扶桑〔ふそう〕終に他国の霜に枯れんと欲す。】
扶桑の国は、ついに他国の霜によって枯れようとしているのです。
【抑〔そもそも〕貴辺は嫡々〔ちゃくちゃく〕末流の一分に非ずと雖も】
そもそも、あなたは、真言宗の正統な末流の一分ではありませんが、
【将又〔はたまた〕檀那所従なり。】
真言宗を檀那として支えた人の家来なのです。
【身は邪家に処して年久しく、】
その身は、邪宗の家に住んで、長い年月が過ぎ、
【心は邪師に染みて月重なる。】
心は、邪師に染まって、月々を重ねて来たのです。
【設ひ大山は頽〔くず〕るゝとも、設ひ大海は乾くとも】
たとえ大山が崩れ、たとえ大海が乾いても、
【此の罪消え難きか。】
この謗法の罪は、消え去る事は、難しいのです。
【然りと雖も宿縁の催〔もよお〕す所、又今生〔こんじょう〕に慈悲の薫ずる所、】
しかしながら、過去世の縁に誘われるところ、また今の世の仏に慈悲が薫るところ、
【存の外に貧道に値遇〔ちぐう〕して改悔〔かいげ〕を発起する故に、】
思いの他に貧道の身の日蓮に出会い、今までの信仰を悔い改める心を起こした故に、
【未来の苦を償〔つぐな〕ひ現在に軽瘡〔きょうそう〕出現せるか。】
未来世に受ける重い苦を償う為に、現在に軽い瘡〔きず〕が出ているのでしょうか。
【彼の闍王〔じゃおう〕の身瘡〔しんそう〕は五逆謗法の二罪の招く所なり。】
彼の阿闍世王の身の瘡〔きず〕は、五逆罪と謗法罪の二罪が招いたところです。
【仏月愛〔がつあい〕三昧に入って其の身を照らしたまへば】
仏が月愛〔がつあい〕三昧に入って、その阿闍世王の身を慈悲の光で照らされると、
【悪瘡忽〔たちま〕ちに消え、】
悪い瘡〔きず〕は、たちまちに消え失せ、
【三七日の短寿を延べて四十年の宝算〔ほうさん〕を保ち、】
あと三週間と言われた短い寿命を延ばして、それから四十年の年齢を保ち、
【兼ねては又千人の羅漢〔らかん〕を屈請〔くっしょう〕して】
その間に千人の阿羅漢に身をかがめて要請し、
【一代の金言を書き顕はし、正・像・末に流布せり。】
釈尊一代の言葉を書き顕わし、それを集めて、正法、像法、末法に流布したのです。
【此の禅門の悪瘡は但謗法の一科〔いっか〕なり。】
この禅宗による悪い瘡〔きず〕は、ただ謗法の一つに過ぎません。しかしながら、
【所持の妙法は月愛に超過す、】
あなたが持〔たも〕つ、この妙法は、月愛〔がつあい〕三昧を遙かに超えており、
【豈〔あに〕軽瘡を愈〔い〕やして長寿を招かざらんや。】
どうして軽い瘡〔きず〕を治して、長寿を招かないことがあるでしょうか。
【此の語微〔しるし〕無くんば声を発〔お〕こして叫喚せよ。】
この言葉に対して現証がなければ、非難の声を挙げてください。
【一切世間の眼は大妄語の人、】
「一切世間の眼目とされている釈尊は、大妄語の人であり、
【一乗妙経は綺語〔きご〕の典、】
一仏乗の妙法蓮華経は、飾り立てた偽りの経典である。
【名を惜しみたまはゞ世尊は験〔しるし〕を顕はし、】
もし、名前を惜しむならば、釈尊は、現実に、その証拠を顕わし、
【誓を恐れたまはゞ諸の賢聖は来たり護りたまへと。】
法華守護を誓った諸々の賢人、聖者は、ここに来て護りなさい」と命じてください。
【爾〔しか〕云ふ、書は言〔ことば〕を尽くさず、言は心を尽くさず。】
このように言っても、どうしても文書では、言葉に尽くせません。
【事々見参〔げんざん〕の時を期せん。】
様々な事柄は、御会いしてから、その時に御話する事にします。
【恐々。】
恐れながら謹しんで申し上げます。
【十一月三日 日蓮花押】
11月3日 日蓮花押
【太田入道殿御返事】
太田入道殿御返事