御書研鑚の集い 御書研鑽資料
聖愚問答抄(下) 26 第25章 真の忠君のあり方を教える
【又主君の恩の深き事汝よりも能くしれり。】
また主君への恩が大切なことは、あなたよりも、よく知っていますが、
【汝若し知恩の望あらば】
もし、あなたに知恩の志があるのであれば、
【深く諫め強ひて奏せよ。】
どこまでも強く諌めるべきではないでしょうか。
【非道にも主命に随はんと云ふ事、】
主命が間違っていても、それに従おうとすることは、
【佞臣〔ねいしん〕の至り不忠の極まりなり。】
臣下として、媚び、へつらう姿であり、不忠の極みなのです。
【殷〔いん〕の紂王〔ちゅうおう〕は悪王、比干〔ひかん〕は忠臣なり。】
殷の紂王は、悪王であり、その臣下の比干は、忠臣であったのです。
【政事〔まつりごと〕理に違ひしを見て、強ひて諫めしかば】
政治が道理に反しているのを見て、紂王を強く諌めたので、
【即ち比干は胸を割〔さ〕かる。】
比干は、胸を割かれて殺されてしまいました。
【紂王は比干死して後、周の王に打たれぬ。】
その為に紂王は、比干の死んだ後に、周の武王に滅ぼされました。
【今の世までも比干は忠臣といはれ、紂王は悪王といはる。】
今の世までも比干は、忠臣と言われ続け、紂王は、悪王と言われているのです。
【夏〔か〕の桀王〔けつおう〕を諫めし竜蓬〔りゅうほう〕は頭をきられぬ。】
また、夏の桀王を諌めた竜蓬は、首を斬られました。
【されども桀王は悪王、竜蓬は忠臣ぞと云ふ。】
けれども桀王は、今でも、悪王と言われ、竜蓬は、忠臣と言われています。
【主君を三度諫むるに用ゐずば】
世間でも、主君を三度諌めてもちいられないならば、
【山林に交はれとこそ教へたれ。】
山林に隠れよと言う教えがあります。
【何ぞ其の非を見ながら黙せんと云ふや。】
どうして、その間違いを見ながら、黙ったままで良いと思うのでしょうか。
【古の賢人世を遁れて山林に交はりし先蹤〔せんしょう〕を集めて、】
古〔いにしえ〕の賢人が世を逃れて山林に隠れた先例を集めて、
【聊〔いささか〕汝が愚耳〔ぐじ〕に聞かしめん。】
少々、あなたの愚かな耳に聴かせましょう。
【殷の代の太公望は磻渓〔はんけい〕と云ふ谷に隠る。】
殷の太公望は、磻渓〔はんけい〕と言う谷に隠れ、
【周の代の伯夷〔はくい〕・叔斉〔しゅくせい〕は】
周の世の伯夷〔はくい〕と叔斉〔しゅくせい〕の兄弟は、
【首陽山〔しゅようさん〕と云ふ山に籠〔こも〕る。】
首陽山〔しゅようさん〕と言う山にこもり、
【秦〔しん〕の綺里季〔きりき〕は商洛山〔しょうらくさん〕に入り、】
秦の綺里季〔きりき〕は、商洛山〔しょうらくさん〕に入り、
【漢の厳光〔げんこう〕は孤亭〔こてい〕に居し、】
漢の厳光〔げんこう〕は、孤亭〔こてい〕に住み、
【晋〔しん〕の介子綏〔かいしすい〕は綿上山〔めんじょうさん〕に隠れぬ。】
晋の介子綏〔かいしすい〕は、綿上山〔めんじょうさん〕に隠れたのです。
【此等をば不忠と云ふべきか。愚かなり、】
これらの人々を不忠と言うのでしょうか。それを言えば実に愚かなことです。
【汝忠を存ぜば諫むべし、】
あなたに忠義の志があれば諌めるべきであり、
【孝を思はゞ言ふべきなり。】
孝行をしようと思うのであれば、言わなければ、ならないでしょう。