御書研鑚の集い 御書研鑽資料
聖愚問答抄(下) 27 第26章 数の大小にとらわれる愚を諭す
【先づ汝権教権宗の人は多く此の宗の人は少なし、】
あなたが前に権教、権宗の人は、多いが、この法華経を信じる人は少ない。
【何ぞ多きを捨て少なきに付くと云ふ事、】
どうして多数を捨てて少数に付くのかと言われた事について答えましょう。
【必ず多きが尊くして少なきが卑しきにあらず。】
必ずしも、数が多いから尊くて、少ないから卑しいのではありません。
【賢善の人は希に愚悪の者は多し。】
現実には、賢い善人こそ稀であり、愚かで悪者〔わるもの〕こそ多いのです。
【麒麟〔きりん〕・鸞鳳〔らんほう〕は禽獣〔きんじゅう〕の奇秀なり。】
麒麟や鸞鳳は、鳥獣の中で珍しく秀れたものですが、
【然れども是は甚だ少なし。】
しかし、これは、非常に少ないのです。
【牛羊烏鴿〔ごよううごう〕は畜鳥の拙卑〔せっぴ〕なり。】
牛、羊、烏、鳩は、鳥獣の中では、卑しいものです。
【されども是は転〔うたた〕多し。】
しかし、これは非常に多いのです。
【必ず多きがたっとくして少なきがいやしくば、麒麟をすてゝ牛羊をとり、】
必ず多数が尊くて、少数が卑しいのであれば、麒麟を捨てて牛や羊をとり、
【鸞鳳を閣〔さしお〕いて烏鴿をとるべきか。】
鸞鳳〔らんほう〕を、さしおいて烏や鳩〔はと〕 をとるべきでしょう。
【摩尼金剛〔まにこんごう〕は金石の霊異なり。此の宝は乏しく、】
宝珠、金剛石は、金、銀、宝石の中でも、特別に貴重なのですが非常に少なく、
【瓦礫〔がりゃく〕土石は徒物〔いたずらもの〕の至り、】
瓦礫、土石は、無用のものであり、
【是は又巨多〔こた〕なり。】
非常に多いのです。
【汝が言の如くならば、玉なんどをば捨てゝ瓦礫を用ゆべきか。】
あなたの言う通りであれば、宝珠を捨てて瓦礫〔がれき〕を取るのでしょうか。
【はかなしはかなし。】
まことに儚〔はかな〕いことです。
【聖君は希〔まれ〕にして千年に一たび出で、賢佐は五百年に一たび顕はる。】
聖人は、千年に一度、賢人は、五百年に一度、実に稀に顕れるのです。
【摩尼は空しく名のみ聞く、】
宝珠は、その名前を聞くのみであり、
【麟鳳〔りんぽう〕誰か実を見たるや。】
麒麟や鸞鳳は、実際には誰も見た者がいないのです。
【世間・出世善き者は乏しく悪き者は多き事眼前なり。】
世間でも出世間でも、善人は少なく、悪人の多いことは、眼前の事実なのです。
【然れば何ぞ強〔あなが〕ちに少なきをおろかにして】
それゆえ、どうして一概に少ないからと言って、間違っていると卑しみ、
【多きを詮とするや。】
多いからと言って、正しいと尊ぶのでしょうか。
【土沙は多けれども米穀は希なり。】
土砂は、多いけれども、米穀は、稀なのです。
【木皮は充満すれども布絹は些少〔さしょう〕なり。】
木の皮は、豊富であるけれども、絹の布〔ぬの〕は、わずかなのです。
【汝只正理を以て前〔さき〕とすべし。】
あなたは、ただ正しいか理に合っているかを第一とすべきであり、
【別して人の多きを以て本とすることなかれ。】
人数の多いことを根拠として判断しては、なりません。