日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


守護国家論 06 第05章 捨権就実の十の文証

【第四に且く権経を閣〔さしお〕いて実経に就くことを明かさば、】
第4項に、しばらく権経をさしおいて、実経につくことを明確にします。

【問うて云はく、証文如何。答へて曰く、十の証文有り。】
それでは、その証拠は、あるのでしょうか。それは、十の証拠の経文があります。

【法華経に云はく「但大乗経典を受持することを楽〔ねが〕って乃至】
第1に法華経に「ただ大乗経典を受持することを楽〔ねが〕って(中略)

【余経の一偈〔いちげ〕をも受けざれ」(是一)】
余経の一偈をも受けざれ」とあります。

【涅槃経に云はく「了義〔りょうぎ〕経に依って不了義経に依らざれ」】
第2に涅槃経に「了義経に依って不了義経に依ってはいけない」とあり、

【(四十余年を不了義経と云ふ。是二)】
40余年の諸経を不了義経と言っています。

【法華経に云はく「此の経は持ち難し。】
第3に法華経に「この経は、持〔たも〕ち難し。

【若し暫〔しばら〕くも持つ者は我即ち歓喜す。】
もし、しばらくも持〔たも〕つ者がいれば、我は、歓喜す。

【諸仏も亦然〔しか〕なり。】
諸仏も、また、然〔しか〕なり。

【是くの如きの人は諸仏の歎ずる所なり。是則ち勇猛〔ゆうみょう〕なり、】
このような人は、諸仏が讃嘆されるところであり、これは、すなわち勇猛であり、

【是則ち精進〔しょうじん〕なり、是を戒を持ち】
また、これは、すなわち精進なり。これを戒を持〔たも〕ち、

【頭陀〔ずだ〕を行ずる者と名づく」】
衣食住を律する頭陀〔ずだ〕を行ずる者と名づける」とあります。

【(末代に於て四十余年の持戒無く】
末法の時代においては、40余年の諸経のような持戒は、必要ないのです。

【唯法華経を持つを持戒と為す。是三)】
ただ、法華経を持〔たも〕つことを持戒とするのです。

【涅槃経に云はく「乗〔じょう〕に緩〔かん〕なる者に於ては】
第4に涅槃経に「教法の修行を怠ける者を

【乃〔すなわ〕ち名づけて緩と為す。戒〔かい〕に緩なる者に於ては】
怠惰〔たいだ〕と言う。戒律の受持を怠ける者を

【名づけて緩と為さず。菩薩〔ぼさつ〕摩訶薩〔まかさつ〕此の大乗に於て】
怠惰〔たいだ〕とは言わない。菩薩摩訶薩〔まかさつ〕が、この大乗において

【心懈慢〔けまん〕せずんば是を奉戒〔ぶかい〕と名づく。】
心が怠慢〔たいまん〕でなければ、これを戒を持〔たも〕つと言うのである。

【正法を護るが為に大乗の水を以て自ら澡浴〔そうよく〕す。】
正法を護るために、大乗の力によって自らの欲望を抑えることができたならば、

【是の故に菩薩破戒を現ずと雖も名づけて緩と為さず」】
このゆえに菩薩が戒律を破ったとしても怠惰とは言わない」とあるのです。

【(是の文法華経の戒を流通する文なり。是四)】
この文章は、法華経の戒を説明して、促〔うなが〕す為の文章なのです。

【法華経第四に云はく「妙法華経乃至皆是真実なり」】
第5に法華経、第4巻に「妙法華経(中略)皆、是れ真実なり」とあります。

【(此の文は多宝の証明なり。是五)】
この文章は、多宝如来の証明の文章なのです。

【法華経第八普賢〔ふげん〕菩薩の誓ひに云はく】
第6に法華経、第8巻の普賢菩薩の誓いに

【「如来の滅後に於て閻浮提〔えんぶだい〕の内に広く流布〔るふ〕せしめて】
「如来の滅後において閻浮提の内に広く流布させて

【断絶せざらしめん」(是六)】
断絶せざらしめん」とあります。

【法華経第七に云はく「我が滅度の後、後五百歳の中に閻浮提に於て】
第7に法華経、第7巻に「我が滅度の後、後五百歳の中に閻浮提において

【断絶せしむること無けん」(釈迦如来の誓ひなり。是七)】
断絶させること無し」とあります。これは、釈迦如来の誓いなのです。

【法華経第四に多宝並びに】
第8に法華経、第4巻に多宝如来ならびに

【十方諸仏来集〔らいじゅう〕の意趣〔いしゅ〕を説いて云はく】
十方諸仏の来集の意義を説いて

【「法をして久しく住せしめんが故に此に来至〔らいし〕したまへり」(是八)】
「法をして久しく住せしめるが故に、ここに来られた」とあります。

【法華経第七に法華経を行ずる者の住処を説いて云はく】
第9に法華経、第7巻に法華経を修行する者の住所を説いて

【「如来の滅後に於て当〔まさ〕に一心に受持〔じゅじ〕・読〔どく〕・】
「如来の滅後において、まさに一心に受持し、読み、

【誦〔じゅ〕・解説〔げせつ〕・書写〔しょしゃ〕し説の如く修行すべし。】
誦〔じゅ〕し、解説〔げせつ〕し、書写して説の如く修行をすべし。

【所在の国土に乃至若しは経巻所在の処ならば、】
所在の国土に(中略)もしは、経巻のある所は、

【若しは園中〔おんちゅう〕に於ても、若しは林中に於ても、】
園の中においても、もしは、林の中においても、

【若しは樹下〔じゅげ〕に於ても、若しは僧坊に於ても、】
もしは、樹の下においても、もしは、僧坊においても、

【若しは白衣〔びゃくえ〕の舎〔いえ〕にても、若しは殿堂に在っても、】
もしは、在家の家でも、もしは、殿堂にあっても、

【若しは山谷〔せんごく〕曠野〔こうや〕にても、】
もしは、山や谷や野原においても、

【是の中に皆塔を起てゝ供養すべし。】
この中に皆、塔を建てて供養すべし。

【所以〔ゆえん〕は何ん。当に知るべし、是の処は即ち是道場なり。諸仏此に於て】
その理由は、まさに、この所こそ道場であり、諸仏は、ここにおいて

【阿耨多羅〔あのくたら〕三藐三菩提〔さんみゃくさんぼだい〕を得」(是九)】
阿耨多羅三藐三菩提を得る」とあります。

【法華経の流通たる涅槃経の第九に云はく】
第10に法華経の流通の経文である涅槃経の第9巻に

【「我が涅槃の後正法未だ滅せず、余の八十年の】
「我が涅槃の後、正法は、未だ滅せず、残った最後の80年の、

【爾〔そ〕の時、是の経閻浮提に於て当に広く流布すべし。】
その時に、この経が閻浮提において、まさに広く流布するであろう。

【是の時当に諸の悪比丘有って】
この時、まさに諸々の悪比丘がいて、

【是の経を抄掠〔しょうりゃく〕し、分かって多分と作し、】
この経文を盗み掠〔かす〕めて多くに分断し、

【能〔よ〕く正法の色香〔しきこう〕味美〔みみ〕を滅すべし。】
正しい法の色香美味を滅する。

【是の諸の悪人復是くの如き経典を読誦すと雖も、】
この諸々の悪人がまた、このような経典を読誦するが、

【如来深密〔じんみつ〕の要義を滅除して、】
如来の深密〔じんみつ〕の要義を滅し除いて、

【世間荘厳〔しょうごん〕の文飾〔もんじき〕無義〔むぎ〕の語を安置し、】
世間の荘厳な文章を加え、意味のない言葉で飾り、

【前を抄して後に著〔つ〕け、後を抄して前に著け、前後を中に著け、】
前の文をとって後の文につけ、後の文をとって前の文につけ、

【中を前後に著けん。】
中の文を前後の文につけるであろう。

【当に知るべし、是くの如き諸の悪比丘は是魔の伴侶〔はんりょ〕なり。乃至】
まさに知るべし、このような諸々の悪比丘は、これ魔の眷属である。(中略)

【譬へば牧牛女〔もくごにょ〕の多く水を加ふる乳の如し。】
譬えば、牛飼いの女が多くの水を乳に加えるように、

【諸の悪比丘も亦復〔またまた〕是くの如し。】
諸々の悪比丘も、また同じように、

【雑〔まじ〕ふるに世語〔せご〕を以てし錯〔あやま〕りて是の経を定む。】
経典に世間の言葉をまぜて、この経文の意義を間違って決める。

【多くの衆生をして正説・正写・正取・尊重・讃歎〔さんだん〕・】
多くの衆生が、正説、正写、正取、尊重、讃歎〔さんだん〕、

【供養・恭敬〔くぎょう〕することを得ざらしむ。】
供養、恭敬〔くぎょう〕することが、できないようにする。

【是の悪比丘は利養の為の故に是の経を広宣流布すること能〔あた〕はず。】
この悪比丘は、私利私欲の為に、この経を広宣流布することができず。

【分流〔ぶんる〕すべき所少なくして言ふに足らざること】
分かれて流布できる所も少なく、言うに足らない。

【彼の牧牛〔もくご〕貧窮〔びんぐ〕の女人展転〔てんでん〕して】
かの牛飼いの貧しい女人たちが次から次へと

【乳を売り乃至糜〔かゆ〕と成すに】
乳を売る度に水を混ぜていき(中略)その乳で粥〔かゆ〕を作っても

【乳味無きが如し。是の大乗経典大涅槃経も亦復是くの如し。】
乳の味がしない。この大乗経典である大涅槃経も、また、このように、

【展転し薄淡〔はくたん〕にして気味〔けみ〕有ること無し。】
次々に移って薄く淡くなり、味気がなくなるのである。

【気味無しと雖も猶余経に勝ること是一千倍なること】
しかし、味気がないと言っても、他経に優れていることが一千倍であることは、

【彼の乳味の諸の苦味〔くみ〕に於て千倍勝るゝと為すが如し。】
あの乳味が諸々の苦味に比べて、千倍も優れているのと同じなのである。

【何を以ての故に。是の大乗経典大涅槃経は声聞の経に於て】
なぜならば、この大乗経典である大涅槃経は、仏弟子に対する経文において

【最も為〔こ〕れ上首たり」(是十)】
最も上位だからである」とあります。

【問うて云はく、不了義〔ふりょうぎ〕経を捨てゝ了義経に就〔つ〕くとは、】
それでは、不了義経を捨てて了義経につくとは、どういう意味なのでしょうか。

【大円覚〔だいえんがく〕修多羅〔しゅたら〕了義経・大仏頂〔だいぶっちょう〕】
大円覚〔だいえんがく〕修多羅〔しゅたら〕了義経、大仏頂〔だいぶっちょう〕

【如来〔にょらい〕密因修証〔みついんしゅしょう〕了義経、】
如来〔にょらい〕密因修証〔みついんしゅしょう〕了義経のような

【是くの如き諸大乗経は皆了義経なり。】
諸大乗経は、すべて了義経です。

【依用〔えゆう〕と為すべきや。】
これらの経典を依りどころとして、用いてよいのでしょうか。

【答へて曰く、了義・不了義は所対に随って不同なり。】
それは、了義、不了義は、対比するものによって同じではないのです。

【二乗・菩薩等の所説の不了義経に対すれば一代の仏説は皆了義なり。】
二乗、菩薩などの所説の不了義に対すれば、一代の仏説は、すべて了義なのです。

【仏説に就いて亦小乗経は不了義、大乗経は了義なり。】
仏説について、小乗経は、不了義、大乗経は、了義であるのです。

【大乗に就いて又四十余年の諸経は不了義経、】
大乗について、また40余年の諸経は、不了義経であり、

【法華・涅槃・大日経等は了義経なり。】
法華経、涅槃経、大日経などは、了義経なのです。

【而るに円覚・大仏頂等の諸経は】
しかるに円覚〔えんがく〕経や大仏頂〔だいぶっちょう〕経などの諸経は、

【小乗及び歴劫〔りゃっこう〕修行〔しゅぎょう〕の】
小乗および歴劫〔りゃっこう〕修行の

【不了義経に対すれば了義経なり。】
不了義経に対すれば、了義経となるのです。

【法華経の如き了義に非ざるなり。】
しかし、法華経のような了義経では、ないのです。

【問うて曰く、華厳〔けごん〕・法相〔ほっそう〕・三論〔さんろん〕等、】
それでは、華厳宗、法相宗、三論宗などの

【天台・真言より以外の諸宗の高祖、】
天台宗、真言宗以外の諸宗の宗祖は、

【各〔おのおの〕其の依憑〔えひょう〕の経々に依って】
おのおの、その依りどころとする経文によって、

【其の経々の深義〔じんぎ〕を極めたりと欲〔おも〕へり。是爾〔しか〕るべきや如何。】
その経文の深義を極めたと思っていますが、これは、その通りなのでしょうか。

【答へて云はく、華厳宗の如きは、】
それは、華厳宗においては、

【華厳経に依って諸経を判じて華厳経の方便と為すなり。】
華厳経によって諸経を判断して、それらを華厳経の方便としています。

【法相宗の如きは、阿含〔あごん〕・般若〔はんにゃ〕等を卑〔いや〕しめ、】
法相宗においては、阿含経、般若経などを卑〔いや〕しめて、

【華厳・法華・涅槃を以て深密〔じんみつ〕経に同じ、】
華厳経、法華経、涅槃経をもって深密〔じんみつ〕経と同じであるとし、

【同じく中道教〔ちゅうどうきょう〕と立つると雖も、】
同じく中道教〔ちゅうどうきょう〕であると立てていますが、

【亦法華・涅槃は一類の一乗を説くが故に】
しかし、また、法華経、涅槃経は、不定性の一類の成仏を説いたものであるから

【不了義経なり、】
不了義経であるとしています。

【深密経には五性〔ごしょう〕各別〔かくべつ〕を存するが故に】
そして、これに対し解深密〔げじんみつ〕経は、五性各別を論ずるゆえに

【了義経と立つるなり。】
了義経であると立てているのです。

【三論宗の如きは、二蔵を立てゝ一代を摂し、】
三論宗においては、声聞蔵と菩薩蔵の二蔵を立てて一代聖教を収め、

【大乗に於て浅深を論ぜず。】
大乗において、浅深を論ぜずに、

【而も般若経を以て依憑と為す。】
しかも般若経をもって依りどころの経文としているのです。

【此等の諸宗の高祖多分は四依の菩薩なるか、】
これらの諸宗の宗祖は、はたして依り処となる正しい菩薩なのでしょうか。

【定めて所存有らん、是非に及ばず。】
なにか、必ず、心の思う事があるはずです。この事に是非は、言うに及びません。

【然りと雖も自身の疑ひを晴らさんが為に且〔しばら〕く人師の異解〔いげ〕を】
しかしながら、私自身の疑いを晴らすために、今は、仮に人師の異なる解釈を

【閣〔さしお〕いて諸宗の依憑の経々を開き見るに、】
一往、置いて、諸宗派の拠り所とする経文を開いて見ると、

【華厳経は旧訳〔くやく〕は五十・六十、】
華厳経には、旧訳には、50巻のものや60巻のもの、

【新訳は八十・四十なり。】
新訳には、80巻のものや40巻のものがありますが、

【其の中に法華・涅槃の如く一代聖教を集めて方便と為すの文無し。】
その中に法華経や涅槃経のように一代聖教を集め、方便とする文章は、ありません。

【四乗を説くと雖も、其の中の仏乗に於て】
仏界から声聞までの四乗を説いてはいても、その中の仏乗において

【十界〔じっかい〕互具〔ごぐ〕久遠〔くおん〕実成〔じつじょう〕を説かず。】
十界互具、久遠実成を説いていません。

【但し人師に至りて五教を立てゝ先の四教に諸経を収めて】
ただ、中国の人師によって勝手に五教判を立て、その前の四教に諸経を収めて

【華厳経の方便と為す。法相宗の如きは、三時教〔さんじきょう〕を立つる時】
華厳経の方便としたのです。法相宗においては、勝手に三時教判を立てて、

【法華経を以て深密経に同ずと雖も、】
法華等をもって深密経と同じであるとしていますが、

【深密経五巻を開き見るに全く法華等を以て中道の内に入れず。】
深密経五巻を開いて見ても、全く法華等を中道の内に入れていないのです。

【三論宗の如きは、二蔵を立つる時、】
三論宗においては、勝手に声聞蔵と菩薩蔵の二蔵教判を立てて、

【菩薩蔵に於て華厳・法華等を収め般若経に同ずと雖も、】
菩薩蔵において華厳経、法華経などを収め、般若経と同じであるとしていますが、

【新訳の大般若経を開き見るに全く大般若を以て】
新訳、古訳の大般若経を開いて見ると、全く大般若をもって

【法華・涅槃に同ずるの文無し。】
法華経、涅槃経と同じであるとした文章は、ありません。

【華厳は頓〔とん〕教、】
華厳経は、真実の教えである頓〔とん〕教、

【法華は漸〔ぜん〕教等とは】
法華経は、真実の教えに誘引する為の漸〔ぜん〕教などと言うのは

【人師の意楽〔いぎょう〕にして仏説に非ざるなり。】
人師の好む言い分であって、仏説ではないのです。

【法華経の如きは、序分の無量義経に慥〔たし〕かに四十余年の年限を挙げ、】
法華経の場合は、序分の無量義経に、たしかに40余年の年限を挙げ、

【華厳・方等・般若等の大部の諸経の題名を呼んで未顕真実と定め、】
華厳経、方等教、般若教などの諸経の題名をあげて、未顕真実であると定め、

【正宗の法華経に至りて一代の勝劣を定むる時「我が所説の経典、】
正宗分の法華経に至って、一代聖教の優劣を判定する時、我が所説の経典は、

【無量千万億にして、已に説き今説き当に説かん」の金言を吐いて】
無量千万億にして、すでに説き、今説き、まさに説くとの金言を述べ、

【「而も其の中に於いて此の法華経は】
しかも、その中において、この法華経は、

【最も為〔こ〕れ難信難解なり」と説きたまふ時、多宝如来、地より涌出して】
最も難信難解であると説かれた時、多宝仏が地より涌き出て、

【妙法華経皆是真実と証誠〔しょうじょう〕し、分身の諸仏十方より】
妙法蓮華経は、すべて、これ真実であると証言し、分身の諸仏は、十方から、

【尽〔ことごと〕く一処に集まりて舌を梵天に付けたまふ。】
すべて一箇所に集まって、舌を梵天に付けられて、多宝仏の言葉を証明したのです。

【今此の義を以て余〔われ〕推察を加ふるに、】
今、この道理をもって、私が推察を加えると、

【唐土〔とうど〕日本に渡れる所の五千七千余巻の諸経以外の、】
中国、日本に渡った五千七千余巻の諸々の経文、

【天竺〔てんじく〕・竜宮〔りゅうぐう〕・四王天〔しおうてん〕・】
それ以外のインド、竜宮〔りゅうぐう〕、四王天〔しおうてん〕、

【過去の七仏等の諸経並びに阿難〔あなん〕の未結集〔みけつじゅう〕の経、】
過去の七仏などの諸々の経文ならびに阿難〔あなん〕の未だ結集していない経文、

【十方世界の塵〔ちり〕に同ずる諸経の勝劣・浅深・難易】
さらに十方世界の塵の数ほどある諸々の経文の優劣、浅深、難易は、

【掌中〔しょうちゅう〕に在り。「無量千万億」の中に】
手の中にあるのです。無量千万億の教えの中に、

【豈〔あに〕釈迦如来の所説の諸経漏〔も〕るべきや。】
どうして釈迦如来が説いた経文を漏らすことがあるでしょうか。

【已説・今説・当説の年限に入らざる諸経之有るべきや。】
已説、今説、当説の三説の年限に入らない経文があるでしょうか。

【願はくは末代の諸人且く諸宗の高祖の】
願うところは、末法の諸人は、しばらく諸宗の宗祖の

【弱文〔じゃくもん〕無義〔むぎ〕を閣〔さしお〕いて、】
根拠のない文章や道理のないものを捨てて、

【釈迦・多宝・十方諸仏の強文〔ごうもん〕有義〔うぎ〕を信ずべし。】
釈迦仏、多宝仏、十方諸仏の根拠のある文章や道理あるものを信じてください。

【何に況んや諸宗の末学の偏執〔へんしゅう〕を先と為し、】
まして、諸宗派の未熟な者達が偏〔かたよ〕った考えを先として、

【末代の愚者の人師を本と為して】
末法の愚者である人師の言う事を真実と思い、

【経論を抛〔なげう〕つ者に依憑すべきや。】
経論を投げ捨てる者を依り処として、よいのでしょうか。

【故に法華の流通〔るつう〕たる双林〔そうりん〕最後の涅槃経に】
それゆえに法華経の流通分である、沙羅双樹の林で最後に説かれた涅槃経において

【仏迦葉〔かしょう〕童子〔どうじ〕菩薩〔ぼさつ〕に遺言して言はく】
仏は、迦葉童子菩薩に遺言をして、

【「法に依って人に依らざれ、義に依って語に依らざれ、】
「法に依って、人に依っては、ならない。義に依って、語に依っては、ならない。

【智に依って識に依らざれ、】
智に依って、識に依っては、ならない。

【了義経に依って不了義経に依らざれ」云云。】
了義経に依って、不了義経に依っては、ならない」と説かれたのです。


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