日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


守護国家論 16 第15章 仏法を付嘱する証文

【大文の第四に謗法の者を対治すべき】
第4段に謗法の者は、対治すべきであり、

【証文を出ださば、此に二有り。】
その証拠の経文をあげるとすれば、これに二つあります。

【一には仏法を以て国王大臣並びに四衆に付嘱〔ふぞく〕することを明かし、】
ひとつには、仏法守護を国王、大臣、四衆に付属することを明確にし、

【二には正しく謗法の人の王地に処するをば対治すべき証文を明かす。】
ふたつには、謗法の人が国土を支配するのを対治すべき証拠を経文で明確にします。

【第一に仏法を以て国王大臣並びに四衆に付嘱することを明かさば、】
それでは、第1項で、仏法守護を国王、大臣、四衆に付属することを明確にします。

【仁王〔にんのう〕経に云はく「仏波斯匿王〔はしのくおう〕に告げたまはく乃至】
仁王〔にんのう〕経に「仏が波斯匿王〔はしのくおう〕に告げられるのには(中略)

【是の故に諸の国王に付嘱して比丘〔びく〕・比丘尼〔びくに〕・】
この故に諸国の王に付属して、僧侶、尼僧、

【清信男〔しょうしんなん〕・清信女〔しょうしんにょ〕に付嘱せず。】
純真な男性信者や純真な女性信者には、これを付属しない。

【何を以ての故に、王の威力無きが故に。乃至】
なぜならば、彼らは、王のような権力を持たないからである。(中略)

【此の経の三宝をば】
この経の仏法僧の三宝を、

【諸の国王四部の弟子に付嘱す」(已上)。】
諸国の王と、僧侶、尼僧、男性信者、女性信者の四部衆に付属す」とあります。

【大集経二十八に云はく「若し国王有って】
また、大集経の第28巻に「もし、国王がいて、

【我が法の滅せんを見て捨てゝ擁護〔おうご〕せずんば、】
仏法が消滅しようとしているのを見て、そのまま、捨て置き、護らないならば、

【無量世に於て施戒慧〔せかいえ〕を修すとも悉く皆滅失し、】
無量の世において布施、持戒、智慧の修行をしたとしても、すべてを失い、

【其の国に三種の不詳の事を出ださん。乃至】
その国に三種類の災いを起こすであろう、(中略)

【命終〔みょうじゅう〕して大地獄に生ぜん」(已上)。】
その命が終わって大地獄に生ず」とあります。

【仁王経の文の如くんば、仏法を以て先づ国王に付嘱し、】
仁王〔にんのう〕経の文章によれば、仏法を先ず、国王に付属し、

【次に四衆に及ぼす。】
次に僧侶、尼僧、男性信者、女性信者に及ぼすのです。

【王位に居る君、国を治むる臣は仏法を以て先と為して国を治むべきなり。】
王位にいる君主、国を治める臣下は、仏法を根本として国を治めるべきなのです。

【大集経の文の如くんば、王臣等仏道の為に無量劫の間、】
大集経の文章によれば、国王、臣下などが仏道の為に無量劫の間、

【頭目〔ずもく〕等の施を施し八万の戒行〔かいぎょう〕を持ち】
頭や目などの布施を施し、八万の戒律の修行し、

【無量の仏法を学ぶと雖も、国に流布〔るふ〕する所の】
無量の仏法を学ぶといえども、その国に流布している仏法の

【法の邪正〔じゃしょう〕を直〔ただ〕さゞれば、】
その正邪を明確にして、糾〔ただ〕さなければ、

【国中に大風・旱魃〔かんばつ〕・大雨の三災起こりて】
国中に大風と旱魃〔かんばつ〕と大雨の三災が起こって

【万民を逃脱〔とうだつ〕せしめ、王臣定めて三悪に堕せん。】
万民が逃げ出し、国王、臣下は、必ず三悪道に堕ちるのです。

【亦双林〔そうりん〕最後の】
また、釈尊が沙羅双樹〔さらそうじゅ〕の林で入滅する直前に説いた

【涅槃経第三に云はく「今正法を以て諸王・大臣・宰相〔さいしょう〕・】
涅槃経の第3巻に「今、正法を諸王、大臣、宰相〔さいしょう〕、

【比丘・比丘尼・優婆塞〔うばそく〕・優婆夷〔うばい〕に付嘱す。乃至】
僧侶、尼僧、男性信者、女性信者に付属する。(中略)

【法を護らざる者をば禿居士〔とくこじ〕と名づく」と。】
仏法を護らない者を、頭の禿げた俗人と名づく」とあります。

【又云はく「善男子正法を護持せん者は五戒を受けず威儀を修せず、】
また「善男子よ、正法を護持する者は、五戒を受けず、振る舞いを改めずとも、

【応〔まさ〕に刀剣・弓箭〔きゅうせん〕・鉾槊〔むさく〕を持すべし」と。】
まさに、刀、剣、弓、矢、盾、矛を持つべし」とあるのです。

【又云はく「五戒を受けざれども】
また「五戒を受けなくても、

【正法を護るを為〔もっ〕て乃〔すなわ〕ち大乗と名づく。正法を護る者は】
正法を護ることをもって大乗と名づける。正法を護る者は、

【当〔まさ〕に刀剣器杖〔きじょう〕を執持〔しゅうじ〕すべし」云云。】
まさに刀剣や武器を持つべし」とあります。

【四十余年の内にも梵網〔ぼんもう〕等の戒の如くんば】
爾前の40余年の内にも、梵網〔ぼんもう〕経などの戒によるならば、

【国王・大臣の諸人等、一切刀杖〔とうじょう〕・弓箭・矛斧〔むふ〕・】
国王、大臣の諸人なども、すべての刀、杖、弓、矢、矛、斧などの

【闘戦〔とうせん〕の具を蓄〔たくわ〕ふることを得ず。】
戦闘の武器を畜えることを禁じています。

【若し此を蓄ふる者は定めて現身に国王の位、比丘・比丘尼の位を失ひ、】
もし、これを畜える者は、必ず現世の身に国王の位、僧侶の位、尼僧の位を失い、

【後生は三悪道の中に堕すべしと定め了んぬ。】
死後は、三悪道の中に堕ちると定められているのです。

【而るに今の世は道俗を択〔えら〕ばず弓箭・刀杖を帯せり。】
しかし、今の世の中は、出家も在家も区別なく、弓矢、刀杖を持ち歩いています。

【梵網経の文の如くんば必ず三悪道に堕せんこと疑ひ無き者なり。】
梵網〔ぼんもう〕経の文章によれば、必ず三悪道に堕ちる事は、疑いないのです。

【涅槃経の文無くんば如何にしてか之を救はん。】
涅槃経の文章がなければ、どうして、これらの出家、在家を救えるでしょうか。

【亦涅槃経の先後の文の如くんば、弓箭・刀杖を帯して】
また、今、引いた涅槃経の前後の文章によれば、弓矢、刀杖を身に着けて、

【悪法の比丘を治し正法の比丘を守護せん者は、】
悪法の僧侶を対治し、正法の僧侶を守護する者は、

【先世〔せんぜ〕の四重・五逆を滅して】
前世に犯した殺生、偸盗、邪淫、妄語の四重罪、五逆罪を滅して、

【必ず無上道を証せんと定めたまふ。】
必ず、無上道を証得するであろうと定められています。

【亦金光明〔こんこうみょう〕経第六に云はく「若し人有って其の国土に於て】
また金光明〔こんこうみょう〕経の第6巻に「もし人がいて、その国土に

【此の経有りと雖も未だ曾〔かつ〕て流布せしめず、捨離〔しゃり〕の心を生じ】
この経があると言っても、未だかつて流布せず、経を捨てる心を起こし

【聴聞を楽〔ねが〕はず、亦供養し尊重〔そんじゅう〕し讃歎〔さんだん〕せず、】
聞くことも願わず、また、供養し尊重し讃歎もしない。

【四部の衆、持経の人を見て】
僧侶、尼僧、男性信者、女性信者の中で、この経を持〔たも〕つ人を見ても、

【亦復〔またまた〕尊重し乃至供養すること能〔あた〕はず、】
またまた、尊重したり(中略)供養したりすることはない。

【遂に我等及び余の眷属〔けんぞく〕無量の諸天をして】
ついに、我等、及び、その眷属や無量の諸天は、

【此の甚深の妙法を聞くことを得ず、甘露の味に背き、】
この甚深の妙法を聞く事ができず、甘露の法味に背き、

【正法の流れを失ひ、威光及以〔および〕勢力有ること無からしめ、】
正法の流れを失い、威光、勢力がなくなり、

【悪趣を増長し人天〔にんでん〕を損減し】
地獄、餓鬼、畜生、修羅の四悪道を増長し、人、天を損い減じ、

【生死の河に堕ちて涅槃の路〔みち〕に乖〔そむ〕かん。】
生死の苦しみの河に堕ちて、涅槃の悟りの道に背くであろう。

【世尊、我等四王並びに諸の眷属及び薬叉〔やしゃ〕等斯〔か〕くの如き事を】
世尊よ、我等、四天王と、その眷属、夜叉などは、このような様子を見て、

【見て其の国土を捨てゝ擁護〔おうご〕の心無けん。】
その国土を捨てて守護の心を無くすであろう。

【但我等のみ是の王を捨棄〔しゃき〕するに非ず、】
ただ、我等、四天王と、その眷属のみが、この王を捨てるのではなく、

【亦無量の国土を守護する諸大善神有らんも皆悉く捨去〔しゃこ〕せん。】
その他の無量の国土を守護するはずの諸天善神も、すべて捨て去るだろう。

【既に捨離し已〔お〕はりなば其の国当〔まさ〕に種々の災禍〔さいか〕有って】
すでに捨てられ、去ってしまったならば、その国は、まさに種々の災難が起こり、

【国位を喪失〔そうしつ〕すべし。一切の人衆皆善心無けん。】
国王は、位を失って混乱が生じ、すべての人々が、みんな、良心がなくなり、

【唯繋縛〔けばく〕・殺害〔せつがい〕・瞋諍〔しんじょう〕のみ有りて】
ただ、束縛、殺害、争いのみがあって、互いに罵〔ののし〕り合い、

【互ひに相讒諂〔あいざんてん〕し枉〔ま〕げて辜〔つみ〕無きに及ばん。】
無実の人を罪に陥〔おとしい〕れるであろう。

【疾疫流行〔るぎょう〕し、彗星数〔しばしば〕出で、両日並び現じ、】
疫病が流行し、彗星が、しばしば、出で、二つの太陽が並んで現れ、

【薄蝕〔はくしょく〕恒〔つね〕無く、黒白〔こくびゃく〕の二虹〔にこう〕】
日食、月食が頻繁に生じ、黒い虹と白い虹が出て、

【不祥〔ふしょう〕の相を表はし、星流れ地動じ、井の内に声を発し、】
不吉な様相を表し、星が流れ、地が動いて、井戸の中から不気味な音を発し、

【暴雨悪風時節に依らず、】
暴風雨が時節から外れて頻発〔ひんぱつ〕し、

【常に飢饉〔ききん〕に遭〔あ〕ひて苗実〔みょうじつ〕も成〔みの〕らず、】
常に飢饉にあって、苗〔なえ〕も成長せず、実もならず、

【多く他方の怨賊有って国内を侵掠〔しんりょう〕し、人民諸の苦悩を受け、】
他国から多くの過激派や破壊者が国内を侵略し、民衆は、多くの苦悩を受け、

【土地として可楽〔からく〕の処有ること無けん」(已上)。】
楽に住める土地がなくなる」とあります。

【此の経文を見るに、世間の安穏を祈らんに而も国に三災起こらば】
この経文を見ると、世間の安穏を祈っても、国に三災が起こるのであれば、

【悪法流布する故なりと知るべし。】
悪法が流布しているからと知るべきです。

【而るに当世は随分国土の安穏を祈ると雖も、】
しかるに、今の世は、随分と国土の安穏を祈っているのに、

【去ぬる正嘉〔しょうか〕元年には大地大いに動じ、】
去る正嘉元年には、大地が激しく震動し、

【同二年に大雨大風苗実を失へり。】
正嘉2年に大雨、大風があり、苗が生育せず実を結ぶことが、ありませんでした。

【定めて国を喪〔ほろぼ〕すの悪法此の国に有るかと勘ふるなり。】
おそらく、国を滅ぼす悪法が、この国にあると、考えられるのです。

【選択集〔せんちゃくしゅう〕の或段に云はく】
選択集〔せんちゃくしゅう〕の第2段に

【「第一に読誦雑行〔ぞうぎょう〕とは、上の観経等の】
「第一に読誦雑行〔ぞうぎょう〕とは、先に述べた観無量寿経の

【往生浄土の経を除いて已外、大小顕密の諸経に於て】
往生浄土の三部経を除いて、それ以外の大乗、小乗、顕教、密教の諸経を

【受持読誦するを悉く読誦雑行と名づく」と書き了〔お〕へて、】
受持、読誦することを、すべて読誦、雑行と名づける」と書きおわって、

【次に書して云はく「次に二行の得失を判ぜば、】
その後に「次に正行と雑行〔ぞうぎょう〕の二行の得失を判断すると、

【法華・真言等の雑行は失〔しつ〕、浄土の三部経は得なり」と。】
法華、真言などの雑行〔ぞうぎょう〕は、無益、浄土の三部経は、有益」と書き、

【次下〔つぎしも〕に善導〔ぜんどう〕和尚の】
その次に善導〔ぜんどう〕和尚の

【往生〔おうじょう〕礼讃〔らいさん〕の十即十生・百即百生・】
往生礼讃〔らいさん〕の十即十生、百即百生、

【千中無一の文を書き載せて云はく】
千中無一の文章を引用して

【「私に云はく、此の文を見るに弥〔いよいよ〕須〔すべから〕く】
「私の意見を言うと、この文を見れば、いよいよ、すみやかに、

【雑を捨てゝ専を修すべし。豈百即百生の専修正行を捨てゝ堅く】
雑行を捨てて、正行を専修すべきであり、どうして、百即百生の専修正行を捨てて、

【千中無一の雑修〔ぞうしゅ〕雑行を執せんや。】
千中無一の雑修〔ぞうしゅう〕雑行〔ぞうぎょう〕に、かたくなに執着するのか。

【行者能〔よ〕く之を思量せよ」(已上)。此等の文を見るに】
行者よ、これをよく思量せよ」と述べているのです。これらの文章を見て、

【世間の道俗豈〔あに〕諸経を信ずべけんや。】
世間の出家、在家は、どうして諸経を信ずる事など、できるでしょうか。

【次下に亦書して法華経等の雑行と】
その次の第3段に、また、法華経などを雑行〔ぞうぎょう〕とし、

【念仏の正行との勝劣難易を定めて云はく】
念仏を正行として、その優劣、難易を判断して

【「一には勝劣の義、二には難易〔なんい〕の義なり。】
「一には、優劣の義、二には、難易の義がある。

【初めに勝劣の義とは、念仏は是〔これ〕勝、余行は是劣。】
初めに優劣の義とは、念仏は、これ勝、それ以外の行は、これ劣である。

【次に難易の義とは、念仏は修し易く諸行は修し難し」と。】
次に難易の義とは、念仏は、修し易く、諸行は、修し難い」と書き、

【亦次下に法華・真言等の失を定めて云はく】
また、その次の第12段に法華、真言などを無益と定めて

【「故に知んぬ、諸行は機に非ず時を失ふ。】
「ゆえに諸行は、機根に合わず、時にかなっておらず、

【念仏往生のみ機に当たり時を得たり」と。】
念仏往生のみ機根に合い、時にかなっている」と述べています。

【亦次下に法華・真言等の雑行の門を閉ぢて云はく】
また、その次に、法華、真言などの雑行〔ぞうぎょう〕の門を閉じて

【「随他〔ずいた〕の前には暫〔しばら〕く定散〔じょうさん〕の門を】
「随他の段階では、仮に定心、散心の門を開いたけれども、

【開くと雖も随自〔ずいじ〕の後には還りて定散の門を閉ず。】
随自の段階では、かえって定心、散心の門を閉じたのである。

【一たび開きて以後永く閉ぢざるは】
一度、開いて以後、永く閉じないのは、

【唯是念仏の一門なり」(已上)。】
唯一、これ念仏の一門なり」と述べています。

【最後の本懐〔ほんがい〕に云はく「夫〔それ〕速やかに生死を離れんと欲せば、】
最後の第16段に「それ速〔すみ〕やかに生死を離れんと欲せば、

【二種の勝法の中に】
聖道門と浄土門の二種の優れた法門の中では、

【且〔しばら〕く聖道門〔しょうどうもん〕を閣〔さしお〕いて】
とりあえず聖道門を捨てて

【撰〔えら〕んで浄土門に入れ、浄土門に入らんと欲せば、】
浄土門を選んで入り、浄土門に入ろうとするならば、

【正雑二行の中に且く諸の雑行を抛〔なげう〕ちて】
正行と雑行〔ぞうぎょう〕の中では、とりあえず、雑行〔ぞうぎょう〕を捨てて、

【撰んで応に正行に帰すべし」(已上)。】
まさに正行を選んで帰依すべし」と述べているのです。

【門弟此の書を伝へて日本六十余州に充満するが故に、】
法然の門弟が、この選択集を伝え弘めて日本六十余州に充満しているゆえに、

【門人世間の無智の者に語りて云はく】
その門人が世間の無智の者に

【「上人智慧第一の身と為〔し〕て此の書を造り真実の義を定め、】
「法然上人は、智慧第一の身となって、この書を著し、念仏こそ真実の教えと定め、

【法華・真言の門を閉ぢて後に開くの文無く、】
法華、真言の法門を閉じた後に開くと云う文章などはなく、

【抛ちて後に還りて取るの文無し」等と立つる間、】
抛〔はな〕った後に、また拾いあげると云うような文章はない」などと言うと、

【世間の道俗一同に頭〔こうべ〕を傾け、】
世間の出家、在家は、みんな頭を下げて、これを信じたのです。

【其の義を訪〔と〕ふ者には】
そして、その説明を求める者には、

【仮字〔かなもじ〕を以て選択の意を宣べ、】
仮名文字によって選択集〔せんちゃくしゅう〕の内容を述べ、

【或は法然上人の物語を書〔しる〕す間、法華・真言に於て難を付けて】
あるいは、法然上人の物語を著〔あらわ〕し、その中で、法華、真言を非難し、

【或は去年〔こぞ〕の暦〔こよみ〕祖父の履〔くつ〕に譬へ、】
去年の暦〔こよみ〕や祖父の履物に譬えて、

【或は法華経を読むは】
あるいは、法華経を読む事は、

【管絃〔かんげん〕より劣ると。】
楽器の音を鳴らすよりも劣ると悪口〔あっく〕したのです。

【是くの如き悪書国中に充満するが故に、】
このような悪書が国中に充満するゆえに、

【法華・真言等国に在りと雖も聴聞〔ちょうもん〕せんことを楽〔ねが〕はず、】
法華、真言などは、国にあっても人々は、法華経を聴聞しようとも思わず、

【偶〔たまたま〕行ずる人有りと雖も尊重〔そんじゅう〕を生ぜず、】
たまたま、法華経などを修行する人がいても尊重する心を起さないのです。

【一向念仏者、法華等の結縁〔けちえん〕を作〔な〕すをば】
一向念仏の者が法華経に結縁〔けちえん〕することは、

【往生の障〔さわ〕りと成ると云ふ、】
極楽往生の妨げになるなどと言ったので、

【故に捨離〔しゃり〕の意を生ず。】
法華経を捨て去ろうとする心が生じたのです。

【此の故に諸天妙法を聞くことを得ず。】
そのために諸天善神は、妙法を聞くことができず、

【法味を嘗〔な〕めざれば威光勢力〔せいりき〕有ること無く、】
妙法の法味を味わえないので、威光、勢力がないのです。

【四天王並びに眷属〔けんぞく〕此の国を捨て、】
四天王とその眷属は、この国を捨てて、

【日本国守護の善神も捨離し已〔お〕はんぬ。】
日本国、守護の諸天善神も捨て去ってしまったのです。

【故に正嘉〔しょうか〕元年に大地大いに震〔ふる〕ひ、】
それゆえに正嘉元年に大地が激しく震動し、

【同二年に春の大雨に苗を失ひ、夏の大旱魃に草木を枯らし、】
正嘉2年に春の大雨によって苗〔なえ〕を失い、夏の大旱魃によって草木を枯らし、

【秋の大風に果実を失ひ、飢渇〔けかち〕忽〔たちま〕ち起こりて】
秋の大風によって果実を失い、飢餓が、たちまちのうちに起こったのです。

【万民を逃脱せしむること金光明〔こんこうみょう〕経の文の如し。】
全ての人々が呆然とする様子は、金光明経の文章の通りなのです。

【豈選択集の失〔とが〕に非ずや。】
これは、まさに経文の通りで選択集〔せんちゃくしゅう〕の罪ではないでしょうか。

【仏語虚しからざる故に悪法の流布有りて】
仏の金言は、虚偽でない故に、悪法が流布したため

【既に国に三災起これり。】
まさに、この国に三災が起こっているのです。

【而るに此の悪義を対治せずんば】
それでも、この選択集〔せんちゃくしゅう〕の邪義を対治しなければ、

【仏の所説の三悪を脱るべけんや。】
仏の説かれた三悪道を免れることは、できないのです。

【而るに近年より予我〔が〕不愛〔ふあい〕身命〔しんみょう〕】
しかし、近年より、法華経勧持品の我、身命を愛せず。

【但惜〔たんじゃく〕無上道〔むじょうどう〕の文を瞻〔み〕る間、】
ただ、無上道を惜〔おし〕むの文章を見て、

【雪山〔せっせん〕・常啼〔じょうたい〕の心を起こし】
雪山〔せっせん〕童子、常啼〔じょうたい〕菩薩の心を起こし、

【命を大乗の流布に替へ】
我が命を大乗の流布に代えようと決意して、

【強言〔ごうごん〕を吐いて云はく、選択集を信じて後世を願はん人は】
強い言葉で、選択集〔せんちゃくしゅう〕を信じて、後世を願おうとする人は

【無間〔むけん〕地獄〔じごく〕に堕すべしと。】
無間地獄に堕ちるであろうと言ったのです。

【爾の時に法然上人の門弟選択集に於て】
そのときに法然上人の門弟は、選択集〔せんちゃくしゅう〕の

【上に出だす所の悪義を隠し、或は諸行往生を立て、】
前述したような邪義を隠し、諸行でも往生できるなどと説いたり、

【或は選択集に於て法華・真言等を破せざる由を称し、】
選択集〔せんちゃくしゅう〕では、法華、真言を破っては、いないなどと言い、

【或は在俗に於て選択集の邪義を知らしめざらんが為に】
あるいは、在家の人々に選択集〔せんちゃくしゅう〕の邪義を知らせまいとして、

【妄語〔もうご〕を構へて云はく、日蓮は念仏を称〔とな〕ふる人を】
嘘を言い放って、日蓮は、念仏を唱える人は

【三悪道に堕すと云ふと。】
地獄、餓鬼、畜生の三悪道に堕ちると言っていると偽〔いつわ〕っているのです。

【問うて云はく、法然上人の門弟諸行往生を立つるに失有りや否や。】
それでは、法然の門弟が諸行でも往生できると説くのは、誤っているのでしょうか。

【答へて曰く、法然上人の門弟と称し諸行往生を立つるは】
それは、法然の門弟と名乗って、諸行でも往生できると説くのは、

【逆路伽耶陀〔ぎゃくろかやだ〕の者なり。】
反逆者である逆路伽耶陀〔ぎゃくろかやだ〕と同じ者なのです。

【当世も亦諸行往生の義を立つ。】
現在も、また、諸行でも往生できると同様の教義を説いていますが、

【而も内心には一向に念仏往生の義を存し、】
内心には、一向に念仏のみが往生できるとの教義を立てておいて、

【外には諸行不謗の由を聞かしむるなり。】
外には、諸行を謗〔そし〕っていないなどと嘘を言い放っているのです。

【抑〔そもそも〕此の義を立つる者は】
そもそも、諸行でも往生できるなどと説く者は、

【選択集の法華・真言等に於て失を付け、】
選択集〔せんちゃくしゅう〕で法華、真言を誤りと決めつけ、

【捨閉〔しゃへい〕閣抛〔かくほう〕・群賊・邪見・悪見・】
捨てよ、閉じよ、閣け、抛て、また、群賊、邪見、悪見、

【邪雑人〔じゃぞうにん〕・千中無一等の】
また、邪雑人〔じゃぞうにん〕、千中無一〔せんちゅうむいち〕などの

【語を見ざるや否や。】
言葉を見たことがないのでしょうか。


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