日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


富木常忍御消息文 17 富木殿御返事(売袈裟奉上仏者事)

【富木殿御返事 文永一二年二月七日 五四歳】
富木殿御返事 文永12年2月7日 54歳御作


【帷〔かたびら〕一領給〔た〕び候ひ了〔おわ〕んぬ。】
着物、一着を受け取りました。

【夫〔それ〕仏弟子の中に比丘一人はん〔侍〕べり。】
そもそも、仏弟子の中に一人の僧侶が、おられました。

【飢饉〔ききん〕の世に、仏の御時事か〔欠〕けて候ひければ、】
飢饉の世に仏がいらした時、物がなく、不自由していたので、

【比丘袈裟〔けさ〕をう〔売〕て其のあたい〔価〕を仏に奉る。】
僧侶は、袈裟を売って、その代金を仏に差し上げました。

【仏其の由来を問ひ給ひければ、しかじかとありのまゝに申しけり。】
仏が、その由来を問われたので、正直にありのままを申し上げたのです。

【仏云はく、袈裟はこれ三世の諸仏解脱〔げだつ〕の法衣なり、】
仏は、袈裟は、三世の諸仏の解脱の為の法衣である。

【このあたひ〔価〕をば我ほう〔報〕じがたしと辞退しましまししかば、】
この代金に報いる力は、私にはないと言われて辞退されたので、

【此の比丘申す、さてこの袈裟のあたひをばいかんがせんと申しければ、】
この僧侶は、この袈裟の代金を、いかがいたしましょうと申し上げたところ、

【仏の云はく、汝悲母〔ひも〕有りや不〔いな〕や。答へて云はく、有り。】
仏は、あなたに悲母は、いるかと尋ねられ、いますと答えると、

【仏云はく、此の袈裟をば汝が母に供養すベし。】
仏は、この袈裟を母に供養するがよいと言われました。

【此の比丘、仏に云はく、仏は此の三界の中第一の特尊なり。】
この僧侶は、この仏に対して、仏は、三界の中で最も尊い方であり、

【一切衆生の眼目にてをはす。】
一切衆生の眼目であられます。

【設〔たと〕ひ十方世界を覆〔おお〕ふ衣なりとも】
たとえ、あらゆる世界を覆うような衣であったとしても、

【大地にしく袈裟なりとも能く報じ給ふベし。】
また大地を覆うほどの袈裟であったとしても、その価値に報じられる事でしょう。

【我が母は無智なる事牛のごとし。羊よりもはかな〔儚〕し。】
それに対して、私の母は、牛のように無智であり、羊よりも浅はかなのです。

【いかでか袈裟の信施をほう〔報〕ぜんと云云。】
どうして、この袈裟に報いる事が出来るでしょうかと答えたのです。

【仏返詰〔ほんきつ〕して云はく、汝が身をば誰が生みしぞや、】
仏は、それに反論して、あなたの身を誰が生んだのか。

【汝が母これを生む。】
あなたの母親が生んだのである。

【此の袈裟の恩報じぬベし等云云。】
この袈裟の恩に十分、報われていると言われたのです。

【此は又、齢〔よわい〕九旬〔じゅん〕にいたれる悲母の、】
これは、また、歳が90になっている悲母が、

【愛子にこれをまいらせさせ給ひ、】
愛する我が子の冨木殿に、この着物を差し上げられたのです。

【而して我と老眼をしぼり、身命を尽くせり。】
自らの両眼を無理して使い、身命を尽くして作られたのです。

【我子の身として此の帷の恩かたしとをぼして】
富木殿は、子供として、この着物の恩は、報じ難いと思って、

【つか〔遣〕わせるか。】
寄越〔よこ〕されたのでしょうか。

【日蓮又ほう〔報〕じがたし。しかれども又返すベきにあらず。】
日蓮も、また報じ難いのです。しかしながら、返すべきでは、ないでしょう。

【此の帷をき〔着〕て日天の御前にして、此の子細を申す上は、】
この着物を着て、日天の前で、この経緯を詳しく申し上げれば、

【定めて釈・梵・諸天しろしめすべし。帷一つなれども】
きっと帝釈、梵天、諸天善神も知られる事でしょう。着物は、一つであっても、

【十方の諸天此をしり給ふベし。】
十方世界のあらゆる諸天善神が、この事を知られる事でしょう。

【露を大海によせ、土を大地に加ふるがごとし。】
それは、露〔つゆ〕を大海に入れ、土を大地に加えるようなものなのです。

【生々に失せじ、世々にく〔朽〕ちざらむかし。恐々謹言。】
生々に失われず、世々に朽ちる事はないでしょう。恐れながら謹んで申し上げます。

【二月七日   日蓮花押】
2月7日   日蓮花押


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