御書研鑚の集い 御書研鑽資料
富木常忍御消息文 18 可延定業御書(可延定業書)
【可延定業御書 文永一二年二月七日 五四歳】可延定業御書 文永12年2月7日 54歳御作
【夫〔それ〕病に二あり。一には軽病、二には重病。】
そもそも病〔やまい〕には、二つあります。一には、軽病、二には、重病です。
【重病すら善医〔ぜんい〕に値〔あ〕ひて急に対治〔たいじ〕すれば】
重病でも善い医者にかかり、早く治療すれば、命を永らえる事が出来ます。
【命〔いのち〕猶〔なお〕存す。何〔いか〕に況〔いわ〕んや軽病をや。】
まして軽病は、言うまでもありません。
【業〔ごう〕に二あり。】
また、業にも、二つあります。
【一には定業〔じょうごう〕、二には不定業〔ふじょうごう〕。】
一には、定業であり、二には、不定業です。
【定業すら能〔よ〕く能く懺悔〔さんげ〕すれば必ず消滅す。】
定業でも、よくよく懺悔すれば、必ず消滅します。
【何に況んや不定業をや。法華経第七に云はく】
まして不定業は、言うまでもありません。法華経第七巻の薬王菩薩本事品には、
【「此の経は則ち為〔こ〕れ閻浮提〔えんぶだい〕の人の病の良薬なり」等云云。】
「この経は、全世界の人の病を治す良薬である」などと説かれています。
【此の経文は法華経の文なり。一代の聖教は皆如来の金言、】
この経文は、法華経の文章で、釈尊一代に説かれた聖教は、みな如来の金言であり、
【無量劫より已来〔このかた〕不妄語〔ふもうご〕の言なり。】
無量劫から、このかた、嘘、いつわりのない言葉なのです。
【就中〔なかんずく〕此の法華経は】
その中でも、この法華経は、
【仏の正直〔しょうじき〕捨方便〔しゃふべん〕と申して】
釈尊が正直に方便を捨てると言われて、説かれた経文ですから、
【真実が中の真実なり。多宝証明を加へ、】
真実の中の真実の経文なのです。多宝如来は、皆、これ真実と証明を加えられ、
【諸仏舌相〔ぜっそう〕を添へ給ふ、】
十方分身の諸仏は、舌を梵天につけて、さらに証明を添えられているのです。
【いかでかむなしかるべき。】
どうして、それに虚妄があるでしょうか。
【其の上最第一の秘事はんべり。】
その上に、最第一の深秘の法門があるのです。
【此の経文は後五百歳、二千五百余年の時、】
この経文は、仏の滅後、第五の五百年、二千五百余年になる時、
【女人の病あらんとと〔説〕かれて候文なり。】
女人に病があるであろうと説かれている文章なのです。
【阿闍世〔あじゃせ〕王は御年五十の二月十五日、】
阿闍世王は、50歳の2月15日に
【大悪瘡〔だいあくそう〕、身に出来せり。大医耆婆〔ぎば〕が力も及ばず、】
大悪瘡が身体にできて、名医の耆婆〔ぎば〕の力も及ばず、
【三月七日必ず死して無間大城〔むけんだいじょう〕に堕〔お〕つべかりき。】
3月7日に、必ず死んで、無間地獄に堕ちる事になりました。
【五十余年が間の大楽〔だいらく〕一時に滅〔めっ〕して、】
50余年の間の栄耀栄華は、一瞬に消えて、
【一生の大苦三七〔さんしち〕日にあつまれり。】
一生の大苦が三週間の間に集まったのです。
【定業限りありしかども仏、法華経をかさねて演説して、】
このように定まった寿命では、ありましたが、仏が法華経を重ねて説いて、
【涅槃〔ねはん〕経となづけて大王にあたえ給ひしかば、】
涅槃経と名づけて大王に与えられたところ、
【身の病忽〔たちま〕ちに平癒〔へいゆ〕し、】
身体の病気は、たちまちに治って、
【心の重罪も一時に露と消えにき。】
心の重罪も一瞬に露〔つゆ〕のように消えてしまったのです。
【仏滅後一千五百余年、陳臣〔ちんしん〕と申す人ありき。】
釈尊滅後一千五百余年に陳臣〔ちんしん〕と言う人がいました。
【命知命〔ちめい〕にありと申して五十年に定まりて候ひしが、】
寿命は、天命であると言って50年に定まっていましたが、
【天台大師に値ひて十五年の命を宣〔の〕べて六十五までをはしき。】
天台大師に会って15年の命を延ばし、65歳まで生き伸びたのです。
【其の上、不軽菩薩〔ふきょうぼさつ〕は】
その上、不軽〔ふきょう〕菩薩は、
【更増〔きょうぞう〕寿命〔じゅみょう〕ととかれて、】
「更増〔きょうぞう〕寿命〔じゅみょう〕」と説かれて、
【法華経を行じて定業をのべ給ひき。】
法華経を修行して定業を延ばされました。
【彼等は皆男子なり。女人にはあらざれども、】
彼等は、皆、男性であり、女性では、なかったのですが、
【法華経を行じて寿〔いのち〕をのぶ。】
法華経を修行して寿命を延ばしたのです。
【又陳臣〔ちんしん〕は後五百歳にもあたらず。】
また、陳臣〔ちんしん〕は「後五百歳」の文章にも、あたらないのです。
【冬の稲米〔とうまい〕、夏の菊花〔きっか〕のごとし。】
冬に稲が実り、夏に菊の花が咲くようなものです。
【当時の女人の】
後五百歳に当たる現在の女性が、
【法華経を行じて定業を転ずることは】
法華経を修行して定まった寿命を転じて延ばす事は、
【秋の稲米、冬の菊花、誰かをどろ〔驚〕くべき。】
秋に稲が実り、冬に菊の花が咲くような当然の事であり、誰が驚くでしょうか。
【されば日蓮悲母〔はは〕をいの〔祈〕りて候ひしかば、】
それゆえ、日蓮が悲母の重病平癒〔へいゆ〕を祈ったところ、
【現身〔げんしん〕に病をいやすのみならず、四箇年の寿命をの〔延〕べたり。】
現身に病〔やまい〕が治っただけではなく、4年の寿命を延ばしたのです。
【今女人の御身として病を身にうけさせ給ふ。】
今、尼御前は、女性の身として病気になられました。
【心みに法華経の信心を立てゝ御らむ〔覧〕あるべし。しかも善医あり。】
試みに法華経への信心をしてごらんなさい。しかも善い医者がいるのです。
【中務〔なかつかさ〕三郎左衛門尉殿は法華経の行者なり。】
四条金吾殿は、法華経の行者でもあるのです。
【命と申す物は一身〔いっしん〕第一の珍宝なり。】
命と言うものは、人間一身の第一の宝です。
【一日なりともこれをの〔延〕ぶるならば千万両の金にもすぎたり。】
一日でも、寿命を延ばす事ができるならば、千万両の金にも優るものなのです。
【法華経の一代の聖教に超過していみじきと申すは】
法華経が釈尊一代の聖教の中でも、抜きんでて優れていると言うのは、
【寿量品のゆへ〔故〕ぞかし。】
寿量品の故なのです。
【閻浮〔えんぶ〕第一の太子なれども短命なれば草よりもかろ〔軽〕し。】
一閻浮提、第一の皇子であっても、短命であれば、草よりも軽いのです。
【日輪のごとくなる智者なれども夭死〔わかじに〕あれば生〔い〕ける犬に劣る。】
太陽のように明らかな智者であっても、若死すれば、生きている犬にも劣るのです。
【早く心ざしの財をかさねて、いそぎいそぎ御対治あるべし。】
早く仏教への信心の志を重ねて、急いで病気を対冶なさってください。
【此よりも申すべけれども、】
日蓮から四条金吾殿に頼んでもよいのですが、
【人は申すによて吉〔よ〕き事もあり、】
人によっては、他の人が頼む事によって良い事もあり、
【又我が志のうすきかと、をもう者もあり。】
また、それでは、本人の誠意が足らないと思う者もいます。
【人の心し〔知〕りがたき上、先々〔さきざき〕に少々かゝる事候。】
人の心は、知りがたい上、以前に少々、このような事がありました。
【此の人は、人の申せばすこ〔少〕し心へ〔得〕ずげに思ふ人なり。】
この人は、他の人から、頼まれるのは、快く思わない人なのです。
【なかなか申すはあしかりぬべし。但なかうど〔中人〕もなく、ひらなさけに、】
なまじ他人が頼むのは、よくないと思います。仲介者を入れずに、真心こめて、
【又心もなくう〔打〕ちたの〔恃〕ませ給へ。】
一心に頼まれた方が良いと思います。
【去年〔こぞ〕の十月これに来たりて候ひしが、】
去年の10月、四条金吾殿が身延に来られた折にも、
【御所労〔しょろう〕の事をよくよくなげ〔嘆〕き申せしなり。】
あなたの病気の事を伝え、大変、心配していると話しました。
【当時大事のなければをどろかせ給はぬにや、】
すると、今は、大した事がないので、気にされていないでしょうが、
【明年正月二月のころ〔頃〕をひは必ずを〔起〕こるべしと申せしかば、】
明年、正月か二月の頃には、必ず、発病するでしょうと言われたので、
【これにもなげき入って候。】
日蓮も、それを心配していたのです。
【富木殿も此の尼ごぜんをこそ杖〔つえ〕柱〔はしら〕とも】
富木殿も、この尼御前を杖とも柱とも
【恃〔たの〕みたるに、なんど申して候ひしなり。随分にわび候ひしぞ。】
頼みにしているのになどと話され、大変心配されていました。
【きわめてまけじだまし〔不負魂〕の人にて、】
四条金吾殿は、極めて負けじ魂の人で、
【我がかたの事をば大事と申す人なり。】
自分の味方を大切にする人です。
【かへすがへす身の財〔たから〕をだにを〔惜〕しませ給わば】
くれぐれも、身の財〔たから〕さえも惜しむならば、
【此の病治しがた〔難〕かるべし。】
この病気を治す事は、難しいのです。
【一日の命は三千界の財にもすぎて候なり。】
一日の命は、三千世界の財〔たから〕よりも優れています。
【先づ御志をみゝへ〔得〕させ給ふべし。】
まず、御志を示される事がよいと思われます。
【法華経の第七の巻に、三千大千世界の財を供養するよりも手の一指を焼きて】
法華経の第七巻に三千大千世界の財〔たから〕を供養するよりも、手の指一つを焼いて、
【仏・法華経に供養せよとと〔説〕かれて候はこれなり。】
仏、法華経に供養しなさいと説かれているのは、この事なのです。
【命は三千にもすぎて候。】
命は、三千世界よりも尊いものなのです。
【而るに齢〔よわい〕もいまだたけさせ給はず、】
しかも、尼御前は、歳もまだ、それほど取っているわけでは、ありません。
【而も法華経にあわせ給ひぬ。】
しかも法華経に遇われたのです。
【一日もいきてをは〔御座〕せば功徳つ〔積〕もるべし。】
一日、生きておられれば、それだけ功徳も積めるのです。
【あらを〔惜〕しの命や、あらをしの命や。】
ほんとうに惜しい命なのです。
【御姓名並びに御年を我とか〔書〕ゝせ給ひて、わざとつかわせ。】
御名前と年齢を自分で書いて、送ってください。
【大日月天に申しあぐべし。】
日蓮から、大日月天に申し上げましょう。
【いよどの〔伊予殿〕もあながちになげ〔嘆〕き候へば、】
御子息の伊予殿も、非常に心配していますので、
【日月天に自我偈をあて候はんずるなり。恐々謹言。】
日月天に自我偈を読んで御祈念されるでしょう。恐れながら謹んで申し上げます。
【日蓮花押】
日蓮花押
【尼ごぜん御返事】
尼御前御返事