日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


四条金吾御消息文 15 四条金吾殿御返事(有智弘正法事)

【四条金吾殿御返事 建治二年九月六日 五五歳】
四条金吾殿御返事 建治2年9月6日 55歳御作


【正法をひろむる事は必ず智人によるべし。】
正法を弘める事は、必ず智人に依ってなされるのです。

【故に釈尊は一切経をとかせ給ひて、小乗経をば阿難〔あなん〕、】
それ故に釈尊は、一切経を説いて、小乗経を阿難に、

【大乗経をば文殊師利〔もんじゅしり〕、法華経の肝要をば、】
大乗経を文殊師利に、そして法華経の肝要については、

【一切の声聞・文殊等の一切の菩薩をきらひて】
声聞や、文殊などの菩薩ではなく、

【上行菩薩をめして授けさせ給ひき。】
上行菩薩に任せたのです。

【設〔たと〕ひ正法を持てる智者ありとも檀那なくんば】
しかし、たとえ正法を持〔たも〕つ智者であっても、信者が居なければ、

【争でか弘まるべき。】
正法を、どうやって弘められるでしょうか。

【然れば釈迦仏の檀那は梵王・帝釈の二人なり。】
そこで、釈迦牟尼仏には、信者として、梵王、帝釈の二人がついているのです。

【これは二人ながら天の檀那なり。】
しかし、これら二人は、天界の信者です。

【仏は六道の中には人天、人天の中には人に出でさせ給ふ。】
仏は、六道の中では、人天、人天の中では、人界に出現されるのであり、

【人には三千世界の中央五天竺、】
人界では、三千世界の中央五天竺、

【五天竺の中には摩竭提国〔まかだこく〕に出でさせ給ひて候ひしに、】
五天竺の中では、摩竭提国〔まかだこく〕に出現され、

【彼の国の王を檀那とさだむべき処に、】
この国の王を信者としたのですが、

【彼の国の阿闍世〔あじゃせ〕王は悪人なり。】
この国の阿闍世王は、悪人であり、

【聖人は悪王に生まれあふ事第一の怨にて候ひしぞかし。】
聖人にとって、そのような悪王に生まれ合わせる事が、最大の問題なのです。

【阿闍世王は賢王なりし父をころす。】
阿闍世王は、賢王である父を殺し、

【又うちそ〔添〕ふわざは〔災〕ひと提婆達多〔だいばだった〕を師とせり。】
また、取り巻きの中で、災いの元となる提婆達多を師とし、

【達多は三逆罪をつくる上、仏の御身より血を出だしたりし者ぞかし。】
その提婆達多は、三逆罪を作った上に、仏の身体より血を流させた者なのです。

【不孝の悪王と謗法の師とよりあひて候ひしかば、】
不孝の悪王と謗法の師が寄り合って、

【人間に二つのわざはひにて候ひしなり。一年二年ならず、数十年が間、】
人間にとって二つの災いをなして、一年二年ではなく、数十年が間、

【仏にあだ〔怨〕をなしまいらせ、仏の御弟子を殺せし事数をしらず。】
仏の敵となり続け、仏の弟子を殺すこと数を知らず、

【かゝりしかば天いかりをなして天変〔てんぺん〕しきりなり。】
このような事があって、ついに天は、怒りをなして、天変が続き、

【地神いかりをなして地夭〔ちよう〕申すに及ばず。】
地神も怒りを為して、地夭は言うに及ばず、

【月々に悪風、年々に飢饉〔ききん〕疫癘〔えきれい〕来たりて、】
月々に悪風、年々に飢饉疫病が起きて、

【万民ほとんどつきなんとせし上、四方の国より阿闍世王を責む。】
万策尽きようとした時に、四方の国より、阿闍世王を攻めて来たのです。

【既に危ふく成りて候ひし程に、阿闍世王或は夢のつげにより、】
このような状態になって始めて、阿闍世王は、夢の御告げによって、

【或は耆婆〔ぎば〕がすゝめにより、或は心にあやしむ事ありて、】
また耆婆〔ぎば〕大臣の勧めによって、また提婆達多に対しても疑問が生じて、

【提婆達多をばうち捨て仏の御前にまいりて】
提婆達多を打ち捨てて、仏の御前に参り、

【やうやう〔様様〕にたい〔怠〕はう〔報〕申せしかば、】
数々の今までの行為を悔い改めると、

【身の病忽ちにい〔癒〕ゑ、】
身の病は、ただちに癒〔い〕えて、

【他方のいくさ〔戦〕も留まり、国土安穏になるのみならず、】
他国との戦争も収まり、国内が安穏になるのみならず、

【三月の七日に御崩御〔ほうぎょ〕なるべかりしが命をの〔延〕べて四十年なり。】
三月七日に死ぬべき身が、その命を伸ばして、四十年にもなるのです。

【千人の阿羅漢をあつめて、一切経ことには法華経をかきをかせ給ひき。】
そこで千人の阿羅漢を集めて、一切経、中でも法華経を書き残されたのです。

【今我等がたのむところの法華経は阿闍世王のあたへさせ給ふ御恩なり。】
今、私たちが頼りとする法華経は、阿闍世王が与えられた御恩なのです。

【是はさてをきぬ。仏の阿闍世王にかたらせ給ひし事を日蓮申すならば、】
これは、さておき、このとき仏が阿闍世王に言われた事を日蓮が言うならば、

【日本国の人は今つく〔作〕れる事どもと申さんずらん。】
日本の人々が、いままでに行った非道を言わざるを得ません。

【なれども我が弟子檀那なればかた〔語〕りたてまつる。】
しかし、我が弟子、檀那であるので、それを明かしましょう。

【仏言〔のたま〕はく、我が滅後末法に入って、】
釈迦牟尼仏が言うのには、仏滅後、末法に入って、

【又調達〔ちょうだつ〕がやうなる、たうとく五法を行ずる者】
また、提婆達多のように、仏教に似せた外道の五法を行ずる者が

【国土に充満して、悪王をかたらひて、但一人あらん智者を或はの〔罵〕り、】
国土に充満して、悪王と相談して、ただ、ひとりの智者を罵〔ののし〕り、

【或はう〔打〕ち、或は流罪、或は死に及ぼさん時、】
打〔う〕ち、流罪、死罪にしようとする時、

【昔にもすぐ〔勝〕れてあらん天変・地夭・大風・飢饉・疫癘、年々にありて、】
過去にも増して天変地夭、大風、飢饉、疫病が毎年続き、

【他国より責むべしと説かれて候。】
他国より攻められると説かれているのです。

【守護経と申す経の第十の巻の心なり。】
これが、守護経と言う経文の第十巻の心です。

【当時の世にすこしもたがはず。然るに日蓮は此の一分にあたれり。】
現在も当時の世と少しも違いなく、日蓮は、この一分にあたるのです。

【日蓮をたすけんと志す人々少々ありといへども、】
このような日蓮を助けようと志〔こころざ〕す人々も、少しは、いるのですが、

【或は心ざしうすし、或は心ざしはあつけれども身がう〔合〕ご〔期〕せず、】
その志は、薄く、また、志は、厚くても、身は、動かず、

【やうやう〔様様〕にをはするに、御辺は其の一分なり。】
その姿は、様々であり、あなたもその一分なのです。

【心ざし人にすぐれてをはする上、】
志は、人に優れている上に、

【わづかの身命をさゝ〔支〕うるも又御故なり。】
私が、なんとか身命を支えているのも、その為なのです。

【天もさだめてしろしめし、地もしらせ給ひぬらん。】
天も、この事は、理解しているでしょうし、地も知っていることでしょう。

【殿いかなる事にもあはせ給ふならば、】
その四条金吾殿に、どのような事態が起こったとしても、

【ひとへに日蓮がいのちを天のた〔断〕ゝせ給ふなるべし。】
必ずや、天によって日蓮の命運が断たれることでしょう。

【人の命は山海空市〔さんかいくうし〕まぬかれがたき事と定めて候へども、】
人の運命は、山海空市の何処でも、まぬがれ難いとは言え、

【又、定業〔じょうごう〕亦能転〔やくのうてん〕の経文もあり。】
その運命さえ、変えることが出来るとの経文もあるのです。

【又天台の御釈にも定業をのぶる釈もあり。】
また天台の解釈文にも、定業を変えると言う文章もあり、

【前に申せしやうに蒙古国のよするまでつゝしませ給ふなるべし。】
前にも言ったように、蒙古国が攻め寄せるまでは、行いを謹んでください。

【主の御返事をば申させ給ふべし。】
主君への御返事は、このように述べてください。

【身に病ありては叶〔かな〕ひがたき上、世間すでにかうと見え候。】
病気なので領地替えの仰せも叶い難い上、世間は、すでに非常な不安に見えます。

【それがしが身は時によりて臆病はいかんが候はんずらん。】
私が、その時にあたって、どうして臆病であるはずが、あるでしょうか。

【只今の心はいかなる事も出来候はゞ、入道殿の御前にして命をすてんと存じ候。】
いざと言う時があれば、入道殿の御前で命を捨てようと思っていますが、

【若しやの事候ならば、越後〔えちご〕よりはせ上〔のぼ〕らんは、】
もしもの事態が起こって駆けつけようと思っても、赴任せよと言われている越後は、

【はるかなる上、不定〔ふじょう〕なるべし。】
遙かに遠く、どうしようもありません。

【たとひ所領をめさるゝなりとも、】
たとえ所領を失うような事があっても、

【今年はきみをはなれまいらせ候べからず。】
今年中は、主君である入道殿から離れません。

【是より外はいかに仰せ蒙〔こうむ〕るとも、をそれまいらせ候べからず。】
これより他の、どのような命令があっても、怖れることは、ありませんが、

【是よりも大事なる事は日蓮の御房の御事と、】
もっとも大事な事は、日蓮殿の事と、

【過去に候父母の事なりと、のゝしらせ給へ。】
亡くなった父母の事であると言いなさい。

【すてられまいらせ候とも命はまいらせ候べし。】
たとえ主君に捨てられようとも、我が命は、主君に御任せし、

【後世は日蓮の御房にまかせまいらせ候と、】
死後の事は、日蓮殿に任せると、

【高声にう〔打〕ちなの〔名乗〕り居させ給へ。】
強く主張してください。

【日蓮花押】
日蓮花押

【四条金吾殿】
四条金吾殿


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