日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


四条金吾御消息文 29 四条金吾殿御返事(殿岡書)

【四条金吾殿御返事 弘安三年一〇月八日 五九歳】
四条金吾殿御返事 弘安3年10月8日 59歳御作


【殿岡〔とのおか〕より米送り給〔た〕び候。】
殿岡〔とのおか〕より米を送って頂きました。

【今年七月の盂蘭盆供〔うらぼんぐ〕の僧膳〔そうぜん〕にして候。】
その米を今年七月の盂蘭盆〔うらぼん〕の僧の膳として出しました。

【自恣〔じし〕の僧・霊山の聴衆・】
盂蘭盆〔うらぼん〕に参加した僧も、供養された霊山の聴衆も、

【仏陀・神明〔しんめい〕も納受随喜し給ふらん。】
仏陀も神明〔しんめい〕も、これを受け取られて、喜んでおられる事でしょう。

【尽きせぬ志、連々の御訪〔とぶら〕ひ、】
あなたの尽きない御志、また、たびたびの御訪問、

【言〔ことば〕を以て尽くしがたし。】
言葉をもって表し難く思っています。

【何となくとも殿の事は後生菩提疑ひなし。】
何は、ともあれ、あなたの後生、菩提は、間違いありません。

【何事よりも文永八年の御勘気の時、】
何よりも、文永八年の弾圧の時、

【既に相模国竜口〔たつのくち〕にて頸切られんとせし時にも、】
相模〔さがみ〕の国の竜の口で、首を切られようとした時に、

【殿は馬の口に付きて足歩〔かち〕赤足〔はだし〕にて泣き悲しみ給ひ、】
あなたは、馬の口に取りすがり、裸足で供をし、泣き悲しまれました。

【事実〔まこと〕にならば】
そして、私が頸〔くび〕を斬られる事が、現実になってしまったならば、

【腹きらんとの気色なりしをば、】
自分も腹を切ろうと思っておられたことを、

【いつの世にか思ひ忘るべき。】
何時、いかなる世で忘れる事が出来るでしょうか。

【それのみならず、佐渡の島に放たれ、北海の雪の下に埋〔うず〕もれ、】
そればかりではなく、佐渡に流され、北海の孤島の雪の下に埋もれ、

【北山の嶺の山下風〔やまおろし〕に命助かるべしともをぼへず。】
北山の嶺〔みね〕の山嵐の冷風に、ここで命が助かるとも思われず、

【年来〔としごろ〕の同朋にも捨てられ、故郷へ帰らん事は、】
それまでの同朋にも捨てられ、故郷へ帰ることは、

【大海の底のちびき〔千引〕の石の思ひして、】
海底の千人で引くほどの大石が海面に浮かばないのと同じように、帰れそうになく、

【さすがに凡夫なれば古郷の人々も恋しきに、】
さすがに凡夫であるから、故郷の人々が恋しくてたまらない心境であったのに、

【在俗の宮仕〔みやづか〕へ隙〔ひま〕なき身に、】
あなたは、俗世の主人に仕える武士の身分で、しかも、忙しく暇などない身で、

【此の経を信ずる事こそ希有〔けう〕なるに、】
そのような中で法華経を信ずる事さえ、稀〔まれ〕であるのに、

【山河を陵〔しの〕ぎ蒼海〔そうかい〕を経〔へ〕て、】
山河の剣難をしのぎ、青き大海を経て、

【遥〔はる〕かに尋ね来たり給ひし志、】
はるばる佐渡まで訪ねて来られました。その志は、般若経の

【香城〔こうじょう〕に骨を砕〔くだ〕き、】
常啼〔じょうたい〕菩薩が供養の為、香城〔こうじょう〕で我が身の骨を砕き、

【雪嶺に身を投げし人々にも】
涅槃経の雪山〔せっせん〕童子が法を聞く為に、雪の嶺で身を投げた志にも、

【争〔いか〕でか劣り給ふべき。】
どうして劣る事が、あるでしょうか。

【又、我が身はこれ程に浮び難〔がた〕かりしが、いかなりける事にてや、】
また、日蓮の身は、そのように浮かび難いのに、どう言うわけか、

【同じき十一年の春の比〔ころ〕、】
文永11年の春の頃、

【赦免〔しゃめん〕せられて鎌倉に帰り上〔のぼ〕りけむ。】
赦免になって、鎌倉に帰ることが出来たのです。

【倩〔つらつら〕事の情〔こころ〕を案ずるに、】
つらつら、その辺の事情を考えてみますと、

【今は我が身に過〔あやま〕ちあらじ。或は命に及ばんとし、】
我が身に過ちなどはなく、ある時には、生命に及ぶ難を受け、

【弘長には伊豆の国、文永には佐渡の島、】
弘長年間には、伊豆に、文永年間には、佐渡に流されるなど、

【諫暁〔かんぎょう〕再三に及べば】
諌暁〔かんぎょう〕を再三にわたって行ったので、

【留難〔るなん〕重畳〔ちょうじょう〕せり。】
このように留難〔るなん〕が何度も重なったのです。

【仏法中怨の誡責〔かいしゃく〕をも】
そうでは、あっても、その事によって、私は、仏法中の怨〔あだ〕の責めを、

【身にははや〔早〕免れぬらん。】
我が身にあっては、早くも免れたのでしょう。

【然るに今山林に世を遁〔のが〕れ、道を進まんと思ひしに、】
そういう事で、今、山林で世を離れて、仏法の道を進もうと思って、

【人々の語〔ことば〕様々〔さまざま〕なりしかども、】
人々の意見は、様々であるけれども、

【旁〔かたがた〕存ずる旨ありしに依りて、】
あれやこれやと考えて、

【当国当山に入りて已に七年の春秋を送る。】
甲斐の国、身延の山に入って、すでに七年の歳月を送っているのです。

【又、身の智分をば且く置きぬ。】
また、我が身の智慧が、いかほどかと言うことは、しばらく置くとしても、

【法華経の方人〔かたうど〕として難を忍び疵〔きず〕を蒙る事は】
法華経の味方をして、難を忍び、疵を受けたことは、

【漢土〔かんど〕の天台大師にも越え、】
漢土の天台大師にも越え、

【日域〔にちいき〕の伝教大師にも勝れたり。是は時の然らしむる故なり。】
日本の伝教大師にも優れており、これは、末法と言う時が、そうさせたのです。

【我が身法華経の行者ならば、霊山の教主釈迦、宝浄世界の多宝如来、】
我が身が法華経の行者であるならば、霊鷲山の教主釈尊、宝浄世界の多宝如来、

【十方分身の諸仏、本化の大士、迹化の大菩薩、】
十方分身の諸仏、本化の大菩薩、迹化の大菩薩、

【梵・釈・竜神・十羅刹女〔じゅうらせつにょ〕も、】
梵天、帝釈、竜神、十羅刹女も、

【定めて此の砌〔みぎり〕におはしますらん。】
必ず、この場に居られることでしょう。

【水あれば魚すむ、林あれば鳥来る、】
水があれば、魚は住み、林があれば、鳥は集まって来るのです。

【蓬莱山〔ほうらいさん〕には玉多く、】
蓬莱山〔ほうらいさん〕には、珠玉が多くあり、

【摩黎山〔まりせん〕には栴檀〔せんだん〕生ず。】
摩黎山〔まりせん〕には、栴檀〔せんだん〕の木が茂っているのです。

【麗水〔れいすい〕の山には金あり。】
また、麗水〔れいすい〕の山には、黄金があります。

【今此の所も此くの如し。仏菩薩の住み給ふ功徳聚〔くどくじゅ〕の砌なり。】
今のこの場所も同様であり、仏菩薩の住まわれる功徳の集まる場所なのです。

【多くの月日を送り、読誦し奉る所の法華経の功徳は虚空にも余りぬべし。】
多くの歳月の間、日夜読誦している法華経の功徳は、大空を覆っているでしょう。

【然るを毎年度々〔たびたび〕の御参詣には、】
ここに、あなたは、毎年、参詣しておられるので、

【無始の罪障も定めて今生一世に消滅すべきか。】
無始以来の罪障も、きっと今生一生のうちに消滅することでしょう。

【弥〔いよいよ〕はげむべし、はげむべし。】
いよいよ信仰に励んでください。

【十月八日   日蓮花押】
10月8日   日蓮花押

【四条中務〔なかつかさ〕三郎左衛門殿御返事】
四条中務〔なかつかさ〕三郎左衛門殿御返事


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