日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


四条金吾御消息文 30 四条金吾許御文(八幡抄)

第一章 供養への感謝

【四条金吾許御 弘安三年一二月一六日 五九歳】
四条金吾許御 弘安3年12月16日 59歳御作


【白小袖〔こそで〕一つ・綿十両慥〔たし〕かに給び候ひ畢〔おわ〕んぬ。】
白小袖一枚、綿十両、確かに頂きました。

【歳もかた〔傾〕ぶき候。又処は山中の風はげしく、】
今年も暮近くなりました。私が居る所は、山の中で風が激しく、

【庵室はかごの目の如し。】
庵室は、まるで籠〔かご〕の目のように風が吹き抜けて行きます。

【うちしく物は草の葉、き〔着〕たる物はかみぎぬ〔紙衣〕、】
敷いているのは、草の葉であり、着ているものは、紙衣〔かみぎぬ〕であり、

【身のひ〔冷〕ゆる事は石の如し。食物は氷の如くに候へば、】
身体は、冷えて石のようであり、食物は、氷のように冷たいので、

【此の御小袖給び候ひて頓〔やが〕て身をあたゝまらんとをもへども、】
この小袖を頂いて、すぐにも着て身体を温めようと思ったのですが、

【明年の一日とかゝれて候へば、】
明年の一日に着るようにと書いてあったので、

【迦葉〔かしょう〕尊者〔そんじゃ〕の鶏足山〔けいそくせん〕にこもりて、】
迦葉尊者が雞足山〔けいそくせん〕に入って、

【慈尊の出世五十六億七千万歳をま〔待〕たるゝも】
弥勒菩薩の出現を、五十六億七千万歳の間、待たれたのも、

【かくやひさ〔久〕しかるらん。】
このように、待ちどおしい想いでは、なかったかと思われます。

【これはさてをき候ひぬ。しゐぢ〔椎地〕の四郎がかたり申し候】
それは、さておき、椎地四郎〔しいじしろう〕が話してくれましたが、

【御前の御法門の事、】
あなたが御主君の前で御法門を話されたそうで、

【うけ給はり候こそよにすゞしく覚え候へ。】
非常に嬉しく存じます。

【此の御引出物に大事の法門一つかき付けてまいらせ候。】
その御返しとして、大事な法門を一つ書き送りましょう。


第二章 八幡大菩薩の本地

【八幡大菩薩〔はちまんだいぼさつ〕をば】
八幡大菩薩を世間の

【世間の智者・愚者、大体は阿弥陀仏の化身〔けしん〕と申し候ぞ。】
智者も愚者も、おおかたの人が阿弥陀仏の化身と思っております。

【其れもゆへなきにあらず。中古の義に或は八幡の御託宣〔たくせん〕とて】
それは、理由のない事ではなく、中古の義に、あるいは、八幡の御託宣として、

【阿弥陀仏と申しける事少々候。】
阿弥陀仏であると言っている文献が少々あるのです。

【此はをのをの〔各各〕心の念仏者にて候故に、あかき石を金と思ひ、】
これは、自分達が、念仏者なので赤い石を金と思い、

【くひぜ〔株〕をうさぎ〔兎〕と見るが如し。】
切り株を兎と見るようなものなのです。

【其れ実には釈迦仏にておはしまし候ぞ。】
ところが、真実は、八幡大菩薩の実体は、釈迦牟尼仏なのです。

【其の故は大隅の国に石体の銘と申す事あり。】
その理由として、大隅の国に石体の銘と言われる事跡があります。

【一つの石われて二つになる。一つの石には八幡と申す二字あり。】
一つの石が割れて二つになり、一つの石に八幡の二字が記されており、

【一つの石の銘には「昔霊鷲山〔りょうじゅせん〕に於て妙法華経を説き、】
一方の石の銘には「昔、霊鷲山〔りょうじゅせん〕において妙法蓮華経を説き、

【今正宮の中に在って大菩薩と示現す」云云。】
今、正宮の中に在りて大菩薩と示現す」とあるのです。

【是釈迦仏と申す第一の証文なり。】
この銘文こそ、八幡大菩薩の本地は、釈迦牟尼仏であると言う第一の証文なのです。

【此よりもことにまさしき事候。】
この事よりも、さらに確かな事があります。

【此の八幡大菩薩は日本国・人王第十四代仲哀〔ちゅうあい〕天皇は父なり。】
この八幡大菩薩は、日本国の人王第14代の仲哀〔ちゅうあい〕天皇を父とし、

【第十五代神功〔じんぐう〕皇后は母なり。】
第15代の神功〔じんぐう〕皇后を母とし、

【第十六代応神〔おうじん〕天皇は今の八幡大菩薩是なり。】
第16代、応神〔おうじん〕天皇が今の八幡大菩薩であるのです。

【父の仲哀天皇は天照太神の仰せにて、】
父の仲哀〔ちゅうあい〕天皇は、天照太神の命を受けて、

【新羅国〔しらぎこく〕を責めんが為に渡り給ひしが、】
新羅〔しらぎ〕国を攻めるために朝鮮に渡られたのですが、

【新羅の大王に調伏せられ給ひて、】
新羅〔しらぎ〕の大王に打ち破られて、

【仲哀天皇ははかた〔博多〕にて崩御〔ほうぎょ〕ありしかば、】
仲哀〔ちゅうあい〕天皇は、博多で崩御されました。

【きさきの神功皇后は此の太子を御懐妊ありながらわたらせ給ひしが、】
そこで后の神功〔じんぐう〕皇后は、この太子を御懐妊の身であったのですが、

【王の敵をうたんとて数万騎のせい〔勢〕をあい〔相〕具して】
王の仇を討つために数万騎の軍勢を引き連れて

【新羅国へ渡り給ひしに、】
新羅〔しらぎ〕国へ渡られたのです。

【浪の上・船の内にて王子御誕生の気い〔出〕でき〔来〕見え給ふ。】
その海上の船中で、王子誕生の気配が見えたのです。

【其の時神功皇后ははらの内の王子にかたり給ふ。】
その時、神功〔じんぐう〕皇后は、胎内にある王子に語られました。

【汝は王子か女子か。王子ならばたしかに聞き給へ。】
あなたは、皇子か女子か、皇子ならば、しっかり聞きなさい。

【我は君の父仲哀天皇の敵を打たんが為に】
私は、あなたの父、仲哀〔ちゅうあい〕天皇の敵を討つ為に

【新羅国へ渡るなり。】
新羅〔しらぎ〕国へ渡ろうとしているのです。

【我が身は女の身なれば汝を大将とたのむべし。】
我が身は、女の身であるから、あなたを大将と頼みたい。

【君、日本国の主となり給ふべきならば、】
あなたが日本の主君となる人ならば、

【今度生まれ給はずして軍の間、腹の内にて数万騎の大将となりて、】
今は生れないで、戦〔いくさ〕の間、我が胎内にあって数万騎の大将となり、

【父の敵を打たせ給へ。是を用ひ給はずして、只今生まれ給ふほどならば、】
父の仇を打ちなさい。この言葉を用いないで、今、生れて来るならば、

【海へ入れ奉らんずるなり。我を恨みに思ひ給ふなと有りければ、】
海へ投げ捨ててしまうであろう。私を恨みに思うなと言われると、

【王子、本の如く胎内にをさまり給ひけり。】
皇子は、もとのように胎内に納まったのです。

【其の時石のをび〔帯〕を以て胎をひやし、】
その時、石の帯で胎を冷やしながら、

【新羅国へ渡り給ひて新羅国を打ちしたがへて、】
新羅〔しらぎ〕国へ渡り、新羅〔しらぎ〕国を打ち従え、還って来られて、

【還って豊前〔ぶぜん〕の国うさ〔宇佐〕の宮につき給ひ、】
豊前の国、宇佐〔うさ〕の宮につき、

【こゝにて王子誕生あり。懐胎の後、三年六月三日と申す】
ここで皇子が誕生したのです。懐胎〔かいたい〕された後、三年六月と三日目、

【甲寅〔きのえとら〕の年四月八日に生まれさせ給ふ。】
甲寅〔きのえとら〕の年、4月8日のことです。

【是を応神天皇と号し奉る。】
これを応神〔おうじん〕天皇と言います。

【御年八十と申す壬申〔みずのえさる〕の年二月十五日にかくれさせ給ふ。】
御年八十の時、壬申〔みずのえさる〕の年2月15日の崩御です。

【男山の主、我が朝の守護神、】
男山の主神であり、日本の守護神として、

【正体めづらしからずして霊験新たにおはします。】
その正体は、特別、変わったものでは、ありませんが、霊験あらたかです。

【今の八幡大菩薩是なり。】
今の八幡大菩薩がこれなのです。


第三章 神天上の法門

【又釈迦如来は住劫第九の減、人寿百歳の時、】
また釈迦如来は、住劫〔じゅうこう〕第九の減、人寿百歳の時、

【浄飯王〔じょうぼんのう〕を父とし摩耶〔まや〕夫人〔ぶにん〕を母として、】
浄飯王〔じょうぼんのう〕を父とし摩耶〔まや〕夫人を母として、

【中天竺〔ちゅうてんじく〕伽毘羅衛国〔かびらえこく〕】
中インドの伽毘羅衛国〔かびらえこく〕、

【らんびに〔蘭毘尼〕園と申す処にて甲寅の年四月八日に生まれさせ給ひぬ。】
蘭毘尼園〔らんびにえん〕と言う所で4月8日に誕生されました。

【八十年を経て、東天竺倶尸那城〔くしなじょう〕】
そして80年を経てから、東インドの倶尸那〔くしな〕城のある

【跋提河〔ばつだいが〕の辺にて、】
跛提河〔ばつだいが〕のほとりで、

【二月十五日壬申にかくれさせ給ひぬ。今の八幡大菩薩も又是くの如し。】
2月15日に入滅されました。今の八幡大菩薩も、また同じなのです。

【月氏と日本と父母はかわれども、】
インドと日本と国は、変わり、父母は、異なっていても、

【四月八日と甲寅と二月十五日と壬申とはかわる事なし。】
4月8日と2月15日の日付は、変わりません。

【仏滅度の後二千二百三十余年が間、月氏・漢土・日本・】
釈迦滅後2220余年の間、インド、中国、日本ないし

【一閻浮提〔いちえんぶだい〕の内に聖人〔しょうにん〕賢人と生まるゝ人をば、】
世界中に聖人、賢人と生まれた人は、

【皆釈迦如来の化身とこそ申せども、】
皆、釈迦如来の化身であると言っていますが、

【かゝる不思議は未だ見聞せず。】
このような不思議は、未だかつて見聞したことがありません。

【かゝる不思議の候上、】
このような不思議がある上、

【八幡大菩薩の御誓ひは月氏にては法華経を説いて】
八幡大菩薩の誓願は、インドでは、釈尊として法華経を説いて

【正直捨方便〔しょうじきしゃほうべん〕となのらせ給ひ、】
「正直に方便を捨てて」と宣言され、

【日本国にしては正直の頂にやどらんと誓ひ給ふ。】
日本においては、八幡として自分は、正直の人の頭に宿ろうと誓われました。

【而るに去ぬる十一月十四日の子〔ね〕の時に、】
この事から、去る弘安3年11月14日、午前0時頃、

【御宝殿をやいて天にのぼらせ給ひぬる故をかんがへ候に、】
鎌倉八幡宮の宝殿を焼いて、天に昇られた理由を考えてみると、

【此の神は正直の人の頂にやどらんと誓へるに、】
この八幡神は、正直の人の頭に宿ると誓ったのに、

【正直の人の頂の候はねば居処なき故に、】
正直の人の頭がないので居る場所がなくなって、

【栖〔すみか〕なくして天にのぼり給ひけるなり。】
住み家を無くして天に昇られたのです。

【日本国の第一の不思議には、釈迦如来の国に生まれて此の仏をすてゝ】
日本第一の不思議なことは、釈迦如来の治める国に生れながら、この仏を捨てて

【一切衆生皆一同に阿弥陀仏につけり。有縁の釈迦をばすて奉り、】
すべての衆生が一同に阿弥陀仏についており、縁の深い釈迦牟尼仏を捨てて、

【無縁の阿弥陀仏をあをぎたてまつりぬ。】
無縁の阿弥陀仏を崇めているのです。

【其の上親父〔しんぶ〕釈迦仏の入滅の日をば阿弥陀仏につけ、】
そのうえ、父である釈迦牟尼仏の入滅の日を阿弥陀仏の日とし、

【又誕生の日をば薬師になしぬ。】
また、釈迦牟尼仏の誕生の日を薬師如来の日としているのです。

【八幡大菩薩をば崇むるやうなれども、又本地を阿弥陀仏になしぬ。】
八幡大菩薩を崇めているようですが、その本地を阿弥陀仏としているのです。

【本地〔ほんち〕垂迹〔すいじゃく〕を捨つる上に、】
このように本地〔ほんち〕垂迹〔すいじゃく〕を捨てた上、

【此の事を申す人をばかたきとする故に、】
このことを正す人を敵〔かたき〕とする故に、

【力及ばせ給はずして此の神は天にのぼり給ひぬるか。】
八幡大菩薩も力が及ばないで、天に昇られたのでしょう。

【但し月は影を水にうかぶる、濁れる水には栖むことなし。】
ただし月は、その影を水に浮かべますが、濁った水には、影を映しません。

【木の上草の葉なれども澄める露には移る事なれば、】
木の上や草の葉であっても、澄んだ露には、映るのですから、

【かならず国主ならずとも正直の人の】
必ず、国主でなくても正直の人の

【かうべ〔頭〕にはやど〔宿〕り給ふなるべし。】
頭には、宿られるのです。

【然れば百王の頂にやどらんと誓ひ給ひしかども、】
したがって八幡大菩薩は、百王の頭上に宿ると誓ったのですが、

【人王八十一代安徳天皇・二代隠岐法皇・三代阿波・】
人王第81代、安徳天皇、第82代、後鳥羽天皇、第83代、土御門天皇、

【四代佐渡・五代東一条等の五人の国王の頂には】
第84代、順徳天皇、第85代、東一条天皇などの五人の天皇の頭上には、

【すみ給はず。諂曲〔てんごく〕の人の頂なる故なり。】
諂曲〔てんごく〕の人の頭上である故に、住まわれなかったのです。

【頼朝と義時とは臣下なれども】
源頼朝〔よりとも〕と北条義時〔よしとき〕は、臣下であっても、

【其の頂にはやどり給ふ。】
その頭上には、八幡大菩薩が宿りました。

【正直なる故か。】
正直の人であったからです。


第四章 八幡大菩薩の住処

【此を以て思ふに、法華経の人々は正直の法につき給ふ故に】
これらの事をもって思うに法華経を信ずる人々は、正直の法についているので、

【釈迦仏猶是をまぼ〔守〕り給ふ。】
釈迦牟尼仏さえも、これを守って下さり、

【況〔いわ〕んや垂迹の八幡大菩薩争〔いか〕でか是をまぼり給はざるべき。】
いわんや釈迦如来の垂迹である八幡大菩薩がどうして守らない事があるでしょうか。

【浄き水なれども濁りぬれば月やどる事なし。】
浄水でも、濁れば、月は映りません。

【糞水〔ふんすい〕なれどもすめば影を惜しみ給はず。】
下水でも、澄めば、月は、影を映すのです。

【濁水は清けれども月やどらず。】
濁った水は、清くても月は、映らず、

【糞水はきたなけれどもすめば影ををしまず。】
下水は、汚いが澄めば、月影は惜しまず、映るのです。

【濁水は智者・学匠の持戒なるが法華経に背くが如し。】
濁水は、智者や学者などの持戒の人が法華経に背いているようなものなのです。

【糞水は愚人の無戒なるが、】
これに対し下水は、愚人で無戒の人が、

【貪欲〔とんよく〕ふかく瞋恚〔しんに〕強盛なれども、】
貪欲で、怒りの心が強くても、

【法華経計りを無二無三に信じまいらせて有るが如し。】
法華経だけを唯一と信じているようなものなのです。

【涅槃〔ねはん〕経と申す経には、法華経の得道の者を列ねて候に】
涅槃経と言う経文には、法華経によって成仏したものを列記して、

【蜣蜋蝮蠍〔こうろうふくかつ〕と申して糞虫を挙げさせ給ふ。】
昆虫、蝮〔まむし〕、蠍〔さそり〕と言った下等な生物を挙げています。

【竜樹菩薩〔りゅうじゅぼさつ〕は法華経の不思議を書き給ふに、】
竜樹菩薩は、法華経の不思議な力を顕すのに、

【昆虫〔こんちゅう〕と申して糞虫を仏になす等云云。】
昆虫のような下等な生物であっても、仏にする事が出来ると言っているのです。

【又涅槃経に法華経にして仏になるまじき人をあげられて候には】
また、涅槃経には、法華経によっても、仏に成れない人の例として

【「一闡提〔いっせんだい〕の人の阿羅漢〔あらかん〕の如く】
「一闡提の人で、阿羅漢のように、

【大菩薩の如き」等云云。】
また大菩薩のように立派そうに見える者」と言っています。

【此等は、濁水は浄けれども月の影を移す事なしと見えて候。】
これらは、濁った水は、浄水でも月の影を映さないのと同じことなのです。

【されば八幡大菩薩は不正直をにくみて天にのぼり給ふとも、】
それ故に八幡大菩薩は、不正直を嫌って天に昇られたのですが、

【法華経の行者を見ては争でか其の影をばをしみ給ふべき。】
法華経の行者を見て、どうして、その影を映すことを惜しまれるでしょうか。

【我が一門は深く此の心を信ぜさせ給ふべし。】
我が一門は、深く、この心を信じてください。

【八幡大菩薩は此にわたらせ給ふなり。】
八幡大菩薩は、ここ日蓮の一門のいる所に居られるのです。

【疑ひ給ふ事なかれ、疑ひ給ふ事なかれ。恐々謹言。】
疑っては、いけません。恐れながら謹んで申し上げます。

【十二月十六日   日蓮花押】
12月26日   日蓮花押

【四条金吾殿女房御返事】
四条金吾殿女房御返事


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