日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


報恩抄 10 天台大師の公場対決


第9章 天台大師の公場対決

【智顗法師をば頭をわ〔破〕るべきか】
このように、この南三北七の者が天台大師の頭をわって殺すべきか、

【国を〔逐〕うべきか、なんど申せし程に、】
それとも流罪にするべきかなどと、言っているのを、

【陳主此をき〔聞〕こしめ〔召〕して南北の数人に召し合わせて、】
陳の国王が聞いて、天台大師と南三北七の者を

【我と列座してきかせ給ひき。】
公場対決させる事にしたのです。

【法雲法師が弟子等慧栄〔ええい〕・法歳〔ほうさい〕・】
そうして法雲法師の弟子である慧栄、法歳、

【慧曠〔えこう〕・慧□〔えごう〕なんど申せし】
慧曠、慧□などと言う

【僧正・僧都〔そうず〕已上の人々百余人なり。各々悪口を先とし、】
僧正や僧都など百人余りが集まりました。彼らは、各々に天台大師に悪口を言って、

【眉をあげ眼をいか〔怒〕らし】
眉を上げ目を怒らせて

【手をあげ拍子〔ひょうし〕をたゝく。】
手を上げ拍子を叩き、騒ぐだけ騒いで罵〔ののし〕り続けたのでです。

【而れども智顗法師は末座に坐して、】
しかし、天台大師は、末座に座ったまま、

【色を変ぜず言を誤らず】
顔色さえ変えずに言葉を過〔あやま〕たずに、

【威儀しづかにして諸僧の言〔ことば〕を一々に牒〔ちょう〕をとり、】
あくまでも礼儀正しく静かに相手の悪口にひとつづつ、

【言ごとにせ〔責〕めかへ〔返〕す。】
反論して行ったのです。

【を〔押〕しかへ〔返〕して難じて云はく、】
そして逆に質問をして

【抑〔そもそも〕法雲法師の御義に第一華厳・第二涅槃・第三法華と】
「そもそも、法雲法師の第一華厳経、第二涅槃経、第三法華経と云う

【立てさせ給ひける証文は何れの経ぞ、】
証拠は、どの経文に説かれているのか」と云って、

【慥〔たし〕かに明らかなる証文を出ださせ給へとせめしかば、】
そして天台大師が「その明らかな証文を出しなさい」と詰め寄ると南三北七の者は、

【各々頭をうつぶせ色を失ひて一言の返事なし。】
みんな顔色を失い一言〔ひとこと〕の返事も出来なかったのです。

【重ねてせめて云はく、無量義経に正しく】
重ねて天台大師が無量義経には、

【「次説方等十二部経・摩訶般若〔まかはんにゃ〕・】
「次に説くところの方等十二部経、摩訶般若経、

【華厳海空〔けごんかいくう〕」等云云。】
華厳経の海空三昧〔さんまい〕には」と云われて、

【仏、我と華厳経の名をよびあげて、】
釈迦牟尼仏は、あえて華厳経の名をあげて、

【無量義経に対して未顕真実と打ち消し給う。】
無量義経に対して未だ真実を顕していないと云われ、

【法華経に劣りて候無量義経に華厳経はせめられて候。】
法華経に劣った無量義経にさえ、華厳経は、責められているのです。

【いかに心えさせ給ひて、】
法雲法師は、どのような心をもって

【華厳経をば一代第一とは候ひけるぞ。】
華厳経を釈迦牟尼仏の一代聖教の中で第一としたのでしょうか。

【各々御師の御かたうど〔方人〕せんとをぼさば、】
南三北七の方々は、法雲法師の味方をしようとするのであれば、

【此の経文をやぶりて、】
この無量義経の文章を破って、

【此に勝れたる経文を取り出だして、御師の御義を助け給へとせめたり。】
これ以上の経文の文章を見つけ出すべきでしょう。

【又涅槃経を法華経に】
また、同じように涅槃経を法華経に

【勝ると候ひけるは、いかなる経文ぞ。】
勝〔まさ〕ると言う経文は、どこにあるのでしょうか。

【涅槃経の第十四には華厳・阿含・方等・般若をあげて、】
涅槃経の第十四には、華厳経、阿含経、方等般若経をあげて、

【涅槃経に対して勝劣は説かれて候へども、】
涅槃経に対しての優劣は説かれているけれども、

【また〔全〕く法華経と涅槃経との勝劣はみへず。】
まったく法華経と涅槃経との優劣は説かれていないではないですか。

【次上〔つぎかみ〕の第九の巻に】
しかしながら、実は、涅槃経のその前の第九巻には、

【法華経と涅槃経との勝劣分明なり。】
法華経と涅槃経の優劣がはっきりと書かれているのです。

【所謂〔いわゆる〕経文に云はく「是の経の出世は乃至法華の中の八千の声聞、】
なぜなら経文には「この経文の意義は、法華経の中で八千の声聞が

【記□〔きべつ〕を受くることを得て大菓実を成ずるが如し、】
記別を受けた事は、大果実が成ったようなものであり、

【秋収冬蔵して】
それを秋にこの涅槃経によって収穫して

【更に所作無きが如し」等云云。】
冬に蔵に入れる作業に似ているのです」と説かれているからなのです。

【経文明らかに諸経をば春夏と説かせ給ひ、】
この経文に明らかなように諸経を春夏と説いて、

【涅槃経と法華経とをば菓実の位とは説かれて候へども、】
涅槃経と法華経を秋の果実の収穫の時期と説かれており、

【法華経をば秋収冬蔵大菓実の位、】
法華経を秋に収穫し冬に蔵に入れる大果実であり、

【涅槃経をば秋の末〔すえ〕冬の始め□拾〔くんじゅう〕の位と定め給ひぬ。】
涅槃経を秋の末の落穂ひろいと同じであると定められたのです。

【此の経文、正しく法華経には我が身劣ると、承伏し給ひぬ。】
この経文は、法華経に対して涅槃経は劣ると云う意味なのです。

【法華経の文には已説〔いせつ〕・】
この法華経の文章には、過去に説いた経文、

【今説〔こんせつ〕・当説〔とうせつ〕と申して、】
今現在に説く経文、そして未来に説くであろう経文と書かれおり、

【此の法華経は前と並びとの経々に勝れたるのみならず、】
この法華経は、過去に説いた経文、今現在説く経文に優れているのみならず、

【後に説かん経々にも勝るべしと仏定め給ふ。】
未来に説くであろう経文にも優れていると、仏は言っているのです。

【すでに教主釈尊かく定め給ひぬれば疑ふべきにあらねども、】
すでに教主釈尊がこのように定めているのであるから疑うべきではないけれども、

【我が滅後はいかんがと疑ひおぼして、】
釈迦牟尼仏は、自らの滅後を心配して、

【東方宝浄世界の多宝仏を証人に立て給ひしかば、】
東方宝浄世界の多宝仏が証人として大地よりを踊り出て、

【多宝仏大地よりをど〔踊〕り出でて「妙法華経皆是真実」と証し、】
「妙法華経は、皆、これ真実である」と告げられて証明し、

【十方分身の諸仏重ねてあつまらせ給ひ、】
そのうえ、十方分身の諸仏も重ねて集まって、

【広長舌を大梵天に付け又教主釈尊も付け給ふ。】
口々にそれを証明をし、教主釈尊を助けたのです。

【然して後、多宝仏は宝浄世界えかへ〔帰〕り】
その後、多宝仏は宝浄世界へ帰って、

【十方の諸仏各々本土にかへらせ給ひて後、】
十方の諸仏も各々に本土に帰った後に、

【多宝・分身の仏もをは〔在〕せざらんに、】
多宝仏や分身の諸仏がいない状態で、

【教主釈尊、涅槃経をと〔説〕いて法華経に勝ると仰せあらば、】
教主釈尊が涅槃経を説いて法華経に勝〔まさ〕ると言ったならば、

【御弟子等は信ぜさせ給ふべしやとせめしかば、】
弟子は、それを聞いて信じて良いのでしょうかと天台大師が責めた時に、

【日月の大光明の修羅の眼を照らすがごとく、】
これを聞いて南三北七の者は、日月の光が修羅の眼を射るように、

【漢王の剣の諸侯の頸〔くび〕にかゝりしがごとく、】
漢王の剣が諸侯の首にかかるように、

【両眼をとぢ一頭〔いちず〕を低〔うなだ〕れたり。】
両眼を閉じ、首をうなだれたのです。

【天台大師の御気色〔みけしき〕は】
その時の天台大師は、

【師子王の狐兎〔こと〕の前に吼〔ほ〕えたるがごとし、】
ウサギの前でライオンが吼えたのと同じ姿であったのです。

【鷹〔たか〕鷲〔わし〕の鳩〔はと〕雉〔きじ〕を】
鷹〔たか〕や鷲〔わし〕が鳩〔はと〕や雉〔きじ〕を

【せめたるにに〔似〕たり。】
襲いかかったのと似ていたのです。

【かくのごとくありしかば、さては法華経は華厳経・涅槃経にも】
このことがあってからは、法華経は、華厳経、涅槃経よりも

【すぐれてありけりと震旦〔しんだん〕一国に流布するのみならず、】
優れていると中国一国に流布するのみならず、

【かへりて五天竺までも聞こへ、】
還ってインドにまで、その話が伝えられ、

【月氏大小の諸論も智者大師の御義には勝たれず、】
インドの大小の論師達もこの天台大師の説には勝てずに、

【教主釈尊両度出現しましますか、】
ふたたび教主釈尊が出現したのであろうか、

【仏教二度あらわれぬとほめられ給ひしなり。】
仏教が二度、現れたのだろうかと讃嘆したのでした。


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