御書研鑚の集い 御書研鑽資料
報恩抄 32 導善房への報恩
第31章 導善房への報恩
【此の功徳は定んで上は三宝より下梵天〔ぼんてん〕・帝釈〔たいしゃく〕・】
この日蓮の功徳は、上は、三宝より、下は梵天、帝釈、
【日月までもし〔知〕ろしめ〔食〕しぬらん。】
日月天までも知られている事でしょう。
【父母も故導善房の聖霊〔しょうりょう〕も扶〔たす〕かり給ふらん。】
この事で日蓮の父母も、また故導善房の聖霊も必ずや成仏されることでしょう。
【但し疑ひ念〔おも〕ふことあり。】
ただ、気にかかる事もあるのです。
【目連〔もくれん〕尊者〔そんじゃ〕は扶けんと】
目連尊者は、母を助けようと
【をも〔思〕いしかども母の青提女〔しょうだいにょ〕は】
思ったけれども母である青提女は、
【餓鬼道〔がきどう〕に堕〔お〕ちぬ。大覚世尊の御子〔みこ〕なれども】
餓鬼道に堕ちて助ける事が出来なかった。釈迦牟尼仏の子供である
【善星比丘〔ぜんしょうびく〕は阿鼻〔あび〕地獄へ堕ちぬ。】
善星比丘は、無間地獄に堕ちてしまった。
【これは力のまゝすく〔救〕はんとをぼ〔思〕せども】
これらは、力の限り救いだそうと思ったけれども、
【自業自得果のへん〔辺〕はすく〔救〕ひがたし。】
謗法があまりに大きく自業自得の結果、救う事が出来なかった例なのです。
【故導善房はいたう弟子なれば】
故導善房は、可愛い弟子であれば
【日蓮をばにくしとはをぼ〔思〕せざりけるらめども、】
日蓮を憎いと思う事はなかったけれども、
【きわめて臆病なりし上、清澄をはな〔離〕れじと執せし人なり。】
きわめて臆病である上、清澄寺の住職の職に執着した人だったのです。
【地頭景信〔かげのぶ〕がをそ〔恐〕ろしといゐ、】
地頭である東条景信を恐れており、釈迦牟尼仏の敵である
【提婆〔だいば〕・瞿伽利〔くがり〕にことならぬ】
提婆達多や瞿伽利のような
【円智〔えんち〕・実城〔じつじょう〕が上と下とに居て】
清澄寺の円智や実城が、故導善房の上と下に居て、
【をどせしをあなが〔強〕ちにをそれて、】
常に脅し続けていた事を非常に恐れていたのです。
【いとを〔愛〕しとをもうとし〔年〕ごろの弟子等をだにもすてられし人なれば、】
もっとも可愛がっている期待していた少年の弟子さえ見捨てるような人であれば、
【後生はいかんがと疑う。但一つの冥加〔みょうが〕には】
後生は、どうであろうかと考えてしまうのです。ただ、一つの幸いとしては、
【景信と円智・実城とがさきにゆ〔往〕きしこそ】
東条景信や円智、実城が故導善房より先に死んでしまった事は、
【一つのたす〔助〕かりとはをも〔思〕へども、】
一つの助けではないかとも思うのですが、
【彼等は法華経の十羅刹〔じゅうらせつ〕の】
彼らは、法華経の十羅刹の
【せ〔責〕めをかほ〔蒙〕りてはやく失〔う〕せぬ。】
責めによって、このように早く命を失ったのです。
【後にすこし信ぜられてありしは、】
その後に、少しだけ法華経を故導善房が信じられたようではあるが、
【いさか〔諍〕ひの後のちぎ〔乳切〕りぎ〔木〕なり、】
これでは、後の祭りであるような気もするし、
【ひるのともし〔灯〕びなにかせん。】
昼の灯は、役には立たないのです。
【其の上いかなる事あれども子・弟子なんどいう者は】
その上、どのような事があったとしても子供や弟子と言う者は、
【不便〔ふびん〕なる者ぞかし。】
どうしているかと心にかかる者なのです。
【力なき人にもあらざりしが、さど〔佐渡〕の国までゆきしに】
それなのに力があるのに日蓮が佐渡に流されていたにもかかわらず、
【一度もとぶら〔訪〕われざりし事は、信じたるにはあらぬぞかし。】
一度として訪問されなかった事は、日蓮を信じていたとは思えないのです。
【それにつけてもあさましければ、彼の人の御死去ときくには】
それにつけても、日蓮も人の子なので、故導善房の死去と聞いて、
【火にも入り、水にも沈み、はし〔走〕りたちてもゆひ〔往〕て、】
火にも入り、水にも沈み、走りに走って、
【御はか〔墓〕をもたゝいて経をも一巻読誦せんとこそをもへども、】
故導善房の墓の前にて法華経一巻を読誦しようと思ったのですが、
【賢人のならひ心には遁世〔とんせ〕とはをも〔思〕はねども、】
賢人の習いとして、自分自身では、隠遁とは、思っていなくても、
【人は遁世とこそをも〔思〕うらんに、】
人々は、勝手に隠遁と思っているので、
【ゆへもなくはしり出づるならば末もとを〔通〕らずと人をも〔思〕うべし。】
日蓮がここを出て墓へ向かう事も筋が通らないと人は思う事でしょう。
【さればいかにをも〔思〕うとも、まいるべきにあらず。】
そう言う事で、いかに墓参りをしたいと思っても参る事が出来ないのですが、
【但し各々二人は日蓮が幼少の師匠にてをはします。】
それでも、それぞれ御二人は、日蓮の幼少の時の師匠であります。
【勤操〔ごんそう〕僧正・行表〔ぎょうひょう〕僧正の伝教大師の御師たりしが、】
あたかも勤操僧正、行表僧正が伝教大師の師匠であったが、
【かへりて御弟子とならせ給ひしがごとし。】
返って伝教大師の弟子となったように、
【日蓮が景信〔かげのぶ〕にあだまれて清澄山を出でしに、】
日蓮が東条景信に恨まれて清澄山を出た時に、
【を〔追〕ひてしのび出でられたりしは】
その日蓮を助け、かくまってくれた事は、
【天下第一の法華経の奉公なり。】
天下第一の法華経への奉公と言うべきなのです。
【後生は疑ひおぼすべからず。】
必ずや後生は、成仏、疑いないものであります。