日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


報恩抄 36 天台・伝教の迹門弘通


第35章 天台・伝教の迹門弘通

【又仏滅後一千五百余年にあたりて月氏よりは東に漢土といふ国あり。】
また、仏滅後一千五百余年にあたってインドより東に中国と言う国があり、

【陳〔ちん〕・隋〔ずい〕の代に天台大師出世す。】
その陳、隋の時代に天台大師が出現します。

【此の人の云はく、如来の聖教に】
この人が言うのには、如来の聖教に

【大あり小あり顕あり密あり権あり実あり。】
大乗教があり、小乗教があり、顕教があり、密教があり、権教があり、実教がある。

【迦葉・阿難等は一向に小を弘め、】
迦葉尊者や阿難尊者などは、小乗教を弘め、

【馬鳴・竜樹・無著・天親等は】
馬鳴菩薩、竜樹菩薩、無著菩薩、天親菩薩などは、

【権大乗を弘めて実大乗の法華経をば、或は但指をさして義をかくし、】
権大乗教を弘めて実大乗教である法華経をただ指で差し示してその意義を隠し、

【或は経の面をのべて始中終をのべず、】
また、経文の文面だけを述べてその意味を教えず、

【或は迹門をのべて本門をあらはさず、】
また、迹門だけを述べて本門を現わさなかったのです。

【或は本迹あって観心なしといゐしかば、】
また、本迹があっても観心なしと言って、

【南三北七の十流が末〔すえ〕、数千万人時をつくりどっとわらふ。】
数千万人もの南三北七の十宗派が、このように嘲笑してどっと笑ったのです。

【世の末になるまゝに不思議の法師も出現せり。】
世も末に成ると不思議な法師も出現するものです。

【時にあたりて我等を偏執〔へんしゅう〕する者はありとも、】
この釈迦牟尼仏の滅後の時にあたって自分たちを非難する者はあったとしても、

【後漢の永平十年丁卯〔ひのとう〕の歳より、】
中国に仏教が渡った後漢時代の永平十年より、

【今陳・隋にいたるまでの三蔵人師二百六十余人を、】
今、陳、隋の時代に至るまで三蔵法師や人師、論師、二百六十人を、

【ものもしらずと申す上、謗法の者なり】
仏教を知らずと非難した上に、このような人々を謗法の者であり、

【悪道に堕つという者出来せり。】
悪道に堕ちた者達であると言う者が出て来たのです。

【あまりのものぐるはしさに、法華経を持て来たり給へる】
あまりにも狂ったその姿は、法華経を中国に持って来た

【羅什〔らじゅう〕三蔵をも、ものしらぬ者と申すなり。】
羅什三蔵をも、仏教を知らない者と言うのです。

【漢土はさてもを〔置〕け、月氏の大論師竜樹・天親等の】
中国は、さて置いても、インドの大論師である竜樹菩薩や天親菩薩などの

【数百人の四依〔しえ〕の菩薩もいまだ実義をのべ給はずといふなり。】
数百人の四依の菩薩も、いまだ実義を述べていないと言うのです。

【此をころ〔殺〕したらん人は鷹〔たか〕をころしたるものなり。】
これらを殺した人は、鷹を殺したような罪のない者であり、

【鬼をころすにもすぐべしとのゝしりき。】
鬼を殺すよりも良い事をしていると言っているのです。

【又妙楽大師の時、月氏より法相・】
また、妙楽大師の時代、インドより中国に法相宗、

【真言わたり、漢土に華厳宗の始まりたりしを、】
真言宗が渡って来て、さらに中国に華厳宗が渡って来たので、

【とかく〔兎角〕せめしかば】
それらを妙楽大師が間違いであると厳しく責めたので、

【これも又さは〔騒〕ぎしなり。】
さらにそれに騒ぎ出したのです。

【日本国には伝教大師が仏滅後一千八百年にあたりていでさせ給ひ、】
日本では、伝教大師が仏滅後一千八百年に出現して、

【天台の御釈を見て欽明〔きんめい〕より已来二百六十余年が間の】
天台大師の解釈書を読んで、欽明天皇の時代より二百六十余年の間に出現した

【六宗をせめ給ひしかば、在世の外道・】
六宗派を責めたので、釈迦牟尼仏の居た時代の外道や

【漢土の道士、日本に出現せりと謗ぜし上、】
中国の道教の邪師が日本に出現したと伝教大師を誹謗した上に、

【仏滅後一千八百年が間、月氏・漢土・】
釈迦牟尼仏が滅した後の一千八百年の間に、インド・中国、

【日本になかりし円頓の大戒を立てんというのみならず、】
日本になかった円頓の大戒壇を建てようとするのみならず、

【西国の観音寺の戒壇・東国下野の小野寺〔おのでら〕の戒壇・】
西国の観音寺の戒壇や東国下野の小野寺の戒壇、

【中国大和国東大寺の戒壇は同じく小乗臭糞〔しゅうふん〕の戒なり、】
中国大和国東大寺の戒壇は、すべて同じく小乗経の糞の臭いのする戒壇であり、

【瓦石〔がしゃく〕のごとし。】
これらはみな瓦や石のようなものであると言っている。

【其れを持つ法師等は野干〔やかん〕猿猴〔えんこう〕等のごとしとありしかば、】
その小乗戒を持つ僧侶たちは、野牛や野猿などのような者であると論じると、

【あら不思議や、法師ににたる大蝗虫〔おおいなむし〕、国に出現せり。】
ああ、不思議な事があるものだ。法師に似た大蝗虫が、この国に現れた。

【仏教の苗一時にうせなん。】
これでは、仏教の苗である戒律は、すぐに無くなってしまうであろう。

【殷〔いん〕の紂〔ちゅう〕・夏〔か〕の桀〔けつ〕、】
殷の紂王や夏の桀王などの悪王が、

【法師となりて日本に生まれたり。】
僧侶となって日本に生まれたのに違いない。

【後周の宇文〔うぶん〕・】
また、儒教を重んじて仏教を破壊した後周の武帝や

【唐の武宗〔ぶそう〕、二たび世に出現せり。】
道教を用いて仏教を破壊した唐の武宗がふたたび世に出現したのと同じだ。

【仏法も但〔ただ〕今〔いま〕失せぬべし、】
これでは、仏法も、たった今、消え失せてしまい、

【国もほろびなんと。】
国も滅んでしまう事だろうと嘆いたのです。

【大乗小乗の二類の法師出現せば、】
このように大乗教と小乗経の僧侶が出現したので、

【修羅〔しゅら〕と帝釈〔たいしゃく〕と、】
これではまるで修羅と帝釈が戦い、

【項羽〔こうう〕と高祖と一国に並べるなるべし。】
また項羽と高祖が国を奪い合っているも同じである。

【諸人手をたゝき舌をふるふ。】
そう言って多くの人々が話し合って手を打って納得しあったのです。

【在世には仏と提婆〔だいば〕が二つの戒壇ありて】
釈迦牟尼仏の在世にも、釈迦牟尼仏と提婆達多の二つの戒壇があって、

【そこばく〔若干〕の人々死にゝき。】
その争いで少人数の者が死んだのです。

【されば他宗にはそむくべし。】
そうであれば、当然、他宗に背くのは当然の事であろう。

【我が師天台大師の立て給はざる】
それなのに師匠である天台大師が建てる事が出来なかった

【円頓の戒壇を立つべしという】
円頓の戒壇を、その弟子である伝教大師が建てると云うなど、

【不思議さよ。】
ほんとうに不思議な事である。

【あらをそ〔恐〕ろしをそろしと】
これでは、すでに世も末であり、ほんとうに恐ろしい事であると

【のゝし〔罵〕りあえりき。されども経文分明にありしかば】
伝教大師を罵〔ののし〕ったのです。しかし、現実には、経文に明らかなように

【叡山の大乗戒壇すでに立てさせ給ひぬ。】
比叡山に大乗戒壇がすでに建っているのです。

【されば内証は同じけれども】
そうであれば、正しさにおいては同じであるけれども、

【法の流布は迦葉〔かしょう〕・阿難よりも馬鳴〔めみょう〕・竜樹等はすぐれ、】
仏法の流布については、迦葉尊者、阿難尊者よりも馬鳴菩薩、竜樹菩薩が優れ、

【馬鳴等よりも天台はすぐれ、天台よりも伝教は超えさせ給ひたり。】
馬鳴などよりも天台大師は優れ、天台よりも伝教大師は、優れているのです。

【世末になれば人の智はあさく】
世も末であれば人々の仏法を理解する能力も浅くなり、

【仏教はふかくなる事なり。】
そうであるからこそ、仏教の内容は、深く成っていくのです。

【例せば軽病は凡薬、重病には仙薬、】
たとえば軽い病いには、普通の薬で良いが、重病には、高価な薬も用い、

【弱き人には強きかたうど〔方人〕有りて扶〔たす〕くるこれなり。】
弱い人には、強い味方が必要であるようなものなのです。


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