御書研鑚の集い 御書研鑽資料
南条時光御息文 10 上野殿御返事
【上野殿御返事 建治元年七月一六日 五四歳】上野殿御返事 建治元年7月16日 54歳御作
【むぎ〔麦〕ひとひつ〔一櫃〕、かわのり五条、はじか〔薑〕み六は〔把〕】
麦一櫃〔ひつ〕、川海苔〔かわのり〕五帖、生姜〔しょうが〕六十把〔ぱ〕、
【給び了んぬ。いつもの御事に候へばをどろ〔驚〕かれず、】
確かに頂戴致しました。供養を受けるのが、いつものことなので別に驚きもせず、
【めづら〔珍〕しからぬやうにうちをぼへて候は、ぼむぶ〔凡夫〕の心なり。】
有り難いとも思わなくなるのが、凡夫の常なのです。
【せけん〔世間〕そうそう〔忽忽〕なる上、】
世間は、あわただしいうえ、
【をゝみや〔大宮〕のつく〔造〕られさせ給へば、百姓と申し、】
浅間神社が造営されるので、百姓と言い、
【我が内の者と申し、けかち〔飢渇〕と申し、もの〔物〕つく〔作〕りと申し、】
領内の者と言い、食物の欠乏と言い、数々の作業と言い、
【いく〔幾〕そばく〔許〕こそいとま〔暇〕なく御わたりにて候らむに、】
どれほど、忙しい思いをされて、毎日を過ごされている事でしょうか。
【山のなかのす〔住〕まい〔居〕さこそとをも〔思〕ひやらせ給ひて、】
そんな中で身延の山中の住まいは、どうであろうかと心配されて、
【とり〔鳥〕のかいご〔卵子〕をやしなうがごとく、】
鳥が卵を育〔はぐく〕むように、
【ともし〔灯〕びにあぶら〔油〕をそうるがごとく、】
灯〔ともしび〕に油を注〔そそ〕ぐように、
【か〔枯〕れたるくさ〔草〕にあめ〔雨〕のふるがごとく、】
枯れた草に雨が降るように、
【う〔飢〕へたる子にち〔乳〕をあたうるがごとく、】
飢えた子に乳を与えるように
【法華経の御いのちをつがせ給ふ事、三世の諸仏を供養し給へるにてあるなり。】
法華経の命を継がせられている事は、三世の諸仏に供養されている事と同じであり、
【十方の衆生の眼を開く功徳にて候べし。尊しとも申す計りなし。】
十方の衆生の眼を開く功徳となり、その尊さは、言葉では、言い表せないのです。
【あなかしこあなかしこ。恐々謹言。】
恐れながら謹んで申し上げます。
【七月十六日 日蓮花押】
7月16日 日蓮花押
【進上 上野殿御返事】
進上 上野殿御返事