日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


南条時光御息文 35 上野殿御返事

【上野殿御返事 弘安三年七月二日 五九歳】
上野殿御返事 弘安3年7月2日 59歳御作


【去ぬる六月十五日のげざん〔見参〕悦び入って候。】
去る6月15日に御会いできた事を、大変、嬉しく思っております。

【さてはかうぬし〔神主〕等が事、】
さて、熱原の難で迫害されている神主などを、

【いまゝでかゝ〔抱〕へをかせ給ひて候事ありがたくをぼへ候。】
今日まで庇護されているとのこと、有難く思っております。

【たゞし、ないない〔内内〕は法華経をあだ〔怨〕ませ給ふにては候へども、】
ただし、迫害している者達は、心の中では、法華経を憎んでいたとしても、

【うへ〔上〕にはた〔他〕の事によせて事かづ〔託〕け、】
表面的には、他の事にかこつけて、

【にく〔憎〕まるゝかのゆへに、あつわら〔熱原〕のものに事をよせて、】
憎まれるのが常であるので、熱原の者の事に寄せて、

【かしこ〔彼処〕こゝ〔此処〕をもせかれ候こそ候めれ。】
色々と理由をつけて、難癖をつけられる事でしょう。

【さればとて上に事をよせてせかれ候はんに、】
そうかと言って、別の事を理由にして難癖をつけられているので、

【御もち〔用〕ゐ候はずば、物をぼへぬ人にならせ給ふべし。】
従わなければ、常識を、わきまえぬ人になってしまうので、

【をかせ給ひてあ〔悪〕しかりぬべきやうにて候わば、】
神主などを置かれて、まずいようであれば、

【しばらくかうぬし等をばこれへとをほ〔仰〕せ候べし。】
しばらく、神主たちに、こちらに来るように申してください。

【めこ〔妻子〕なんどはそれに候ともよも御たづねは候はじ。】
妻子などは、そちらに置いても、まさか捜索されるような事は、ないでしょうから、

【事のしづまるまでそれにを〔置〕かせ給ひて候わば、】
事が静まるまで、そちらに置かれていても、

【よろしく候ひなんとをぼへ候。よ〔世〕のなか上につけ下によせて、】
良いように思います。世の中は、上につけ、下に寄せて、

【なげきこそをゝ〔多〕く候へ。】
嘆き悲しむことが多いのです。

【よ〔世〕にある人々をばよ〔世〕になき人々は】
世の中で、権勢を誇っている人々を、名も力もない人々が、

【きじ〔雉〕のたか〔鷹〕をみ】
雉〔きじ〕が鷹〔たか〕を見るように怖れ、

【がき〔餓鬼〕の毘沙門〔びしゃもん〕をたのしむがごとく候へども、】
餓鬼が毘沙門を仰ぎ見るように、憧れるものなのですが、

【たか〔鷹〕はわし〔鷲〕につかまれびしゃもんはすら〔修羅〕にせめらる。】
その鷹〔たか〕は、鷲〔わし〕につかまれ、毘沙門は、修羅に責められるのです。

【そのやうに当時日本国のたの〔楽〕しき人々は、】
同じように、今、日本で富み栄えている人々は、

【蒙古国の事をき〔聞〕ゝては、ひつじ〔羊〕の虎の声を聞くがごとし。】
蒙古国が攻めて来る事を聞いては、羊が虎の声を聞いたように怖れているのです。

【また筑紫へおもむ〔赴〕きていとをしきめ〔妻〕をはなれ子をみ〔見〕ぬは、】
また、筑紫へ行く時に、愛する妻と別れ、子供と会えなくなる事は、

【皮をはぎ、肉をやぶるがごとくにこそ候らめ。】
生皮を剥がれ、肉をえぐられるような苦しみなのです。

【いわうや、かの国よりおしよせなば、蛇の口のかえる、】
いわんや、蒙古が押し寄せて来たならば、蛇の口の蛙〔かえる〕か、

【はうちゃうし〔包丁師〕がまない〔爼〕たにをける】
料理人のまな板の上に置かれた

【こゐふな〔鯉鮒〕のごとくこそおもはれ候らめ。】
鯉〔こい〕か鮒〔ふな〕のようなものです。

【今生はさてをきぬ。命き〔消〕えなば一百三十六の地獄に堕ちて】
今生は、差し置いて、死んだならば、136の地獄に堕ちて、

【無量劫〔むりょうこう〕ふ〔経〕べし。】
無量劫を経〔へ〕る事でしょう。

【我等は法華経をたのみまいらせて候へば、】
我等は、法華経を信じているので、

【あさきふち〔渕〕に魚のす〔住〕むが、】
今は、浅い淵に住んで、苦しんでいる魚が、

【天くもりて雨のふらんとするを、魚のよろこぶがごとし。】
やがて空が曇って雨の降るのを、喜ぶようなものなのです。

【しばらくの苦こそ候とも、ついにはたの〔楽〕しかるべし。】
しばらくの間、苦しい事は、あっても、未来は、必ず、楽しみとなるのです。

【国王の一人の太子のごとし、】
たとえば、国王のたった一人の皇子が、

【いかでか位につかざらんとおぼしめし候へ。】
必ず位を継ぐように、我等が、どうして成仏できない事があるでしょうか。

【恐々謹言。】
恐れながら謹んで申し上げます。

【弘安三年七月二日   日蓮花押】
弘安3年7月2日   日蓮花押

【上野殿御返事】
上野殿御返事

【人にしらせずして、ひそかにをほせ候べし。】
人に知らせないで、ひそかに神主などに知らせてください。


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