日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


南条時光御息文 41 上野殿御返事

【上野殿御返事 弘安三年一二月二七日 五九歳】
上野殿御返事 弘安3年12月27日 59歳御作


【鵞目〔がもく〕一貫文送り給び了んぬ。御心ざしの候へば申し候ぞ。】
銭一貫文を送って頂きました。このように真心の御志があるので申しあげますが、

【よく〔慾〕ふかき御房とおぼしめす事なかれ。】
日蓮を欲深い僧侶などと思われないように御願い致します。

【仏にやすやすとなる事の候ぞ、をしへまいらせ候はん。】
実は、仏に、簡単に成る方法があるので、それを教えて差し上げましょう。

【人のものををし〔教〕ふると申すは、】
人が物事を教えると言うのは、有り得ないことを言うのではなく、

【車のおも〔重〕けれども油をぬりてまわり、】
車が重かったとしても、油を塗ることによって簡単に回り始め、

【ふね〔船〕を水にうかべてゆきやすきやうにをし〔教〕へ候なり。】
大きな船も水に浮かべれば、動きやすくなると言うように、道理を教えるのです。

【仏になりやすき事は別のやう候はず。】
仏に簡単に成る道と言うのは、このように道理で有り、特別なことではないのです。

【旱魃〔かんばつ〕にかわ〔渇〕けるものに水をあた〔与〕へ、】
旱魃のときに、喉の渇いた者に水を与え、

【寒氷にこゞ〔凍〕へたるものに火をあたふるがごとし。】
寒さに凍えた者に焚火を与えるような、普通のことなのです。

【又、二つなき物を人にあたへ、】
また、貴重な二つとない大事な物を人に与え、

【命のた〔絶〕ゆるに人のせ〔施〕にあふがごとし。】
また、死にそうな時に、人から、施〔ほどこ〕しを頼まれるような事なのです。

【金色王〔こんじきおう〕と申せし王は其の国に十二年の大旱魃あて、】
金色〔こんじき〕王と言う人は、その国に12年間にわたる大旱魃が起こって、

【万民飢ゑ死ぬ事かずをしらず。河には死人をはし〔橋〕とし、】
数知れずの民衆が飢え死にし、その為に、川では、死人が橋となって、

【陸にはがいこつ〔骸骨〕をつか〔塚〕とせり。】
陸では、骸骨〔がいこつ〕が塚となるような状態だったのです。

【其の時金色大王、大菩提心〔だいぼだいしん〕ををこして】
その時、大王は、大菩提心〔だいぼだいしん〕を起こして

【おほきに施をほどこし給ひき。】
大規模な援助をされました。

【せ〔施〕すべき物みなつきて、蔵の中にたゞ米五升ばかりのこれり。】
しかし、援助する物がすべて尽きて、蔵の中に、ただ米が五升ばかり残ったのです。

【大王の一日の御くご〔供御〕なりと、臣下申せしかば、】
それを大王の一日分の御食事ですと家臣が申し上げたところ、

【大王五升の米をとり出だして、一切の飢ゑたるものに、】
大王は、五升の米を取り出して、すべての飢えた者に、

【或は一りう〔粒〕二りう、或は三りう四りうなんど、】
あるいは、一粒、二粒、あるいは、三粒、四粒などと言うように、

【あまねくあたへさせ給ひてのち、天に向かはせ給ひて、】
あまねく、与えられた後、天に向かって、

【朕〔ちん〕は一切衆生のけかち〔飢渇〕の苦にかは〔代〕りてうえじに候ぞと、】
わたしが一切衆生の飢えの苦しみを、代わって飢え死にしようと

【こゑ〔声〕をあげてよばはらせ給ひしかば、】
声を上げて、叫ばれたところ、

【天きこしめして甘露〔かんろ〕の雨を須臾〔しゅゆ〕に下し給ひき。】
天は、これを聞かれて、甘露の雨を即座に降らされたのです。

【この雨を手にふれ、かを〔顔〕にかゝりし人、皆食にあ〔飽〕きみちて、】
この雨が手に触れ、顔にかかった人は、皆、食べ物に飽きるほど満ち足りて、

【一国の万民、せちな〔刹那〕のほどに命よみがへりて候ひけり。】
一国の民衆は、瞬時のうちに命が蘇〔よみがえ〕ったのです。

【月氏国にす〔須〕達長者と申せし者は、七度貧になり、】
インドの須達長者と言う者は、七度、貧乏になり、

【七度長者となりて候ひしが、最後の貧の時は万民皆にげうせ、死にをはりて、】
七度、金持ちになりましたが、最後の貧乏の時は、民衆が皆、逃げ去り、死に絶え、

【たゞめおとこ〔婦夫〕二人にて候ひし時、】
ただ夫婦二人だけになってしまいました。

【五升の米あり。五日のかつて〔糧〕とあて候ひし時、】
その時、五升の米があったので、それを五日分の食料にしようとしていた時に、

【迦葉〔かしょう〕・舍利弗〔しゃりほつ〕・阿難〔あなん〕・】
迦葉、舎利弗、阿難、

【羅睺羅〔らごら〕・釈迦仏〔しゃかぶつ〕の五人、】
羅睺羅〔らごら〕と釈迦牟尼仏の五人が、

【次第に入らせ給ひて、五升の米をこ〔乞〕ひとらせ給ひき。】
入ってこられて、五升の米を乞われたので差し上げたのです。

【其の日より五天竺第一の長者となりて、】
その日から全インド第一の金持ちとなって、

【祇園精舍〔ぎおんしょうじゃ〕をばつくりて候ぞ。】
祇園精舎〔ぎおんしょうじゃ〕を造ったのです。

【これをもてよろず〔万事〕を心へさせ給へ。】
これをもって、仏に簡単になる方法を、すべて理解してください。

【貴辺はすでに法華経の行者に似させ給へる事、】
あなたが、法華経の行者である日蓮に似ている事は、世間から見れば、

【さるの人に似、もちゐ〔餅〕の月に似たるが如し。】
猿が人に似ているように、餅が月に似ているように思われているのです。

【あつはら〔熱原〕のものどものかくをし〔惜〕ませ給へる事は、】
また、熱原の者達を、あなたが大事にされていることに対しても、

【承平の将門〔まさかど〕、】
承平〔じょうへい〕年間の平将門〔まさかど〕や

【天喜の貞任〔さだとう〕のやうに】
天喜〔てんぎ〕年間の安倍貞任〔さだとう〕のようだと、

【此の国のものどもはおもひて候ぞ。】
この国の者達は、思っているのです。

【これひとへに法華経に命をすつるゆへなり。】
これは、ひとえに法華経に命を捨てる故であって、

【またく主君にそむく人とは天御覧あらじ。】
まさか主君に背く悪人とは、天も思われないでしょう。

【其の上わづかの小郷にをほくの公事〔くじ〕せめにあてられて、】
その上、わずかの領地しかないのに、多くの公共の仕事を課せられて、

【わが身はのるべき馬なし、妻子はひきかゝるべき衣なし。】
自分自身は、乗るべき馬もなく、妻子も着るべき衣もないのです。

【かゝる身なれども、法華経の行者の山中の雪にせめられ、】
そのような身であるけれども、法華経の行者である日蓮が、山の中で雪に責められ、

【食とも〔乏〕しかるらんとおもひやらせ給ひて、】
食べ物も乏しいであろうと思いやられて、

【ぜに一貫をくらせ給へるは、貧女がめおとこ〔婦夫〕二人して】
銭一貫文を送られたことは、貧しい女性が夫婦二人で

【一つの衣をきたりしを乞食にあたへ、】
一つの衣を着ていたのを乞食に与え、

【りだ〔利吒〕が合子〔ごうし〕の中なりしひえ〔稗〕を】
利吒〔りだ〕が器の中にあった稗〔ひえ〕の飯〔めし〕を

【辟支仏〔びゃくしぶつ〕にあたへたりしがごとし。たうと〔尊〕し、たうとし。】
辟支仏〔びゃくしぶつ〕に与えたようなものなのです。実に尊いことです。

【くはしくは又々申すべし。恐々謹言。】
詳しくは、またまた、申し上げましょう。恐れながら謹んで申し上げます。

【十二月二十七日   日蓮花押】
12月27日   日蓮花押

【上野殿御返事】
上野殿御返事


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