日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


南条時光御息文 47 上野殿母尼御前御返事

【上野殿母尼御前御返事 弘安四年一二月八日 六〇歳】
上野殿母尼御前御返事 弘安4年12月8日 60歳御作


【乃米〔のうまい〕一だ〔駄〕・】
乃米〔のうまい〕一駄〔いちだ〕、

【聖人〔すみざけ〕一つゝ〔筒〕(二十ひさげか)、】
清酒〔すみざけ〕一筒、二十杯分くらいか、

【かっかうひと〔一〕かうぶくろ〔紙袋〕おくり給び候ひ了んぬ。】
胃薬の藿香〔かっこう〕紙一袋を御送り頂きました。

【このところのやうせんぜん〔前前〕に申しふ〔古〕り候ひぬ。】
このところの身延の有り様は、前々から申し上げているとおりです。

【さては去ぬる文永十一年六月十七日この山に入り候ひて】
また、去る文永11年6月17日に、この山に入って、

【今年十二月八日にいたるまで、此の山出づる事一歩も候はず。】
今年12月8日に至るまで、この山を一歩も出たことは、ありません。

【たゞし八年が間やせやまいと申し、】
ただし、この八年の間は、身体が痩〔や〕せる病気と言い、

【とし〔齢〕と申し、としどし〔歳歳〕に身ゆわく、】
年齢と言い、年々に身体は、弱くなり、

【心をぼ〔耄〕れ候ひつるほどに、今年は春よりこのやまいをこりて、】
心は、弱まって、ことに今年は、春より、この病気が起こって、

【秋すぎ冬にいたるまで、日々にをとろへ、夜々にまさり候ひつるが、】
秋が過ぎ、冬に至るまで、日々に衰え、夜々に重くなりましたが、

【この十余日はすでに食もほとを〔殆〕どとゞ〔止〕まりて候上、】
この十余日は、食事も殆どできないところに、

【ゆき〔雪〕はかさなり、かん〔寒〕はせめ候。】
雪が重なり、寒気が攻めて来ております。

【身のひ〔冷〕ゆる事石のごとし、胸のつめたき事氷のごとし。】
身体の冷える事は、石のようであり、胸の冷たい事は、氷のようです。

【しかるにこのさけ〔酒〕はた〔煖〕ゝかにさしわか〔沸〕して、】
しかし、この酒を温かに沸かして、

【かっかうを、はたとく〔食〕い切りて、一度の〔呑〕みて候へば、】
藿香〔かっこう〕をはたと食い切って、一度、飲むと、

【火を胸にたくがごとし、ゆに入るににたり。】
火を胸に焚いたようになり、まるで湯に入ったようです。

【あせ〔汗〕にあか〔垢〕あらい、しづく〔滴〕に足をすゝぐ。】
汗で垢〔あか〕が洗われ、滴〔しずく〕で足が濯〔そそ〕がれました。

【此の御志ざしはいかんがせんとうれしくをもひ候ところに、】
この御志に、どう感謝したら良いかと、嬉しく思っているところに、

【両眼よりひとつのなんだ〔涙〕をうかべて候。まことやまことや、】
両眼から、一滴の涙が浮かんで参りました。顧〔かえり〕みれば、

【去年〔こぞ〕の九月五日こ〔故〕五郎殿のかくれにしはいかになりけると、】
去年の9月5日に故五郎殿が亡くなられてからは、その後、どうなされたかと、

【胸うちさわぎて、ゆびををりかずへ候へば、】
胸のうちが騒いで、指折り数えれば、

【すでに二箇年十六月四百余日にすぎ候か。】
既に二ケ年、十六ケ月、四百余日が過ぎてしまいましたが、

【それには母なれば御をとづれや候らむ。】
尼御前は、母ですから、何か便りがあったことでしょう。

【いかにきかせ給はぬやらむ。】
どうして聞かせてくれないのでしょうか。

【ふりし雪も又ふれり。】
降った雪は、消えても、再び、冬が来て、また降ってきます。

【ちりし花も又さきて候ひき。】
散った花も春が来て、また咲きます。

【無常ばかりまたもかへりきこへ候はざりけるか。】
どうして亡くなった人だけが、この世に帰って来られないのでしょうか。

【あらうらめし、あらうらめし。】
なんとうらめしいことでしょう。

【余所〔よそ〕にてもよきくわん〔冠〕ざ〔者〕かなよきくわんざかな、】
他の家の者から見ても、良い若武者であり、

【玉のやうなる男かな男かな。】
玉のような青年であるのです。

【いくせをや〔親〕のうれしくをぼすらむとみ候ひしに、】
どれほど親として嬉しい事であろうかと見ていたのに、

【満月に雲のかゝれるがはれずして山へ入り、さかんなる花のあやなく・】
満月に雲がかかって、晴れずに山へ入り、今を盛りの花がにわかの

【かぜのちらかせるがごとしと、】
風にあえなく散ってしまったように、亡くなられてしまうとは、

【あさましくこそをぼへ候へ。】
いかにも情けない事と思っております。

【日蓮は所らう〔労〕のゆへに人々の御文の御返事も申さず候ひつるが、】
日蓮は、病気の為に人々からの手紙にも返事を書けないでおりましたが、

【この事はあまりになげ〔嘆〕かしく候へば、ふでをとりて候ぞ。】
五郎殿の事は、あまりにも、嘆かわしい事でしたから、筆を執りました。

【これもよもひさしくもこのよに候はじ。】
日蓮も、たぶん、永くは、この世には、居ないでありましょう。

【一定〔いちじょう〕五郎殿にゆ〔行〕きあ〔逢〕いぬとをぼへ候。】
そうであれば、必ず、五郎殿に会うであろうと思っております。

【母よりさきにげざん〔見参〕し候わば、母のなげき申しつたへ候はん。】
もし尼御前より先に御会いしたならば、尼御前の嘆きを申し伝えましょう。

【事々又々申すべし。恐々謹言。】
他の事は、またまた申し上げます。恐れながら謹んで申し上げます。

【十二月八日   日蓮花押】
12月8日   日蓮花押

【上野殿母御前御返事】
上野殿母御前御返事


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