日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


南条時光御息文 23 時光殿御返事(時光御返事)

【時光殿御返事 弘安元年七月八日 五七歳】
時光殿御返事 弘安元年7月8日 57歳御作


【むぎ〔麦〕のしろきこめ一駄、はじか〔薑〕み送り給び了んぬ。】
米のような白い麦、一駄、生姜〔しょうが〕を御送り頂きました。

【こくぼんわう〔斛飯王〕の太子あなりち〔阿那律〕と申す人は、】
斛飯王〔こくぼんおう〕の皇子であった阿那律〔あなりつ〕と言う人は、

【家にましましゝ時は俗性は月氏国の本主、】
出家する前は、インドの元々の主である

【てんりん〔転輪〕聖王〔じょうおう〕のすゑ、師子けう〔頰〕王のまご、】
転輪聖王の末裔〔まつえい〕であり、師子頰王〔ししきょうおう〕の孫、

【浄飯王〔じょうぼんのう〕のおひ〔甥〕、こくぼん王には太子なり。】
浄飯王〔じょうぼんのう〕の甥でした。

【天下にいやしからざる上、家中には一日の間、一万二千人の人出入す。】
高貴な身分である上、家には、一日に一万二千人の人が出入りし、

【六千人はたから〔財〕をか〔借〕りき。六千人はかへりなす。】
そのうちの六千人は、金を借りに来る人で、六千人は、金を返しに来る人でした。

【かゝる富人にておはする上、】
このような裕福な人であった上に、釈尊の弟子となってからは、

【天眼第一の人、】
天眼第一の人となり、

【法華経にては普明如来〔ふみょうにょらい〕となるべきよし仏記し給ふ。】
法華経では、普明如来となるであろうと仏は、記されたのです。

【これは過去の行はいかなる大善とたづぬるに、】
このような阿那律が過去世に、どのような大きな善行を行じたのかと言うと、

【むかしれうし〔猟師〕あり。山のけだものをとりてすぎけるが、】
昔、猟師がおり、山の獣を獲って生活しており、

【又、ひえ〔稗〕をつくり食〔じき〕とするほどに、】
また、稗〔ひえ〕を作って食糧としていましたが、

【飢ゑたる世なればものもなし。】
飢饉〔ききん〕で、何も食べる物がなくなり、

【ただひえ〔稗〕のはん〔飯〕一つありけるをくひければ、】
ただ、稗〔ひえ〕の飯が一杯だけ、あったのを食べていると、

【りだ〔利吒〕と申す辟支仏〔びゃくしぶつ〕の聖人来たりて云はく、】
利吒〔りだ〕と言う二乗の聖人が来て、

【我七日が間食ふことなし。】
私は、七日間、何も食べていません。

【汝が食者〔くいもの〕えさせよとこ〔乞〕わせ給ひしかば、】
あなたの食物を施してくれませんかと頼まれたのです。

【きたなき俗のごき〔御器〕に入れてけが〔汚〕しはじめて候と申しければ、】
猟師は、俗人の汚い食器で食べかけになっていますがと答えると、

【たゞえ〔得〕させよ、今食せずば死ぬべしと云ふ。】
聖人は、それでよい。今、それを食べなければ、死んでしまうと言うので、

【おそれながらまい〔進〕らせつ。】
猟師は、恐縮しながら、それを差し上げたのです。

【此の聖人まいり給ひしが、たゞひえ一つび〔粒〕をとりのこ〔取残〕して】
この聖人は、食した後、ただ一粒の稗を残して

【れうし〔猟師〕にかへ〔返〕し給ひき。ひえへんじていのこ〔猪〕となる。】
猟師に返したのですが、この時、この一粒の稗は、変じて猪となったのです。

【いのこ変じて金となる。金変じて死人となる。】
猪は、さらに変じて金となって、さらに金は、変わって死人となりました。

【死人変じて又金人となる。】
死人は、変じて、また金色の死人となったのです。

【指をぬ〔抜〕いて売れば本のごとし。】
指を抜いて売ると、また、指が生えて元のようになりました。

【かくのごとく九十一劫長者と生まれ、】
こうして九十一劫の間、猟師は、長者に生まれ、

【今はあなりち〔阿那律〕と申して仏の御弟子なり。】
今は、阿那律となって仏の弟子となったのです。

【わづかのひえなれども、飢ゑたる国に智者の御いのちをつ〔継〕ぐゆへに、】
わずかの稗〔ひえ〕であったけれども、飢えた国で智者の命を助けた故に、

【めでたきほう〔報〕をう〔得〕。】
このような、素晴らしい果報を得られたのです。

【迦葉尊者〔かしょうそんじゃ〕と申せし人は、】
迦葉尊者と言う人は、

【仏の御弟子の中には第一にたと〔貴〕き人なり。此の人の家をたづぬれば】
仏の弟子の中では、第一に尊い人です。この人の家を尋ねると、

【摩かだい〔竭提〕国の尼く〔拘〕りだ〔律陀〕長者の子なり。】
摩竭題〔まかだい〕国の尼拘律陀〔にくりだ〕長者の子でした。

【宅にたゝみ〔畳〕千でう〔畳〕あり。】
その家には、畳〔たたみ〕が千畳もあり、

【一でうはあつさ七尺、下品のたゝみは金千両なり。】
一畳の厚さは、約2メートルもあり、下等の畳でさえ金千両もしました。

【からすき〔犁〕九百九十九、一つのからすきは金千両。】
また、牛に引かせて田畑を耕す農機具が999もあり、一つの値段が金千両でした。

【金三百四十石入れたるくら〔倉〕六十。かゝる大長者なり。】
また、約50トンの金が入った蔵が60もあると言う大長者でした。

【め〔妻〕は又身は金色にして十六里をてらす。】
その夫人は、姿は、金色に輝き、16里を照らしたと言います。

【日本国の衣通姫〔そとおりひめ〕にもすぎ、】
その美しさは、日本の衣通〔そとおり〕姫よりも優れ、

【漢土のりふじん〔李夫人〕にもこえたり。】
中国の李〔り〕夫人よりも越えていました。

【此の夫婦道心を発こして仏の御弟子となれり。】
この夫婦は、発心して仏の弟子となり、

【法華経にては光明〔こうみょう〕如来といはれさせ給ふ。】
法華経では、光明如来となるであろうと記されたのです。

【此の二人の人々の過去をたづぬれば、】
この二人の過去を尋ねるならば、

【麦飯〔むぎはん〕を辟支仏に供養せしゆへに迦葉尊者と生まる。】
麦飯を二乗の僧侶に供養したので、迦葉尊者と生まれ、

【金のぜに〔銭〕一枚を仏師にあつらへて】
金貨一枚を仏師に渡して、

【毘婆尸〔びばし〕仏の像の御はく〔箔〕にひきし貧人は、】
過去〔かこ〕七仏〔しちぶつ〕の毘婆尸〔びばし〕仏の像を金箔で飾った貧人は、

【此の人のめ〔妻〕となれり。】
この迦葉尊者の夫人となったのです。

【今、日蓮は聖人にはあらざれども、法華経に名をたてり。】
今、日蓮は、聖人ではないけれども、法華経によって、その名を立てた為に、

【国主ににく〔憎〕まれて我が身をせく上、弟子かよう〔通行〕人をも、】
国主に憎まれて、自分が責められるばかりでなく、弟子や往き来する人までも、

【或はの〔罵〕り、或はうち、或は所領をとり、或はところをおふ。】
罵〔ののし〕られ、打たれ、領地を取られ、所を追われたりしたのです。

【かゝる国主の内にある人々なれば、】
このような国主の下に暮らす人々であれば、

【たとひ心ざしあるらん人々もと〔訪〕ふ事なし。】
たとえ、志がある人々であろうとも、日蓮を訪れることはありません。

【此の事事ふりぬ。なかにも今年は疫病〔やくびょう〕と申し、】
このことは、今に始まった事ではありませんが、それにしても、今年は、疫病や、

【飢渇〔けかち〕と申し、とひくる人々もすくなし。】
飢饉などで、訪れて来る人々が少ないのです。

【たとひやまひ〔病〕なくとも飢ゑて死なん事】
たとえ、病〔やまい〕にかからなくても、飢えて死ぬことは、

【うたがひなかるべきに、】
疑いないと思っていたところに、

【麦の御とぶら〔訪〕ひ金にもすぎ、珠にもこえたり。】
あなたが送ってくださった麦は、金よりも優れ、宝珠よりも有り難いものです。

【彼のりだ〔利吒〕がひえ〔稗〕は変じて金人となる。】
あの利吒〔りだ〕の稗〔ひえ〕は、変わって金色の仏像となりました。

【此の時光が麦、何ぞ変じて法華経の文字とならざらん。】
今、時光から送られた麦が、どうして法華経の文字にならない事があるでしょうか。

【此の法華経の文字は釈迦仏となり給ひ、時光が故親父の左右の御羽となりて】
この法華経の文字は、釈迦牟尼仏となられて、時光の亡き父上の左右の翼となって、

【霊山浄土〔りょうぜんじょうど〕へとび給へ。かけり給へ。】
霊山浄土へ飛んで行かれ、さらに帰って来られて、

【かへりて時光が身をおほひ〔覆〕はぐくみ給へ。】
時光の身を覆い、育〔はぐく〕まれることでしょう。

【恐々謹言】
恐れながら謹んで申し上げます。

【七月八日    日蓮花押】
7月8日   日蓮花押

【上野殿御返事】
上野殿御返事


ページのトップへ戻る