日蓮正宗法華講開信寺支部より

御書研鑚の集い 御書研鑽資料


南条時光御息文 32 上野殿御返事

【上野殿御返事 弘安二年一二月二七日 五八歳】
上野殿御返事 弘安2年12月27日 58歳御作


【白米一だ〔駄〕をくり給〔た〕び了んぬ。一切の事は時による事に候か。】
白米を一駄、御送り頂きました。すべての出来事は、時によるのです。

【春は花、秋は月と申す事も時なり。】
春は花、秋は月と言う事も、時が大事であることを教えているのです。

【仏も世にい〔出〕でさせ給ひし事は法華経のためにて候ひしかども、】
仏が世に出現されたのは、法華経の為でしたが、

【四十余年はと〔説〕かせ給はず。】
最初の四十余年の間は、それを説かれませんでした。

【其の故を経文にと〔説〕かれて候には】
その理由を法華経方便品に著されているのには、

【「説時〔せつじ〕未だ至らざる故なり」等云云。】
「説く時が、未だ、至らざる故」と説かれているのです。

【なつ〔夏〕あつわた〔厚綿〕のこそで〔小袖〕、】
夏に厚綿〔あつわた〕の防寒着、

【冬かたび〔帷〕らをた〔給〕びて候は、うれしき事なれども、】
冬に涼しい夏服を頂くことは、有難く嬉しいことではありますが、

【ふゆのこそで〔小袖〕、なつのかたび〔帷〕らにはすぎず。】
冬に防寒着、夏に涼しい夏服を頂く事に優るものでは、ありません。

【う〔飢〕へて候時のこがね〔金〕、】
飢えている時の金、

【かっ〔渇〕せる時のごれう〔御料〕はうれしき事なれども、】
喉が渇いている時の銭は、やはり、有難く嬉しいことでは、ありますが、

【はん〔飯〕と水とにはす〔過〕ぎず。】
飢えた時の飯や、喉が渇いている時の水に過ぎることは、ないのです。

【仏に土をまいらせて候人〔ひと〕仏となり、玉をまいらせて】
仏に土の餅を差し上げた童子は、仏となり、玉を上げた人が、

【地獄へゆくと申すことこれか。】
地獄へ堕ちたと言うのは、この時を理解して、いなかったからなのです。

【日蓮は日本国に生まれてわゝく〔誑惑〕せず、】
日蓮は、日本に生まれて、人を惑わしたことも、

【ぬす〔盗〕みせず、かたがたのとが〔失〕なし。】
盗みをしたこともなく、世間の罪は、一切、ありません。

【末代の法師にはとが〔科〕うすき身なれども、】
末法の法師としては、科〔とが〕の少ない身であるのに、

【文をこの〔好〕む王に武のすてられ、】
文を好む王の世には、武は、捨てられ、

【いろ〔色〕をこの〔好〕む人に正直物のにく〔憎〕まるゝがごとく、】
色を好む者には、正直者が憎まれるように、

【念仏と禅と真言と律とを信ずる代〔よ〕に値〔あ〕ひて法華経をひろむれば、】
皆が念仏、禅、真言、律宗を信ずる時代に生まれあわせて、法華経を弘めたので、

【王臣万民ににくまれて、結句は山中に候へば、】
王臣や万民に憎まれ、あげくに、この山の中に身を置く者となってしまったのです。

【天いかんが計らはせ給ふらむ。】
諸天が、どのように、計〔はか〕らわれて、いるのでしょうか。

【五尺のゆき〔雪〕ふりて本よりもかよ〔通〕わぬ山道ふさがり、】
1メートルも雪が積もり、もともと人が通わない山道は、塞がり、

【と〔訪〕いくる人もなし。衣もうす〔薄〕くてかん〔寒〕ふせぎがたし。】
訪ねて来る人もいません。衣服も薄くて寒さを防ぐことも出来ません。

【食た〔絶〕へて命すでにをは〔終〕りなんとす。】
食物も絶えて、生命も、すでに終わろうとしているのです。

【かゝるきざ〔刻〕みにいのち〔命〕さまたげの御とぶら〔訪〕い、】
そのような時に、生命が尽きるのを妨げる御訪問、

【か〔且〕つはよろ〔悦〕こびかつはなげ〔嘆〕かし。】
一旦は、喜び、一旦は、安心し、そんな自らを歎かわしく思いました。

【一度にをも〔思〕い切ってうへし〔飢死〕なんと】
一度に思い切って、飢え死にしようと

【あん〔案〕じ切って候ひつるに、わづ〔僅〕かのとも〔灯〕しび〔火〕に】
覚悟を決めていた時に、白米を御送り頂いたことは、消えかけた灯に

【あぶら〔油〕を入れそへられたるがごとし。】
油を注がれたようなものなのです。

【あわれあわれたうと〔尊〕くめでたき御心かな。】
なんと尊く、有難い御志でしょうか。

【釈迦仏法華経定めて御計らひ候はんか。】
釈迦牟尼仏、法華経が定めて、御計〔はか〕らいに、なられたのでしょうか。

【恐々謹言。】
恐れながら謹んで申し上げます。

【十二月廿七日   日蓮花押】
12月27日   日蓮花押

【上野殿御返事】
上野殿御返事


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